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全知全能とお説教
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杖の女……賢者スィアーナーと共に僕は森の中を歩いていた。向かうは、神樹だ。一言言ってやらねば、気が済まなかった。
「そういえば、スイ」
「はい、なんでしょうか」
スィアーナーは少し緊張したような表情をしていたが、最初程は動揺していないようだった。流石、賢者と呼ばれるだけはあって適応力も高いようだ。
「神樹からは、どんなことを言われたの? 皆聞いたんだよね?」
「はい。神樹様はその御方はこの世界をお創りになられた造物主様である、と。また、その御方には必ず失礼があってはならず、逆らってはならない、と」
眉を顰めながらも相槌を打とうとした僕は、スイがまだ喋ろうとしていることに気付き、口を閉ざした。
「……そして、既に造物主様への無礼を働いたものは、全身全霊で詫びた上で、それでも許されなければ命も差し出せ、と」
「僕を何だと思ってるのかな……?」
どうやら、僕と神樹の間には随分と認識の齟齬があるようだ。これは、じっくり時間をかけてお話をしなければならないかも知れない。
「造物主様は、この世の全てを創り出すも消し去るも同じく自在であると……故に、不興を買えば世界ごと消えかねないと、怯えていらっしゃいました。神樹様は」
「……そっか」
確かに、そうなのか。僕だって、いきなり自分の世界に全知全能の神様が現れて、出会った人が知らずに武器を向けたり暴言を吐いてたなんて聞いてたらビビるだろう。頼むから全力で詫びて欲しいとも思うかも知れない。
「ちょっと、僕の登場の仕方もサプライズ過ぎたね……」
まぁ、とは言え木人の命を軽々と消費しようとしたのは頂けない。もしかしたら、それが正しい選択なのかも知れないけど。
「不安がらせてごめん。だけど、見ての通り僕は皆とさして変わらない体をした人間なんだよ。確かに僕はこの世界の根底を作り上げたけど……それは、僕が便利な道具を持っていただけなんだ。その道具を拾ったのが僕だったか、他の人だったかの違いしかない」
「ッ」
僕はスイの手を取り、手首の少し下あたりに触れさせた。スイは少しだけビックリしたみたいだったが、僕の狙いに気付くと落ち着いて指を僅かに押し付けた。
「必死に脈を打って生きているんだ。今も。心臓を刺されれば死ぬ。首を斬られれば死ぬ。何なら、石ころが頭に飛んできただけで死ぬこともある。勿論、そうならないようにはしてるけど……僕は、同じ人間なんだ。恐れられると少し悲しいし、心細くもなる。敬語だって、出来れば止めて欲しいな」
「……そうなん、ですね……いや」
スイは手を離すと、僕の目をしっかりと見た。
「そうなのね、治」
「うん、そうそう。そんな感じの方が、嬉しいなぁ」
僕が言うと、スイはくすりと笑った。
「変な奴ね、治は。あー、緊張したわ……いや、正直言うと今も緊張してるんだけど」
スイはすぅーはぁーと深呼吸をして、もう一度僕の方を見た。
「やっぱり、少し畏れ多いような気持ちは……ちょっと、あるわ。喋り方は、頑張るけどね」
「大丈夫だよ。僕も……同じ立場だったら、喋りも出来ないかもだし」
僕は小心者だからね。緊張して心臓が止まってしまうかも知れない。
「……もう直ぐね」
スイはそういうと僕から視線を外し、正面を向いて僅かに顔を上げた。僕も合わせて前を見ると、そこには立派な巨大樹が天を目指して生えていた。なんか、前よりも大きくなってる気がする。
「おっきいなぁ……」
「えぇ、凄いでしょ? なんて、全てを創った貴方に言うのもおかしいかも知れないけどね」
にやりと笑ったスイに、僕も笑って首を振った。
「僕が創ったのは、何ていうか素だけだよ。土と種をばら撒いておけば、いつかは植物が生えるみたいに、僕は土壌を用意しただけなんだ。育ったのは君達なんだから、凄いのは君達なんだよ。種を蒔いただけの僕は、君達の親……いや、ただの遠い祖先くらいの意味しか無いと思う。だから、僕を造物主なんて拝んだり崇めたって仕方ないんだよ」
「土に種を蒔くことは誰にでも出来ても、土と種を手ずから創り出すことは誰にも出来ないでしょう」
冷静に返したスイの言葉に、僕は閉口した。
「……きっと、貴方は逃げたいのよね」
スイは怒りでも慰めでも無い、ただ穏やかな目で僕を見ていた。
「貴方が拾った道具は、確かに重荷に感じることもあるかも知れない。けど……既に種を蒔いた以上、逃げたって目を逸らしたって植物は育つのよ。だから私達の命にも責任を持てなんて言わないけれど、事実から目を逸らしたって意味は無いわ」
スイの琥珀色の目が、じっと僕を見ている。僕は瞬きも、息をすることも出来なかった。
「この世界は貴方が創ったのよ。その世界で私達は生まれたの。だから、もっとちゃんと私達を見て。この世界を見て。何もかも無かったことにして無関係の一般人みたいな顔で接してくるなんて、ちょっとズルいんじゃない?」
「……そっ、かぁ」
僕は詰まりかけた言葉を何とか吐き出した。
「そう、かもしれない」
僕は今まで、力を誇示することは傲慢で醜いことだと思っていた。だけど、逆もダメなんだ。既に散々好き放題やった癖に、今更知らないフリなんて確かにズルだ。神樹も皆も、怖がるのは当たり前だ。それなのに、ただの人間だと言い張って被害者面なんて、きっとその方が傲慢だ。
「うん、認めよう」
僕は真っ直ぐにスイを見返して、その琥珀色の瞳を捉えた。
「僕が、この世界を創った神だ」
僕は、傲慢な人であることよりも、謙虚な神であることを選んだ。勿論、この世界でだけの立場ではあるけれど。
「そういえば、スイ」
「はい、なんでしょうか」
スィアーナーは少し緊張したような表情をしていたが、最初程は動揺していないようだった。流石、賢者と呼ばれるだけはあって適応力も高いようだ。
「神樹からは、どんなことを言われたの? 皆聞いたんだよね?」
「はい。神樹様はその御方はこの世界をお創りになられた造物主様である、と。また、その御方には必ず失礼があってはならず、逆らってはならない、と」
眉を顰めながらも相槌を打とうとした僕は、スイがまだ喋ろうとしていることに気付き、口を閉ざした。
「……そして、既に造物主様への無礼を働いたものは、全身全霊で詫びた上で、それでも許されなければ命も差し出せ、と」
「僕を何だと思ってるのかな……?」
どうやら、僕と神樹の間には随分と認識の齟齬があるようだ。これは、じっくり時間をかけてお話をしなければならないかも知れない。
「造物主様は、この世の全てを創り出すも消し去るも同じく自在であると……故に、不興を買えば世界ごと消えかねないと、怯えていらっしゃいました。神樹様は」
「……そっか」
確かに、そうなのか。僕だって、いきなり自分の世界に全知全能の神様が現れて、出会った人が知らずに武器を向けたり暴言を吐いてたなんて聞いてたらビビるだろう。頼むから全力で詫びて欲しいとも思うかも知れない。
「ちょっと、僕の登場の仕方もサプライズ過ぎたね……」
まぁ、とは言え木人の命を軽々と消費しようとしたのは頂けない。もしかしたら、それが正しい選択なのかも知れないけど。
「不安がらせてごめん。だけど、見ての通り僕は皆とさして変わらない体をした人間なんだよ。確かに僕はこの世界の根底を作り上げたけど……それは、僕が便利な道具を持っていただけなんだ。その道具を拾ったのが僕だったか、他の人だったかの違いしかない」
「ッ」
僕はスイの手を取り、手首の少し下あたりに触れさせた。スイは少しだけビックリしたみたいだったが、僕の狙いに気付くと落ち着いて指を僅かに押し付けた。
「必死に脈を打って生きているんだ。今も。心臓を刺されれば死ぬ。首を斬られれば死ぬ。何なら、石ころが頭に飛んできただけで死ぬこともある。勿論、そうならないようにはしてるけど……僕は、同じ人間なんだ。恐れられると少し悲しいし、心細くもなる。敬語だって、出来れば止めて欲しいな」
「……そうなん、ですね……いや」
スイは手を離すと、僕の目をしっかりと見た。
「そうなのね、治」
「うん、そうそう。そんな感じの方が、嬉しいなぁ」
僕が言うと、スイはくすりと笑った。
「変な奴ね、治は。あー、緊張したわ……いや、正直言うと今も緊張してるんだけど」
スイはすぅーはぁーと深呼吸をして、もう一度僕の方を見た。
「やっぱり、少し畏れ多いような気持ちは……ちょっと、あるわ。喋り方は、頑張るけどね」
「大丈夫だよ。僕も……同じ立場だったら、喋りも出来ないかもだし」
僕は小心者だからね。緊張して心臓が止まってしまうかも知れない。
「……もう直ぐね」
スイはそういうと僕から視線を外し、正面を向いて僅かに顔を上げた。僕も合わせて前を見ると、そこには立派な巨大樹が天を目指して生えていた。なんか、前よりも大きくなってる気がする。
「おっきいなぁ……」
「えぇ、凄いでしょ? なんて、全てを創った貴方に言うのもおかしいかも知れないけどね」
にやりと笑ったスイに、僕も笑って首を振った。
「僕が創ったのは、何ていうか素だけだよ。土と種をばら撒いておけば、いつかは植物が生えるみたいに、僕は土壌を用意しただけなんだ。育ったのは君達なんだから、凄いのは君達なんだよ。種を蒔いただけの僕は、君達の親……いや、ただの遠い祖先くらいの意味しか無いと思う。だから、僕を造物主なんて拝んだり崇めたって仕方ないんだよ」
「土に種を蒔くことは誰にでも出来ても、土と種を手ずから創り出すことは誰にも出来ないでしょう」
冷静に返したスイの言葉に、僕は閉口した。
「……きっと、貴方は逃げたいのよね」
スイは怒りでも慰めでも無い、ただ穏やかな目で僕を見ていた。
「貴方が拾った道具は、確かに重荷に感じることもあるかも知れない。けど……既に種を蒔いた以上、逃げたって目を逸らしたって植物は育つのよ。だから私達の命にも責任を持てなんて言わないけれど、事実から目を逸らしたって意味は無いわ」
スイの琥珀色の目が、じっと僕を見ている。僕は瞬きも、息をすることも出来なかった。
「この世界は貴方が創ったのよ。その世界で私達は生まれたの。だから、もっとちゃんと私達を見て。この世界を見て。何もかも無かったことにして無関係の一般人みたいな顔で接してくるなんて、ちょっとズルいんじゃない?」
「……そっ、かぁ」
僕は詰まりかけた言葉を何とか吐き出した。
「そう、かもしれない」
僕は今まで、力を誇示することは傲慢で醜いことだと思っていた。だけど、逆もダメなんだ。既に散々好き放題やった癖に、今更知らないフリなんて確かにズルだ。神樹も皆も、怖がるのは当たり前だ。それなのに、ただの人間だと言い張って被害者面なんて、きっとその方が傲慢だ。
「うん、認めよう」
僕は真っ直ぐにスイを見返して、その琥珀色の瞳を捉えた。
「僕が、この世界を創った神だ」
僕は、傲慢な人であることよりも、謙虚な神であることを選んだ。勿論、この世界でだけの立場ではあるけれど。
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