ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能と最悪

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 晩飯の時間だと言うのに、柚乃が帰ってこない。家族は皆不安そうにしていて、連絡も繋がらないので警察に通報するという話も出始めていた。

「友達と遊んでるんだったら良いんやけどねぇ……治、柚乃の仲良い友達の連絡先とか知らんよね?」

「知らないなぁ」

 僕は言いながら、全知全能によって妹の行方を捜すことを考えていた。いつもは、あまり人のプライベートを詮索することは好きじゃなくて、特に家族のそれを探るようなことは避けている。今日、こうして遅れてるのだって、正直に言えば彼氏か何かとよろしくやってるんじゃないかと僕は思っている。なんか、最近は浮ついてたしね。

 だけど、正直言って不安ではある。どこか泊まるとか、遅くなるにしても連絡の一つも入れないのは……ちょっと、不自然な気もする。とは言え、以前にも帰りが遅くなったこと自体は何度かあるし、今回もそんな感じで何でもないような事情なんじゃないかなぁって、思う心はあるけど……

 うん、調べてみよう。

 柚乃の身に危険があったとして、それをどうにでも出来る力があったのに何もしていなかったら……僕は屑だ。

(柚乃は今、何処にいる?)

 ――――北九州市内の廃工場です。

 僕は、全身に悪寒が沸き立つのを感じた。

 即座に全能によって妹の位置まで視界を送った。そこには、水色の髪の少女の後ろで震える柚乃の姿があった。

「ごめん。ちょっと……トイレ」

 僕は立ち上がり、言い訳を探して口にした。その様子に不自然さを抱かれた気もしたが、僕は背に声を掛けられる前にトイレへと駆け込み、鍵を閉めた。

「準備完了、行こうか」

 透明化。気配遮断。この二つを済ませた僕は靴と靴下だけを一瞬で履き、そこに転移した。





 ♦



 伸びる血の線は、茜の額へと吸い込まれるように迫り……そこに展開された白い光の盾に防がれた。

「おや……?」

 廃工場の隅で、動くことも無く震えていた光が、手を伸ばしていた。

「ダクドさん……貴方の、好きにはさせませんッ!」

「ほぉう? アレだけ、私に怯えていた貴方が……今更、歯向かいますかァ?」

 牙を剥き出しにして笑う吸血鬼に、光は怯えたように一瞬表情を引きつらせるが、それでも伸ばした指先を吸血鬼に向けた。

「死んで下さいっ!!」

「魔術ですらない……ですが、流石はマズヴァイの血ですね」

 吸血鬼は飛んで来た針の如く鋭い光を、魔力を纏った手で掴み、そのまま叩き折った。

「上手く育てれば、武器にも道具にもなる……どうですか? 今ならまだ、貴方を傷付けることは致しませんよ?」

 ニヤリと笑う吸血鬼に投げつけられたのは、光の槍だった。しかし、吸血鬼はそれを簡単そうに避け、黒いローブに包まれると光の前に転移で現れた。

「あぁ……残念です」

 言葉とは裏腹に、嬉しそうな笑みを浮かべた吸血鬼は光の腹に拳を叩き込んだ。

「ぐぇッ」

「さぁ、従順になるまで痛みを覚えて貰いますよ」

 その場に倒れ込んだ光に吸血鬼は足を上げ、ブーツの底で思い切り蹴り付けてやろうした。

「待て、よ……!」

「ぐッ!?」

 しかし、その背を炎の刃が貫いていた。ピリピリと青白い稲妻を纏うそれは、紛れもなく元は鞭の形をしていたそれだった。

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!?」

 魔力が炎の刃に流れ込み、爆発的な電流が工場内を青白く照らし、それは吸血鬼の体内へと流れ込んだ。

「がッ、ご……ッ!」

 吸血鬼はその威力に目を見開きながらも、何とか体を霧へと変じさせる。そのまま倒れ込んだ光の後ろに現れた。

「はッ、ハァッ、ふぅぅぅ……ッ!! 貴方が万全の状態で食らっていれば、危なかったかも知れませんねぇ……ッ!」

 身体中が焼き切られたように焦げ付き、刺された胸の辺りは穴が開き、完全に炭化している吸血鬼は震える体で足元の光を掴み上げた。そして、その首筋に爪を僅かに差し込み、血を流し込んで光の意識を朦朧とさせた。

「うっ」

「ですが、もう抵抗は許しませんよ……動けば、光様の腕や足を斬り落としていきましょう」

「クソッ、たれ……外道が、ッ!」

 失血と傷と魔力の消費、とっくに限界を迎えている茜は膝を突きながら吸血鬼を睨む。

「ふふ、どうですか? 守るべき対象を人質に取られ、抵抗すら許されない……屈辱ですか? それとも、絶望ですか? どんな思いで、今貴方は私を睨んでいるのか……教えて下さいよ」

「がはッ!?」

 吸血鬼は光を持っていない方の腕を茜に向け、軽く握るような動作をした。すると、茜は口から大量の血を吐血した。

「貴方の体には、既に私の血が混じっています……そして、それはもう十分に貴方の血に馴染んでしまったようだ」

 さっきの血の攻撃で茜の体内に混じり込んだ男の血、それは僅かな時間で茜の体に馴染み、吸血鬼の力によって操られた。

「さて、煮るも焼くも私次第ですが……そうですね、折角ならば残虐に」

 ニヤリと笑う吸血鬼は光の顎を上げ、その意識を少しだけ鮮明にさせた。

「うっ……」

「ほら、光様。どうぞ、ご覧下さいませ……他ならぬ、貴方の選択の結果を!」

 膝を突く茜の周囲に、無数の血の槍や剣が現れる。その穂先は、全てが茜を向いていた。

「さぁ、最悪を見せて上げましょう」

「ッ!? やめてッ!!」

 浮かんでいた血の武器達が、一斉に茜へと放たれた。


「――――もう、十分に最悪だよ」


 血の武器達が、一斉に何事もなかったかのように掻き消えた。

「ッ、何を……!?」

「最悪な気分だ。人が沢山死んでるし、臭いも酷い。お世辞にも、間に合ったなんて言えない。最低だ。僕も、お前もさ」

 姿も見えず、気配もない。だが、確かに声だけはそこに響いていた。
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