ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能と宿屋

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 冒険者ギルドを後にした僕は、レティシアの案内で宿屋に来ていた。結構しっかりとした三階建ての宿屋で、一階は食堂のようになっているらしい。大抵の宿屋は一階が酒場を兼ねているらしいので、ここは他の宿屋より静かで良いと聞いた。

「ねぇ、本当に良いの? 別に僕は安宿でも全然良いし……何なら、野宿だって良いけど」

「良いのよ。下が酒場だとうるさいし、酒の匂いばっかりするし、碌なことないわ」

 別にうるさいくらい良いというか……実際に僕が宿屋で寝ることは多分無いから、本当に大丈夫なんだけどなぁ。

「初めはここに泊まっときなさい。取り敢えず一週間分は私が出してあげるから。それに、別に高級宿って訳でも無いわよ?」

「……何から何まで、流石に申し訳ないけどなぁ」

 何度も安宿で大丈夫だと伝えはしたんだけど、頑なにこの宿を勧められる。多分だけど、レティシアはこの街で嫌な思いをして欲しくないんだろう。少なくとも、僕がこの街を好きになるまでは。

「うーん……」

「気にしなくて良いのよ。私、お金なら結構あるから」

 まぁ、そうだろうけどさ。

「分かった……でも、返すの遅くなるかも知れないからね?」

「別にいつでも良いわよ。ていうか、この宿は私が無理やり勧めたんだから、返さなくても良いわ」

 この人、ヒモの彼氏作りそう……

「さ、行くわよ」

 僕はレティシアと並んで歩き、その宿屋に入った。

「おぉ……」

 中に入ってみると、木造の室内。テーブルが幾つか並び、窓は無く、カウンターには店主らしき中年の男が立っている。この宿に宿泊している人かは不明だが、テーブルは既に客で埋まっていた。何というか暖かい雰囲気で、料理の良い匂いがしていた。

「治、なに止まってるの?」

「あ、ごめん」

 僕は止まっていた足を動かし、レティシアと共に受付をしている店主らしき男の下まで歩いた。男は確かめるようにじろりと僕を見たが、レティシアに視線を戻すとにやりと笑みを浮かべた。

「久し振りじゃないか、レティシア。天蓋付きのベッドはよく眠れるかい?」

「えぇ、よく眠れるわよ。やっぱり、高級な宿は一味違うわね」

 にやりと笑ったまま言う男に、レティシアも同じように笑みを返して言った。

「かーっ、やっぱり天下の真銀級冒険者様は違うみたいだな? んで、そのレティシア様が庶民の俺達に何の用で?」

「ホント、うっさいわねアンタは……この子を泊めて欲しくて来たのよ。冒険者になりたくてこの街に来たらしいんだけど、今は無一文っていうから、ちょっとだけ面倒を見てるのよ」

「……へぇ、何日で?」

 男はレティシアの言葉を聞いて僕の方を目を細めて見たが、何も言うことは無くそう聞いた。

「取り敢えず一週間よ。個室ね。治、食事も一応付けられるけど?」

「いや、ご飯は自分の好きなタイミングで食べに行くから大丈夫かな」

 それに、追加料金も必要になるだろうし……どうせ、こっちでそこまで自由にご飯を食べることは無さそうだし? 予め外で食べて来るって伝えてれば、こっちでも何か食べたり出来るだろうけど。

「あいよ。4カシフと9000サクで」

「釣りは要らないわよ」

 そう言うと、レティシアは五枚の銀貨らしきものを差し出した。冒険者登録の時に差し出してたのも銀貨だったような気がするけど、これはそれよりも大きく見える。あと、デザインも違う……のかな?

「お、嬉しいねぇ」

「はいはい、頼んだからね」

「おう、任せとけよ……だが、一応聞いとくが大丈夫なのか? アンタが判断したってことは、大丈夫なんだろうがな」

「大丈夫よ。これでも、治は腕が立つメイジ……いや、ウィザードなんだから」

 心配そうな表情の男に、レティシアはにやりと笑ってそう言った。

「とにかく、よろしくね。私は面倒見れない時も多いから」

「だろうな。特に、お前は指名依頼も大抵受けてんだからな」

「ふん、実入りが多いから受けてるだけよ」

「その分、七面倒臭い依頼も多いって聞くけどな?」

 レティシアは男の言葉に返答せず、踵を返して手を上げた。

「それじゃ、よろしくね。治も頑張りなさいよ」

「うん、本当にありがとね。頑張って、直ぐに返せるようにするよ」

「ふふ、期待してるわ」

 レティシアは笑うと、宿屋を足早に出ていった。何か用事があったりするんだろうか。

「んで、治って言うんだったな?」

「はい、僕はどの部屋に行けば良いですか?」

 旅行したこともあるし、ホテルに泊まったことだってあるけど、一人で泊まったことは無かった。ちょっと不安な気持ちもあるけど、一先ずは部屋を教えて貰おう。

「おう、リリアー!」

 男が叫ぶと、裏から小柄な女の子が出て来た。娘だったりするのかな。こういう宿屋とかって、家族経営のイメージがある。

「空いてる個室に案内してやってくれ」

「うん」

 リリアと呼ばれた女の子は、カウンターの裏から鍵を取り、階段の方へと歩いて僕の方を見た。

「こっちです」

「はい」

 とてとてと階段を上って行く女の子に付いていき、僕は廊下の端の方にある部屋に案内された。動物の毛皮のベッドに、机と椅子。後はちょっと棚があるくらいで、結構シンプルな部屋だった。
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