ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能と路傍の石

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 まぁ、情報が分かったとは言え、こちらから押しかける必要は無いだろう。指輪を付けて歩いていれば……何れ、向こうからアクションがある筈だ。飽くまでも狙いは指輪みたいだからね。

「良し、食べに行こうか。一旦指輪に戻って」

「ん、殴り込みかけるんじゃないのかよ?」

「勿論。向こうが動くまで待つよ。ただ、指輪は隠さない。ここら辺を縄張りにしてるって言うなら、僕の家を襲うより指輪を付けてる僕を狙う方が手っ取り早いでしょ」

 何も考えずに指輪を即決で奪ってくるような相手だ。先に家を抑えて人質にしてくるような回りくどいことはしてこないだろう。

「まぁ、お前が良いって言うならそれで良いけどよ。オレ様としても、先に飯にありつける方がありがたいってもんだ」

「ただ、ユモンの見た目はこっちの世界だとちょっと目立つんだよね……」

 ユモンは相当な美形だし、悪魔だからか分からないけど雰囲気がある。何かしらの処置はしておかないとキャーキャー騒がれてSNSで拡散祭りになったっておかしくない。男版クレオパトラが外を悠々歩いてるみたいな感じだろう。

「自分に認識阻害の魔術を掛けといてくれるかな?」

「あァ、良いぜ。だが、聖職者やらにはそれでもバレるぜ?」

「まぁ、大丈夫だと思うよ」

「そうかァ……? なら、良いんだけどよ」

 日本って、そういう悪魔とか全然聞かないし。そんなのを見つけられるような聖職者も殆ど居ないだろう。

「『空気のように慎ましく、日陰のように思慮深く』」

 ユモンはにやりと笑みを浮かべて僕の方を見ると、魔術を唱え始めた。現れた灰色っぽい魔法陣は、精密に制御されている。

「『路傍の石も気付かないアレオシ・ティス・パルシアス』」

 仕上げの二重詠唱。発動した魔術が、ユモンの存在感を希薄にする。が、僕は効果の適用外にしてあるのか、特に感覚的な差はない。

「どうよ、オレ様の魔術」

「うん、無駄が無いね」

 はっきり言って、僕なんて足元にも及んでいないだろう。魔力操作は精密で、位相の調整も完璧だ。魔術は殆ど100%効果を発揮していたと言って良い筈だ。

「やっぱり、僕もまだまだだって痛感させられたよ……」

「どうだろうなァ、お前はちぐはぐだからよ……見てると、基礎は抜けてる部分があるのに応用的な部分は何故か出来てたりするし、使う魔術もどこで見つけて来たんだってくらい完璧に最適化されてたりする。まだまだなのか、もう極めてるのか分かんねぇよ」

「残念だけど、まだまだの方だよ」

 その極めてる部分ってのは僕じゃない。ただの全知全能だ。

「まぁ、一応指輪に入っといて」

「あいよ」

 魔術を掛けたとはいえ、家の中をユモンと一緒に歩くのは流石にマズイ。ユモンの入り込んだ指輪を嵌めて、僕は着替えて外に向かった。



 ♢



 さて、何を食べさせてあげようかな。僕はユモンと慣れ親しんだ街を歩きながら考えていた。

「僕はバイトとかしてないから、あんまり高級なのは食べさせてあげられないけど……」

「まァ、一先ずは何でも良いぜ。勿論、美味い奴ならなッ!」

 楽し気に僕に笑いかけるユモンに、僕は唸った。美味い奴かぁ、別に大体は美味しい店しか無いだろうけど……やっぱり、間違いないのってなるとチェーン店かなぁ。

「しっかし、この世界ってのはすげぇなァ……馬鹿みたいな建物が、馬鹿みたいに沢山生えてやがる」

「都会だからね、ここら辺」

 向こうと比べれば、立ち並ぶビルの群れは確かに馬鹿みたいな建物に見えるだろう。きょろきょろと浮かれたように視線をばら撒いていたユモンは、何かを見つけたのかある建物を指差した。

「なぁなぁ、アレなんだ? なんか、中が透けて見えてんぜ」

「あぁ、コンビニのこと。アレは、何ていうか……何でも売ってる店、みたいな感じかなぁ。僕も結構使うよ」

「なるほどなァ、だから出入りが多いのか……コンビニってのは、飯もあるのか?」

「ん、まぁ、あるよ」

 折角ならちゃんと店で食べさせようかと思っていたけど、ユモンはコンビニに惹かれてしまったらしい。確かに、向こうの世界だとこういう場所は無いかも知れない。

「よっしゃ、一先ずはここで食おうぜッ!」

「うん。まぁ、良いけど……軽くね」

「何だよ、そんなにここは高級なのか? 良く使うんなら安いんじゃねえのかよ」

「高級……って訳じゃないけど、別に安いってことも無いかな。ただ、気軽に立ち寄れて便利だからね。それがコンビニの利点だよ」

 取り敢えず、そんなに興味があるならおにぎりとホットスナックでも買ってあげよう。ユモンは大食らいだし、そのくらいなら余裕だろう。





 ♦



 ありえない。盗った筈の指輪が、使い魔のカラスの嘴から消えていた。確かに持っていた筈で、落とした訳でも無い。なのに、魔術的な気配も感じはしないなんて……ありえないっ!

「一体、どうやって……っ!」

 帰って来た使い魔のカラスを隅々確かめて見たけど、見つかる筈もない。呑み込んでしまった訳でも無い。でも、じゃあどうやって取り返したの!?

「返して……返してよ! それはもう、私の物なの……!」

 暗い闇の魔力が私の体から滲み出す。ダメ、抑えないと。また、きっと繰り返す。落ち着いて、抑えて……取り返さないと。

「むぅ……ムカつくムカつくっ! 我慢できないのも、我慢しなきゃいけないのもっ! どうやって取り返したのっ!? しかも、その痕跡すら見えないなんて……全部、ムカつくっ!!」

 指に嵌めていた指輪が弾け飛んで、壁にぶつかって、音を立てて、悲しくてどうしようもない気分になる。

「私の、なの……私の……やっと、見つけたかも知れないのに……!」

 絶対に、奪い取ってやるから。もう、あの指輪の匂いはカラスが覚えたし、絶対逃がしはしない……あと、どうやって取り戻したのか知らないけど、絶対に絶対に目にもの見せてやるからっ!
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