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全知全能と魔と人と
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そうして歩き始めた僕らだが、僕の頭にふと一つの疑問が思い浮かんだ。
「……そういえば、人間と魔族の戦いってどうして始まったの?」
「お、お前……本当に何も知らないんだな?」
若干ビビってるような表情でウィーが言った。そう、本当に何も知らないのである。
「魔王軍が聖大陸に攻め込んで来たのは、五年前のことだね。それまでは、偶に魔族が単体で襲って来ることはあっても、列を成してやってくることは無かったよ」
えっと、聖大陸って何? 今僕らが居る大陸のことかな?
――――その通りです。この星には二つの巨大な大陸のみが存在しており、後は無数の島々が存在するのみです。その内の片方は人間の住む聖大陸ですが、もう片方の魔大陸と呼ばれる大陸は、その大部分は荒涼とした大地で、残りの部分も超高熱の火山地帯に、瘴気に閉ざされた大森林、凍て付いた山岳地帯など、凡そ人の住める土地ではありません。その原因は異常に集中した魔力によるものであり、そこに生まれる生物もまた高密度の魔力によって変貌し、その極限の環境に適応した存在となっています。
へぇ、そんな激ヤバい大陸なんだ。
「じゃあ、その魔族達がこっちに攻め込んで来るようになったきっかけって?」
「僕は知らないね……ただ、宣戦布告も無く突然に魔大陸に近い位置にある島国から滅ぼされて行って、今もその侵攻は続いてるよ」
アシラが知らないというなら、全知全能に聞けばいい。
――――魔大陸での内戦が終結したからです。今までは軟弱な生物しか住まない聖大陸を、魔大陸内での戦いから目を逸らしてまで狙うことは臆病者のやることであるとされていた為、殆どの魔族は聖大陸への侵攻を行おうとしませんでしたが、今は魔大陸が統一されてしまった為、次なる標的として聖大陸が狙われることになりました。
凄い、魔族ってもしかして凄く野蛮なんだろうか。
「そういえば、良い魔族って居ないの? それぞれ知性と自我があるなら、優しい性格の魔族が居てもおかしくないと思うけど」
「……どうだろうね」
アシラは悩んだ末に、首を振って曖昧に返した。
「優しい魔族なんて居ない。どこにも」
ナーシャが感情の籠らない目でそう言って、ウィーも何も言わずに歩いていた。
「……そっか」
何というか、地雷を踏んだ気がする。
「なぁ、治……魔族に情けをかけようなんて思ってるなら、止めた方が良いぜ。アイツらは、イカれた魔大陸で生まれるから、最初っからイカれてんだよ」
「そっか……分かった、ごめんね。変なこと聞いて」
「うんにゃ、良いんだよ。知らねぇなら、仕方ねえ。魔族なんて、大体人っぽい見た目してるからな……そう思っちまうのも、しゃあねえかもな」
本当に……そう、なのかな?
――――実際のところ、魔力による強い影響を受けて生まれた生物は攻撃的に変貌しやすいという傾向があり、魔族も大量の魔力に満たされて生まれる為に攻撃的な性質を持つ可能性が非常に高いです。また、過酷な魔大陸という環境で育つ上で更に攻撃的で獰猛になりやすいという傾向があります。そして、魔族の価値観は力こそを尊ぶものであり、一般的にも強者こそが正義と考えられています。結論として、魔族の殆どは人間の一般的な感性から言えば、攻撃的で冷酷で野蛮なものに見えます。
殆ど、ね。つまり、極一部は例外も居るって訳だ。今の説明を聞くに、その数は期待できそうにないけど。この環境で、道徳や倫理観を得る方が難しいというものだろう。だが、今まで普通に繁殖して生きてきているならば、それなりの家族愛や友愛程度のものは自然に存在していてもおかしくはない。その優しさの一切が身内以外には向けられないという可能性もあるけど。
「良いんだよ。覚悟が出来ないなら、リューマリンでの戦いには参加しなくても良い」
「大丈夫だよ。覚悟が出来ない訳じゃないから」
嘘だ。本当は、今は迷ってしまっている。きっと、覚悟を決められる時が来るとすれば、実際に魔族を見た時だけだろう。だけど、リューマリンを守るという言葉を嘘にはしない。今もその覚悟は出来ている。
「シーッ、居るぜ。グリーンウルフだ」
ウィーの言葉に、僕らは閉口した。差された指の先を見ると、森の奥の木々の隙間に確かに緑色の何かが映っていた。それは、確かに僕が最初に遭遇したものと同じ、緑色の狼だった。但し、その時と違うのは数だった。
「群れだな。数は……十五ってとこか。相当デカい群れだな、どうする?」
「やろう」
目を細め、冷静に問いかけたウィーに、アシラが即答した。
「この規模の群れを放っておくのは、危険だ。森の浅い位置まで来てるし、尚更放置できない」
「だよな。こんだけ倒しても持ち帰れねぇってのが残念だけど……いや、今回はちげぇか」
ウィーがにやりと笑みを浮かべ、僕に視線を向けた。
「うん。十匹でもニ十匹でも丸ごと持ち帰れるよ」
「よし来た。こりゃ、やる気が湧いて来たな!」
「……気付かれる前に、仕掛ける」
ナーシャが短杖を抜き、ゆっくりと歩きながらその先端を離れた狼の群れの方に向けた。
「……そういえば、人間と魔族の戦いってどうして始まったの?」
「お、お前……本当に何も知らないんだな?」
若干ビビってるような表情でウィーが言った。そう、本当に何も知らないのである。
「魔王軍が聖大陸に攻め込んで来たのは、五年前のことだね。それまでは、偶に魔族が単体で襲って来ることはあっても、列を成してやってくることは無かったよ」
えっと、聖大陸って何? 今僕らが居る大陸のことかな?
――――その通りです。この星には二つの巨大な大陸のみが存在しており、後は無数の島々が存在するのみです。その内の片方は人間の住む聖大陸ですが、もう片方の魔大陸と呼ばれる大陸は、その大部分は荒涼とした大地で、残りの部分も超高熱の火山地帯に、瘴気に閉ざされた大森林、凍て付いた山岳地帯など、凡そ人の住める土地ではありません。その原因は異常に集中した魔力によるものであり、そこに生まれる生物もまた高密度の魔力によって変貌し、その極限の環境に適応した存在となっています。
へぇ、そんな激ヤバい大陸なんだ。
「じゃあ、その魔族達がこっちに攻め込んで来るようになったきっかけって?」
「僕は知らないね……ただ、宣戦布告も無く突然に魔大陸に近い位置にある島国から滅ぼされて行って、今もその侵攻は続いてるよ」
アシラが知らないというなら、全知全能に聞けばいい。
――――魔大陸での内戦が終結したからです。今までは軟弱な生物しか住まない聖大陸を、魔大陸内での戦いから目を逸らしてまで狙うことは臆病者のやることであるとされていた為、殆どの魔族は聖大陸への侵攻を行おうとしませんでしたが、今は魔大陸が統一されてしまった為、次なる標的として聖大陸が狙われることになりました。
凄い、魔族ってもしかして凄く野蛮なんだろうか。
「そういえば、良い魔族って居ないの? それぞれ知性と自我があるなら、優しい性格の魔族が居てもおかしくないと思うけど」
「……どうだろうね」
アシラは悩んだ末に、首を振って曖昧に返した。
「優しい魔族なんて居ない。どこにも」
ナーシャが感情の籠らない目でそう言って、ウィーも何も言わずに歩いていた。
「……そっか」
何というか、地雷を踏んだ気がする。
「なぁ、治……魔族に情けをかけようなんて思ってるなら、止めた方が良いぜ。アイツらは、イカれた魔大陸で生まれるから、最初っからイカれてんだよ」
「そっか……分かった、ごめんね。変なこと聞いて」
「うんにゃ、良いんだよ。知らねぇなら、仕方ねえ。魔族なんて、大体人っぽい見た目してるからな……そう思っちまうのも、しゃあねえかもな」
本当に……そう、なのかな?
――――実際のところ、魔力による強い影響を受けて生まれた生物は攻撃的に変貌しやすいという傾向があり、魔族も大量の魔力に満たされて生まれる為に攻撃的な性質を持つ可能性が非常に高いです。また、過酷な魔大陸という環境で育つ上で更に攻撃的で獰猛になりやすいという傾向があります。そして、魔族の価値観は力こそを尊ぶものであり、一般的にも強者こそが正義と考えられています。結論として、魔族の殆どは人間の一般的な感性から言えば、攻撃的で冷酷で野蛮なものに見えます。
殆ど、ね。つまり、極一部は例外も居るって訳だ。今の説明を聞くに、その数は期待できそうにないけど。この環境で、道徳や倫理観を得る方が難しいというものだろう。だが、今まで普通に繁殖して生きてきているならば、それなりの家族愛や友愛程度のものは自然に存在していてもおかしくはない。その優しさの一切が身内以外には向けられないという可能性もあるけど。
「良いんだよ。覚悟が出来ないなら、リューマリンでの戦いには参加しなくても良い」
「大丈夫だよ。覚悟が出来ない訳じゃないから」
嘘だ。本当は、今は迷ってしまっている。きっと、覚悟を決められる時が来るとすれば、実際に魔族を見た時だけだろう。だけど、リューマリンを守るという言葉を嘘にはしない。今もその覚悟は出来ている。
「シーッ、居るぜ。グリーンウルフだ」
ウィーの言葉に、僕らは閉口した。差された指の先を見ると、森の奥の木々の隙間に確かに緑色の何かが映っていた。それは、確かに僕が最初に遭遇したものと同じ、緑色の狼だった。但し、その時と違うのは数だった。
「群れだな。数は……十五ってとこか。相当デカい群れだな、どうする?」
「やろう」
目を細め、冷静に問いかけたウィーに、アシラが即答した。
「この規模の群れを放っておくのは、危険だ。森の浅い位置まで来てるし、尚更放置できない」
「だよな。こんだけ倒しても持ち帰れねぇってのが残念だけど……いや、今回はちげぇか」
ウィーがにやりと笑みを浮かべ、僕に視線を向けた。
「うん。十匹でもニ十匹でも丸ごと持ち帰れるよ」
「よし来た。こりゃ、やる気が湧いて来たな!」
「……気付かれる前に、仕掛ける」
ナーシャが短杖を抜き、ゆっくりと歩きながらその先端を離れた狼の群れの方に向けた。
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