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第2章「冒険者で稼ごう!」
第13話「薬草で稼ごう!」
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とある夜。
エルゲの街のとある酒場。
宿屋やギルドに併設されている「なんちゃって酒場」ではなく、酒を飲む専門の店であり、騒いだり羽目を外したりする者も居ない。「なんちゃって酒場」が居酒屋としたら、バーとかスタンドといったそんな雰囲気で、自然と高級感をかもし「お高めの店」となっている。
そんな訳で低級冒険者が入ることははばかられ、身分のある者や大店の商人、中級以上の冒険者や傭兵などが利用しており、またそういった者にありがちな内緒話に花が咲いていたりしていた。
彼らもそんな中の1グループだ。
「くそっ、あいつら魔狼だけでなく、オークまで退けやがった」
小さな声だが、それは怒りに燃えている。
外国産の高級な酒をあおり、これまた庶民には縁の無い半透明のグラスをテーブルに打ち付けた。周囲に響く音がちょっとした注目を集めるが、それも一瞬のことでそれぞれの会話や酒に意識が散っていく。
「もうやめなよ、そこまでして手に入れる必要あるの?」
おそらくハーレム要員であろう女性ばかりのチームメンバーの1人がたしなめるが、彼は怒りの眼差しで彼女をにらんだ。
「あそこまでバカにされて、黙っていられるか!」
「‥‥もう!」
側から見れば単に断られただけなのだが、当人にしてみれば侮辱されたと同等なのだろう。「誘ってやったのに」という意識の差である。
彼らは先の魔狼の1件に引き続き、今日は6匹のオークを引き連れて「なすりつけ」を行ったのだった。
ところが。
運が良ければ、前衛の男2人がオークに倒されるだろうと踏んでいたけれど、そうなれば彼が颯爽と飛び出して女性2人を助け出そうと目論んでいたのだが。
チーム「夜明けの星」は難なくオーク6匹を倒してしまったのだった。
それもシンジが手を借すことも無く、残りの3人だけで、だ。
シンジはオークをけん制していたに過ぎない。
そんな姿を、彼は「女に守ってもらっている軟弱な奴」と捉えていた。実際には3人に経験を積ませていたのだけれど、内情を知らなければそう見えても仕方のない光景でもある。
駆け出し10級のくせに、と彼は苛立ちを隠そうともせず、酒を次々とあおっていく。
普段は前衛で相手を引き付け、後衛の彼女らの直接攻撃や補助を受けて戦う、そんな姿が格好良い彼であったが、今の嫉妬に狂った姿は非常に興ざめするものだ。
それでも惚れた弱みか、彼をなだめすかして拠点家屋に戻っていく彼女たち4人なのであった。
そう、宿屋や安価なアパートメントではなく、一軒家を賃貸できるほどに6級冒険者として活躍しているのだ、彼らは。
それだけに彼のプライドは高かったのかも知れない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いいぞ! もっと煽れ!」
今日も先日に引き続き、オークを焚き付けて引き寄せ、チーム「夜明けの星」にぶつける算段だ。
マナーとして魔物を引き連れて逃走する「トレイン行為」、そして「なすりつけ行為」は悪意とみなされる。もちろん故意でなくても、だ。
なので証拠を残さないためにも、彼のチームメイトである弓師の女性は矢先の平らな打撃用の矢を使っていた。こんなので顔を狙われては、オークが怒りを露わにするのも仕方がない。
魔法使いの女性もダメージの少ない魔法で狙い、遊撃っぽい軽戦士の女性は投石だ。
この計画はやっかいな面が多過ぎる。
何より狙いの「夜明けの星」が、大森林の浅場でしか活動しないのだ。なすりつけようにも浅場には弱い魔物しか居ない。
先日はたまたま、浅層には珍しい魔狼が居たのだが、それなりの脅威にも関わらず彼らは軽く倒してしまったし。本当はもう少し奥に生息する鬼族とか魔黒熊をぶつけたいところだけれど、何キロメートルも引っ張ってくるのは面倒だし、危険性も高い。
なので今日はちょっとだけ奥に発見した、オークの集落から活きの良いのを15匹ばかり誘い出してきたのだった。
チーム「夜明けの星」は、そこから600メートルほどの場所、おそらくあと300メートルくらいだろう。
浅場では奥地ほど密林でもないし、立木をぬって移動できるくらいだが、それでも100メートル離れていればお互いに気付かず行き違うことも珍しくはない。うまくけん制しながら300メートルなら連れて行けると判断していた。
今だ、と彼は合図を出す。
まずは女性たち3人が走り出す。それを確認し、最後に男が先頭のオークを蹴り飛ばして逃げ出した。
このまま引き離さない、手加減した速力で奴らの近くまで行けば、あとは見張り役の女性が夜明けの星の場所を指示してくれるだろう。
彼はオークに蹂躙される男たちの末路を夢想し、嫌らしい笑みを口元に浮かべた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、こちらは夜明けの星の4人。
本日はいつものゴブリン討伐に薬草採取をプラス。道中の薬草を摘みながら、周囲を警戒してゴブリンに備えていた。
「え? あの人そこまでするの?」
サニアの疑問ももっともだ。
シンジは普段から諭していた通り、ある程度の情報が固まったところで、チームにここ数回の事情を話していた。あの色男がルイーザとサニアを取り込むため、魔物をけしかけてシンジとジミーの排除を狙っているらしい、という事を。
「よっぽどルイに断られたのが悔しかったのね」
「しかしなすりつけとは‥‥バレたら大事なのにな」
「ごめんね、みんな‥‥」
「まぁまぁ、美味しい獲物を連れて来てくれるんだし、ここはありがたく頂いておこうか」
「確かに、訓練には良かったけどね」
「けどオーク6体はちょっとキツかったけどな」
シンジの案内で薬草の群生地を発見し、昼までに相当量を採取することができた。さらに昼食にしようかという頃、少し先で狩りに出ているであろうゴブリン6匹をシンジが感知し、皆に伝える。
余談であるが、一般的な冒険者は1日に1食か2食だ。
それは夕食だけだったり、朝食と夕食だけだったりで、特に大森林に入る者たちは昼食を食べたりしない。匂いに誘われた魔物や野獣に、食事中に襲われたりしないためにだ。
しかしシンジはそれを悪手だと指摘、パンに肉野菜を挟んだだけのものだが、昼食を摂ることを推奨した。それは体力的なものだったり、肉体的なものだったり理由はあるが、主なところは全員が15~6歳ということだったりする。
この世界では15歳で成人と認められているが、生物学的にはヒト族の15歳はまだまだ身体が成熟していないと思われた。これはシンジの元の世界でも、この世界でもあまり変わりないようだったので、1日3食をしっかり食べることを勧めたのである。
余談ついでに、サンドイッチという料理はこの世界に無かったようで、作り方を指示して宿で作ってもらったのだが、これがこの後大ヒット商品になるとは、シンジも予想外であった。
それはともかく。
まずはサニアの3射から、ルイーザの攻撃風魔法、飛び出したジミーが敵意を集め、シンジが敵後方からサクサクと刺し、ゴブリンが慌てたところをジミーが追撃。
サニアの矢も要所要所でゴブリンを射止め、6匹は1分も経たずに全滅した。
「‥‥ゴブリンってこんなに簡単だったっけ?」
「待ち伏せに近かったからね。10匹くらいまでは、今みたいな戦術で余裕だと思う」
「個人の能力だけでなく、作戦や戦略で楽になるって事なのね」
「もちろん想定外の状況も起きるだろうけどね。そこはまぁ、臨機応変で」
「りんきおうへん~♪」
ルイーズが気に入ったのか、メロディーをつけて口ずさむ。
これは言葉の意味は理解できなかったが、フレーズが気に入った時のクセみたいなもの。それを知っているシンジは苦笑いするしかない。それくらい市井の下位住人は無教養なのだ。
後で意味を教えておこうと思うシンジだった。いやおそらく、ルイーズだけでなくジミーとサニアにも。
討伐証明のための右耳を切り取るのも手早く済まし、死体処理も面倒なのでシンジが吸収していると、その叫び声が聞こえた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
オークというのはイノシシの頭をした人型の魔物である。
身長は2メートル程と大型だが、その頭部の大きさに似合わず知能は低め。それでもゴブリンよりは賢く、集団で生活し、他の魔物やヒト族を狩ったりする。また言葉や武器を使いこなすために、集団戦闘なども行うので割とやっかいな魔物である。
魔物ランクは単体で8級、集団では6級とされていた。
古くは獣人の魔物化した種族と思われていたが、近年の説ではゴブリンと獣人の混血から種族化して定着したのだと言われている。正確なところはよく解っていないのだが。
ともあれ、そこそこ賢いのだ。ヒト族程ではないにしろ。
そして色男のチームは戸惑っていた。オークたちが思ったほどついて来ない。足が遅い。
「おらあっ! ついて来ないなら逃げ切っちまうぞ!」
しんがりの男は目に付いた地面の石を拾い、オークたちに投げつけた。
彼らは侮っていたのだ。オークたちが集団戦闘のできる知能があることを忘れて。
そして斥候役の女性が、見張っていた「夜明けの星」の居る方角を指し示すのを捉え、彼らは進行方向を変えた。もう少しだ。
後方のオークたちとの距離を余裕と見て、立木の薄い場所を選んでオークをそちらに誘導するべく待った。待ってしまった。
オークがわざと速度を落としていることに気付かず。
不意に巨体のオークが現れた。
彼のすぐ横に、だ。
オークたちはいずこかに誘われていると感じ、追走部隊の速度を落とさせ、別働隊が逸れて気付かれないように併走していたのである。
そして追いついたオークが、いや上位種であるオークリーダーが彼らに追い付き、大きな棍棒を振りかざして躍り出たのだ。
「‥‥なッ!?」
まだ距離がある、そう油断していた色男は女性たちの目の前で。
棍棒を打ち付けられ、地に倒れた。
その鈍い音に、目の前の信じられない状況に、女性の1人が悲鳴を上げたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
チーム「夜明けの星」がそこにたどり着いた時、彼・彼女らは壊滅寸前であった。
彼は最初の一撃で倒れ伏しており、軽戦士の女性も倒れている。今は弓師と魔法師の2人がけん制し、斥候がオークたちを倒れた2人から引き離そうとしていた。
しかしオークの数が多く、すでに取り囲まれていると言って良い状況だ。
どうする?、とシンジがリーダーであるジミーに目で問う。
ジミーも彼らが何を企んでいたかくらいは察した。おそらくこのオークたちが、自分らに差し向けられようとしていただろうと。それでも冒険者は助け合いが基本理念だ。魔物が獲物であれば奪い合いの争いにもなるが、襲われてピンチであれば助力を申し出るのが常套でもある。
もちろん、確認のための声かけは必須。
そしてジミーの頷きと共に、シンジが飛び出した。
「シンジ、声かけ!」
「‥‥あっ!」
サニアのツッコミも間に合わず、シンジは取り囲もうとしていた手前のオークを短剣で突き刺したところだった。
「助けは要るか?」
「助けて! マリオンが死んじゃう!!」
後付けの確認に、弓師の女性が叫んだ。
視線で後方は任せたと、シンジは中央へと飛び込む。その意思を察したジミーたちは、手前の5匹を引き付けようと、まずはジミーのシールドチャージ。次いでサニアの矢とルイーザの魔法がオークを襲う。
「え? ちょっと!」
飛び込んで来たのは、珍しい黒い髪色の少年。いつもけん制だけで他の3人に守られていたような立場の少年だ。そんな彼が最も危険な中央へと乗り込んできた。それは心配にもなり、斥候の女性が驚くのも無理はない。
しかし、斥候だけでなく、他の2人の女性も驚くことになる。
エルゲの街のとある酒場。
宿屋やギルドに併設されている「なんちゃって酒場」ではなく、酒を飲む専門の店であり、騒いだり羽目を外したりする者も居ない。「なんちゃって酒場」が居酒屋としたら、バーとかスタンドといったそんな雰囲気で、自然と高級感をかもし「お高めの店」となっている。
そんな訳で低級冒険者が入ることははばかられ、身分のある者や大店の商人、中級以上の冒険者や傭兵などが利用しており、またそういった者にありがちな内緒話に花が咲いていたりしていた。
彼らもそんな中の1グループだ。
「くそっ、あいつら魔狼だけでなく、オークまで退けやがった」
小さな声だが、それは怒りに燃えている。
外国産の高級な酒をあおり、これまた庶民には縁の無い半透明のグラスをテーブルに打ち付けた。周囲に響く音がちょっとした注目を集めるが、それも一瞬のことでそれぞれの会話や酒に意識が散っていく。
「もうやめなよ、そこまでして手に入れる必要あるの?」
おそらくハーレム要員であろう女性ばかりのチームメンバーの1人がたしなめるが、彼は怒りの眼差しで彼女をにらんだ。
「あそこまでバカにされて、黙っていられるか!」
「‥‥もう!」
側から見れば単に断られただけなのだが、当人にしてみれば侮辱されたと同等なのだろう。「誘ってやったのに」という意識の差である。
彼らは先の魔狼の1件に引き続き、今日は6匹のオークを引き連れて「なすりつけ」を行ったのだった。
ところが。
運が良ければ、前衛の男2人がオークに倒されるだろうと踏んでいたけれど、そうなれば彼が颯爽と飛び出して女性2人を助け出そうと目論んでいたのだが。
チーム「夜明けの星」は難なくオーク6匹を倒してしまったのだった。
それもシンジが手を借すことも無く、残りの3人だけで、だ。
シンジはオークをけん制していたに過ぎない。
そんな姿を、彼は「女に守ってもらっている軟弱な奴」と捉えていた。実際には3人に経験を積ませていたのだけれど、内情を知らなければそう見えても仕方のない光景でもある。
駆け出し10級のくせに、と彼は苛立ちを隠そうともせず、酒を次々とあおっていく。
普段は前衛で相手を引き付け、後衛の彼女らの直接攻撃や補助を受けて戦う、そんな姿が格好良い彼であったが、今の嫉妬に狂った姿は非常に興ざめするものだ。
それでも惚れた弱みか、彼をなだめすかして拠点家屋に戻っていく彼女たち4人なのであった。
そう、宿屋や安価なアパートメントではなく、一軒家を賃貸できるほどに6級冒険者として活躍しているのだ、彼らは。
それだけに彼のプライドは高かったのかも知れない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いいぞ! もっと煽れ!」
今日も先日に引き続き、オークを焚き付けて引き寄せ、チーム「夜明けの星」にぶつける算段だ。
マナーとして魔物を引き連れて逃走する「トレイン行為」、そして「なすりつけ行為」は悪意とみなされる。もちろん故意でなくても、だ。
なので証拠を残さないためにも、彼のチームメイトである弓師の女性は矢先の平らな打撃用の矢を使っていた。こんなので顔を狙われては、オークが怒りを露わにするのも仕方がない。
魔法使いの女性もダメージの少ない魔法で狙い、遊撃っぽい軽戦士の女性は投石だ。
この計画はやっかいな面が多過ぎる。
何より狙いの「夜明けの星」が、大森林の浅場でしか活動しないのだ。なすりつけようにも浅場には弱い魔物しか居ない。
先日はたまたま、浅層には珍しい魔狼が居たのだが、それなりの脅威にも関わらず彼らは軽く倒してしまったし。本当はもう少し奥に生息する鬼族とか魔黒熊をぶつけたいところだけれど、何キロメートルも引っ張ってくるのは面倒だし、危険性も高い。
なので今日はちょっとだけ奥に発見した、オークの集落から活きの良いのを15匹ばかり誘い出してきたのだった。
チーム「夜明けの星」は、そこから600メートルほどの場所、おそらくあと300メートルくらいだろう。
浅場では奥地ほど密林でもないし、立木をぬって移動できるくらいだが、それでも100メートル離れていればお互いに気付かず行き違うことも珍しくはない。うまくけん制しながら300メートルなら連れて行けると判断していた。
今だ、と彼は合図を出す。
まずは女性たち3人が走り出す。それを確認し、最後に男が先頭のオークを蹴り飛ばして逃げ出した。
このまま引き離さない、手加減した速力で奴らの近くまで行けば、あとは見張り役の女性が夜明けの星の場所を指示してくれるだろう。
彼はオークに蹂躙される男たちの末路を夢想し、嫌らしい笑みを口元に浮かべた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、こちらは夜明けの星の4人。
本日はいつものゴブリン討伐に薬草採取をプラス。道中の薬草を摘みながら、周囲を警戒してゴブリンに備えていた。
「え? あの人そこまでするの?」
サニアの疑問ももっともだ。
シンジは普段から諭していた通り、ある程度の情報が固まったところで、チームにここ数回の事情を話していた。あの色男がルイーザとサニアを取り込むため、魔物をけしかけてシンジとジミーの排除を狙っているらしい、という事を。
「よっぽどルイに断られたのが悔しかったのね」
「しかしなすりつけとは‥‥バレたら大事なのにな」
「ごめんね、みんな‥‥」
「まぁまぁ、美味しい獲物を連れて来てくれるんだし、ここはありがたく頂いておこうか」
「確かに、訓練には良かったけどね」
「けどオーク6体はちょっとキツかったけどな」
シンジの案内で薬草の群生地を発見し、昼までに相当量を採取することができた。さらに昼食にしようかという頃、少し先で狩りに出ているであろうゴブリン6匹をシンジが感知し、皆に伝える。
余談であるが、一般的な冒険者は1日に1食か2食だ。
それは夕食だけだったり、朝食と夕食だけだったりで、特に大森林に入る者たちは昼食を食べたりしない。匂いに誘われた魔物や野獣に、食事中に襲われたりしないためにだ。
しかしシンジはそれを悪手だと指摘、パンに肉野菜を挟んだだけのものだが、昼食を摂ることを推奨した。それは体力的なものだったり、肉体的なものだったり理由はあるが、主なところは全員が15~6歳ということだったりする。
この世界では15歳で成人と認められているが、生物学的にはヒト族の15歳はまだまだ身体が成熟していないと思われた。これはシンジの元の世界でも、この世界でもあまり変わりないようだったので、1日3食をしっかり食べることを勧めたのである。
余談ついでに、サンドイッチという料理はこの世界に無かったようで、作り方を指示して宿で作ってもらったのだが、これがこの後大ヒット商品になるとは、シンジも予想外であった。
それはともかく。
まずはサニアの3射から、ルイーザの攻撃風魔法、飛び出したジミーが敵意を集め、シンジが敵後方からサクサクと刺し、ゴブリンが慌てたところをジミーが追撃。
サニアの矢も要所要所でゴブリンを射止め、6匹は1分も経たずに全滅した。
「‥‥ゴブリンってこんなに簡単だったっけ?」
「待ち伏せに近かったからね。10匹くらいまでは、今みたいな戦術で余裕だと思う」
「個人の能力だけでなく、作戦や戦略で楽になるって事なのね」
「もちろん想定外の状況も起きるだろうけどね。そこはまぁ、臨機応変で」
「りんきおうへん~♪」
ルイーズが気に入ったのか、メロディーをつけて口ずさむ。
これは言葉の意味は理解できなかったが、フレーズが気に入った時のクセみたいなもの。それを知っているシンジは苦笑いするしかない。それくらい市井の下位住人は無教養なのだ。
後で意味を教えておこうと思うシンジだった。いやおそらく、ルイーズだけでなくジミーとサニアにも。
討伐証明のための右耳を切り取るのも手早く済まし、死体処理も面倒なのでシンジが吸収していると、その叫び声が聞こえた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
オークというのはイノシシの頭をした人型の魔物である。
身長は2メートル程と大型だが、その頭部の大きさに似合わず知能は低め。それでもゴブリンよりは賢く、集団で生活し、他の魔物やヒト族を狩ったりする。また言葉や武器を使いこなすために、集団戦闘なども行うので割とやっかいな魔物である。
魔物ランクは単体で8級、集団では6級とされていた。
古くは獣人の魔物化した種族と思われていたが、近年の説ではゴブリンと獣人の混血から種族化して定着したのだと言われている。正確なところはよく解っていないのだが。
ともあれ、そこそこ賢いのだ。ヒト族程ではないにしろ。
そして色男のチームは戸惑っていた。オークたちが思ったほどついて来ない。足が遅い。
「おらあっ! ついて来ないなら逃げ切っちまうぞ!」
しんがりの男は目に付いた地面の石を拾い、オークたちに投げつけた。
彼らは侮っていたのだ。オークたちが集団戦闘のできる知能があることを忘れて。
そして斥候役の女性が、見張っていた「夜明けの星」の居る方角を指し示すのを捉え、彼らは進行方向を変えた。もう少しだ。
後方のオークたちとの距離を余裕と見て、立木の薄い場所を選んでオークをそちらに誘導するべく待った。待ってしまった。
オークがわざと速度を落としていることに気付かず。
不意に巨体のオークが現れた。
彼のすぐ横に、だ。
オークたちはいずこかに誘われていると感じ、追走部隊の速度を落とさせ、別働隊が逸れて気付かれないように併走していたのである。
そして追いついたオークが、いや上位種であるオークリーダーが彼らに追い付き、大きな棍棒を振りかざして躍り出たのだ。
「‥‥なッ!?」
まだ距離がある、そう油断していた色男は女性たちの目の前で。
棍棒を打ち付けられ、地に倒れた。
その鈍い音に、目の前の信じられない状況に、女性の1人が悲鳴を上げたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
チーム「夜明けの星」がそこにたどり着いた時、彼・彼女らは壊滅寸前であった。
彼は最初の一撃で倒れ伏しており、軽戦士の女性も倒れている。今は弓師と魔法師の2人がけん制し、斥候がオークたちを倒れた2人から引き離そうとしていた。
しかしオークの数が多く、すでに取り囲まれていると言って良い状況だ。
どうする?、とシンジがリーダーであるジミーに目で問う。
ジミーも彼らが何を企んでいたかくらいは察した。おそらくこのオークたちが、自分らに差し向けられようとしていただろうと。それでも冒険者は助け合いが基本理念だ。魔物が獲物であれば奪い合いの争いにもなるが、襲われてピンチであれば助力を申し出るのが常套でもある。
もちろん、確認のための声かけは必須。
そしてジミーの頷きと共に、シンジが飛び出した。
「シンジ、声かけ!」
「‥‥あっ!」
サニアのツッコミも間に合わず、シンジは取り囲もうとしていた手前のオークを短剣で突き刺したところだった。
「助けは要るか?」
「助けて! マリオンが死んじゃう!!」
後付けの確認に、弓師の女性が叫んだ。
視線で後方は任せたと、シンジは中央へと飛び込む。その意思を察したジミーたちは、手前の5匹を引き付けようと、まずはジミーのシールドチャージ。次いでサニアの矢とルイーザの魔法がオークを襲う。
「え? ちょっと!」
飛び込んで来たのは、珍しい黒い髪色の少年。いつもけん制だけで他の3人に守られていたような立場の少年だ。そんな彼が最も危険な中央へと乗り込んできた。それは心配にもなり、斥候の女性が驚くのも無理はない。
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