31 / 189
全知全能と月下武人
しおりを挟む
吸血鬼の体内を燃える猛毒が駆け巡り、そこから逃れようとするも霧になることも蝙蝠に変ずることも出来ない。
「ぐ、ぉォ……!?」
「茜ッ、頭を下げろ!」
御岳の言葉に反射的に頭を低くする茜。そこを岩石の塊が通り抜け、目を見開く吸血鬼の眼前まで迫った。
「――――ガァ、死に掛けてんじゃねぇよ。不死身の癖にヨォ」
岩石は空中で真っ二つに斬り裂かれ、吸血鬼の頭の左右を通り抜けて轟音と共に廃工場の壁に穴を二つ開けた。
そして、それを為したのは鋭い鉤爪を持つ毛むくじゃらの人型……人狼、そう呼ぶに相応しい男であった。
「漸く、来ましたか……!」
「仕方ねぇだろ、俺はお前と違って転移なんざ使えねぇんだからヨォ」
人狼は言いながら、吸血鬼の背後に居る黒崎に斬りかかった。咄嗟に後ろに避ける黒崎だったが、影縫いは制御を失って吸血鬼は自由に一歩近付いた。
「『岩弾』」
放たれた岩石を、人狼は再び鉤爪で真っ二つに斬り裂いた。しかし、その間に黒崎はその場から消えていた。
「随分、温いなァ……」
人狼はそう呟き、今度は茜へと鉤爪を向けた。
「チィッ!」
茜は空間の歪みの中に固定された炎の鞭から手を離し、人狼の鉤爪を回避した。
「人の体でどこまで凌げるか、見物……」
「『石弾』」
当たればただでは済まない高威力の岩石が、再び高速で飛来した。人狼は言葉を途中で止めてそれを避け、御岳を睨み付けた。
「良いぜェ、そこまで言うならお前から殺してやるよォッ!!」
人狼の姿がかき消える。いや、そう錯覚する程の速度で御岳の眼前まで駆け抜けた。振り上げられた鉤爪は、上体を逸らした御岳の鼻先を掠める。
「犬と同じで、単純みたいだな?」
「ッ!」
しかし、人狼が踏み込んだその場所には御岳によってトラップの魔法陣が仕込まれていた。発動した魔術が人狼の足を茶色い岩石で覆い尽くし、動きを封じた。
「舐めんじゃねぇよ」
ビシリ、人狼の足を覆う岩石に罅が入り、砕け散った。解放された人狼は放たれた岩弾を右に回避し、そのまま鉤爪を御岳へと振るった。
「『大地の力』『堅牢岩身』」
「へぇ? 中々、やるみてェじゃねぇか」
土気色のオーラを纏い、両腕を岩に変えて鉤爪を受け止めた御岳。それを見て笑みを浮かべた人狼は、更に鉤爪による猛攻を強めた。
影縫いの影響から抜け出した吸血鬼は、岩の拘束を破壊し、遂に自由の身を得た。
「さぁ、終焉の時ですよ……!」
吸血鬼は握り締めていた拳を離し、空間の歪みを解除すると同時に茜へと殴り掛かった。避けようとする茜は、そこで自分の足元が血の沼と化していたことに気付く。
「ぐッ」
茜は腹部を殴りつけられて倒れそうになるが、何とか堪えて血の沼を足元から噴き出させた炎で蒸発させた。
「だが、焔華の毒は……」
「無駄ですよ? 私は吸血鬼です。毒や呪いの類いには、相当の耐性があるものと思って頂かねば」
絶望的な状況に陥りながらも、最後の希望に縋るように口にした茜だったが、吸血鬼は厭らしい笑みと共にそれを否定した。そして、その言葉が偽りで無いことは平気そうに両手を広げるその態度が示していた。
「おっと、鞭は拾わせませんよ?」
「ッ!」
空間の歪みから解放され、地面に落ちた炎の鞭。そこに駆け込もうとした茜は、目の前を塞いだ吸血鬼に歯噛みした。
「もう、活路はありませんねぇ……さ、死にましょう?」
「舐めんなッ、クソ蝙蝠が……!」
茜は両の拳を構えファイティングポーズを取って吸血鬼を睨み付けた。しかし、吸血鬼は一笑に付すのみで指先を茜に向けた。
「『血液奔線』」
僅かな溜めの後、指先から迸った血液が鋭い線となって茜に放たれる。それは避けようとするも間に合わない茜の胸を貫いた。
「ガハッ!?」
膝を突き、吐血する茜。そのまま倒れ込みそうになるのを何とか堪え、震える手の平を茜は吸血鬼へと向けた。
「遅い」
「やめろッ!!」
動きを止めた茜に冷酷にももう一度血の線を放とうとしていた吸血鬼に、黒崎が現れて飛び掛かった。軌道をズラされた血は工場の壁を貫いた。
「なるほど、貴方から死にたいと……」
吸血鬼は黒崎の首を掴み上げ、にこやかな笑みで見上げた。
「そういう訳ですね?」
「ッ!」
「『爆炎弾』」
その長く伸びた爪が黒崎の首に食い込むと同時に、赤い炎の弾丸が吸血鬼の肩に着弾し、爆発して黒崎を掴む腕を吹き飛ばした。
「おや、死に体からまだ魔術を放ちますか」
「やめ、ろ……ぐぉッ!?」
しかし、吸血鬼は気にした様子もなく腕と肩を再生させてその指先を茜へと向け、それを邪魔しようとする黒崎を工場の壁まで思い切り蹴り飛ばした。
「さて、先ずは一人」
一度血を奪う魔術を受けていた茜は既に大量に失血し、最早意識を保つことすら難しい中で、それでも吸血鬼を睨み続け……そこに止めを刺さんと、吸血鬼の指先から茜へと血の線が伸びた。
「ぐ、ぉォ……!?」
「茜ッ、頭を下げろ!」
御岳の言葉に反射的に頭を低くする茜。そこを岩石の塊が通り抜け、目を見開く吸血鬼の眼前まで迫った。
「――――ガァ、死に掛けてんじゃねぇよ。不死身の癖にヨォ」
岩石は空中で真っ二つに斬り裂かれ、吸血鬼の頭の左右を通り抜けて轟音と共に廃工場の壁に穴を二つ開けた。
そして、それを為したのは鋭い鉤爪を持つ毛むくじゃらの人型……人狼、そう呼ぶに相応しい男であった。
「漸く、来ましたか……!」
「仕方ねぇだろ、俺はお前と違って転移なんざ使えねぇんだからヨォ」
人狼は言いながら、吸血鬼の背後に居る黒崎に斬りかかった。咄嗟に後ろに避ける黒崎だったが、影縫いは制御を失って吸血鬼は自由に一歩近付いた。
「『岩弾』」
放たれた岩石を、人狼は再び鉤爪で真っ二つに斬り裂いた。しかし、その間に黒崎はその場から消えていた。
「随分、温いなァ……」
人狼はそう呟き、今度は茜へと鉤爪を向けた。
「チィッ!」
茜は空間の歪みの中に固定された炎の鞭から手を離し、人狼の鉤爪を回避した。
「人の体でどこまで凌げるか、見物……」
「『石弾』」
当たればただでは済まない高威力の岩石が、再び高速で飛来した。人狼は言葉を途中で止めてそれを避け、御岳を睨み付けた。
「良いぜェ、そこまで言うならお前から殺してやるよォッ!!」
人狼の姿がかき消える。いや、そう錯覚する程の速度で御岳の眼前まで駆け抜けた。振り上げられた鉤爪は、上体を逸らした御岳の鼻先を掠める。
「犬と同じで、単純みたいだな?」
「ッ!」
しかし、人狼が踏み込んだその場所には御岳によってトラップの魔法陣が仕込まれていた。発動した魔術が人狼の足を茶色い岩石で覆い尽くし、動きを封じた。
「舐めんじゃねぇよ」
ビシリ、人狼の足を覆う岩石に罅が入り、砕け散った。解放された人狼は放たれた岩弾を右に回避し、そのまま鉤爪を御岳へと振るった。
「『大地の力』『堅牢岩身』」
「へぇ? 中々、やるみてェじゃねぇか」
土気色のオーラを纏い、両腕を岩に変えて鉤爪を受け止めた御岳。それを見て笑みを浮かべた人狼は、更に鉤爪による猛攻を強めた。
影縫いの影響から抜け出した吸血鬼は、岩の拘束を破壊し、遂に自由の身を得た。
「さぁ、終焉の時ですよ……!」
吸血鬼は握り締めていた拳を離し、空間の歪みを解除すると同時に茜へと殴り掛かった。避けようとする茜は、そこで自分の足元が血の沼と化していたことに気付く。
「ぐッ」
茜は腹部を殴りつけられて倒れそうになるが、何とか堪えて血の沼を足元から噴き出させた炎で蒸発させた。
「だが、焔華の毒は……」
「無駄ですよ? 私は吸血鬼です。毒や呪いの類いには、相当の耐性があるものと思って頂かねば」
絶望的な状況に陥りながらも、最後の希望に縋るように口にした茜だったが、吸血鬼は厭らしい笑みと共にそれを否定した。そして、その言葉が偽りで無いことは平気そうに両手を広げるその態度が示していた。
「おっと、鞭は拾わせませんよ?」
「ッ!」
空間の歪みから解放され、地面に落ちた炎の鞭。そこに駆け込もうとした茜は、目の前を塞いだ吸血鬼に歯噛みした。
「もう、活路はありませんねぇ……さ、死にましょう?」
「舐めんなッ、クソ蝙蝠が……!」
茜は両の拳を構えファイティングポーズを取って吸血鬼を睨み付けた。しかし、吸血鬼は一笑に付すのみで指先を茜に向けた。
「『血液奔線』」
僅かな溜めの後、指先から迸った血液が鋭い線となって茜に放たれる。それは避けようとするも間に合わない茜の胸を貫いた。
「ガハッ!?」
膝を突き、吐血する茜。そのまま倒れ込みそうになるのを何とか堪え、震える手の平を茜は吸血鬼へと向けた。
「遅い」
「やめろッ!!」
動きを止めた茜に冷酷にももう一度血の線を放とうとしていた吸血鬼に、黒崎が現れて飛び掛かった。軌道をズラされた血は工場の壁を貫いた。
「なるほど、貴方から死にたいと……」
吸血鬼は黒崎の首を掴み上げ、にこやかな笑みで見上げた。
「そういう訳ですね?」
「ッ!」
「『爆炎弾』」
その長く伸びた爪が黒崎の首に食い込むと同時に、赤い炎の弾丸が吸血鬼の肩に着弾し、爆発して黒崎を掴む腕を吹き飛ばした。
「おや、死に体からまだ魔術を放ちますか」
「やめ、ろ……ぐぉッ!?」
しかし、吸血鬼は気にした様子もなく腕と肩を再生させてその指先を茜へと向け、それを邪魔しようとする黒崎を工場の壁まで思い切り蹴り飛ばした。
「さて、先ずは一人」
一度血を奪う魔術を受けていた茜は既に大量に失血し、最早意識を保つことすら難しい中で、それでも吸血鬼を睨み続け……そこに止めを刺さんと、吸血鬼の指先から茜へと血の線が伸びた。
0
あなたにおすすめの小説
ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す
名無し
ファンタジー
ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。
しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。
現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!
おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。
ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。
過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。
ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。
世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。
やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。
至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました
KABU.
ファンタジー
「記録係なんてお荷物はいらない」
勇者パーティを支えてきた青年・ライトは、ダンジョンの最深部に置き去りにされる。
彼のスキル《記録》は、一度通った道を覚えるだけの地味スキル。
戦闘では役立たず、勇者たちからは“足手まとい”扱いだった。
だが死の淵で、スキルは進化する。
《超記録》――受けた魔法や技を記録し、自分も使える力。
そして努力の果てに得たスキル《成長》《進化》が、
《記録》を究極の力《アカシックレコード》へと昇華させる。
仲間を守り、街を救い、ドラゴンと共に飛翔する。
努力の記録が奇跡を生み、やがて――
勇者も、魔王も凌駕する“最強”へ。
天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~
仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-
すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン]
何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?…
たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。
※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける
縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は……
ゆっくりしていってね!!!
※ 現在書き直し慣行中!!!
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる