ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能と技術

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 ナーシャが前に出るのを見て、僕は声を掛けようとして止めた。僕も手伝おうかとか、一緒に魔術を撃とうかとか、言おうとも思ったけど、それが原因で狼達にバレるのも嫌だった。
 それに、いきなり息を合わせて連携して魔術を放てるかとか、分からないってのもある。もし、僕が火を放つ魔術を撃って、ナーシャが風を起こす魔術を使ったら、相乗効果で大惨事になってしまう可能性だってある訳だ。

「『根を呼び、芽を尋ね、蔓を結べ』」

 緑色の魔法陣が花開き、ナーシャの視線が狼達を鋭く睨む。

「『蔓合ヴィンクタ』」

 魔力の高まりに狼達が振り返る。が、時既に遅し。地面から伸びた蔓が狼達の足元に絡み付き、その動きを完全に封じ込めた。

「ガッ、ガルルゥ……ッ!」

「グルルル……ッ!」

 低く唸る狼達は、何とか絡み付いた蔓を引き剥がそうとするが、表面に生えた棘が深く刺さって中々抜けず、狭い可動域では千切れもしない。

「『啜り、飲み込め。器を満たせ』」

「……ナーシャ?」

 そして、ナーシャはそんな狼達に向けて短杖を伸ばしたまま再び詠唱を始める。動けない狼達に飛び込もうとしていたアシラとウィーはその詠唱に足を止め、ナーシャの方を見る。

「『生命の吸収ヴィタエ・ラプシオ』」

 二人を無視してナーシャは詠唱を完了させた。狼達に絡み付き、突き刺さった蔓から生気が吸い取られていく。僅かな時間で痩せこけたように見える狼達は、ぱたりぱたりと地面に倒れて行く。

「ナーシャ? ……えっと、魔力はその……出来るだけ節約するって方針じゃなかったっけ?」

「……私も成長した。このくらいは、まだ余裕がある」

「う、うん……そうかい。それなら、良いけど」

「お前、良いのかそれで……?」

 二人は何故か困惑した様子だが、僕にはあんまり何のことか分からなかった。ナーシャの魔力は確かに余裕がある……どころか、最初とあんまり量が変わっていないようにも見えた。ちょっと不思議だけど、異世界特有の技術でもあるのだろうか。

「どう?」

 ナーシャが起伏の無い表情で僕の方を見ていた。が、その目には期待のようなものが浮かんでいるような気がした。

「うん、凄く良かったよ。どっちも、僕の知らない魔術だったし……実践的だね。それに、応用も凄く出来てるように見えた。僕よりも、ずっと魔術が上手いね」

「……ちょっと、褒めすぎてる」

 ナーシャはじとっと目を細めて言った。だけど、僕は事実を言っただけのつもりだ。

「最初の魔術の範囲指定もスムーズだった。多分、魔力の位置で範囲を絞ったんだろうけど、あの速度でこなしたにしては範囲が凄く正確だったし、次の魔術とのコンボって意味でも凄かった。僕はまだ実践的な魔術の組み合わせみたいなのがあんまり出来てないから、凄く参考になったよ。それと、最後の魔術で自分の魔力が籠った植物を起点に……」

「良い、もういいからッ、十分。伝わったから、良い」

 頬を紅くしてそっぽを向いたナーシャに、僕は仕方なく黙った。自分から聞いて来たくせに、照れるなんておかしいと思うんだ。僕は。

「それに……魔術は、そっちの方が絶対上手い筈だから」

「んー、僕の技術は結構偏ってるんだよね。知識も」

 全知全能に頼ってる部分と、自分でやってる部分の差が凄く激しい。魔術を創り出したりするのは基本的に全知全能に任せてるから、応用的な部分では凄く僕は未熟だ。その時その時に応じて、好きに魔術を変容させる技能に欠けてることになるからだ。
 例えば、ナーシャがさっきやっていたような魔術で出した植物を使って、本来は自分を起点に発動する魔術を植物を起点に発動する、みたいなことは今の未熟な僕には出来ない訳である。まぁ、全知全能でサクッと習得したって良いのかも知れないけど……あんまり、全部に頼り過ぎるのも良くないだろう。

「ははっ。確かに、治の知識に偏りがあるのは凄く感じるよ」

「マジでどんなとこで生まれ育ったらこんな生き物が出来上がるんだって感じだよなぁ」

 ナーシャに説明したら、外野の二人に刺された。でも、事実だから言い返せもしない。

「取り敢えず、狼の死体を片付けようか……治、お願い出来るかな?」

「うん」

 僕は頷き、アシラ達と共に狼達の死体に近付いて行く。ちょっと離れた場所から殺したので、近付くのが若干億劫だ。ただ、このくらい距離が無ければ魔術で臭いは消していたとは言え、気付かれていただろう。

「……うっ」

 ちょっと干からびてる感じのある狼達の死体は、近くで見ると結構キツかった。僕が狼を殺せず、鹿は殺せたのは狼が犬に似てるからってのもあるかも知れない。

「再展開」

 僕は既に刻まれている魔力パスを意識して小さい魔法陣を開き、黒い渦を呼び出した。

「え。今、鍵言も無しで……」

「あ、うん。これは一度発動したらそっからは詠唱とか必要ないタイプだからね。本当はさっきの鍵言も必要なかったんだ」

 最初に見せた時のはただの格好付けである。やっぱ、技名言ってる方が格好良いよね。無詠唱もそれはそれで格好良いけど、普通にめっちゃ難しいし。

「うぉ~、マジに便利だよなそれっ、今後は重くて嵩張る荷物持たなくて良いって考えたら最高だぜ!」

「こういう魔術って使ってる人居ないの?」

「いやー、おれは見たことねぇなぁ。居たら、今頃荷物運びポーターとして引っ張りだこだろうな!」

「……馬鹿。あのレベルの魔術をその程度のことに使っていたら世界的損失。そんなことに使うくらいなら、マジックバッグでも買えば良い」

 いや、荷物を運ぶ為の魔術として作ったんだけどね。

「ん、マジックバッグって?」

「内部の空間を拡張する機能を持ったバッグ。作るのが難しい上に、製法を間違えると危険だから、特殊な許可を得てる一部の工房しか作れない」

 あー、空間魔術系の事故は結構怖そうだよね。例えば、手を入れてるときに術式が無効化されると、中の荷物と纏めてギュッと圧縮されちゃう可能性がある。そうならないように、ちゃんとしてる奴は壊れると同時に中身がばら撒かれるようになってたりするんだろうけど。

「因みに、ただ空間を拡張して容量を広くするマジックバッグですら相当な高級品。それなのに、亜空間に荷物を保管しておける魔術なんて……普通は、有り得ない」

「うーん」

 異世界人は標準装備でしょ、程度のノリで使ってしまったインベントリだが、結構ヤバいらしい。あんまり、人前で使わない方が良いのかなぁ。

「……実は、この魔術って指輪に秘められた能力の一つなんだよね。そう、マジックバッグみたいな」

「今更言っても遅いよ、治」

 にこりと笑って言うアシラに、僕は小さく溜息を吐いた。
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