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第2章「冒険者で稼ごう!」
第14話「オークで稼ごう!」
しおりを挟む2人が倒れ、残りの3人ではとてもさばき切れない数のオークに囲まれていたが、そこに黒髪の少年が飛び込んできた。
確か9級である「夜明けの星」の中で、ただ1人10級の少年だ。それはギルドで他の冒険者たちから口伝てで聞いた。そして実際の討伐ではけん制に努め、他の3人が戦っていたのも実際に見た。
この黒髪の少年が最も弱いはずだ。
しかし、目の前の状況はどうだ。
少年は素早い動きで左に右に、そして次々にオークを倒していく。それもほぼ一撃。
刃渡り40センチほどの長ナイフというか、短めの短剣というか、2本を両手に持ち、オークの胸や背中を刺していく。おそらく心臓をひと突きなのだろう。
またついでに振るった剣先は、オークの首筋や脇、股間、ひざなどを裂き、これも一撃で無力化していく。
これが10級の戦い方だというのか?
しばし呆然としていたが、オークの1匹が倒れた軽戦士の女性に手を伸ばしたので、弓師の女性は慌ててそのオークに矢を射った。
矢はしっかりとオークの顔に当たり、オークの悲鳴に気付いたように少年が突進する。
そして胸をひと突き、勢いのままオークを蹴り飛ばして軽戦士の元に着地した。
「ほらよ」
少年は軽戦士を弓師と魔法師の所に引きずって下ろし、今度は色男の元に向かう。
並みの剣ではこうも立て続けに乱用すると、切れ味がもたない。案の定、少年の剣の片方が中央あたりで折れた。少年は当然のように剣を投げ捨て、背中の方からもう1本を取り出すと、再び両手剣で色男の周辺のオークに襲い掛かる。
数度の攻撃で3匹のオークを倒し、今度は色男を2人の所に投げ捨て、次に斥候の女性が相手をしていた大きなオークへと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ここまで、シンジは一度も短剣で切り結んでいない。
そんな事をしていたら、もっと早くシンジの短剣は折れていただろう。オークの攻撃はすべてかわし、短剣は攻撃にしか使っていなかったのだ。
それも刺突攻撃ならばもっと長く使えただろうが、斬りつけた場合はやはり骨に当たる。
安物や古い短剣では、そう長く保たないので仕方がない。
実はこれ、武器屋で買った短剣ではなく、ジミーたちと出会う前、スライムとしてゴブリンやオークの集落を襲った時に入手したものだ。錆びたり古くなった鉄製剣を砥ぎ直し、使えるようにした物なので元手はかかっていない。長さが中途半端なのも、折れた長剣を仕立て直した物だったりする。
グリップはちゃんとした仕立てではなく、簡易に布や皮ひもを巻いただけ。一応、芯はニカワで接着してあるが、このニカワも魔物や野獣の皮を煮詰めた自家製である。
乾燥するまでは酷い臭いだった。
さて、斥候の女性がピンチだ。
ちょうど巨大オークが、これまた大きな棍棒で斥候を弾き飛ばしたところだった。斥候は倒れた拍子に意識を失いかけた様子で、立ち上がろうとしてまた転んでいる。
下卑た笑い声で棍棒を振り上げるオーク。
おそらく背後でオークが全滅に近いのに気付いていないような余裕を見せている。シンジが駆け寄ったのも気付いていないのだろう。その棍棒で斥候のひざを壊し、逃げられないようにしようというのだろうが、さすがにそれは痛そうなのでシンジも見逃す訳にいかない。
背中を短剣で刺す。
しかし軽い音を立てて短剣は根元から折れた。
巨大オークはつぎはぎだらけの革製ベストを着ていたが、どうやらその下に金属を仕込んでいたようだ。短剣の刃はほとんど通っていない。
しかしそれも想定内。
もう片方の短剣で、オークのむき出しの肩を狙う。それも関節の筋を狙って。
まがりなりにも鉄製の短剣、折れたけれど肩の骨に当たるまで切り裂いた。
振り上げていた左手の肩を切り裂かれ、オークは悲鳴を上げる。
激痛に左の握力は失われ、思わず棍棒を振り落とした。もちろんシンジの攻撃は止まない。
新しく取り出した2本の短剣で左右のかかとの腱を割く。これも骨に当たり一発で短剣はダメになったが、気にせず今度はオークを回り込み、前方の斥候の女性を引きずり距離を取る。
斥候を横たえた時に、地響きを立てて巨大オークが後ろに倒れた。
痛みか驚異か、悲鳴のような雄叫びのような大声を張り上げ、立ち上がろうと悶絶しているオークにシンジは近寄り、今度はピックをその手にする。
こんな串のような武器は武器屋にもない。サーベルかレイピアのような古剣の使える先だけを短剣に仕立て直した物だ。グリップは他の短剣と同じように、布や皮ひもの簡素な作りである。
シンジは暴れるオークの傷付いた左肩を踏みつけ、掴みかかる右手を蹴飛ばし、その額にピックを突き刺す。
そしてオークは短く悲鳴を上げ、絶命した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
チーム夜明けの星が到着してわずか5分。
たった5分で周囲が静かになっていた。
ジミーたちも周囲を取り囲もうとしていたオークを倒し終えたようで、木々の開けた主戦場だった場所にやって来て、その惨状に閉口していた。
シンジがそれなりに強いのはわかっていたけれど、まさかあの短時間でここまでとは、である。
もちろんそれは色男のチームも同じで、まさか9級のチームがオークの群れを、それも10級の少年がその多くを屠ったなど、実際に目撃していなければとても信じられない事だった。
しかし呆けていたのも数瞬だけ、それよりも重要なことを思い出す。
「ねえ! 治癒魔法、使えるんでしょ? マリオンを助けて!!」
女魔法師はもう魔力が空なのだと泣き叫ぶ。
ジミーとうなずき合い、そしてシンジはルイーザにうなずいた。そしてルイーザが色男、マリオンという名らしい者に治癒魔法をかけるけれど‥‥。
「ダメ、私の魔法では身体の奥まで治せない‥‥」
「そんな‥‥マリオンはもう助からないの‥‥?」
しかしマリオンを救う手段はあった。その手段について、ジミーやサニアとも相談するシンジ。
こういうのはリーダーであるジミーの役割なのだが、さすがに今回は面倒な取引物件なのでシンジに一任された。シンジは懐の皮袋から取り出すフリで、スライムの体内庫から1本の細いビンを出した。
「これはうちの虎の子の中級魔法薬だ」
「あ、ああッ、ありがとう‥‥」
中級と聞き喜んで手を出す女魔法師に、シンジはかわすようにビンを頭上に逃がす。
「‥‥え?」
「希少で高価な魔法薬だ。これを渡すには俺たちの安全が半分になることに等しい。その対価として何が出せる?」
「え‥‥あ‥‥ソレは‥‥」
シンジの言葉に、黙り込む女性たち。
そして3人は相談し合い、シンジに向き直った。
「6万ギル支払います。それで良いですか?」
ちなみに6万ギルで60万円相当、金貨で6枚になる。中級魔法薬の相場の6倍というところ。良いのかとシンジが確認するが、命には代えられないとうなずいた。
そうして使った中級魔法薬のおかげでマリオンの内臓損傷は治り、一命を取り留めることが出来たのである。
ルイーザの魔法で女軽戦士は目覚めたが、重症だったマリオンは昏睡状態のまま、シンジが木の枝と皮ひもで応急的に作った担架に乗せて、女性たちは街へと帰って行った。オークの討伐権利は全て譲ってくれるそうだ。
シンジたちは討伐証明のためのオークの鼻を削ぎ、帰る準備をしていたが、シンジがオークを体内庫にしまっているのに疑問を唱えた。
「オークなんて魔石も無いし、素材としても二束三文だし、持って帰る必要あるの?」
サニアもジミーも、ルイーザの言葉にうなずいている。ってゆーか、その質問にシンジが衝撃を受けたくらいだ。
「え? オークってすっげー美味いのに、食ったりしないの?」
「えええ~~~? それはスライムだから美味しいんじゃなくて?」
そういえば、とシンジは思い出す。
エルゲの街でも、肉といえば山鳥かヘラジカ、茶色イノシシくらいしか見ていない。てっきりオークはその美味さから高級食材で、一般市民の口には入らないのだろうと思っていたくらいだ。
そうじゃなく元々から食べる習慣が無かった訳で。
だとしたら前回のオーク買取価格も納得だ、あんなに安いとは思わなかったし。素材にもならず、食肉にもならなければ、捨て値なのもうなずける。
逆に今まで食べてみようと試した者が居なかったことが疑問でもあるが、獣人の一種と考えられていたのであれば、忌避感はあっても当然かも知れない。
それで3人だが。
スライムの体内庫に仕舞い、血抜きをする。内部だけだがスライムとして吸い取るので楽々お手軽である。また血抜きをせずに放置しておくと、ひどく生臭い肉になってしまうので、早目の処置が必要なのも面倒の一端かも。
そして皮を毛ごと、そして頭や内臓、骨などをスライムの吸収能力で除く。
処置された肉を取り出せば、アラ不思議。肉屋でよく見かける「枝肉」にしか見えなくなっているという結果に。これに実家が猟師だというサニアが食いついた。
「これ、本当にオークの肉? イノシシの足肉にしか見えないんだけど!」
「ふふふ、しかもイノシシよりも格段に美味い」
本来ならばこんな大森林の中、どこから野獣や魔物が出てくるかわからないような林間で食事やましてや料理などするはずもないのだが、シンジは手早く厚切りに切り分け、短剣に刺して火魔法で熾した火に炙る。
さほど時間もかからず、オーク肉の串焼きの完成だ。
味付けは塩のみだが、高級肉は単純な味付けの方が、逆に美味さを実感できるというもの。さっとひと口サイズに切り分けて、大き目の木の葉に盛って供する。
「うそッ! 何これ! 何これえええぇぇぇ!!」
「‥‥美味しい。こんな美味しい肉、初めて」
「うわぁ、マジか、マジでオーク肉、美味ぇ!」
忌避感の薄かっただろうサニアが手を出し、サニアの様子にルイーザが、ジミーが試してみて驚く。自慢げにシンジもひと口、やはり塩のみでも高級豚肉は美味い。
オークの美味さを知ってしまった3人は、シンジと額を突き合わせて悩む。今後のオーク肉の取り扱いだ。
「確かに美味かったが、オークってだけで嫌う人は多いと思う」
「そうね、枝肉にしてしまえばイノシシと同じだけど‥‥嫌がる人は居るわよね」
「だからさ、俺たちだけで食えばいいんじゃない?」
「そうね、他の人には内緒で良いわよね?」
「でもそうなると、街に居る間は食えないってことか」
「まあまあ、たまのお昼のごちそうで良いだろ?」
「シンジの手料理? 手料理?」
「わかったわかった、だからはしゃぐな」
シンジの体内庫に大量に保存されたオーク肉。これからの食生活に期待と楽しみが増え、皆は色男チームの不運などすっかり忘れ去っていた。
元から全く親しくもなく、他人事なので仕方なくはあるが。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そしてチーム夜明けの星はエルゲの街に戻り、ギルドでゴブリンと薬草の依頼を達成し、オークの討伐を報告して報酬金を受け取るのだった。
残念ながらオークもさほど討伐報酬は高くない。けれど数が多かったため、それなりの金額を受け取ることが出来た。
いつものように報酬を皆で分けて、けっこうな金額をチーム資金に割り当てることができ、皆はホクホクで宿に帰るのだった。
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