スライムの、のんびり冒険者生活

南柱骨太

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第2章「冒険者で稼ごう!」

第16話「キノコで稼ごう!」

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 実は、自分の事ながらシンジの擬態能力はかなりの謎だ。

 先日保護してきた魔狼の仔2匹なのだが、現在昼間は冒険者ギルドの受付カウンターの端でマスコットと化している。
 離乳はかろうじて済んでいるようで、主に冒険者たちから生肉や味付けなしで焼いた肉をもらって嬉しそうに食べていたりする。そのお陰で、シンジの負担する餌代は非常に少ない。
 とはいえ保護しているだけで、継続飼育はできないし、処分するか野に放つかを支部長からきつく申し渡されている。
 処分反対の嘆願書がギルドの受付嬢を中心に上がっているらしいが、それはシンジの責任ではないので、支部長に叱られても困るだけだったが。

 さて、擬態の話だ。

 今後、野生に返すためにシンジは2匹を、夜な夜な連れ回している。
 街に戻って来たり、冒険者や採取家の障害になるのを恐れ、はるか南の森にまで出かけて狼に必要であろうことをひとつひとつ、じっくりと、遊びを交えて教えていた。
 最初はヒトであるシンジが魔狼の姿になることに驚いていたが、そこは仔としての柔軟さかすぐに慣れ、森を走り回ったり、臭いを探ったり追ったりと、獲物を狩るための基本的なことを教えていく。これまた仔としてか、スポンジが水を吸い込むようにすぐに覚えていく2匹。
 保護直後は本当にピーピー鳴くだけだったが、すぐに魔狼の言葉が通じるようになったので、指導は結構ラクだ。これも不思議な話で、教えてもないのに言葉が通じるとは、さすが魔物というところか。深く考えたら負けのような気のするシンジだった。
 そんな教習の夜が何度も続く。
 シンジも夜の依頼があるため、毎晩ではなかったが、そこそこ頻繁に。

 スライムに性別はない。
 とはいえ元々、シンジが前世で男だったのでヒトの時には男として生活している。しかし魔狼の仔たちは習性なのか、シンジに甘えてくることが多々あった。なので魔狼の姿をとる時は母狼として接していたりするのだが。
 甘えが高じて母乳をせがまれることがあったりするのだが、これまた親魔狼の習性か、なんと母乳が出るようになってしまった。
 擬態ってそういうものだっけ?
 シンジの疑問ももっともだ。
 擬態とは「姿を真似る」ことであり、中身まで魔狼になってしまう訳ではないと思って居たからだ。
 満足げな仔狼の様子から、母乳も本物の母魔狼と違いは無さそうで。

「まま、おなかいっぱい」

 今も狩りの教習を終え、仕留めた鬼ウサギの肉を食べ、母乳を飲んだ2匹はさすがに眠そうにしている。もう少しで夜明けだ。
 寝かしつけた2匹をスライム体の籠に入れ、鳥に擬態してエルゲの街に戻る。
 鳥の姿なら卵も産めるのだろうかと、バカなことを考えるシンジであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 南の森は危険な魔物や野獣は少ない。
 身を潜めるほど木々や藪が深くないためだ。その分小動物が多いので、仔狼たちが巣立っても大人になるまでは暮らしていけるだろうとシンジは考えた。
 そして多くの小動物を賄えるだけの植生も豊富だ。

「おっ、土キノコ?」

 なので森の中ではちょくちょく野草を見かける。
 土キノコとは正式な名付けがされていない、トリュフのような香り茸。トリュフと同じく地中に生えるため採取も難しく、希少性も合わせてけっこうな価格で取り引きされるキノコだ。
 魔狼の姿のためか、シンジはその匂いを敏感に感じ取れた。

「まま、それ何ぁに?」
「土キノコっていう、ヒトが喜ぶキノコだよ。他にも無いか探してごらん」

 シンジが前足で土キノコを掘っていると、仔狼たちが興味を示してのぞき込んでくる。
 そしてそう言ってやると、遊びのようなもので仔狼たちもあちこちと地面の匂いを追って行った。

「あったー!」
「こっちもあったよ、まま!」
「そうか、壊れないように掘り出すんだ」

 キャッキャと楽しそうに地面を掘る仔狼たち。
 シンジは周囲を警戒しながら、掘り出した土キノコをスライム籠に集めていく。ふと、周囲を見て気付いた。
 昨日の雨のせいか、ポツポツと色んなキノコが生えている。
 木の幹にへばり付くように生っているヒラタケのようなもの。
 木の根に密集するように生えているシメジっぽいもの。
 倒木には明らかにシイタケっぽいのも生えていた。
 さすがに毒キノコの判別はつかないが、前世と同じようなキノコならば食べられるだろうキノコがあったので、集めていく。籠はすぐにいっぱいになったので少し大きめに変えた。
 仔狼たちも次々と土キノコをくわえてやって来る。

 キノコの採取だけでけっこうな時間が過ぎた。
 さすがに今夜は狩りができなかったので、体内庫にある肉を食べさせ、母乳も飲ませて帰ることにする。

 そしてギルドにて。

「あら、どうしました? 今夜はお休みでは?」
「子供らの訓練に出ていてね、森でこんなのを採取してきた」

 素材買取カウンターにて、受付嬢の前に籠をひっくり返す。

「あら、キノコじゃない! こんなにたくさん!」
「さすがに種類はわからないんでね、そっちで判別してくれるか?」
「判別? 何の?」
「毒キノコが混じってたら困るだろ?」
「毒キノコ? そんなのあるの?」

 あれ?、とシンジは首をひねる。
 どうやらこの世界には、毒キノコという意識はないらしい。美味い不味いの差はあれど、ほとんどのキノコは食べれるそうだ。それは楽というか面倒がないというか。

「うわ、土キノコじゃない! それもこんなに!!」

 やっぱり土キノコは聞いていた通り、高額商品らしい。
 薬草系や食材系は商業ギルドから常時依頼が出ているそうで、大籠いっぱいのキノコはかなりの金額になった。
 金額の判定を行う男性職員が仕分けている間、受付嬢は普段見ない仔狼たちを、フニフニと突いていた。寝ているところを起こさない程度に。

 普段は依頼で出るためにギルドに仔狼を預けていくだけなので、夜間に仔狼を見ることは無い。なので「また連れて来い」と夜間の女性職員にきつくせがまれ、シンジは逃げるようにギルドを後にするのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「今日は食材採取に行こう」

 仔狼たちのことを説明し、チーム夜明けの星はギルドで採取用の背負い籠を借りて、仔狼たちを連れて大森林へとやって来ていた。
 ギルドでは仔狼を預けないのを非難されたが、独立訓練の一環と言い張って逃げた。
 支部長が懸念するのもわかる、ギルドの女性職員(一部男性職員)たちの結束は恐ろしいものがあるとシンジは感じた。もしこれで仔狼たちの巣立ちが叶ったら、ペットロスが蔓延するんじゃないかと心配になるほどだ。


 それはさておき、シンジは大森林を魔狼に擬態して先頭を歩く。
 もはや擬態とは呼べないかも知れないが。

「ここ、とこっちにもある」
(こっちも見つけた~♪)
「仔狼も見つけたらしいよ」

 シンジは次々と場所を指定し、仔狼たちの指示もジミーたちに伝える。
 さすがに仔狼たちの言葉は、ヒトには通じないためだ。

 今日はいつもの武器ではなく、大きなシャベルや手持ちの小さなスコップ、ハサミなどを持つジミーたち。もちろん盾や弓などはシンジの体内庫で、魔物に襲われた時にはいつでも渡せるようにしてある。そんな装備で、ジミーもサニアも次々と土キノコを掘り出していく。
 最初は失敗して、土キノコを傷付けたりしたけれど、すぐに要領はつかめたようで、仔狼たちが掘るよりも確実に早く採取できていた。
 仔狼たちも教えた場所を掘ってくれるのが嬉しいのか、次々にこっち、こっちと誘ってくる。

 3時間近くでけっこうな量の土キノコが採取できていた。もうお昼だ。おそらくだが、かなりの買取金額が予想される。
 いつもの昼食、今日は丸パンに果物の甘煮をはさんだもの。
 色々とサンドイッチの具は考えるのだが、宿屋の料理人に教えると後々が面倒なため、しばらく前からシンジの手作りになっていた。パンは市販品の安物だが。
 面倒というのは、いわゆる利権問題。
 シンジはそんなもの要らないのだが、考案者の権利とかで宿屋の料理人やおかみがやかましいのだ。その事務手続きがまた面倒なこと面倒なこと。
 そして仔狼たちには軽く焼いた、半生のトカゲ肉。
 火は使わず、魔法で焼く。

「相変わらず器用な魔法の使い方するね~?」
「そうか?」

 火の魔法で焼くのだが、中央は空洞の「火のボール」で焼いているのだ。それも低温。
 通常、火の魔法は攻撃や着火に使うため、400℃~800度程になる。魔法使いはそれを意図するために、さして温度までは気にしていない。せいぜいが魔力をつぎ込んで大きな火の玉にするくらいだ。
 しかしシンジは、180℃くらいの火で調理に使う。逆に攻撃には火の玉を圧縮し、2千℃を越えるような小さな粒にして使用していた。前世の科学知識が無ければできない芸当だが、それをルイーザは呆れ、感心し、そして逆に習っている。
 そりゃ同じ魔力量の火の玉でも、軽く火傷を負わせるものと、当たり所により瞬時に無力化できるものと、使い分けられれば便利だからだ。
 料理に使える低温の火魔法も習ってはいるが、なかなか成功していないのもルイーザの悩みどころ。

 さて、食後。食休みである。
 仔狼たちは乳をせがんだが、今日からは卒乳だ。あまり甘えさせるのも良くないのと、今日はジミーたちの目があるからだった。
 主な理由は後者。ついでに卒乳を企んだだけ。

「ぶつぶつ言わないの。それともあんたたち、まだ赤ちゃんなの?」
「あ、赤ちゃんじゃないもん!」

 そろそろ魔狼として生きていく、プライドを刺激したらしい。
 本来なら大森林の中で食休みなど自殺行為にも等しいが、シンジの聴力と気配察知のお陰で、皆はグータラできていた。シンジの便利さに感謝感激雨あられ。


 お昼からは薬草野草のたぐいを帰り道の歩きながらに採取し、エルゲの街に戻った。
 当然のように土キノコの量に驚かれ、その他の採取物と併せてけっこうな金額に。
 仔狼たちに惹かれるギルド職員を振り払い、早い時間に宿へ戻る4人と2匹。

 定宿である「こまどり亭」では仔狼たちをシンジとルイーザの部屋で寝かせている。本来、従魔や使役魔物などの召喚獣でない獣は馬房に寝かせるルールなのだが、まだ小さな仔狼のため「部屋を汚さない」ことを条件に、部屋に連れ込むことを許されていた。
 ちなみに「召喚獣」とは、戦闘時などに召喚魔法陣から呼び出すもので、普段から連れ回したりしないので寝床は不要なのだという。

 先に2匹の食事と毛洗いを済ませ、2匹を寝付かせてからシンジたちは夕食を済ませた。
 そして行水を済ませ、今度はルイーザを寝かし付ける。


 深夜、シンジと仔狼たちは大森林へと赴いていた。

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