ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能と契約

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 契約が成立したことに僕は拍子抜けな気分になりながらも、念の為に確認しておくことにした。

「一応、聞いておくけど……本当に良いんだね?」

『二言はねぇ。だが、お前の言葉がもし嘘だったなら……』

 赤黒い目をすぅっと細める悪魔に、僕は首を振った。

「心配しなくても、嘘じゃない。僕が言った不思議パワーも、異世界のものだって考えれば納得出来るでしょ?」

『出来る、か……? まぁ、良い。信じてやるよ。相手の言葉を疑って契約を渋るのは悪魔のやり方じゃねぇ』

「へぇ」

『契約を破った相手の一番大事なモノを頂いて行くのが、悪魔のやり方だ』

 ……やっぱり、契約やめとこうかな。

『まぁ、安心しろよ。お前の言葉に嘘が無ければ、お前は何も失いやしねぇさ』

「うん……まぁ、なら良いけど」

 実際、僕は嘘なんか吐いてないからね。契約も守るつもりだ。

『それとな、もし、お前が期限なんて決めてないから死ぬまでオレ様に異世界の料理を提供しないなんて頓知を利かせてたとしても、そうなったら契約を守れなかったお前の魂を死後に頂いていくぜ?』

「心配性だなぁ」

『ッ、お前が適当すぎるだけだろ……!』

 だって、僕からすれば心配したって仕方ない話でしかないし。

『悪魔との契約だぞ、お前……適当にやって、騙くらかされて魂を持って行かれた奴がどれだけ居ると思ってんだよ』

「いや、知らないよ」

 思ってるも何も、僕は異世界人だし。悪魔の常識なんて知る訳が無い。

『……まぁ良い、契約だ。オレ様に触れろ』

「うん、よろしくね」

 僕はサッと自分の手を本に触れて、そこから呪われた悪魔を解き放った。

「契約、成立だ」

 それと同時に契約を結ぶと、まるで何かが抜け落ちたように本は箱の上から地面に滑り落ちて、その隣に暗い赤色の髪の男が立っていた。黒を基調に赤の混じった高級感のある服を身に纏っている。

「おぉっ!? すげぇ、マジに戻って来たぜ……ッ!」

 男はその場でぴょんぴょんと跳んだり、腕をぶらぶらと振ったりして自分の体の調子を確かめた。

「良く知らないんだけどさ、悪魔って実体が無かったりとかするんじゃないの?」

「お前、馬鹿かよ。そしたら何も食えやしねぇだろうが」

 すごい、食が何よりも大事なんだね君にとっては。

「いやぁ、にしても体があるってのは良いことだな。何しろ、気分が良いぜ」

 にやりと快活な笑みを浮かべた悪魔。背は僕よりも高く、180cm以上はありそうで、顔はイケメンと言わざるを得なかった。だが、どこか野生児っぽいというか、人懐っこそうな雰囲気というか、おじいちゃんおばあちゃんに好かれそうな感じのイケメンだった。

「さて、お次は異世界の食事とやらにありつかせてくれよ」

「気が早いよ。僕はまだ、君の名前すら知らないんだから」

 僕がそう返すと、悪魔はにやりと笑みを浮かべた。

「ユモン・イカダチ」

「宇尾根治」

 悪魔は……いや、ユモンは笑みを浮かべたまま僕に手を伸ばしそうとして、何かに気付いたように固まった。

「……既に契約が交わされてる、じゃねえか」

「え、うん。君を本から戻す時にもう契約は結んだけど」

「あ、悪魔のオレ様ですら気付かない内に勝手に契約を交わされただと……?」

「もしかして、なんかダメだったりする?」

 ユモンは暫く黙った後に首を振った。

「まぁ、ダメってこたぁ無いんだが……無いんだが、契約ってのは普通、悪魔のオレ様が主体でやるもんだろうがよ」

「確かに、悪魔ってそういうイメージあるね」

 悪魔からしたら、自分のアイデンティティを奪われた的な気分になるのだろうか。

「取り敢えず、異世界の食事を食べさせてあげるのは僕がこの世界でやるべきことをやってからだね」

「やるべきことだァ?」

 怪訝そうな目をするユモンに僕は頷いた。

「今、僕はここに地下室の解呪の為に来てるんだ。冒険者として、依頼を受けてね」

「……そういや、冒険者だって言ってたな」

「うん。それで、今からここの家主……っていうか、依頼主に依頼完了を報告しに行かなきゃいけないんだけど……どうしよう。いきなり君が居たら不自然だし」

「つーかな、そもそもオレ様と一緒に街を歩くのは止めた方が良いぜ」

 今度は、僕が怪訝そうな目でユモンを見る番だった。

「何で?」

「悪魔だからだよ。見た目じゃ分からねぇかも知れねぇけどな、聖職者なら一目で分かるってもんだぜ?」

「そうなんだ……」

「ま、だけど方法が無いって訳じゃねぇ。例えば……」

 ユモンは足元の本を拾い上げて、魔力を籠めるとそれを小さな金色の指輪に変化させた。

「ほら、中々イかすだろ?」

「……うん。それがどうしたの?」

 僕が聞くと、ユモンはにやりと笑い……その指輪にぐにゃりと吸い込まれるようにして消えた。

「本の次は指輪になりたかったのかい?」

『ハッ、本になりたかったことなんざねぇよ。勿論、指輪もな』

 指輪から声が響くと同時に、指輪はふっと浮き上がる。そして、そのまま独りでに僕の指にスッと嵌まった。

「これだと、バレないの?」

 黄金の輝きは美しく、魅力的だったが、僕にはとても似合っていないような気がした。責めてデザインを金から銀にでも変えて欲しいなぁと思わないでも無かったが、言うとユモンのセンスを傷付けそうなので止めておいた。

『あぁ。音も光も、大抵の物は別のモノを覆い被せりゃ薄まるか消えるだろ? それと同じで、別のモノの中に潜めばオレ様の悪魔の匂いも薄れて分からなくなっちまうって寸法さ。それでも、オレ様が会った似非聖女くらいの奴にはバレるだろうが……ま、あんなレベルの奴はそうそう居やしねぇよ』

「なるほどね……でも、良いのかな? 折角、体を取り戻したって言うのに。それに、前みたいに閉じ込められたりするんじゃない?」

『良いんだよ。いつでも脱ぎ捨てられる服と、いつまでも体を縛り付けてる鎖じゃ訳が違ぇからな。それと、閉じ込められることはねぇよ。アレは契約と呪力でくっつけられた上に、沢山恨まれたからああなったんだからな。オレ様を本に絡み付ける契約はもうねェし、お前との契約があれば恨まれることも殆どねェだろ』

「……確かにね。それなら、良いけど」

 僕は右手の人差し指に嵌まった黄金の指輪を見て、小さく息を吐いた。
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