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#1 レツオウガ起動
Chapter03 魔狼 02-04
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「待たせたな、ちょいと立て込んでてよ」
「お構いなく。こちらとしても幻燈結界は欲しかったのでねぇ。これから色々と荒事をする予定ですし」
余裕の笑みすら浮かべるギノアに、辰巳は真正面から相対する。
距離、およそ十五メートル。薄墨に染まる風景の中で、それでも色を保っている二人の視線が交錯する。
「散歩コースだってんなら道を間違えてるぜ。文化祭でも無い限り、日乃栄高校は基本的に関係者以外立ち入り禁止だ」
「ほほう、そうでしたか。それは申し訳なく思いますが、私にも目的がありましてねぇ」
「内容次第じゃ手伝ってやらなくもないぞ。立ち話も何だし、見晴らしの良い所に案内しようじゃないか。成層圏の上とかオススメだな」
にやりと口の端をつり上げながら、辰巳は目の前の敵を鋭く睨む。その一挙手一投足を絶対に見逃さない為に。
対するギノアは一歩も動かない。ただ笑顔の中に、僅かな困惑が混じるのみだ。
「せっかくのお誘いですが、お断りしますよ。後ろ手に縛られたら何も出来ませんし、何よりもここで、この状況でやる事にこそ意義があるのです」
淀みなく放たれる回答。それを構成する単語の中に、辰巳は明確な拒絶と宣戦布告を見た。
「今、ここで、か。何をする気だ」
「夢を叶えるのですよ。前にも言ったでしょう?」
「そうだったな。で、その為に何が必要だ? なぜ日乃栄高校を選んだ?」
「それは簡単ですよ。大量の霊力と、ファントム・ユニット4番の排除が必要だったと言うだけです」
さらりと、ギノアは言い放った。
五辻辰巳を殺す、と。
「……何のために」
「さぁて。どうしてでしょうねぇ」
言いつつ、ギノアは戦闘態勢に入る。
コートに縫い付けられた青い刺繍――何らかの術式が光を帯び、更にゆったりした袖の中から短い杖が姿を現す。
「まぁ、こちらから言いたい事は一つだけです。死んで頂けませんかねぇ?」
未だ浮かぶ笑みの下に明確な敵意を覗かせながら、ギノアは杖を打ち下ろした。アスファルトを叩く石突が、カン、と無機質な音を鳴らす。
「俺が狙い、か」
辰巳は鼻を鳴らした。
狙いは風葉では無い。その事実に、辰巳は少し安堵する。
安堵しながら、左手刀をギノアへ突きつけ、袖をまくり、肘を基点に振り上げる。
顔を出す腕時計。その文字盤を、辰巳は下へスライド。
「セット、プロテクター」
『Roger Get Set Ready』
未だに崩さぬギノアの薄笑いを睨みながら、辰巳は叫ぶ。
「ファントム4! 鎧装展開ッ!」
放たれる指示、展開する術式。
白光と共に制服は消失し、入れ替わるように現れた漆黒のプロテクターと銀色の左腕が、辰巳の身体を包み込む。
「ファントム4、着装完了」
全ての疑念を振り払いながら、辰巳はゆるりと半身に構える。
左腕を盾のごとく前面に構えた、いつもの戦闘態勢。
もはや辰巳の思考には、眼前の敵を打ち倒す事しかない。
対するギノアの脳裏にも、夢の障害を排除する事しかない。
両者の間に言葉は無く、けれども交錯する闘志は雄弁に全てを物語っていて。
「ならばその夢とやらを、今、ここで終わらせる」
かくして開かれる戦端が、幻燈結界を揺るがした。
「お構いなく。こちらとしても幻燈結界は欲しかったのでねぇ。これから色々と荒事をする予定ですし」
余裕の笑みすら浮かべるギノアに、辰巳は真正面から相対する。
距離、およそ十五メートル。薄墨に染まる風景の中で、それでも色を保っている二人の視線が交錯する。
「散歩コースだってんなら道を間違えてるぜ。文化祭でも無い限り、日乃栄高校は基本的に関係者以外立ち入り禁止だ」
「ほほう、そうでしたか。それは申し訳なく思いますが、私にも目的がありましてねぇ」
「内容次第じゃ手伝ってやらなくもないぞ。立ち話も何だし、見晴らしの良い所に案内しようじゃないか。成層圏の上とかオススメだな」
にやりと口の端をつり上げながら、辰巳は目の前の敵を鋭く睨む。その一挙手一投足を絶対に見逃さない為に。
対するギノアは一歩も動かない。ただ笑顔の中に、僅かな困惑が混じるのみだ。
「せっかくのお誘いですが、お断りしますよ。後ろ手に縛られたら何も出来ませんし、何よりもここで、この状況でやる事にこそ意義があるのです」
淀みなく放たれる回答。それを構成する単語の中に、辰巳は明確な拒絶と宣戦布告を見た。
「今、ここで、か。何をする気だ」
「夢を叶えるのですよ。前にも言ったでしょう?」
「そうだったな。で、その為に何が必要だ? なぜ日乃栄高校を選んだ?」
「それは簡単ですよ。大量の霊力と、ファントム・ユニット4番の排除が必要だったと言うだけです」
さらりと、ギノアは言い放った。
五辻辰巳を殺す、と。
「……何のために」
「さぁて。どうしてでしょうねぇ」
言いつつ、ギノアは戦闘態勢に入る。
コートに縫い付けられた青い刺繍――何らかの術式が光を帯び、更にゆったりした袖の中から短い杖が姿を現す。
「まぁ、こちらから言いたい事は一つだけです。死んで頂けませんかねぇ?」
未だ浮かぶ笑みの下に明確な敵意を覗かせながら、ギノアは杖を打ち下ろした。アスファルトを叩く石突が、カン、と無機質な音を鳴らす。
「俺が狙い、か」
辰巳は鼻を鳴らした。
狙いは風葉では無い。その事実に、辰巳は少し安堵する。
安堵しながら、左手刀をギノアへ突きつけ、袖をまくり、肘を基点に振り上げる。
顔を出す腕時計。その文字盤を、辰巳は下へスライド。
「セット、プロテクター」
『Roger Get Set Ready』
未だに崩さぬギノアの薄笑いを睨みながら、辰巳は叫ぶ。
「ファントム4! 鎧装展開ッ!」
放たれる指示、展開する術式。
白光と共に制服は消失し、入れ替わるように現れた漆黒のプロテクターと銀色の左腕が、辰巳の身体を包み込む。
「ファントム4、着装完了」
全ての疑念を振り払いながら、辰巳はゆるりと半身に構える。
左腕を盾のごとく前面に構えた、いつもの戦闘態勢。
もはや辰巳の思考には、眼前の敵を打ち倒す事しかない。
対するギノアの脳裏にも、夢の障害を排除する事しかない。
両者の間に言葉は無く、けれども交錯する闘志は雄弁に全てを物語っていて。
「ならばその夢とやらを、今、ここで終わらせる」
かくして開かれる戦端が、幻燈結界を揺るがした。
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