飛竜烈伝 守の巻

岩崎みずは

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其の参 破邪錯節◆鍵槍

飛竜烈伝 守の巻


 時刻は、二十一時を少し回っていた。
 竜は刀を抱え、白夜に指定された通り、龍哭寺の正門横の広場に立っていた。
 きっと、一昔前までは、遠来の参詣客のための駐車場にでも使われていたスペースだったのだろう。
 しかし今は、月日の流れに侵食されたように瓦礫や木片が散乱し、おそらく初めは整然と敷き詰められていたと思われる砂利も、誰の手による悪戯か、敷地の数箇所に掃き寄せられ、小山のように積まれている。
 その場所を一見し、足場が悪いな、と思った。積まれた瓦礫に足を取られ転倒でもしようものなら、喧嘩の勝敗は一瞬で決まってしまう。
「どうやら待たせてしまったようですね、飛竜」
 背後から近づいて来る、砂利を踏みしめる軽い足音。
 竜は振り返ると、厭味と皮肉をたっぷり込めて、応えた。
「いいや、全然。気にしないで下さいよ。だって、白夜さんは、オサンドンで忙しいヒトですからね」  
 白夜の顔のなかに何らかの変化を読み取りたいと思ったが、残念なことにかれの表情は変わらない。軽い挑発程度で揺さぶられる相手ではないと言うことだ。
「ところで飛竜。忘れずに得物は持って来たのでしょうね」
 飛竜、飛竜って、俺がそう呼ばれるのを嫌ってるって知ってるくせに、ホンットに厭味なヤローだ。
 だが、ここで激昂しては、自分の方が相手の策に嵌ることになる。
「ああ、ちゃんと用意してきたぜ。あんたはどうなんだ」
 返事の代わりに、白夜は手にした長槍を、竜の目の前に示した。
 その武具を目にしたとき、一瞬、竜は息を呑み、目を瞠った。無論、相手に動揺を悟られるようなヘマはしていないつもりだが。
 白夜の手の中にあるのは、ただの槍ではなかった。幾重にも巻かれた藤蔓(ふじづる)で補強した蕪巻(かぶらまき)の下に、鈍い光を放つ横手(鈎)が装着されている。
 鍵槍。この男の武器は、それだったのか。
 正直、白夜は竜にとって、それ程、脅威を感じさせる相手ではなかった。
 かれ、白夜京一の方が、上背は確かにある。並んで立ったことこそないが、おそらく白夜は竜より、七、八センチは背が高いだろう。だが、見た目で判断する限り、ウェイトは軽い筈だ。長身だが細身のかれに、然程の腕力があるとは思えない。小手先の技術より、力で圧倒出来る場合というのは意外に多いのだ。
 白夜の武器が木刀でも真剣でも、棍、或いはサイのような中国武術の流れを汲むものでも、勝てる自信が竜にはあった。だが、意外な展開だった、まさか、鍵槍とは。
 竜とて、武道家の孫。半ば無理矢理にではあるが、他流派の系統や、剣道以外の武道の歴史についても、多少は学ばされていた。
 今日(こんにち)、槍術の流派は決して少なくはない。
 戸隠流忍法の流れを汲むものや、戦国末期に生まれた最も知名度の高い宝蔵院流槍術などを基本とし、槍の技術は、薙刀や棒術の流派と時には混ざり合い、時には道を違えながら進化、発展していったという。
 槍は、刀より距離を置いて相手を仕留めることが可能なだけに、戦場では、これ以上無いといえる程に有効な武器となるが、決して生半(なまなか)なテクニックで扱えるものではない。
 突く、引く、旋回させるなど、己れの身長を遥かに上回る槍を自在に操るには、相当の腕力が必要になる。
 加えて、相手を決して自分の間合いに入り込ませない足捌き、動体視力も不可欠だ。柄の長い槍は、相手との間合いを取れる反面、小回りが利きにくく、特に、先端に鈎を装着した鍵槍は、その独特の容(かたち)故、余程の熟練者でもない限り、扱いは難しい。
 竜が持っているのは、勿論、刀。
 実のところ、竜は、刀と槍との試合は、一度しか見たことがなかった。それも、確か、まだ剣道を始めて間もない幼い頃の話。
 有体(ありてい)に言ってしまえば、竜は、長槍の間合いというものが全く読めなかったのだ。
 竜は迷った。踏み込みを計れない敵を相手に、どう戦えばいいのだろう?
「どうしました、飛竜。まさか、怖気づいたのではないでしょうね」
 白夜の嘲笑は明らかな挑発だった。
 ざけんなよ。
 挑発するつもりなら、それに乗ってやる。こちとら、伝説の女丈夫、宗間虎の血が流れてるんだ。
「手加減は、しませんよ」
 ケッ。それはこっちの台詞だぜ。
 白夜の口許が引き締まる。それを合図に、竜も刀を構えた。
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