スライムの、のんびり冒険者生活

南柱骨太

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第2章「冒険者で稼ごう!」

第11話「ゴブリンで稼ごう!」

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「ホイ、ホイっと」
「グギャ?!」
「ギャギャギャ?」

 シンジがジミーの樫の盾を使い、ゴブリン2匹の棍棒と錆の浮いた青銅剣を立て続けにいなす。
 同時にシールドチャージで、青銅剣のゴブリンを突き飛ばすとゴブリンは派手に転んだ。
 もう片方の棍棒ゴブリンは、バランスを崩して天を仰いだところをシンジの短剣で喉を突き破られ、地面に倒れ込んで暴れまわっている。出血加減から無力化確定だろう。
 前衛の相棒が暴れているのを見て、青銅剣ゴブリンは激昂したのだろう。シンジに向けて立ち上がり、剣を振り回して襲い掛かる。太刀筋も何もない、左へ右へと無茶苦茶に振り回されるその剣をシンジは。

「ハイ、よっと」

 受けるフリをして盾を引き戻しつつ体をかわす。
 当たると思った剣が空を斬り、ゴブリンは前のめりになった所にシンジの短剣が一閃。体をかわした動作の流れでゴブリンの首を切り飛ばし、そのまま手放した。

「「「えっ?」」」
「ゲ?!」

 それを後方から見ていたジミーたち3人は、思わず間抜けな声を上げる。
 もっと間抜けだったのはゴブリンの後衛に控えていたゴブリンメイジ。前衛が戦っている間に魔法詠唱を行っていたのだが、予想以上に早く前衛が倒されたために詠唱が終わる前にシンジの剣を受けてしまったのだ。
 前にかざしていた左手に回転しながら飛来した短剣を受け、もう詠唱どころではなくなり、距離を詰めたシンジの抜いた腰のナイフでトドメをさされてしまう。


「ま、こんな感じかな?」
「そ‥‥それを僕にやれと?」

 投げ飛ばした短剣を回収し、ゴブリンを体内庫に仕舞って戻ってきたシンジがつぶやくと、ジミーはため息と共に声を漏らす。
 まあこれは一例だから、とシンジは笑う。

「要は盾は防ぐだけ、受けるだけじゃないって事さ」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 チーム「夜明けの星」にシンジが加わり、10日程が過ぎた。

 冒険者のランクは級数で表わされ、下は10級から上は1級まで制定されている。基本的には魔物や猛獣、害獣に設定された級数を、1対1で討伐できる実力を示すものとされていた。
 そこに実績や貢献度、人格などのギルド評価も加わり、かなりの安全マージンを取って裁定されるのが、冒険者ランクである。対外的にも「8級の冒険者は8級の魔物を問題なく倒せますよ」という、大まかな目安にもなる訳だ。

 そう、目安になるだけ。

 魔物たちから色々と技術を吸収したシンジは実際にかなり強いが、まだギルドに登録したてのために最下級の10級であり、それは軍兵や衛兵からの冒険者転職組によく見られる現象だ。逆に冒険者歴が長いだけで、チームの荷物持ちや雑用係をやっていただけの、戦力の低い者が6級であったりすることもある。まあ「長年の経験や勘」という武器もあるので、戦力が弱いだけで冒険者として弱い訳ではなかったりするけれども。

 10~9級は初心者とされ、戦闘を伴わない採取や雑用を推奨される。そして8~7級になってやっと一人前と見られて、低級の討伐などを任されるようになるのだ。
 そして6~5級になると中堅として扱われるようになり、またこのランクがエルゲの街では最も多い。逆に言えば長く続けていれば、たいがいの冒険者はこのランクまでは上がることができた。
 そして冒険者の壁と言われるのもこのランクである。採取や討伐だけでなく、護衛などの依頼も任されるため、割と裕福な生活が出来るようになるのだ。強さを求めるような意識の高い者でなければ、このランクで甘んじる者が多いというのもわかる話。
 なので一流と認められる4~3級や、英雄ともてはやされる2~1級の者は、ここエルゲでも数は少ない。居なくはない、という程度。


 他の街や都市はわからないけれど、シンジやジミーたちの住むエルゲの街は魔物の多い「大森林」や、ドロップアイテムの多い「土の中迷宮」、初級向けの「オーク迷宮」などが近いため、冒険者の街と呼ばれるほど冒険者が多い。もちろんジミー達や亡くなったオーリィも、近隣の村からひと旗あげようとこの街に出てきた組だ。
 そしてチームやパーティーのランクは、メンバー個々のランク平均値(端数切上げ)で示される。
 つまりオーリィが生きていて予定通り8級に昇格していれば、チーム「夜明けの星」はチームランクも8級に上がっていたはずだった。チームランクが上がれば受けられる依頼の種類も増え、報酬も増えるのだけれど、残念ながらシンジが10級のためにチームランクは9級のままだった。

 それで低級のゴブリン討伐に、大森林の周辺部へと来ていたチーム“夜明けの星”だったのだけれど、技術レベルが何ともお粗末だったという訳で。とりあえず矢面に立つジミーから、冒頭のようにシンジの技術指導が始まった訳なのだ。

「じゃ、これで攻撃するから、受けてみて」
「お、おう‥‥」

 そこら辺に落ちていた枯れ枝で、盾と短剣を構えたジミーに攻撃を始めるシンジ。
 シンジの技術も、実際にはシンジ自身が会得していたものではない。シンジが食った魔物たちが持っていたものであり、いつの間にか知識と経験として発露したものである。
 だが生前のテレビや映画、マンガや小説などからの知識に照らし合わせ、有用と判断したものを披露していた。
 通常ならば意識で「こう動く」と理解はしていても、実際に行動できないものだが、魔物スライムとしての運動能力の高さからか、自在に動けるのにも助かっている。なにせ生前のシンジは自他共に認める運動オンチだったからだ。

「そうそう、盾の丸みを活かすように」
「こうか?」
「中心部じゃなく、少し外れたところで受けて、ひねるような感じで」

 しかしジミーは、頭で理解していても身体が動かない。普通の人は習ったからと、そうそう身に付くものではない。シンジが特殊なのであって、それはシンジ自身も理解している。
 なのでシンジも根気良く付き合う。その間、サニアとルイーザは周囲を警戒したり、薬草や野草を採取したり。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 そうしている間にお昼になった。太陽が頭上近い。


 街の屋台で買ったお惣菜とパンで昼食。
 スライムの体内庫に入れてあったので、熱々ホカホカなのが嬉しい。時間まで止まるなど、便利なことこの上なしである。
 まるで前世で読んだ物語にあった魔法鞄マジックバッグ魔法収納インベントリのようだが、シンジの意識としてはどちらかと言うと某猫ロボットの4次元ポケットな感じ。
 この世界にも魔法鞄という付与魔法アイテムがあるらしいが、とてもじゃないが低級冒険者では購入できる価格ではないそうだ。たまに迷宮でドロップされるらしいが、商人が高値で買ってくれるので、ほとんどの冒険者が売ってしまうとのこと。
 日々の生活を考えれば、さもありなん。


 さて、食休みも済ませ、今度はルイーザの訓練である。
 午前中は獲物も出てこなかったため、ジミーとサニアは連れ立って探しに出た。見つけたら引き寄せて来るそうだ。
 9級の依頼で最低討伐数が5匹のため、残り2匹を狩れば良いので2人も気楽なものだ。もちろん2匹以上、特に5匹以上群れている場合は隠れてやり過ごすか気付かれないよう引き返すつもり。
 ジミーは特に無理をしない。


 色々と話して気付いていたのだが、恐らくシンジの魔法知識は非常識だ。
 これはシンジの食ったオークメイジの知識が原因。
 最初は魔力の使い方がよく判らず、逆にルイーザや「使えなくもない」くらいのサニアに習ったが、その後が問題だった。

「え‥‥? 魔法の詠唱は?」
「しなきゃダメなの?」

 これだ。

「詠唱の短縮は魔法の達人はできるそうだけど、無詠唱とか聞いたこと無いよ?」
「ごめん、気合と根性でやってたオークが居たから‥‥」
「‥‥どんなオークなの、それって」

 そしてもう1つ。

「それ、ファイアーボールって言って良いの?」

 ルイーザが呆れるのも無理はない、通常なら野球のボールや大きくてもドッヂボール程度の大きさなのに、シンジのはバランスボールくらいのが飛んでいくのだから。しかも着弾すると炎の広がる範囲攻撃。
 バランスボールというのはアレだ、直径1メートル前後のストレッチやエクササイズに使うやつね。
 さらに大きな弾を圧縮し、通常は赤い火の玉のハズが青白いビー玉サイズになり、的を爆発させたりする。これもルイーザが言うには「信じられない現象」だそうで。ちなみにこっちは、生前の知識が原因。高熱にするにはどうすれば良いか、がやってみたら出来たというもの。

「魔法を発動する時に吸われる魔力だけでなく、もっと多めに魔力を押し出す感じで」
「こう‥‥かな?」

 剣技や盾技と違い、魔法の指導は目に見えない感覚的な部分が多く、やりにくい。
 それでもシンジはああだ、こうだと色んな表現を使って説明していく。

「水鉄砲みたいに魔力を押し込んで‥‥」
「――水鉄砲って何?」

 何だか脱線して、水鉄砲を説明するのに実際に木材で作ったりして。
 それでやっとルイーザに納得してもらえたりしたけれど、後日エルゲの街で木工職人たちの手により水鉄砲が売り出され、子供たちに大人気で爆売れするのは、また別のお話。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「やった‥‥出来た!」

 数時間かけて、やっとこさルイーザがファイヤーボールの大型化に成功した頃、ジミーとサニアが戻ってきた。ゴブリンの右耳を持って。

「多かったらやり過ごすんじゃなかったっけ?」
「いや、その、やってみたら思いの外‥‥」
「ちょっと、というか、かなり危なっかしかったけどね?」
「言うなよ‥‥」

 どうやら2匹だったので、ジミーがけん制したら想像以上に楽に狩れたらしい。
 それどころか2匹組みに次々と出会ってしまったらしく、結局。

「で、この数?」
「ジミーでも調子に乗ることがあるんだって、しみじみ思ったわ」
「‥‥なんか、すまん」
「私も新しいファイヤーボール、試したかった~」
「いや、ホント‥‥すまん」

 ジミーの持つ小さな赤黒く汚れた巾着袋には、討伐証明のゴブリンの右耳がギッシリ。
 おそらく10体を越えている。
 嬉しそうに盾を振り回すジミーを想像して、「あぁ‥‥」と漏らすしかないシンジとルイーザだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ちょっと時間は早かったが、想像以上の成果に街へと戻り、ギルドへ出向いたチーム「夜明けの星」。
 実はゴブリン討伐の低級依頼はさほど美味しくない。低級なら当然だけれど。
 規定の5匹を狩って500ギルと、安宿2人分くらいにしかならないのだ。
 しかし今回は規定数以外に13匹ものゴブリンを狩っていたので、それなりの金額にはなっている。4人分の宿泊代に豪華な夕食を付けたくらい。もちろんそんな無駄遣いはしないけれど。

「300ギルずつ分けて、残りはチーム資金で。良い?」
「そうだね」
「良いよ」

 チーム資金はシンジが提案した、チーム運営のための貯蓄だ。万一のための魔法薬や、チームの装備購入の援助などがここから支払われる。もちろんメンバーの協議を経た上での支出であり、贅沢や生活をするための貯蓄ではない。
 特にジミーの盾の保守管理や、サニアの矢などはここから支払われることにした。
 ジミーは個人的な装備の事だと、ひどく反対したけれど、結局は折れた。チームの防衛の要なのだ、それを個人で賄うなど問題でしかないと、シンジが押し切った形だが。
 ちなみにチーム資金の管理はシンジが行っている。これはただ単に算術が出来るというだけの問題。

「どうする? 夕方まで訓練? それとも自由時間?」
「あたしは矢の補充をしときたいかな~」
「僕はもう少し盾の練習をしたい。シンジ、付き合ってくれる?」
「おー良いよ。訓練場行こうか」

  とか冒険者ギルドに併設されている酒場で話していたら。



「そいつが新入りか?」

 厳つい装備の男に声をかけられた。

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