ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能と森の熊

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 折角沢山入るんだから、まだ狩りを続けようということで僕らは森の中を更に進んでいた。

「あ、そうだ。僕のこの魔術なんだけど……」

 僕は指先をすらりと伸ばし、そこに小さな魔法陣から黒い渦を生じさせた。

「表向きには、この指輪の力ってことにしようと思う。なんか、雰囲気もそれっぽいでしょ?」

『おい、さっきから勝手に何言ってんだよ』

 良いでしょ、そのくらい。僕は黄金の指輪にそう返しつつ、黒い渦を消した。

「確かに、その指輪には何かの力が秘められてる……」

 思えば、最初に説明した時もナーシャはじっと指輪を見ていた。あの時は不思議に思っただけかと思ってたけど、この指輪の魔術書としての力か、それともユモンが宿っているからか、なにか力を感じ取っていたらしい。

「僕らはそれでも構わないけど、そうなると指輪が狙われるかも知れない。良いのかい?」

「まぁ、僕を直接狙われるよりは良いんじゃない?」

「指輪目的でも、おまえの身が危険になるのは変わらないぜ? つーか、そうなるとおれらも巻き込まれそうだな……」

「……そうだね。一度、ギルドの人と話して裏に通して貰えるようにしよう。少し手間は掛けさせてしまうかも知れないけど、素材が沢山手に入る分には向こうも嬉しい筈だ」

 流石、アシラがリーダーらしく話を纏めてくれた。頼りになるね。

「……私も、その魔術はあまり人に見せるべきじゃないと思う。ギルドの人の前でも、指輪を使ってるように見せた方が、マシかも」

「分かった。こんな感じ?」

 僕は指輪をつけた指を伸ばし、その先に黒い渦を生み出した。そして、ぱちりと指を弾いて渦を消す。

「……うん。良いと思う。カッコいい」

「そう?」

 僕も人のこと言えないけどさ、ナーシャも結構中二病だよね。

「良いなぁ、おれもそういうのやってみてぇよ。しょぼい魔術しか使えねぇもん、おれ」

「……ウィーは器用だから、ちゃんと勉強したら出来る」

「その勉強ってのがなぁ、どうにも頭に入って来ねぇんだよ」

 ウィーはふぅと溜息を吐き、その腕を伸ばした。その腕に赤いオーラが纏わりつき、存在感が増したように感じる。

「それよか、こっちの方が簡単だからよ。結局、気に頼っちゃうんだよなぁ」

「へぇ、僕は寧ろそっちの方が苦手だなぁ」

「分かるぜ。明らかに苦手そうだもんな。ひょろくて白いし、もやしみたいだぜ」

「ひどいなぁ」

 ていうか、もやしあるんだ。いや、翻訳の解釈かな?

「……雑談は一旦ストップだ」

 ウィーが足を止め、そう口にした。視線の先には、全身を棘の茨に覆われた熊が居た。ズームして見ると、暗い赤色と緑で覆われた背に、小さな白い花が幾つか芽吹いているのが分かった。

「ブランブルベアだ。どうする?」

「花付きだね。戦うと恐ろしそうだけど……放置しても良い」

「凄い魔力だね。確かに、強そう」

 その豊富な魔力を隠すことも無く森を闊歩している熊は、中々にサイズも大きい。三メートルは超えていそうだ。

「でも、あんなの……狩らなくて大丈夫なの? ここ、一応森でも浅い場所なんだよね?」

「大丈夫だよ。彼らは穏やかな性格だから、積極的に人を襲うことはしない。それに、肉食でも無いんだ」

 え、熊って肉食だと思ってた。いや、そういえばパンダって草食か。アレも熊だし、草食の熊だって別に居るか。言われてみれば、パンダみたいにのっそりしてる感じがする。

「ただ、彼らは森を荒らすものには容赦しない。もし、僕らがそう判断されたなら……戦うことになるかもね。丁度、今狼の群れを一つ滅ぼしたところだ」

「へぇ、凄い……」

 そんな、森の番人みたいな感じなんだ。自然の生き物なのに、そういう生態を持ってるなんて不思議だね。精霊的な存在だったりするのかな。

「一応、そうして森にとっての害悪と判断された冒険者が被害に遭うことはあるけど……ただ、ブランブルベアが一度住み着いた森は、例え何度狩っても必ず蘇るんだ。繁殖している様子も無いのに、不思議だろう?」

「……繁殖しない熊ってなにそれ」

 え、野生動物だよね? 魔物ではあるけど、野生の生物なんだよね? どういう生態なんだ、その熊は……へい、全知全能。

 ――――ブランブルベアは、ある古代のドルイドによって創り出された存在です。森を守護する為の存在であり、森の魔力と栄養を得ることで生きています。また、自身に過剰なエネルギーが蓄えられると種とでも形容すべきものを生み出し、それを地中に埋めます。自身が死亡した際にはその種の一つから新たなブランブルベアが生まれ、その森を守護する任を引き継ぎます。種を十分に撒き終わると、次は過剰なエネルギーを白い花として自身の体に芽生えさせ、そこに魔力を蓄えるようになります。その花は魔力タンクとしてだけでなく、魔術の補助や新たな感覚器官としても機能し、個体としての性能が更に向上します。現在は世代交代を繰り返し、主を失った結果、認識した森の全てに拡散して守護の目的を果たそうとしています。

 全然、野生じゃなかった……! ていうか、古代のドルイド何やってんだよ。普通に分布しちゃってるんだけど。まぁでも、そういうことなら確かに倒す必要も無いかも知れない。変なことをしない限り、襲っては来ないんだろうし。

「ッ、こっちに気付いたな。見られてるぞ」

 ウィーが緊張したようにそう言うが、熊は特に興味を示した様子も無くそっぽを向いた。

「……大丈夫そうだね」

 ほっと息を吐いたアシラに、ナーシャが頷いた。

「あの狼の群れは少し規模が大きかったから、森の均衡を乱しかねない存在だったのかも知れない。だから、こんな浅い所までブランブルベアが来てたのかも……」

「じゃあ、狼達はあの熊に追い立てられてここに来てたってこと?」

「……多分、そう」

 へぇ、面白いね。なら、僕らがあの熊に襲われることは無いかも知れない。

『ねぇ、僕らで戦ってあの熊に勝てると思う?』

『……んぁ? 折角人が気持ちよく寝てたところだったのによ……あぁ、茨熊か』

 どうやら僕に無視されてふて寝していたらしいユモンが目を覚ました。どういう視界か分かんないけど、良く見えるように指輪を熊の方に掲げて見せると、のそのそと背を向けて歩いていた熊が足を止める。

「グォオオオオオオオオオオッッ!!!」

 そして、物凄い勢いでこちらに走って来る茨の熊を僕は見た。
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