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#1 レツオウガ起動
Chapter01 邂逅 02-06
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「まさか。ついでに言うと、犬耳の方も関係ないぞ」
まずかったのは、泉が風葉の髪を触ったこと、それ自体だ。
無形の霊力と言えば聞こえは良いが、要するに霊地とは人の雑念の吹き溜まりだ。言わば原油のようなものであり、精製するには霊力を操れる技術を持った人間が、フィルタとなって雑念を処理せねばならない。
スペクターが泉の意識を乗っ取ったのはそのためだ。霊体のままでそんな事をすれば、無形の霊力の中へ自分自身が溶け消えてしまうからだ。
無論、一般人の霊力量で目を付けられるはずはない。恐らく普段の泉なら、スペクターの声を聞く事すら出来なかっただろう。
だが、一時的に霊力が高まっていたとすれば話は別だ。
そう、例えば。元の色を塗り替えるくらい、強い霊力を保持した髪の毛を触っていたりしたら。
憑依は、きっと容易だったろう。
「にしても、枝毛を見つけられるくらいじっくり触られてたのかい」
「え? う、うん。シャンプー変えたのそんなにマズかったかな……」
人差し指を合わせてもにょもにょする風葉だったが、やはり辰巳は振り向かない。ただまっすぐにフェンリルを捉えながら、速やかに思考を整理する。
名前は聞いた。自称スペクター、今はフェンリル。何故風葉と同じたぐいの霊力を用いたのか、今はまだ考えない。
目的も聞いた。夢。もっとも、それがどこまで本気なのかは分からないが。
行動を止める気がないのは、最初から問い正す必要がない。そうでなければそもそもこんな事態になるまい。
ならば、残っているのはあと一つだ。
「自称フェンリル。投降するつもりはあるか」
それは最後通牒。冷気を伴う辰巳の確認に、フェンリルは満面の笑みを返した。
「ありません! まったくもって! 最初の準備もつつがなく終わりましたしね!」
笑いながら、またもや風葉を見据えるフェンリル。その視線が示す意味を、辰巳はあえて考えない。思考を回転させる事は、後でも出来る。
「交渉、というほどのものでもなかったな。何にせよ、決裂だ」
言いつつ辰巳はヘッドギアを操作し、顔全体を覆うフェイスシールドを展開。更に右足を一歩引き、鋼の義手を盾のように掲げる。
紛れも無い戦闘体勢だ。
その背中に、風葉はハッと目を見開く。
姿形は変わっても、意識は乗っ取られていたとしても、あれは、鹿島田泉なのだ。
だというのに、戦う構えをとったと言う事は――。
「五辻く――」
「心配するな」
風葉の言葉を遮る辰巳は、やはり振り向かない。今の辰巳の目は、機械なのだろうか、それとも人間なのだろうか。
唯一その色を知っている黒いシールドは、辰巳の右目がある辺りに赤い光を灯した。
「必ず助ける。必ずだ」
「おやぁ、そんな事言っちゃっていいんですかぁ? こうなるとワタクシも歯止めがきかないんですよぉ?」
「二言はない。容赦もしない」
フェンリルすらもピシャリと黙らせ、辰巳は静かに拳を握る。赤い光が、睨み据えるようにぎろりと光る。
「さぁ、おとなしく助けられろ」
かくして、戦端は開かれた。
まずかったのは、泉が風葉の髪を触ったこと、それ自体だ。
無形の霊力と言えば聞こえは良いが、要するに霊地とは人の雑念の吹き溜まりだ。言わば原油のようなものであり、精製するには霊力を操れる技術を持った人間が、フィルタとなって雑念を処理せねばならない。
スペクターが泉の意識を乗っ取ったのはそのためだ。霊体のままでそんな事をすれば、無形の霊力の中へ自分自身が溶け消えてしまうからだ。
無論、一般人の霊力量で目を付けられるはずはない。恐らく普段の泉なら、スペクターの声を聞く事すら出来なかっただろう。
だが、一時的に霊力が高まっていたとすれば話は別だ。
そう、例えば。元の色を塗り替えるくらい、強い霊力を保持した髪の毛を触っていたりしたら。
憑依は、きっと容易だったろう。
「にしても、枝毛を見つけられるくらいじっくり触られてたのかい」
「え? う、うん。シャンプー変えたのそんなにマズかったかな……」
人差し指を合わせてもにょもにょする風葉だったが、やはり辰巳は振り向かない。ただまっすぐにフェンリルを捉えながら、速やかに思考を整理する。
名前は聞いた。自称スペクター、今はフェンリル。何故風葉と同じたぐいの霊力を用いたのか、今はまだ考えない。
目的も聞いた。夢。もっとも、それがどこまで本気なのかは分からないが。
行動を止める気がないのは、最初から問い正す必要がない。そうでなければそもそもこんな事態になるまい。
ならば、残っているのはあと一つだ。
「自称フェンリル。投降するつもりはあるか」
それは最後通牒。冷気を伴う辰巳の確認に、フェンリルは満面の笑みを返した。
「ありません! まったくもって! 最初の準備もつつがなく終わりましたしね!」
笑いながら、またもや風葉を見据えるフェンリル。その視線が示す意味を、辰巳はあえて考えない。思考を回転させる事は、後でも出来る。
「交渉、というほどのものでもなかったな。何にせよ、決裂だ」
言いつつ辰巳はヘッドギアを操作し、顔全体を覆うフェイスシールドを展開。更に右足を一歩引き、鋼の義手を盾のように掲げる。
紛れも無い戦闘体勢だ。
その背中に、風葉はハッと目を見開く。
姿形は変わっても、意識は乗っ取られていたとしても、あれは、鹿島田泉なのだ。
だというのに、戦う構えをとったと言う事は――。
「五辻く――」
「心配するな」
風葉の言葉を遮る辰巳は、やはり振り向かない。今の辰巳の目は、機械なのだろうか、それとも人間なのだろうか。
唯一その色を知っている黒いシールドは、辰巳の右目がある辺りに赤い光を灯した。
「必ず助ける。必ずだ」
「おやぁ、そんな事言っちゃっていいんですかぁ? こうなるとワタクシも歯止めがきかないんですよぉ?」
「二言はない。容赦もしない」
フェンリルすらもピシャリと黙らせ、辰巳は静かに拳を握る。赤い光が、睨み据えるようにぎろりと光る。
「さぁ、おとなしく助けられろ」
かくして、戦端は開かれた。
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