スライムの、のんびり冒険者生活

南柱骨太

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第2章「冒険者で稼ごう!」

第12話「魔狼で稼ごう!」

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 依頼を達成し、この後の行動について冒険者ギルド併設の酒場で話していたチーム「夜明けの星」メンバーは、いかつい装備の男に声をかけられた。


「なんだ、前のオーリィよりも弱っちい野郎じゃん」

 胸と肩を覆う金属鎧。両腕は肘までの金属グローブに、下半身は分厚いトカゲ皮のズボンに金属のすね当てという、えらい防御力の高そうな若い男だ。見た感じは20代中頃くらいだろうか。
 背中に背負っている刃幅の広い大剣からして前衛、近接戦闘職のようだ。剣士なのかそれ以外の戦闘術もある戦士なのか、そこは判別つかないが。

「こんな弱いチームにはさっさと見切りをつけて、俺んとこ来いよ。8級に上がったんだろ? もっと稼げる仕事をやれるぜ?」

 そうルイーザに粉をかけてくる男。
 水色っぽい髪色の短髪で、割とイケメン。
 だからだろうか、後ろに控える彼のチームメンバーは女性ばかりで、いわゆるハーレムという雰囲気だ。
 前からの顔見知りっぽいのにシンジの持つオーリィの記憶に無いため、おそらく彼には興味が無かったのだと思われる。

「そんなお子様誘わなくっても‥‥」
「いやいや、魔法職の上に治癒魔法が使えるんだ、便利じゃないか」

 男のチームメンバーは不快そうな顔をしているが、彼はいやに乗り気で。
 それに、と彼は下卑た視線をルイーザに向け、嘗め回すようにさ迷わせる。

 これはアレか、とシンジは思い当たった。
 オーリィが居なくなったからルイーザに言い寄ってきた、インディのご同類なのだろう。あれからインディを見ないのだが、風の噂で他の街に行ったとか何とか。肝っ玉の小さい男である。
 それはともかく。
 一生守ると誓ったのだ、いかにも下劣な視線に嫌悪を示す恋人を守らないシンジではない。

「‥‥んッ! も、もう、人前で何するのよ」
「すまんな、もう婚約済みなんだ、他を当たってくれるか?」

 ルイーザの肩を引き寄せ、唐突に口付けを交わしたシンジは、男に向かって笑ってみせる。ルイーザも嫌がる素振りはなく、どちらかというと驚き照れた様子だ。恥ずかしい、でも嬉しいといったところ。
 男は唖然とした様子で「えっ」とか「はっ」とか冷静さを欠いていた。
 そしてシンジに対する怒りか不満か、顔を真っ赤に染め上げる。
 そんな彼にルイーザがダメ押し。

「そういうことなので、諦めて下さい」

 どこからか「えぇ~?」とか、「嘘だろ‥‥」といった失意の怨嗟が聞こえてくるが、ここは無視しておくシンジ。
 しばしシンジをにらみ付けていた男だが、「失礼する」ときびすを返して女性たちを引き連れてギルドを出て行った。

「‥‥やるなぁ、シンジ」
「こういうのはキッパリ断っておかないと、ああいうのに執着されると面倒だからね」

 それに、とシンジはルイーザを見ながら続ける。

「今後、強引に誘われても困るだろ?」
「シンジ‥‥ありがとう」

 そんな2人の雰囲気に、サニアも「あーごちそうさま」な気分と態度であった。
 酒場だけでなく、ギルドホールの方からも残念そうなため息が漏れたようだが、シンジは気にしない。もちろん人並み外れた聴力を持つシンジなので、聞こえていない訳ではない。
 その中には受付カウンターの内側からのものも有ったが、それはおそらく受付嬢のもので、まさかルイーザ目当て? とか困惑するシンジだった。
 そんな訳はない。


 その後、ジミーとシンジは訓練の予定だったが、なぜかルイーザに連行されるシンジ。
 ジミーもサニアも呆然とするしかない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 さて、1匹見付けたら20匹も30匹も居ると、某Mr.Gのように言われているゴブリンだが、そのせいか常備依頼扱いで、依頼自体が尽きることはない。
 それらは街の防備予算から出ているからで、間引けば間引くほど街道の安全につながるからだった。その分、多少お安めなのは仕方のないところ。
 ちなみにオークも常備依頼。こっちはゴブリンよりちょっとだけ高い。
 なので今日もチーム「夜明けの星」はゴブリン討伐。

 だったのだが。


「何この状況?」

 サニアの疑問ももっともだ。
 8匹目のゴブリンを倒したと思ったら、急に魔狼ともブラックウルフとも称される、狼の魔物に襲われたのだ。
 もちろん近付いてくる時点でシンジに察知されており、迎撃体勢は充分だし、ジミーの防御技術も少しは上向いているとあって、サニアの弓にルイーザの魔法の前では敵ではなかった。
 シンジは3人の訓練として、危なければ助ける姿勢だったのだけれどその必要も無く、8匹の魔狼は苦労すると言う程もなく始末できたのである。

「こんな浅場にブラックウルフとか、どうして?」
「だよな、この辺に出てくるなんて話、聞いたことないよな」

 ジミーとサニアが魔狼の皮をぎながら疑問を漏らす。
 すると1頭の皮剥ぎを済ませたルイーザが、シンジに耳打ちしてきた。

(何か、あるんでしょ?)
(ああ、うん、ちょっとね?)

 今は言えないと言葉を濁すシンジだが、それを察してかルイーザも詮索しては来ない。ここで言えることなら教えてくれるだろうと、そういった信頼はあるからだ。
 それに付き合いはまだまだ短いが、シンジは皆に知識や情報を伝えてくれるという面はわかっていた。ハッキリしたことや信頼性の高いものはストレートに、そうでないものはそう前置きしたり「推測だけど」としたり。なのでシンジがそう言う以上、まだまだ情報が足りないのだろうとルイーザにも納得できるのだ。
 常日頃からシンジの言う「情報は重要だよ」の言葉の意味が、チームの皆に理解できてきた成果でもあるだろう。
 ただ「戦いは数だよ兄貴」という、よくわからないシンジの言葉もまま聞けるのだが、その意味はわかっても言葉の意味はよくわからない。兄貴って誰?

 事実、どの討伐対象がどの辺りに居るかとか、どういった手段が効率的であるかとか、どこかでシンジが得てきた情報により、これまでより依頼がかなり容易たやすくなっている実感でもあるのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 魔狼の皮、肉、魔石などの素材はシンジが体内庫に収納し、街の近くで人目につかないよう荷車を出して素材を運び、ギルドで換金した。その他の冒険者の装備や道具など、かさばるものを収納しておけるスライムの能力に感謝である。
 浅場での魔狼出現の報告も済まし、普段よりちょっと多目の報酬を受け取って宿に戻る。
 もう少し収入が良くなれば、安いアパートメントか長屋を賃貸できるのだけど、今はまだ安宿でガマン。
 定宿である「こまどり亭」で夕食を取り、中庭の井戸端で行水を済ませて就寝である。


 そしてルイーザが寝入った頃、シンジの姿はギルドにあった。


「何かある~?」
「魔狼の調査くらいですね。受けますか?」

 冒険者ギルドは24時間営業である。
 もちろん夜番は職員も少ないのだが、夜間専門の受付嬢はいつもの事として、シンジに返答をした。

 シンジは現状、9級に上がったばかりで、本来なら採取メインで討伐とかはあまり受けられない状態だ。ゴブリンなど単体では9級の扱いだが、1匹で現れるなどあまり無いことでもあり、たいがいが複数で襲ってくる。
 9級のチームやパーティーならば受けられる依頼なのだ。
 ところでシンジの扱いは、昼間の「夜明けの星」4人組ならば9級、夜の単独行動では5級としての受付となっていた。これはギルド支部長の特例として発布されたもので、級数は低いものの実力として5級相当とされたためである。
 実際に塩漬けと呼ばれる、誰も引き受けたがらない高難度の依頼をシンジは単独で達成していたりするので、ギルド側も納得して支部長特例に従っているのだ。
 もちろん他の冒険者には内緒で。

「ああ、ソレね~?」
「確かシンジ君のチームの報告だったよね? 自分で尻拭いとか、それ何てマッチポンプ?」
「‥‥ヤメて(大汗)」

 苦笑いしか漏れない。

「代理、居る?」
「ええ、執務室に居ると思うわよ」

 夜間はギルドの支部長代理として、副支部長2名の片方が詰めている。
 必ず居る訳でも無いが、何かしらの問題が起きた場合に備え、居ることが多いというくらいか。そしてシンジの正体を知る、数少ない人物たちでもあった。
 そんな代理の部屋を訪れ、シンジは現状の説明を行う。

「なるほど、そういうコトかい」

 まだ中年と言うには年若い代理は、シンジの説明に苦渋の表情を浮かべる。
 もちろん全てを信用する訳にもいかないが、状況から考えて信憑性は高いと判断する。

「で、どうするつもりだい?」
「とりあえず群れの残りが居るかも知れませんし、朝までに浅場を回って確認しますよ。浅場とはいえ、低級の採取組が大森林に入れないのは問題でしょう?」
「そっちじゃなく、彼らの方!」

 薬草や毒草、野草など低級の冒険者や採取家が入れないとなれば、エルゲの街の物流に早晩影響が出るだろうと、シンジはそう答えたのだったが、代理は原因の方だと苦笑い。

「どうするも何も、相手の出方次第ですねぇ」
「素行が悪いとはいえ、彼らも6級の冒険者だ。証拠も無く処罰は出来んぞ?」
「まあ、今のところは対処できますし、本当にこちらからは何もしなくて大丈夫ですよ」

 向こうから直接関わって来なければ、ですけどね。
 そんな言葉を飲み込んだシンジは、魔狼の調査を請け負い、ギルドを後にするのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 そして明け方、まだ暗い頃。

「どうしましょう、これ」
「どうしましょう‥‥って、持ち込まれても困るけど」

 冒険者ギルドの受付嬢は、兼務する買取カウンターでスヤスヤと眠る魔狼の仔2頭を前に盛大なため息をついていた。


 大森林の浅場を回ったシンジは、ついでとばかりにもう少し深いエリアを巡ったのだが。
 そこにやっと卒乳したばかりくらいの2匹の仔狼を抱えて処置なしの、若い魔狼を見つけてしまったのである。

 魔狼に擬態して接触したところ、仔狼の親は昼間に仔狼の1頭をさらった人間を追って他の大人と出かけてしまったが、戻って来ないと言う。
 若狼は群れの中ならば子守も出来るが、たった1頭では狩りもできないと嘆いていた。
 それで無理矢理に、シンジに託して去ってしまった。おそらく昼からずっと子守りで、何も飲食できていなかった為だろう。
 恐らくは昼間にシンジたちが狩った魔狼が親たちの一群だったのだろうと、罪悪感もあって連れ戻ったのだったが、ギルドで聞けば狼系を従えるテイマーは居ないと言うし、最後のツテもなくなってしまった訳で。


「ど、どうしよう」
「どうしましょう‥‥」

 そもそもが、野獣であればペットとして飼うことも可能だが、魔物はテイマーによる従魔でないと飼育できない。
 過去に魔物を飼い馴らそうとして失敗した事例が多く、平穏な飼育は不可能とされているからだった。
 そして魔狼は野獣ではなく、魔物にカテゴライズされているのだ。

 野獣などと呼ばれるケモノと魔獣などの魔物には、明確な差がある。
 どちらも本能に基いて活動するのは似ているが、魔物には多少の差はあれど知性が備わっている点だ。実際にシンジも(擬態していたとはいえ)魔狼の若者と対話をしている訳で、これが野獣の灰色狼や茜狼等であれば、対話も出来ず追われたか逃げられていたであろう。
 そして力のある魔物であれば、その体内に魔石や魔晶という魔力器官を有していたりする。
 さらにギルドでの素材買取り額にも明確な差があった。
 狼の皮は毛皮などの防寒具になるが、魔狼の皮だと魔力耐性のある防具になったりする。
 これによって金額の差がさらに広がるのだ。


 それはともかく。
 シンジは支部長代理の「自分で処分しろ」との言葉と共に、魔狼の仔ごとギルドを追い出されたのだった。

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