ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能とお達し

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 杖の女は僕の言葉に何かを言い返そうとしていたが、わなわなと口を動かした末に閉口した。

「き、気のせいですか……わ、分かりました。勘違いだったようで、すみません」

「賢者様……? な、何でそんな言葉遣いを……というか、造物主というのは?」

 杖の女……賢者と呼ばれた女は、仲間からの問いかけにぶんぶんと首を振った。

「い、いやいや……あの、なんでもない……ケド」

「賢者様……??」

 怪訝な表情で賢者を見る強気そうな女。僕は溜息を吐き、天を仰いだ。偽物の太陽がそこには浮かんでいる。いや、別に偽物って訳でも無いんだけどさ。

「その、アレね。何ていうか……あ?」

 挙動不審だった賢者が、その表情をスッと鋭くした。その目線の先には、空を飛ぶ怪鳥の姿があった。さっき、僕が見たのと同じ奴だ。

「『||डिग्गना』」

 え、今なんて言った?

「キィィィィッ!?」

 賢者が伸ばした手の先に灰色の魔法陣が浮かぶ。直後、怪鳥の体が空中で動きを鈍らせ、何かに引き摺り落とされているかのように地面へと墜落していった。

「い、今のは……?」

「打ち落としの魔術です」

「賢者様、だからなんで敬語なんですか……?」

「……それよりも死体を回収して来てよ。半分くらい連れてって良いからさ」

 賢者が言うと、強気そうな女は眉を顰め、チラチラと僕と賢者の間で視線を往復させた。

「その、大丈夫なのですか?」

「大丈夫に決まってんでしょ。この賢者様を舐めんなって話よ」

「分かりました……おい、行くぞ。あっちの方に落ちたな?」

「あぁ、あっちだ。他の獣に盗られねえ内に急ぐぞ」

 強気そうな女を先頭に、何人かの木人がその場を急いで去って行った。

「ねぇ、君は賢者って呼ばれてるの?」

「お恥ずかしながら」

「その、敬語止めない? ほら、周りの人も気になってるしさ」

「し、しかしながら……」

 この世界を創ったのが僕と気付いている理由も含めて、色々と聞きたかった僕は仕方なしと賢者が身に纏っている毛皮の服の裾を掴み、人の居ない方へと引っ張ろうとした。

「おいッ、賢者様に何をする!」

「賢者様への手出しは許さんぞ……!」

「さっきから黙って見ていればッ、貴様は何なのだッ!」

 が、その様子を見た他の木人達が非難轟々で槍を向けてきた。僕はぱっと手を離し、反射的に両手を上げた。

「いや、ちょっと二人で話がしたかっただけで……」

「賢者様と二人きりになって何をしようと言うのだッ!」

「まさか、貴様……!?」

「何考えてるのか知らないけど、違うからね」

 顔を赤くする女の木人に僕は呆れたような目線を送った。ちょっと、何を勘違いしてるのか知らないけど、人間と木人でシステムが同じなのかも分からないからね。

「あ、あの……光栄、なのですが……その……」

「違うって言ってんだろ……!」

 同じく顔を赤くしている賢者に、僕はイラつきながら否定した。この種族は、もしかして馬鹿なのか? 結構、ピュアというか単純というか、そういう節は感じていたけれど。

「あのね、僕は本当に話がしたいだけで……」

「ッ!!?」

「ッ!!」

 え、なに。そんなに驚くことだった? ショックなんだけど。僕、もしかしてそういう顔してる?

「ぁ、ぁ……」

「ッ……」

「そ、んな……」

 流石に過剰過ぎる反応に僕が眉を顰めていると、彼らは崩れ落ちるように僕へと土下座した。見れば、その体はぷるぷると怯えるように震えている。

「い、今までの非礼をお詫びします……申し訳ございませんでした」

「命に代えても、必ず詫びますので……」

「どうか、どうか神樹様と他の仲間だけは……!」

 やっぱり、僕の言葉が原因では無かったらしい。だけど、僕が原因ではあるようだ。賢者の女と同じように、僕の正体に気付いたというところだろうか。

「何で、気付いたの?」

「神樹様からの、お達しがありました。この耳は、この森の中であれば神樹様の声をどこででも聞けるのです」

 そういえば、そんなこと言ってたね。

「……出来れば、そういう態度は止めてくれた方がありがたいなぁ、なんて思うんだけど。さっきみたいに、気安い方が僕もやりやすい……から」

 気まずさを隠せずに僕はそう訴えかけるが、彼らは震えたまま動かない。

「何を、そんなに怯えているのかな……僕は、別に君らにされたことに何も怒ってないよ。ただ、警戒してただけだもんね」

「……しかし、神樹様は……お怒りです。いや、怯えていらっしゃる……あんな声は、初めて聴きました……」

 木人の一人が発した言葉に賛同するように、他の木人達は黙りこくっている。

「…………良ければ、私が神樹様の下まで案内致します。造物主様」

 沈黙を打ち破り、そう声を出したのは賢者の女だった。その言葉に、周りからは息を呑む音や、動揺するような小さい声が上がる。

「うん、お願いするよ。その前に、君の名前を聞いても良いかな?」

「スィアーナーです。親しいものからはスイと呼ばれます」

 僕は頷き、安心させるようににこりと笑った。

「分かったよ。スイって呼んで良いかな?」

「はい、光栄です」

「……僕のことは、治って呼んでくれると嬉しい。友達は、皆そう呼ぶから」

「畏れ多いです……どうか、造物主様と呼ばせて下さい」

 神樹め、会ったら絶対に説教してやるからな。僕は、普通に楽しく異文化コミュニケーションしたかったのに!
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