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第2章「冒険者で稼ごう!」
第15話「オークの巣で稼ごう!」
しおりを挟む「ほぅ? そんな事が」
「ああ、あいつらには不幸な事だが、これであいつらが諦めてくれれば御の字かな」
「で、オークの巣に話がつながる訳だな?」
シンジは事の次第と、色男のチームに聞いた大森林の浅場近辺のオークの巣の事を、依頼達成報告の際に冒険者ギルド支部長に簡潔なメモで報告しておいた。
そしてルイーザが宿で寝入った後、ギルドに出てきたら支部長に捕まった、という訳で。
実際に睡眠の必要のないシンジと違い、支部長がこんな遅くまで残っていて明日は大丈夫なのかと心配になるが、どうやらオークの巣のことが気になって直接に話したかったらしい。
訂正、押し付けたかったらしい。
夜の支部長特別依頼は、実際にはシンジの昇級評価にカウントされていない。それはシンジがまだ10級であるためで、通常の評価では成り立たないものだからだ。昇級評価には依頼達成の際にポイントのような評価制度があり、10級のシンジでは数回、もしくは1回で昇級してしまうような、難度の高い特別依頼を回しているため。
つまり、登録から日も浅いのに9級や8級になってしまうと、他者の目からは贔屓とか特別扱いしている感じに映る訳で。
なのでシンジも納得の上、昇級は昼間の評価で、夜は評価なしの金銭報酬だけで働いているのだ。
で、今回の依頼。
『オークの巣の殲滅』なのだが。
「浅場を依頼の場とする低級冒険者の安全のためにも、ちゃっちゃと済ませちゃって?」
「俺も‥‥低級なんですが」
「まあまあ、報酬はこれくらいで」
提示された金額は、依頼内容としてはかなりお安めだったが、個人の収入としては悪くないものだった。具体的には金貨1枚、1万ギル。10万円相当。
それでもオークの巣となれば、少なくても20匹、多ければ50匹は居るだろうから、本来なら6級か7級のチームを3組以上は差し向けることになる。そうなると2万ギル以上の報酬になるから、ギルドとしては半額以下の金額で済む。
ゴブリンやオークなどの魔物討伐は、街の予算から出ることがほとんどのため、これは街にもギルドにも嬉しい依頼だ。
しかも低級冒険者たちのためと言われれば、シンジも断れなかったり。
「わかりましたよ、行けば良いんでしょう、行けば」
「すまんね」
ひげまみれのドワーフの顔をくしゃくしゃにして笑う支部長。
本当に申し訳ないと思っているかは、はなはだ疑問だ。
シンジはため息ひとつ、手を振って支部長の部屋を後にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夜間は街壁の通用門も閉じられているため、見張りの無い端のほうから乗り越えて外に出る。
そして走ること10分、シンジの姿はオークの巣の近くにあった。
一般の人なら2時間弱歩く距離だが、シンジの足では、正確には途中から触手を使った某クモ男のような高速移動では、10分くらいでたどり着ける。距離にすれば10キロメートル有るか無いかだ。
これも周囲の目を気にしなくて良いおかげだ。
わずか10キロメートルと思うかも知れないが、移動手段が徒歩か乗馬、馬車しかないこの世界ではちょっとした距離だ。しかも木立や藪、アップダウンの多い森の中とくれば、この世界の人にしては「隣の町」くらいの遠い認識になる。
とはいえ、大森林にしてみればかなり浅層ではあるが。
オークの巣。森の中だが少々開けた場所、平地ではなくせり上がった斜面に洞穴が掘られていて、その前にはかがり火を炊いて夜番の見張りが2匹。そして洞穴周辺には掘っ立て小屋が20程。
その掘っ立て小屋を見て、シンジは舌打ちをする。
周囲の木を切り倒して建てたであろう木組みに、恐らくは赤森熊らしき大きな毛皮をかぶせた、ちょっと堅牢なテントのような造り。つまりはこの巣に、赤森熊を狩る実力があるという事。
そうなると騒がれ、集まられると面倒だという事だ。個別殺害が好ましい。
そこからのシンジの行動は早かった。
スライム化して小屋にもぐり込み、寝ている4・5匹を1匹ずつ顔を塞いで心臓や首をひと突き、体内庫への収納。その繰り返し。
中には1匹で小屋1つを使っている大物も居たが、寝ていれば関係はない。
そして洞穴の前の夜番2匹を倒せば、残りは洞穴の中だけとなる。夜番すら地面に擬態していれば、難なく仕留められた。
さて、洞穴の中は――――。
「檻?」
明かりがないので薄暗いが、表のかがり火から漏れ伝う光だけでシンジには様子が伺えた。
そこは簡素ながら木製の檻。洞穴はそんなに深くなく、繁殖用のヒト族の女性を捕らえておくための物のようだ。
道具や武器を使わず、人力だけでは破れない強度があるようで、ヒトを閉じ込めておくなら充分なのだろう。
女性たちは衣類を奪われており、むき出しの岩床の上で寝ているようだ。その人数は4人で、ヒトが3人、ドワーフが1人、うちヒトの女性は妊娠しているように見える。
長く捕らえられていたのか、残念ながら4人とも正気を失っているようで、話しかけてもまともな返答は返ってこない。こうなっては治す手段は無いとされていて、高価な状態異常の魔法薬でも効かないとか。
おそらく鎮静効果のある薬で、長期間取り組めば多少は改善するのだろうが、それは裕福な家の女性でなければ難しい処置だろう。実際に支部長からは、こういった被害者は処分して良いと言われている。
本当に生き物に優しくない、弱肉強食の世界だとシンジは思った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夜半過ぎにシンジはギルドに戻り、まだ起きていた支部長にオークの巣の報告をした。
どうやら支部長自ら夜番をしていたらしい。
オーク72匹、被害者女性4人の報告をし、巣のあった場所を地図に記す。地図とはいえ元の世界にあった詳細なものではないが、概略でも記録に残しておくためだ。
それと魔物の巣や集落を片付けた場合、小屋や施設などは燃やすなどの再利用させない処分が必要なのだが、シンジはほとんど体内庫に仕舞っていた。森赤熊の毛皮など、そのうち忘れた頃に素材として売却するつもりである。
「そうそう、美味い食材を狩ったんですけど、食べてみます?」
「何だ? また魔狼でも居たのか?」
シンジが取り出した串焼肉を、何かの魔物かと思い、支部長は嬉しそうに受け取った。
さすがの上肉は冷めても美味い。あっという間に支部長は食べ切る。
「なんだこれ! これまで食べたことのない美味さだな!! 何の肉だ?」
ニヤリと人の悪そうな笑顔を残し、シンジは何も答えずに部屋を後にした。面倒な依頼を押し付けられた報復だ。
おそらくオークの肉だとは、予想もできないだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数日後の夕刻前。
シンジの姿はエルゲの街の外周部にあった。とあるドワーフの女性に擬態し、10歳かそこらの少女に声をかけている。
生活水路で芋を洗っていた少女は首をひねっていた。
「おばちゃん、だあれ?」
「おばちゃんはね、お母さんの友達さ。リリーちゃんに渡すものがあってね、久しぶりにこの街へやって来たのさ」
そして渡されるのはネックレス。そんなに高価な品ではないが、きれいに磨かれてそれなりの輝きを放っていた。
「こ、これ! ママのネックレスだ!」
「そう、お母さんからこれを渡すようにと、頼まれていたのさ」
「でも‥‥ママは去年、駅馬車が魔物に襲われて‥‥」
ネックレスを抱きしめるように、涙をこぼす少女。
そんな少女の頭を、慈しむようになでる女性。
「お母さんの事は聞いたよ。だから早くこれを渡して上げたくってねぇ」
「ママ‥‥ママのネックレスだ。帰ってきた‥‥」
しばらく少女をなでていたが、よいしょと立ち上がり去る女性。
「お母さんはリリーちゃんのことが大好きだったよ。リリーちゃんもお母さんのことを忘れないであげておくれね」
「ありがとう! ありがとう!」
こうして、その少女は母親の遺品を手にすることが出来たのだった。
その場を離れ、裏路地を通って元の姿に戻ったシンジは、内心で大きな安堵を感じて空を仰ぐ。
ずっと、ずっと気がかりだったのだ。
娘が落胆していないか、生きる希望を失っていないか、と。
その気がかりを胸に、オークの巣から持ち帰った雑多な品の中にあったネックレスを渡しに来たという次第。
オーリィの時もそうだった。
魔物や野生動物ではありえない、ヒトの場合は大きな後悔などがシンジの心を埋め尽くすのだ。残留思念とかいうものだろうか、そんなオカルト染みた現象である。
もっとも自分自身も転生している訳だし、魔法もあるこの世界でオカルトというのもおかしな話ではあるが。
その後も、子供に擬態し「渡すように頼まれた手紙」を商店主に届けたり。
野良犬に擬態して指輪を貴族の屋敷に届けたり。
カラスに擬態して財布代わりの巾着を孤児院に届けたり。
シンジがその色鮮やかな巾着をオークの収集物から見付けた時は空だったので、オークの集めていた貨幣に金貨を5枚足したりしたけれども。
宿に戻る頃には夕食の時間となっていた。
「今日はどこ行ってたの?」
「ん~~~、ちょっと野暮用」
「ふうん?」
シンジが言葉を濁しても、ルイーザは特に追求しない。
「もし、もしもだよ? ルイがオークにさらわれたらどうする?」
「それって‥‥そういう意味だよね?」
「う、うん」
「シンジと一緒なら、そんな事にはならないと思うけど‥‥そうね、シンジが助けに来てくれるのを待つかな。たぶん、自害はしない」
「そっか」
シンジとルイーザの部屋。
シンジは自分の肩に寄りかかってくるルイーザの頭を、優しく抱いてなで付ける。
「絶対に助け出す。もうルイの居ない世界は考えられない」
「ふふっ、頼りにしてます」
何かあったんだろうな、とルイーザは思った。
そして何か悲しかったんだろうな、とも。
実はシンジが再々、夜中に出かけていることをルイーザは知っていた。
さすがに何をしているかは知らないが、シンジが言わない以上はルイーザも追求したりしないだけなのだ。
心配ではあるけれど、おそらく浮気とかそういうのではない、とルイーザは思う。
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