ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能と入門

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 海外旅行に行ったことがあるんだけど、その時の入国検査の怖さを思い出していた。日本語の通じないであろう外国人に拙い英語で信頼を勝ち取らなければいけないあのプレッシャー、滅茶苦茶僕は苦手だった。別に、一瞬喋るだけと言えばそうなんだけど。

「レティシア殿。どうされたんですか、そちらの方は……」

「なんか、森で襲われてたところを拾ったのよ。冒険者になりたいっていうから、街まで案内してあげようと思ってね」

「なるほど……しかし、そちらの方は荷物も何もお持ちになられていないようですが」

「あー、魔物に襲われてるときに咄嗟に投げつけちゃって……それで、無一文なんですよね……持ってるのは、もうこの服だけで」

 僕は咄嗟の言い訳を思いつき、そう口にした。

「ふむ。それでは、身分証も通行証も何もお持ちになられていないと……ご出身の方は?」

 僕は思わず閉口したが、直ぐに全知全能へと助けを求めることに成功した。勿論、門番をぶっ飛ばすだとか洗脳するだとか、そんなやり方じゃない。


「――――リアンティヌスの島から、と言えば分かりますでしょうか」


 この状況にあった、自然な回答を引き出しただけのことだ。勿論、僕はリアンティヌスの島なんてのは一切知らない。

「ッ、なるほど……それで、冒険者を目指されていると」

 僕は何も答えず、ただ物憂げに視線を伏せた。

「……まぁ、保証は私が居るから大丈夫でしょ?」

「はい、勿論です。入門料はレティシア殿がお支払いになられるということで宜しいでしょうか?」

「えぇ、それでお願い」

 そうしてレティシアと門番が何度か言葉を交わすと、僕は身体検査も無く、あっさりと中に通された。

「……通れた。身体検査とか、そういうのされないんだね」

「無いに決まってるわよ、そんなの……見たら、分かるでしょう?」

 レティシアは眉を顰めて言いながら、周囲に視線を促した。中世ヨーロッパの街並み、というのを僕は正確には知らないけど、絵空が言っていた通りならきっとそうなのだろう。確かに、そんな雰囲気のある街を僕は隅々まで眺めた。

「凄いね……綺麗だ」

 夕暮れの近付いた町は仄かに赤みを帯びており、石畳の道が真っ直ぐに伸びている。門から繋がるここが大通りになっていて、左右には飲食等の店が無数に並んでいることが分かった。
 そこを歩くのは布の服を着た住民らしき者達は勿論、金属の鎧を着ている兵士らしき人や、革の鎧を身に纏った冒険者らしき男達、それに獣毛や獣耳が生えた獣人らしき人も居る。
 多種多様な人々は隣を歩く人と笑ったり、店主と客で真剣に交渉していたり、酒を片手に赤ら顔で叫んでいる者も居た。人々は意外にも活気があるようで、しかし能天気という訳では無く、皆それぞれの目に意志が籠っているのが分かった。

 綺麗な街だった。

「綺麗な街だね」

「ふふん、そうでしょう? 私の自慢の街よ!」

 嬉しそうに胸を張ったレティシアは、暫く笑みを浮かべていたが、何かを思い出したように首を振った。

「って、そんな話じゃないわよ。身体検査なんてない理由、見たら分かるでしょう?」

「えぇ……? あ、そういうことか」

 僕は町を歩く人達を再び見て、直ぐに思い至った。

「身体検査なんてするまでも無く、危険物だらけだもんね」

「そういうこと」

 現代日本では有り得ない……いや、日本以外でも有り得ないくらいに、武器を肩に担いだり、腰に差したり、背負っていたりする人が多い。危険人物だらけだ。でも、これがこの世界の当たり前だということだ。

「確かに、明らかに人を殺せそうな大斧を背負ってる人を相手に、身体検査させて下さいなんて変な話だよね」

 擦れ違う人の半分くらいは、僕を一撃で殺せそうな人たちばかりだ。最早、武器すら要らないレベルだろう。冒険者っぽく無い人でも、筋肉が凄いついてたりする。多分、力仕事をする人なんだろうけど。

「それで……アンタ、リアンティヌスから来たの?」

「ん、いや……アレは、嘘だよ」

 僕はレティシアにもその嘘を吐き通すか少し迷ったが、やはり止めておくことにした。

「並んでる間に周りの人の話を聞いて、良い感じの言い訳を考えてたんだ」

「じゃあ、ホントはどこから来たのよアンタ……」

 レティシアの言葉に、僕はにこりと笑ったまま答えなかった。

「ま、良いわ。それで、街の案内をして欲しいんだったわよね?」

「うん、お願いできるかな?」

「任せときなさい。先ずは……」

 レティシアはにやりと笑い、雑踏の中で僕の手を引いて街を楽し気に案内しだした。さっきも自慢の街だと言っていたけれど、この街が凄く好きなんだろう。


 色々と街を回っていると、段々夕焼けの日も落ちて来た。でも、僕はあと三十分くらいで帰らないといけないんだ。そろそろ、その旨を伝えておこうと口を開こうとした僕だが、レティシアはピシリと目の前の噴水を指差した。

「はい、これで最後ね! ビニラの噴水よ。夕焼けと見ると、凄く綺麗でしょう?」

「うん、綺麗だ」

 夕焼けの光を浴びて跳ね返す噴水は、キラキラと輝いているようでとても綺麗だった。

「ふふ、ホントはもっと案内してやりたかったんだけど、疲れてそうな顔してるから、このくらいにしといてやるわ。疲れたまま連れ回されても、良い思い出にならないでしょう?」

「……確かに、ちょっと疲れたかも」

 実際のところ、僕の体は疲労していた。身体強化の後だから体が重く感じるのとは別に、走ったり歩いたりと結構動いたからだ。幾ら魔術で強化出来ても、僕の素の肉体はただの高校生でしかないのである。

「でも、楽しかったよ。今まで観光した街で、一番楽しかったかも知れない」

「ふふ、なら良かったわ。精々、キリキリ働きなさいよ」

 と、言ったところでレティシアは思い出したように視線をどこかに向けた。

「そうだ。アンタ、ギルドの手続きを手伝って欲しいって言ってたわよね?」

「うん。お願いできるかな?」

「ここまで来て、やっぱ止めたなんて言わないわよ。ほら、こっち」

 レティシアは柔らかい笑みを浮かべ、僕を夕焼けの方へと導いた。
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