俺と召還魔法師と異世界改造

南柱骨太

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第1章:本物の魔女だった?

第8話 心を通わせますか!

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 夜、ミラの自宅。
 その寝室で、ミラは祐二に検査されていた。
 身体の内部まで探られるということに、恐ろしくもあり恥ずかしくもあったが、祐二の頼みでもあり魔王様のためでもあったので、決断し了承した。
 そして想像以上に恥ずかしく、また不可思議な光景がミラの目の前で起きている。
 全裸でベッドに横たわっているのだが、ミラの身体は生きたまま切り開かれるように分割され展開されていた。皮膚を、皮下脂肪を、筋肉を、内臓を、様々な器官を、まるで切り取ったかのように中空に浮かばされているのだ。
 実際に切った訳ではないので痛みは全く無い。
 事前に説明はされた。切り分けるのではなく、空間の隙間を広げるのだ、と。実際に祐二が自らの左手を分解し、動かして見せた。分断している訳でもないので、痛みも障害も無く戻せるのだ。
 これは祐二の開発者メニューの中にある、キャラクター再デザインの機能である。
 生きた存在に対して行うのには不安も忌避感もあったが、まず自分に行って安全性を確認、ミラにお願いしたという訳だ。
 まだ出会って数日、昨夜は深く愛を交し合った間柄ではあるが、さすがにそれ以上に恥ずかしい。ミラは両手で顔を覆っていた。


 この世界でも変わらず、多くの生物はたんぱく質、アミノ酸、炭素基質で構成されている。その基本単位は細胞であり、遺伝子であった。
 当初はその細胞構造や遺伝子構造を数値(記号)として観察しようとした祐二だったが、さすがに情報が膨大すぎて表示ウィンドウの最大容量を超えてしまった。ここでの最大容量とは、すなわち人間の知覚の最大容量である。
 まぁそうだよな、と祐二も諦めた。
 そこで次の対応が、目視観察と部分情報の取得、つまり今のミラの状況である。
 祐二としてもそこまでミラに頼るのはどうかとも思ったが、他に頼れる相手も居らず、そもそもミラでないと意味がない事情もある。

「‥‥出来た!」
 ミラの身体が元に戻されて十数秒、ミラがその声に視線を移すと、祐二の掌の上に浮かぶ「魔晶石」が見てとれた。
 魔晶石とは魔物などの体内にある石である。形状や大きさは様々だが、魔力を司る器官として、強い魔物ほど大きく美しいとされていた。もちろん魔族や魔人、獣人の一部やエルフの一部にもあるものだ。
 魔物を倒して得られる魔晶石は、古くから魔道具や魔法用具などに使用され、要は電池のような扱い。
 魔道具に使われる魔石は、この魔晶石を真似て水晶や宝石に魔力を込めたもので、こちらは充電池といったところか。魔晶石は高級品、魔石は廉価品という認識になる。
「思ったより‥‥汚い?」
「死んだ魔晶石は透明できれいだけどね、生きている魔晶石は白く濁っているんだな」
 祐二の手にある魔晶石は、ミラの魔晶石である。正確に言えばミラの魔晶石の複製。
 心臓と肺臓、脊椎に囲まれた胸の奥の部分で神経が絡み合った中にあったものを、祐二の開発者メニューのアイテムコピーで複製したもの。
「で、これを‥‥」
 祐二は意識の中でメニューを操作し、自身の胸を開いてミラと同じ場所に魔晶石を埋め込んだ。同時に胸を締め付けられる感覚に襲われるが、これは時間と共に緩和していった。
「大丈夫?」
 心配そうにミラが窺うが、祐二は大丈夫と押し留める。
 実際、魔力が急にあふれ出しただけであり、特に痛い訳でもなく、高熱にうなされている感覚に近いだけ。しばらく楽にしていれば治まるだろう。

 ひどく酒に酔ったようなめまいは耐えられる。
 それよりも耐えるのが難しいのは、ミラの感覚だった。
 間近に居て相手の鼓動まで感じる感覚、それが何十倍にも激しくなったと考えてみて欲しい。間近の距離がゼロになり、さらにマイナスになったような。キスや性交などよりも深い一体感というか。
 これが共鳴現象か、祐二は心が昂ぶるのを抑えきれない。
 そしてそれは、ミラも同じだったようだ。
「ユージ、ユージぃぃぃ!」
「ミラ、ミラ、ミラ!!」
 以下省略。



 朝である。
(ユージ、身体は平気?)
(まだ少し違和感あるし、ドキドキするけど、もう大丈夫)
(私もだ、胸の鼓動が少し気になるが、だいぶ治まった)
 2人は抱き合ったまま目覚めていた。
 そして魔王様のような、心で会話していた。
(まさかこんな、副作用があるとは‥‥)
(けど嫌じゃない。どちらかというと心地良い。ユージは嫌か?)
(まさか! わかるだろう? そこのところは)
(ふふふ、聞きたかっただけ)
 比喩でなく、心がつながっているのだ。心の声だけでなく、感覚や感情、意識の一部まで共有している状態のようだった。
 元々は魔王様のようなテレパシーができないか、という提案だった。また祐二のメニューウィンドウをミラに見せてあげたいという希望もあった。それでの“魔晶石共有”である。
 不自由や不都合を感じるならば、元に戻すことが可能だということもあり、実行してみた訳なのだ。
 もちろん魔王様のための、声帯構造観察が主眼ではあったが、もののついでである。
(ミラってあんなに感じているんだな)
(ユージこそ、あんなに気持ち良くて愛しいなんて)
 朝っぱらからバカップル2人。



 数日後、魔王様の手術は無事に終った。
 この世界、治癒魔法があるので医療技術は遅れている。怪我をすれば消毒したり酷ければ縫合したりと、江戸時代レベル。魔法や魔法薬があるので困っていないくらいだ。外疾患はともかく、内疾患にはお手上げらしいけれど。
 なので手術という概念自体が無い。
 前世日本の知識がある魔王様も、最初は手術と聞いて驚いたものの、祐二のメニュー能力と魔法によるものと知って同意したくらいだ。
 ともあれ原因であった魔王様の声帯と神経節は正常になったものの、「声を出す」という経験自体が無い魔王様はしばらくのリハビリを経て、発声することが出来るようになった。

「これは公表しても良いものか?」
「治ったのに公表しないつもりですか?」
「いや、祐二殿に治してもらったという事をじゃ」
「あ、面倒事は勘弁して下さい」
 祐二は逃げ出した。
 魔王様は美姿にふさわしい、可愛い声だった。

 その後、魔王様の側用人オーバルとのひと悶着もあった。
「魔王様のお声が聞けて感無量です。私のお役目は終わりました」
「何を言う、まだまだ私の秘書としての仕事がたんまりあるぞ。これまで以上にこき使ってやるから覚悟しておれ」
 魔王様のお声発表の場で、国の重鎮や貴族、軍の高官は涙したという。
 もちろんその場でミラも泣いたようだ。
 その場に居なかった祐二は知っている。



 さて、通常運転に戻った祐二は、ミラの執務室の控え室で歴史書や色んな資料を眺める日々が続いた。
 昼間は食客扱い、夜はゴロニャンが定番。
 そして時々、第7軍団員の相談受付窓口。

「ありがとうございますッ!」
 今もまた、歳若い魔法師の少女が祐二の指導を求め、嬉しそうに帰っていった。もうスキップをするような勢いで。
 歳若いとはいえそこは魔族魔人のこと、祐二よりは年上であったりするのだが。
「ふぅ~~~」
 ミラの元秘書、ソートン・アーネンの件はかなり衝撃的だったようで、第7軍の中ではかなり噂になっているようだ。
 あれから2週間ほど。
 アーニャ導師の訓練を終えたソートンは、魔力測定石を目もくらむ程に輝かせるようになっている。そしてその身分を秘書から団長預かりとし、今は引き続きアーニャ導師の許でさらなる高位の魔法習得に励んでいるそうだ。
 噂ではどこかの部隊長からキャリアを積み直すのだとか。
 そして賢者様の相談指導を、悩める団員が受けに来るといった次第で。
 中には「最近、彼女との仲がうまくいかなくて」なんてのもあったりするのはご愛嬌。そんなの知らんがな。
 祐二が精神的ダメージで机に撃沈していると、新しくミラの主任秘書となったミネラが紅茶を淹れてくれた。猫耳尻尾のある獣人族の女性だ。
「お疲れ様です。大変ですね?」
「いやまぁ、これもお仕事のうち」
 グレーのスーツに身を包むミネラはクスクスと笑う。
 元々ミラの秘書は3人居り、ソートンが抜けたために次席のミネラが主任になったのだ。秘書2人で毎日20時間をローテーションするのは大変なので、3人目を選定中のところ。
 そうそう、この世界は1日20時間だったり。些末な違いだが。

 そしてミネラが控え室を出て行くと。
(むぅ‥‥自分がこれほど妬み深いとは思わなかった。ユージが女と話しているだけで気分がこう‥‥‥‥ぐちゃぐちゃになる)
 ミラの気持ちが伝わってくる。
 もう高揚感も熱っぽさも治まり、普通に伝えたいことだけ心話で交わせるようになっていた。
(そりゃお互い様だな。俺もミラがスケベ親父どもに見られているだけで腹が立つ)
 そんな話でお互いにため息をついていると、執務室のドアがノックされた。
 この声は門兵の若い男だ。
「失礼します! 第2軍第3分隊のエーリュ殿をお連れしました!」
(また女か‥‥)
 ミラの気に食わなそうな気分が伝わり、祐二は苦笑した。


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