ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能と老執事

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 そうして、次はチキンナゲットに手をつけて再び天を仰ぎ始めたユモンを引き連れて僕は歩き始めた。

「うめぇ、うめぇ……」

「ちゃんと前見て歩きなよ」

 僕はふっと息を吐き、近くにあるファミレスへの道のりを確かめた。そう、結局僕はファミレスを選んだのだ。一つ一つの商品の美味しさだと他のチェーン店に劣るかも知れないけど、色んなものを体験できるっていう意味ではファミレスが一番良いかなと思ったからである。

「ん……?」

 僕は足を止め、ユモンの裾を掴んだ。ユモンは眉を顰めながら僕の方を見た後、僕の視線の先を見て納得したように声を上げた。

「……あァ、遂に来やがったって訳だな」

「そうみたいだね」

 そう口にした僕だが、僕らの進路の先に現れた存在は、どうにも礼儀正しそうにそこに立っていた。執事服を着た老年の男。僕らが見ていることに気付いた男は、頭を下げると流麗な動きで僕の目の前まで歩いて来るのだった。

「初めてお目にかかります。御名も存じ上げぬまま僭越にも参上いたしましたこと、深くお詫び申し上げます。私は夜咲家執事の安堂でございます。恐れ入りますが、しばらくお時間を賜り、お話を伺わせていただけますでしょうか」

「う、うん……」

 綺麗なお辞儀の後、美しい立ち姿であんまり聞かないような敬語を浴びせられた僕は気圧され、思わずうなずいてしまった。

「残念だが、オレ様達は今から飯食いに行くところなんだよ。もし、その後に暇だったら聞いてやっても良いぜェ?」

「……左様でございますか。そのようなご予定の折にお引き止めしてしまい、誠に申し訳ございません。大変僭越ではございますが、お食事の代金はこちらにて負担いたしますので、この場でほんの少しだけお時間を頂戴できますでしょうか」

 気圧されている僕の代わりに断りを入れたユモンだったが、老執事はその挑発的な言葉にも怯むことも無く、毅然と新たに提案を返した。ただ、最初に何か違和感を持ったようにユモンを見ていた。多分、認識阻害の魔術のせいだろう。

「はッ、嫌だね。オレ様は今すぐ飯を……」

「うん、良いよ。ただ、この人結構食べるから、気を付けてね」

「お話にお付き合いいただけるのであれば、食事の量はどうぞお気になさらず。それでは……ご了承いただけたものとしてよろしいでしょうか」

 執事さんの問いに、僕はこくりと頷いた。恐らくというか、ほぼ間違いなくこの人は指輪を狙って来た人だ。夜咲家の執事を名乗っていたし間違い無いだろう。ただ、ここで突っぱねても寧ろ面倒な手段で狙われることになるだけだろうから、一旦話を聞いておくと言うのは悪くないと思う。それに、ユモンの分の食費が浮くのは物凄く嬉しい。

「恐れ入ります。早速で失礼ながら……この度は、当家の紫苑お嬢様が指輪を無断で持ち出すという、あってはならぬ非礼を働きましたこと、心よりお詫び申し上げます。全ては、まだ世情に疎く分別の至らぬお嬢様の未熟ゆえの過ちにございます。私といたしましても日頃の指導の至らなさを痛感し、深く責を負う覚悟でおります。何卒、今回の件につきましてはお嬢様の軽率をお許しいただきたく、誠意の証として、然るべき賠償を支払わせていただきます。重ねて、このような不始末を招いたことを伏してお詫び申し上げます。どうか、お嬢様の未熟と私の指導の不行き届きを幾許かご寛恕いただけますと幸いに存じます」

「……えっと、うん」

 深く頭を下げた老執事に、僕は呆然と頷いた。指輪を盗んだことは隠さないんだね。正直、意外だ。

「別にお金とかは要らないよ。子供のやったことだし、大丈夫」

「……お心遣いは誠にありがたく存じますが、賠償につきましては私どもが責任を持って必ずお支払い申し上げます」

「まァ、貰えるもんは貰っとこうぜェ。金がありゃ、食えるもんも増えるんだろ?」

「そうだけど……まぁ、分かったよ。ただ、あんまり大金だと困るからやめてね」

 老執事はこくりと頷き、僕の目をしっかりと見た。その視線に、僕は思わず姿勢を良くした。

「それと、もう一つ……差し支えなければ、そちらの指輪をお譲りいただくことは叶いますでしょうか。勿論、相応の対価はご用意させていただきます」

 ま、そうだよね。やっぱり、狙ってはいるんだ。ただ、対価を払う気があるってのは驚いた。最初は盗んでたし、全知全能の答え的にも無理やり奪いにでも来るのかなと思ってたけど……謝罪もあったし、紫苑ちゃんの意思とは別に動いてたりするのかもね。

「……驚いたよ。てっきり、無理やり奪いにでも来るのかと思ってたから」

 切り込むように、僕はそう返した。老執事は俯くように頭を下げた。

「……いえ、そのようなことは決して」

「ごめん、責めるつもりは……無いことは無いけど、分かったよ」

 無理やり奪うつもりが無いというのは安心だけど、それはそれとして、だ。

「ただ、残念だけどこの指輪を譲ることは出来ないよ」

「……如何なる対価でも、調達可能な物であれば用意致します」

 執事の言葉に、僕は首を横に振った。

「そうじゃなくて、これを渡せるくらいの信用が貴方達には無いって話です」

 悪用される心配がない相手じゃないと、この指輪を渡せはしない。だから、僕は堂々と執事の要求を断ることにした。
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