魔法少女黄昏兎

アマミヤコウタ

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第一話:サイコキネシスとあの日の約束

終幕

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 体が重い。なんだろう。
 寝ている間、無理な体勢でもとってたのかな。

 朝飯としてテキトーにハムとチーズを乗っけたパンを焼いていると、公孝が起きてきた。何を言うでもなく、食卓で席に着いてボーッとしている低血圧な弟の前に、こちらも何を言うでもなく出来上がったハムチーズトーストを置く。

「……いただきます」

 自分の分を作り直す後ろから、いやに素直なか細い挨拶が聞こえて、思わず苦笑した。


 身支度を整えて家を出ると、狐の尻尾のような一つ結びを揺らして、こちらに向かって歩いてくるコンの姿を見つけた。体のダルさが一気に吹っ飛ぶ。

「コぉーーーーーーン!」

 こっちこっち、と両手を振る。「朝から喧しい」と一蹴されてそのまま通り過ぎようとするので慌ててその隣に落ち着いた。

 その横顔に、魔法少女の夢を思い出す。
 そうだ。やたらと似ていたのだった。

「コン、お前さ。魔法少女やってない?」

「――――――………ハァ?」

 うわっ、今世紀最大にドン引きしてる。
 変人を見る目をしたまま、流れるようにコンは言う。

「俺が?うさ耳魔法少女?アタマ大丈夫か?いや、もうダメだな。イカレてやがる。七時四十三分、御臨終です」

 十字を切られ、柏手を打たれ、合掌される。宗教ごちゃ混ぜかよ。

「いや、ちょっと聞いてみただk「くわぁぁぁぁつ!」

 わあ、引導まで渡された。めっちゃ手が込んでる。
 俺ん家がどの宗教であっても、絶対成仏させてくれるんだね!コンちゃんったら友達想いっ!
 涙が滲むのは嬉し涙だね……きっとそう……。


 一段と葉の緑が目立つようになった桜の下を通って、昇降口でいつものように別れる。

「キミツカ」
「うん?」

 珍しくコンが足を止めた。

「弟とは仲直りしたのか」
「え、あぁ、今日は特に何も無かった……」
「そうか、ならいい」

 それだけ言って、やっぱりいつも通りサッサと行ってしまった。翻った胸元の古い小さな鍵が朝日にきらめいていた。

「あれ……コン、あんな鍵持ってたっけ?」

 ***

 いつもは教室に向かう足で、トイレへ。
 一番奥の、洋式の個室に入るとカバンを便器の蓋に置いて溜息を一つ。

君司キミツカのヤロー……」

 自分の顔色が変わっていることはよくわかるのだが、青くなっているのか赤くなっているのかはわからない。
 個室まで入らなくても手洗い場でよかったかな。いや、赤かった時はいたたまれない。

「……覚えてんのかと思ったじゃねえか……!!」

 私は夜眠るたびに、あの姿になって人の夢を渡り歩いている。
 その名は夢の管理者、黄昏兎らびっと・おぶ・とわいらいと

 黄昏時をモチーフに、可愛らしくまとめた衣装に身を包んだ金髪のうさ耳魔法少女。

 ああ、わかってるさ、似合わないのは!
 わかってるけど、ちょっとノリノリでやってるよ!だって魔法少女だぜ!?テンション上がるだろ普通!

 どっちかっつーと邪○炎○黒○波とか出したいタイプの私でも、本来からかけ離れた可愛い姿になって知り合いは誰も見てない状況ならやるんだよ!

 ああ正直に言ってやる、せっかくだからコスプレして遊んでたんだよ!!

 だけど昨夜はよりにもよって君司がいた。

 最初は見捨てようかと思った。でも目を離したらすぐ死にそうだったから飛び出した。
 でもこんな小っ恥ずかしい姿、絶対バレるわけにはいかない。

 咄嗟に自分とは全く違うキャラを演じた。
 必死すぎて正直何言ったか覚えていない。
 よくもまあここまでデマカセをベラベラ喋れるもんだと自分で自分に感心したけど、今考えると恥の上塗りな気がする。なんだよ『たそがれうさちゃん』って!私はそんなこと言わない!

 けれど君司はすっかり騙されてくれたので、ちょっとお節介を焼くぐらいのことはしてやった。上手いこといったのか、弟との不仲は解消されつつある。

 別れ際の質問には下手打った気分にさせられたが、どうにか誤魔化せた。全部忘れたと思いきや微かに記憶が残っていたのも計算外だったが、押しきれたと思う。咄嗟のことで言葉の手加減が出来なかったのは申し訳ないが。

「おい、勝手に出て来るなよ」

 いつの間にか服の下から出てきていた鍵をしまう。【世界】の意思が微かに宿るこの鍵は、稀に自律可動する。
 おそらく鍵についてる紅水晶から【世界】は人の世を見ているのだ。普段は全体を見ているから、偶に一部のみを見たくなるのだろう。顕微鏡を覗くように。

 世界との契約を反故には出来ない。だから夢の管理者は続けていくしかない。

 個室から出て、顔色が落ち着いたのを鏡で確認してから、廊下に出る。

 廊下ではまた君司が常盤に関節技を決められていた。今日は石原がすぐ脇で床を叩きながらカウントを取っている。
 毎日毎日飽きねえなぁアイツら。

 日々は続いていく。今夜もまた私は誰かの夢を渡るのだろう。
 まあいいさ、どうせもう二度とあの姿を見られることはない。

 君司だって、そのうち全て忘れてしまうだろう。ほんの少しだけ寂しい気もするけれど、仕方のないことだ。
 夢は、忘れるものなのだから。
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