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第1章:本物の魔女だった?
第9話 怪物のお相手ですか!
しおりを挟む第2軍はモンスター軍団だ。
この世界最強種族のドラゴン種や、巨体を誇るオーガ種、空を駆け雷を操るペガサス種など、知性を持ち魔王の傘下に加わった者達で構成される部隊ということだった。
中には知性の乏しい大型魔物・魔獣も居るそうだが、そういった者は魔人を中心とした魔物使いや召還術師が使役するのだとか。ミラも新入兵卒の頃は第2軍にいたそうだ。
さて、訪ねてきたエーリュは魔物使いの女性だった。
主従契約術を使い、大型魔獣を指揮する兵員だ。
現在は獣舎での飼育員というお世話係なのだそうだが。
「それでどうして俺のところに?」
第7軍での噂がとうとう他の軍団にまで? とか思った祐二だったが、どうやら違ったようだ。
「陛下に伺いました。賢者殿に相談すれば何とかなるやも、と」
カーキ色の探検服っぽい兵卒の服装で、亜麻色のカーリーセミロングを無造作に首元で縛ったその女性は、爆弾を投下した。
祐二は机に沈没する。
「あンのバカ女王‥‥!」
不敬罪である。だが目立つことは避けたいと口を酸っぱくしていたというのに、さらりと無視してくれるとは、有能なのか忘れっぽいのか無自覚なのか。
おそらくは何も考えず、丸投げなのだろう。
そして話を聞き、祐二は第2軍の獣舎へとやって来た。
ミラも同行したがったが、書類仕事が終わらず涙を飲んだ。さすがに秘書や部下に任せるほど無責任な性格はしていないし、ある程度のことは祐二と意識共有しているので我慢したのだろう。
各軍団の本部施設は、魔王城の城門を出たすぐのエリアにある。第2軍は第7軍の正反対、西の端の外守壁のそばに位置していた。
王都の端から端までである、祐二はミラの秘書のミネラに頼み、馬車を出してもらう。馬車と言うが牽いているのは大きなトカゲであり、中型の肉食恐竜のような姿をしている。
トカゲだが変温動物ではなく、恒温動物らしい。些末な話だが。
獣舎は第2軍本部から少し下った、官公施設エリアの外守壁沿いにあった。本部施設もそうだが、有事の際に大型種が街中を通らず、そのまま外守壁を出られるようになっているのだ。専門の大型門もある。
物珍しそうに祐二が見ていると、エーリュは色々と説明してくれた。
獣舎と運動場であること、柵が貧弱なのはよくしつけられていて逃走の危険がほぼ無いこと、今は戦地へ半数以上が出向いていることなど。
話に出てくる名のほとんどが祐二にわかることから、元の世界のモンスターと同じ名称と特性なのだろう。逆にこの世界の概念があちらの「想像上の怪物」として影響しているのかも知れない。
話しながら、ひときわ大きな獣舎へと入る。
その獣舎の最奥に居たのは、まさに醜悪な“怪物”であった。
どこが頭で首で胴体かもわからない、くっついたジャガイモのような巨大な体躯に、太い3本の後足、前足は1本しかない。その所々に黒く太い毛が生えており、おそらく頭と思われる場所に大きな目が5つ、祐二を見ていた。
(ジェム‥‥まだ無事に居たのね、良かった‥‥)
ミラの安堵したような意識が流れた。
どうやらミラが第2軍に居た頃から、この怪物はここに居たようだ。
エーリュいわく、「狂った怪物」。
だがここで言う「怪物」は化け物という意味ではない。他の魔物とは違って類別できない、特異個体を指すのだ。
人族の言う怪物だと、魔物全般を示す訳で。
ステータスを確認し、祐二は大きなため息を漏らし、それで?とエーリュに振り返った。
「とりあえず見て欲しいってことだったけど、俺にどうして欲しいわけ?」
戦争に使えるようにしろって話なら断るよ、とさらに念押しする。
するとエーリュは首を振った。
「違うのです。私はこの子がどうしたいのか、それが知りたいのです」
日も暮れ、ミラの自宅に戻る。
ミラが用意してくれた夕食を食べながらも、ずっと何かを考えている祐二の様子にミラが尋ねる。
「あれからずっと悩んでいるね。どうしたいの?」
エーリュの相談を聞き、しばらく考えたいと第7軍に戻ってきてから、祐二は延々と考え続けていた。事情はミラにもある程度通じている。だからこそこれまで、ミラも声をかけなかったのだが。
「うん、俺ひとりでいくら考えても無理な気がしてきた」
正確には「祐二とミラで」だが、ミラもそれをわかってくれているようなので気にすることはなかった。それよりも「どうするの」ではなく「どうしたいの」だ。
エーリュの話では、時々魔王様が怪物の様子を見に来るのだそうだ。エーリュたち第2軍の者はうかつに魔王様に話しかけることも出来ず、黙って受け入れているだけだそうだが、つい先日魔王様に言われたらしい。
「扱いに困っているのだろう? 第7軍の賢者ユージに相談してみよ、何とかなるかも知れん」
そしてエーリュの訪問につながる訳で。
「まさか、あの子が陛下の兄上であったとは‥‥」
「うん、ステータス確認してビックリしたね」
それは離れていたミラにも認識できた、祐二のモニター情報。
ゲーム中のプレイヤーには、相手の名前とレベルが意識の中のウィンドウとして表示される。戦闘状態になれば相手や仲間の体力と魔力もだ。これはゲームとして当たり前の通常能力。
リアルさを追求し、データの表示は無しにしようという意見もあったそうだが、結局はゲームということで導入されたと聞く。この辺りの詳しい事情は祐二も知らないことなのだが。
ともあれ祐二が見た名前の欄に、はっきりと表記されていたのが「ウィリアム・アーネン・ゼファール」の名だった。
王族の名が付いていたのにも驚いたが、なぜ現魔王と同じ名なのかも疑問である。
実際に手段はいくつか検討しているのだ。
祐二とミラのように意思を通じる方法、化け物に声を出させる方法、頻発するという化け物の狂気混乱に対処する方法、他にもいくつか。
おそらく王族だろう相手を化け物と言うのは、祐二にもはばかられたが、それはさておく。
「‥‥直接聞いたほうが早いか」
ため息とともに、祐二は諦めた。
「あれは我の兄上だ」
のじゃ言葉禁止、と祐二がにらんだので完全プライベートの場合のみ、魔王様は普通の言葉になっている。
無意識に国土全体をテレパシーで探っているという魔王様を強く念じていたら、案の定瞬間移動で跳んで来てくれた。国土全体とか、膨大な情報量だろうにどういう頭の構造をしているのか、非常に祐二は気になったが「魔王様だし」の定型句で諦める。
実際に各地で起こる自然災害や魔物災害、他国侵攻なども察知できるそうなので、まぁ有用なのだろう。
まさかの兄とは、2人が呆然としていると魔王様は続けた。
魔王様の兄上は12歳の頃、ちょっと深い怪我をした。それが元で傷口から異常増殖が広がり、現在のような怪物になってしまったのだそう。その後、体躯も巨大になり、隠し切れなくなった王家は兄の希望もあって、第2軍へとその居を移したということだった。
「‥‥全ては我が生まれる前の話で、あそこに居る兄しか我はしらないのだがな」
少し悲しそうな顔を見せるが、急に嬉々として話し出す。
「それでも優しい、自慢の兄上なのじゃ! 会いに行けば喜んでくれるし、兄上の代わりに即位した我を気遣ってくれるし、我の愚痴にも付き合ってくれ、色々と助言もしてくれるのじゃ!」
もはやどっちが自然体なのかわからないくらい、のじゃ言葉に知らず戻っている魔王様。そこには兄を慕う妹という、よくある微笑ましい関係を思わせる。
「なので本来なら、我はあの兄と子を成す予定だったのじゃ」
微笑ましさぶち壊し。
遺伝異常の観点から、魔王様は他の血筋から夫となる相手を探すそうだが、確かに本来ならそうなる予定だったのだろう。
「親近相姦に獣姦とか、ちょっと憧れもあったのじゃがな」
微笑ましさ大崩壊。
恥ずかしそうに頬に手を当て、もじもじと身をよじる様はもう変態の領域。
勘弁して下さい魔王様。
「だが兄上は、あの飼育員に恋しているのだ」
あ、冷静になった。
毎日声をかけてくれ、嫌な顔ひとつせず世話を焼いてくれる女性に惹かれたという。さすがにほぼ垂れ流しの排泄物のお世話は、未だに恥ずかしがっているそうだが、そこはまだ人としての矜持があるということか。
狂気に苛まれながらも人に恋する優しい魔王様の兄。
手段は決めた、絶対に成功させてみせると祐二は立ち上がった。比喩ではない、ソファーからだ。
「人目にふれたくない。今から獣舎へ行く!」
あらかじめ取っていたデータを脳内シミュレーションする。
うん、きっと大丈夫。
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