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#1 レツオウガ起動
Chapter03 魔狼 11-10
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――要するに、風葉は人質なのだ。辰巳に自爆を断念させるための。
巌はそれを狙って風葉を送り出したのであり、事実それはおおむね成功した。
したのだが、しかし。
ここに一つの誤算が生じた。
「ねえ五辻くん。ひょっとして、逃げようと思ってる?」
先の自己申告通り、風葉は辰巳の生き方を嫌っているのだ。
「……それが?」
端的な、有無を言わせぬ肯定。まぁ当たり前だ。風葉の安全を守るために行う撤退なのだから。
理解している。ありがたく感じてもいる。だが、だからこそ気に入らないのだ。
風葉の知らぬところで、辰巳は戦っていた。命令のままに、きっと無表情に。
それ自体が悪しとは言わない。だが、辰巳はそれ以外に何もないのだ。
最初に見たあの日、リザードマンと戦っていたあの時。辰巳がプラスチックのような顔をしていた理由が、今なら分かる。
されるがまま。言われるがまま。ただひたすら周囲の声に応え続ける、からっぽの人生。
同じだ、昔の自分と。
苦しいはずだ、痛いくらいに良く知っている。
「悪いが部外者は黙っててくれ」
「そうはいかないよ」
だから、風葉は即答していた。
「――」
割れたバイザーの向こうから、辰巳の双眸が風葉を見下ろす。
無表情に、けれども雄弁に。
同情のつもりなのか、と。
流石に風葉もそこまで傲慢ではない。小さく首を振る。
ただ風葉は、辰巳に気付いて欲しいのだ。
頑張れば、明日はそれなりに変えられるのだと言う事を。
「要するに、さ。このRフィールドとか言うのを壊して、あの白い巨人も倒せばいいんでしょ?」
「……それは」
しばし、辰巳は言葉を失う。
凪守や巌に課せられた規約を、それ以上の功績で塗り替える。奇しくもそれは、今しがた挑んだ全力勝負のリベンジだ。
だがもし仮にうまくいったとしても、謹慎では済まないだろう。
しかして仮にうまくいったとすれば、きっと、すごく痛快だろう。
「けど、そんな事が」
「出来るよ。私と、五辻くんなら」
神影鎧装と、フェンリルの合わせ技なら。
力強く、風葉は断言した。心の中の魔狼が、その決断を後押しする。
「だから、がんばってみようよ」
コンソールに固定された辰巳の手をそっと握り、まっすぐに見上げてくる風葉の瞳。フェンリルの同調で金色に染まっている双眸を見据えながら、辰巳は気付いた。
手が、震えている。
怖いのだ。いくら魔狼の後押しがあったとしても。
風葉は、やはり一般人なのだ。
そんな風葉に、ここまで言わせてしまった自分は――。
「――はぁ」
一つ、辰巳は息をつく。見下ろせば、オーディンはこちらを見たまま一歩も動いていない。見た目も性能も、明らかに変わったこちらを警戒しているのか。
「後ろに戻ってくれ。ブチかますからな」
「――! うん!」
大きく頷き、すぐさまレックウのシートに戻る風葉。
辰巳は振り返らない。だがフロントカウル越しに見えるその背中は、少し楽しそうに見えた。
「後悔、するなよ」
「ん。それは多分無理」
いたって正直な風葉に、辰巳は肩をすくめる。
「……勢いで行動するタイプなんだな、霧宮さんは」
「ん。よく言われる」
笑い合う二人。腹は、既に決まった。
故に、一片の迷いなく辰巳は叫ぶ。
「――ウェイクアップ! レツオウガ、エミュレート!」
コクピットの四隅から立ち上る霊力の柱。瞬く間に編み上がる光のワイヤーフレーム。
かくしてこの日、この場所に。
二年前、全ての引鉄を引いた神影鎧装――レツオウガが、復活した。
巌はそれを狙って風葉を送り出したのであり、事実それはおおむね成功した。
したのだが、しかし。
ここに一つの誤算が生じた。
「ねえ五辻くん。ひょっとして、逃げようと思ってる?」
先の自己申告通り、風葉は辰巳の生き方を嫌っているのだ。
「……それが?」
端的な、有無を言わせぬ肯定。まぁ当たり前だ。風葉の安全を守るために行う撤退なのだから。
理解している。ありがたく感じてもいる。だが、だからこそ気に入らないのだ。
風葉の知らぬところで、辰巳は戦っていた。命令のままに、きっと無表情に。
それ自体が悪しとは言わない。だが、辰巳はそれ以外に何もないのだ。
最初に見たあの日、リザードマンと戦っていたあの時。辰巳がプラスチックのような顔をしていた理由が、今なら分かる。
されるがまま。言われるがまま。ただひたすら周囲の声に応え続ける、からっぽの人生。
同じだ、昔の自分と。
苦しいはずだ、痛いくらいに良く知っている。
「悪いが部外者は黙っててくれ」
「そうはいかないよ」
だから、風葉は即答していた。
「――」
割れたバイザーの向こうから、辰巳の双眸が風葉を見下ろす。
無表情に、けれども雄弁に。
同情のつもりなのか、と。
流石に風葉もそこまで傲慢ではない。小さく首を振る。
ただ風葉は、辰巳に気付いて欲しいのだ。
頑張れば、明日はそれなりに変えられるのだと言う事を。
「要するに、さ。このRフィールドとか言うのを壊して、あの白い巨人も倒せばいいんでしょ?」
「……それは」
しばし、辰巳は言葉を失う。
凪守や巌に課せられた規約を、それ以上の功績で塗り替える。奇しくもそれは、今しがた挑んだ全力勝負のリベンジだ。
だがもし仮にうまくいったとしても、謹慎では済まないだろう。
しかして仮にうまくいったとすれば、きっと、すごく痛快だろう。
「けど、そんな事が」
「出来るよ。私と、五辻くんなら」
神影鎧装と、フェンリルの合わせ技なら。
力強く、風葉は断言した。心の中の魔狼が、その決断を後押しする。
「だから、がんばってみようよ」
コンソールに固定された辰巳の手をそっと握り、まっすぐに見上げてくる風葉の瞳。フェンリルの同調で金色に染まっている双眸を見据えながら、辰巳は気付いた。
手が、震えている。
怖いのだ。いくら魔狼の後押しがあったとしても。
風葉は、やはり一般人なのだ。
そんな風葉に、ここまで言わせてしまった自分は――。
「――はぁ」
一つ、辰巳は息をつく。見下ろせば、オーディンはこちらを見たまま一歩も動いていない。見た目も性能も、明らかに変わったこちらを警戒しているのか。
「後ろに戻ってくれ。ブチかますからな」
「――! うん!」
大きく頷き、すぐさまレックウのシートに戻る風葉。
辰巳は振り返らない。だがフロントカウル越しに見えるその背中は、少し楽しそうに見えた。
「後悔、するなよ」
「ん。それは多分無理」
いたって正直な風葉に、辰巳は肩をすくめる。
「……勢いで行動するタイプなんだな、霧宮さんは」
「ん。よく言われる」
笑い合う二人。腹は、既に決まった。
故に、一片の迷いなく辰巳は叫ぶ。
「――ウェイクアップ! レツオウガ、エミュレート!」
コクピットの四隅から立ち上る霊力の柱。瞬く間に編み上がる光のワイヤーフレーム。
かくしてこの日、この場所に。
二年前、全ての引鉄を引いた神影鎧装――レツオウガが、復活した。
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