スライムの、のんびり冒険者生活

南柱骨太

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第3章「迷宮へ行こう!」

第21話「チームのダンジョン入り」

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 チーム“夜明けの星”は無事にオーク迷宮へと入ることが出来た。

 場所はエルゲの街から北西へ徒歩2日。直通の駅馬車だと2時間半かかる距離を、歩いて行くか駅馬車に乗るかをメンバーで話し合ったが、結局シンジが3人を背負って行くことにした。
 3人が座れるようなゴンドラに変形し、人目を避けて森を突っ切ったのである。馬車でも2時間半かかる距離を、シンジなら1時間で着くことができた。サニアは最初こそ、その速度に怖がったがすぐに慣れてくれ、残りの2人は最初から大喜びだったのは幸いだ。
 ただ、迷宮に入るのに、行列に並ばなければならないのは、少々予定外だったけれど。

 崖に建てられた神殿のような建物に入ると、受付で税金として入場料金1人100ギル(銀貨1枚)を支払い、冒険者ギルドのカードを示して地下への階段を下りる。そこがもう迷宮だ。
 入ってすぐはホールになっており、そこからいくつかの通路が伸びている。

「おおぅ‥‥これが迷宮かぁ‥‥」
「けっこう広いねぇ」

 初迷宮の感慨もそこそこに、チームは装備をチェックし、隊列を組んで右の通路へと入っていく。
 通路もさほど狭くない。幅10メートル、高さ4メートル程で、地下通路と言うより整備されていない工事中の地下道という雰囲気。第10層までは岩と土のむき出しな洞窟風である。
 地下だが通路はなぜか暗くない。天井とか壁が暗くない程度に光っている感じで、動き回るには不便しない。だが所々にある部屋は明かりがなく、光魔法かランプが必要になってくる。ちなみに部屋にはもれなく魔物が居たりするので、明かりを点けるにしても戦略上の注意が必要だ。

「魔物って急に沸くの?」
「いやいや、普通に巡回しているだけだから、森で出会うのと変わらないって」

 実はオーク迷宮にはランクが8級以上でないと入れない。それはそれだけの危険度があると見なされているからだ。冒険者ギルドとしても、初心者や中堅の冒険者を失うことは損失だと考えているということでもある。
 なのでシンジは、8級に昇格した日の夜から独自に迷宮に入り、下調べを行っていたのだった。少しでも危険性を下げるためだが、その辺りの情報はメンバーに説明済み。
 ちなみに夜間の迷宮探索がルイーザにバレた時、涙目で説教されてシンジが土下座したのも、今では良い思い出‥‥か?

 1~2層はスライムやコウモリ、イワトカゲなどの小物。3~5層はそれにゴブリンやオーク、コボルトなどが混じる。
 そうした情報を知ってはいても、通路の先や他の場所で他のチームやパーティーが戦っている様子や喧騒を聞くと、何やら不安になるようだ。

 チームとパーティーの意味は、常日頃から同じメンバーで行動する、ギルドにも届け出ているグループがチームだ。もちろんチームを組んでいても、バラバラに行動することも可能。
 そしてパーティーとは同じ依頼や目的のために、臨時に集うことをパーティーと呼称している。こちらはギルドへの届けは必要なく、様々な契約により結成したグループである。人数が必要な場合にチームが複数集まってパーティーを組むとか、そんな感じ。

 この辺りはまだ人が多いため、他の人々の様子がわかる状況であるけれど、もう少し奥層に行くと他の人に会うことすら珍しくなる。しかも1層はまだ「お試し」エリアなので、討伐もそんなに苦労はしない。

 隊列は前がシンジ・ルイーザペア、後ろがジミー・サニアペアで進んでいく。
 敵と遭遇すれば、前シンジ&ジミー、後ろルイーザ&サニアに変更する計画だ。後方から追うように魔物が現れることもあるので、この並びは割と合理的でもある。
 そしてついに、迷宮初魔物遭遇。

「‥‥スライムだね」
「スライムだな」
「あ、逃げるよ!」

 数で襲われると難儀なスライムだが、1匹2匹だと相手にもならない。
 ジミーが剣でコアを刺し、あっけなく終了。
 そして死体は溶けて消える。

「‥‥本当に消えるんだ、スゲぇ!」
「迷宮なんだねぇ」

 そう、大森林などで出会う魔物と違い、迷宮の魔物は倒すと消える。そして相手によってはドロップ品というアイテムを残すのだ。魔石であったり装備品であったり様々だが、浅層の弱い魔物ではドロップ品は滅多に出ない。
 なので迷宮で稼ぎたい者は深層に、訓練目当ては浅層を目指す傾向にあった。チーム夜明けの星は後者である。
 迷宮で消え失せるのは魔物だけではなく、冒険者も死亡すると溶けて迷宮に吸収されてしまうらしい。シンジも独自調査の時に何度か「吸収されなかった遺品」を目撃したことがある。迷宮とはそういう不思議な場所なのだ。

「あ、銀貨」
「え? マジで?」

 ごくたまに、こうお金をドロップすることもあるそうだ。
 初迷宮、初戦闘、初貨幣。3人は喜んだ。

「さあ、じゃんじゃん行こうぜ!」

 堅実なジミーが珍しく燃えている。
 しかし4人の目指すのは4層以降である。1層にはあまり用は無い。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 そしてやっと4層。
 迷宮は定期的に、とはいえ10日とか20日とかランダムではあるけれど配置が変わる。そのせいで地図は役に立たないか短期的な物なので、ギルドでも売っていない。迷宮に入ってすぐのホールでたまに売られていたりするが、内容が怪しそうだし高価なのでシンジたちは買わなかったのだが。
 なのでここまでけっこう時間がかかってしまっていた。恐らく外はもうお昼だろう。
 そして初強敵がオーク3匹という、ちょっと不運。

「落ち着いて行くぞ!」

 隊列を変更してオークに挑む。
 ジミーが盾役でオークを引きつけ、後列からサニアとルイーザが援護攻撃。
 大森林ではオーク3匹ならば余裕で倒せるため、ここでもさほど緊張はない。
 そして実は、迷宮の魔物は外の魔物と比べ、若干弱い。おそらく外の魔物は生物として些少の知能があるが、迷宮の魔物はそれが無いのだと言われている。
 数が多ければ多少の連携はするけれど、意思の疎通とかが無いようで行動がバラバラだったりするからだ。それに外では劣勢とみれば逃げたりするのに、迷宮では最後の1匹になろうとも襲い掛かって来るのだ。
 知能が低いのではなく、無いのかも知れない。

 ともかく危ないと思えばシンジが加勢する予定だが、そんな必要もなく3人はあっさりとオークたちを倒していく。
 ジミーの盾は効率が増しているし、ルイーザの魔法も数とパターンが増えた。
 不安だったサニアの弓も、何となくコツを掴みかけているようだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 それは迷宮の入場列に並んでいた時のこと。

「迷宮ではこの弓を使ってもらいます」
「こ、これ? 一番安物の、初心者の弓じゃない」

 そう、武器屋で買える初心者用の弓だ。
 作りも良くなく、耐久度も低くて、無理に扱えば壊れ易い代物。そんな弓をシンジはサニアに渡した。

「大丈夫、壊れても予備はあるから」
「そうじゃなくって、これじゃ戦力ダウンだよ~~~」

 シンジが言うには、サニアには基本が整ってないとのこと。最初から名品「夜明けの弓」を使っていたために、技術ばかりが先行していて基本のアレコレが抜けているらしい。
 なので迷宮での訓練中はこれを使えとのお達しだった。
 そして技術指導も忘れない。

「サニアは弓を引くとき、いつも同じ力だよね?」
「う、うん、この弓は堅いから、どうしてもね‥‥」
「相手を狙う時と、牽制をする時では、力を変えれば良いんだよ」

 なので腰の弱く脆い弓で使い分けを慣れていくと良いんだそうだ。
 言われてみればそういう気もするけれど、やはり弓の弱体化による威力低下はサニアに不安を与えるのだった。
 そしてサニアの宝物である“夜明けの弓”は、シンジの体内庫に仕舞われてしまったのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「あ、あれ?」

 当初、サニアは思ったように魔物を狙えないでいた。
 ダメージ狙いで弓を強く引けば、サニアの力では見事に弓が折れる。なので力を加減しなければならないが、弱すぎると浅く刺さるだけ。
 それでも回数を重ね、シンジの指導も重ねると、何となくだが要領がわかってきた。今まで良い弓を使っていたという、技術があってこその理解であるけれど。

「深く刺さって、相手の動きを阻害するパターンは、実はそう多くないんだ」
「そうね、注意を逸らすだけなら、表面に刺さって痛みを与えるだけで良いのね」
「むしろ当たらなくても、視界に矢が通るだけで、狙われているという恐怖感が与えられるしね」

 サニアだけでなく、ジミーとルイーザの2人も指導に加わり、こんなパターンはこう、別のパターンならこう、と話は進む。
 元々、シンジが加わる前から仲良し4人組だったのだ、そうなると話は早い。

(ゴブリンだと振り払うのに、1、2、だったわね)

 ジミーが切り掛かってきたゴブリンを盾で受け、左に振り払う。
 そこにサニアの放った矢が突き刺さった。

「グギャ! ギャギャギャ!」

 そう深くないが、ゴブリンのオンボロ皮鎧を貫いた矢は、慌てさせるに充分な痛みを与えた。
 そこに追い討ちの、ルイーザの風刃魔法である、手足を傷付けられてゴブリンは倒れ込み、数秒間の無力化に陥るのだ。
 その隙に、ジミーはゴブリン1匹を倒し、無力化されているゴブリンをも剣の錆にしてしまう。さっき話した通りの連携プレーだった。

「うん、なんとなくいけそう」

 何張か弱い弓をダメにしてしまったけれど、サニアの自信は着実に積み重ねられているようだ。
 そこでシンジはサニアに謝っておく。これまで簡単な指導しかしていなかった事だ。

「本格的な連携は迷宮に入ってからと思ってた。そしてサニアの技術はその連携に深く関わってる。だからちゃんとした指示ができなかった、ごめん」
「ううん、ちょっと不安はあったけど、シンジのことだから何か理由はあるんだと思ってた」
「でも先に理由を教えておいた方が良かったんじゃないかしら?」
「それはそれで、混乱する恐れがあったから。外の、特に大森林では魔物がどこから飛び出すかわからないし、そこで慌てたら命取りだしね」
「そっかぁ、私に普段通りにしてもらいたかった、って訳ね?」

 迷宮では場所にもよるが、だいたいは前か後ろからしか魔物は来ない。つまり突発性のトラブルが起きにくいという理由で、シンジは連携訓練を迷宮で行おうとしていたのだ。
 そしてサニアの技術向上、習熟訓練は順調に進むこととなる。

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