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其の弐 因果流転◆慟哭
飛竜烈伝 守の巻
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嘘だろ、こんなのって。
竜は叫びたかった。凍りついたように動かない身体が忌まわしい。
どうしてだよ。何で、婆ちゃんが、俺の代わりに斬られなくちゃいけないんだ。時代劇の悪役みたいに、こんなにも呆気なく刀を受けて、壊れた人形みたいに今、俺の前に転がっているなんて。
幻だよ、こんなの。だって、婆ちゃんは誰よりも強い戦いの神様の筈なのに。
「愚かな婆め。わざわざしゃしゃり出て来ずば、老い先短い命を無駄にすることも無かったものを」
吐き捨てるように怪士が言う。
竜は応えなかった。信じられない程に軽い祖母の骸を抱き上げる。
ねえ、婆ちゃん。こんなに小さくて軽かったんだ。俺はずうっと、婆ちゃんの背中しか見てなかったから分からなかったよ。
怒り。哀しみ。そんなものは何も感じなかった。ただ、途方もない喪失感だけが、竜を支配していた。
「悲しむことはない。すぐにかれ岸で会わせてくれる」
怪士が狂ったように叫んでいる。だが竜には、それは、厚い壁を隔てた向こう側から届く喧噪のように遠くにしか聞こえなかった。
間隔を置いて拳の上に落ちる、熱いもの。それが、自分が流す涙だということにも、しばらく気づかなかった。
虎の遺体が抱いたままの刀を、竜は手に取った。命と引き換えに、祖母がここまで運んできてくれた刀。
美しい造りだった。竜は、鞘から刀身を引き抜いた。
刀身から迸る真っ白な光が竜を包み込んだ。瞬間、全身がその光と同化したかのように熱く燃え上がった。
陽炎が揺れた。竜の心の痛みに同調するが如く、大気が揺れていた。
次の瞬間。
竜を中心に、放射状に巻き起こる爆風が、辺りの巨木を薙ぎ倒し、石垣を粉々に砕き、三ノ輪の山の一部を削り取って、空中に巻き上げた。
「なに?」
驚愕に叫ばれた怪士の声、それに続く断末魔の悲鳴。
竜は何も感じなかった。視界の隅に、大気の熱に蝋のように溶かされ塵と化して行く敵の姿を捉えたが、それももうどうでもいいことだった。
全てが止んだとき、吹き飛ばされた木々と崩れ落ちた石が散乱するなか、その台風の目のような中心で蹲った竜は、冷たくなった祖母の遺体と形見の刀を抱き締めたまま、幼い子供のように啜り泣いていた。
竜は叫びたかった。凍りついたように動かない身体が忌まわしい。
どうしてだよ。何で、婆ちゃんが、俺の代わりに斬られなくちゃいけないんだ。時代劇の悪役みたいに、こんなにも呆気なく刀を受けて、壊れた人形みたいに今、俺の前に転がっているなんて。
幻だよ、こんなの。だって、婆ちゃんは誰よりも強い戦いの神様の筈なのに。
「愚かな婆め。わざわざしゃしゃり出て来ずば、老い先短い命を無駄にすることも無かったものを」
吐き捨てるように怪士が言う。
竜は応えなかった。信じられない程に軽い祖母の骸を抱き上げる。
ねえ、婆ちゃん。こんなに小さくて軽かったんだ。俺はずうっと、婆ちゃんの背中しか見てなかったから分からなかったよ。
怒り。哀しみ。そんなものは何も感じなかった。ただ、途方もない喪失感だけが、竜を支配していた。
「悲しむことはない。すぐにかれ岸で会わせてくれる」
怪士が狂ったように叫んでいる。だが竜には、それは、厚い壁を隔てた向こう側から届く喧噪のように遠くにしか聞こえなかった。
間隔を置いて拳の上に落ちる、熱いもの。それが、自分が流す涙だということにも、しばらく気づかなかった。
虎の遺体が抱いたままの刀を、竜は手に取った。命と引き換えに、祖母がここまで運んできてくれた刀。
美しい造りだった。竜は、鞘から刀身を引き抜いた。
刀身から迸る真っ白な光が竜を包み込んだ。瞬間、全身がその光と同化したかのように熱く燃え上がった。
陽炎が揺れた。竜の心の痛みに同調するが如く、大気が揺れていた。
次の瞬間。
竜を中心に、放射状に巻き起こる爆風が、辺りの巨木を薙ぎ倒し、石垣を粉々に砕き、三ノ輪の山の一部を削り取って、空中に巻き上げた。
「なに?」
驚愕に叫ばれた怪士の声、それに続く断末魔の悲鳴。
竜は何も感じなかった。視界の隅に、大気の熱に蝋のように溶かされ塵と化して行く敵の姿を捉えたが、それももうどうでもいいことだった。
全てが止んだとき、吹き飛ばされた木々と崩れ落ちた石が散乱するなか、その台風の目のような中心で蹲った竜は、冷たくなった祖母の遺体と形見の刀を抱き締めたまま、幼い子供のように啜り泣いていた。
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