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第一話:サイコキネシスとあの日の約束
夢の終わり
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「そっち行きましたよ!キミツカくん!!」
「つっ……かまえたぁーーーーっ!!」
スライディングざまに卵を抱きかかえる。空中で脚をバタバタさせている卵をラビに渡すと、彼女は片手に卵を持ったまま公孝の元へと戻った。
持っていた虫取り網を元の金の鍵型ステッキに変えると、(金属バットもこのステッキだったらしい。)ステッキはみるみる縮んで金色の鍵になる。飾り部分にある兎型の赤い宝石を卵にかざすと、卵の背中に鍵穴が現れた。
「【管理者権限・開錠】。……さあ、お目覚めの時間ですよ」
ラビが差し込んだ鍵を捻ると、卵はブルブルと震えてからパチンと弾けた。中からシャボン玉のようなほの温かな光が溢れ出す。
「何だこれ……」
「【悪夢】が吸った、弟さんの幸福感です。幸せを感じた記憶」
たまたま近くを浮かんでいる光を見ると、そこには満点のテストを見た父さんが公孝の頭を撫でている姿が映っていた。テストの教科は、公孝の得意な理科のようだった。
溢れる光の中で、遠い目をしたラビが呟く。
「これを吸われて思い出せなくなるから、自分は不幸だって思いつめるんですよね」
シャボン玉たちは吸い寄せられるように公孝の胸で弾けていく。
他のシャボン玉には、公孝の大好物の『お母さん特製ドデカハンバーグ』を出された瞬間だったり、ヒメちゃんが「どーじょ」と赤ちゃんせんべいを突き出しているところが映っていた。
……なんだ。俺がいる記憶は無いのか。
ちぇっ、なんて舌打ちをしようとした時だった。目の前に割り込んできたシャボン玉に、懐かしい公園が映っていた。今よりも幼いマツジュとトモルが笑っている。
「キミツカ、お前の弟、めっちゃ足速ぇー!」
「タカが鬼になると全然勝てねー!」
グラグラと揺れる視界。
「だろっ?タカはスゲーんだぜ!」
嬉しそうに、ニーッと笑う俺の顔。
もう一つ、シャボン玉が割り込んでくる。俺たちは夕焼けに染まる町を歩いている。
「……それで仲間外れにされるってのは、他の奴らの方がおかしいだろ」
地面だけが映っている。
「仲間外れにされるなら俺たちと遊べばいい。俺はいつでもタカの味方だからな」
映像が滲んでいく。袖が乱暴に目をこすった。まだ塞がったままの視界の端から、俺の調子乗った声が聞こえる。
「あれ?泣いてる?兄ちゃんの名言にカンドーしちゃった?」
「うっさい」
そうだ。この時に入ったボディブローは中々の鋭さだったっけ。
「……お前の味方、って約束したんだったな」
いつのまにか、ヒメちゃんの味方になってたな。眠る公孝の頭を撫でる。昔はよく撫でたっけ。いつからか弾かれることが多くなってやらなくなったけど。
「ごめんな、公孝。忘れててごめん」
公孝がうっすらと目を開けた。寝ぼけ眼らしい弟は、俺を見てもう一度目を閉じた。
「兄ちゃん……ごめん……オレ、『お兄ちゃん』になれない……」
涙声だ。弟を追い詰めていたのは、俺の間抜けな行動だったのだろう。
「いいって。もうしばらくは、弟のままで」
うん、と頷いて、公孝の体が消えていく。目尻を伝い落ちる涙が耳に届く頃に、弟は完全に消えてしまった。
ラビがステッキに寄りかかって呆れた声を出す。
「おバカですねぇ。あんなこと言ったら、貴方がもっと大変になるのでは?」
「うん、まあ、そうなんだけど」
立ち上がる。寄りかかったままのラビが上目遣いにこちらを見ている。セリフのこっ恥ずかしさを笑いでごまかした。
「仕方ないだろ。俺、『お兄ちゃん』だし」
「………本当にバカですねぇ」
盛大に溜め息を吐かれる。そ、そんな大げさに言わんでも。ラビはステッキをバトンのように回した。癖らしい。
「さて、【悪夢】も倒しましたし。そろそろ夜明けですね」
「えっ、もう朝?」
「ええ。大体……四時半くらいですかね」
そうか。だいぶ長い夢だったような気もする。
「ありがとな、ラビちゃん。弟助けてくれて」
「いえいえ、それが私の仕事ですから」
「……ところで、一つ聞きたいんだけど」
「はい?」
聞きたいことは一つどころか他にも、麻薬使用シーンで反社会的って批判受けたりしない?とか、回復魔法使ってるとはいえ人を躊躇なくバットで殴れるのは道徳的にどうなの?とか、色々沢山あるけど。
いま一番聞きたいのは。
「なんで俺の名前知ってたの?初対面なんだよな?」
「………」
顔を逸らした。
腕を組んで悩みだした。
長いことそうやって考えて、出した答えは。
「…………管理者なので?」
「コッチが聞いてんだけど?」
なぜ疑問形。
「まあいいじゃねえですか、そんな細かいことは!大体、私の正体とかいま聞いたとしても、起きたらココでの記憶は忘れちゃうんだから意味無いですし!」
「えっ!?」
「何を驚いてるんですか。心の奥底には残りますから、無意識にですけど弟くんとは上手くやれますよ」
そ、れならいいんだけど、いや、それだけじゃダメで。
「ラビちゃんのことも忘れちゃうのか?」
「ええ。私の何一つ、思い出せないと思いますよ。貴方が【悪夢】に取り憑かれでもしない限り、もう会うこともないでしょう」
そんな。
白んだ空の端、町並みの果てから白い光が照らしてゆく。
彼女は力を抜くようにふっと笑った。
「そんな顔しないでくださいよ。夢は忘れるものでしょう?」
その微笑みがやっぱりコンと重なる。
背中で手を組むラビの姿が、その柔らかな光に包まれて――
「さあ、お目覚めの時間ですよ。
さようなら。優しい優しい、お兄ちゃん」
微笑みが消えてゆく。
「っ、待って!」
伸ばした手が空を切った。気が付くと、まだ薄暗い部屋の中、見慣れた天井に向かって手を伸ばしていた。
そのままゆっくりベッドに下ろす。本当に夢だったのかと思って、
「…………何の、夢を見ていたんだっけ」
何も思い出せないことを知る。
弟に関わる夢だったこと。夕焼け色した魔法少女がいたこと。それだけは辛うじて思い出せるけれど、その詳細は霞を掴むような感覚で。
その顔も、声も、名前すらも思い出せない。
ただの夢のはずなのに、それがひどく悔しかった。
「…………畜生」
「つっ……かまえたぁーーーーっ!!」
スライディングざまに卵を抱きかかえる。空中で脚をバタバタさせている卵をラビに渡すと、彼女は片手に卵を持ったまま公孝の元へと戻った。
持っていた虫取り網を元の金の鍵型ステッキに変えると、(金属バットもこのステッキだったらしい。)ステッキはみるみる縮んで金色の鍵になる。飾り部分にある兎型の赤い宝石を卵にかざすと、卵の背中に鍵穴が現れた。
「【管理者権限・開錠】。……さあ、お目覚めの時間ですよ」
ラビが差し込んだ鍵を捻ると、卵はブルブルと震えてからパチンと弾けた。中からシャボン玉のようなほの温かな光が溢れ出す。
「何だこれ……」
「【悪夢】が吸った、弟さんの幸福感です。幸せを感じた記憶」
たまたま近くを浮かんでいる光を見ると、そこには満点のテストを見た父さんが公孝の頭を撫でている姿が映っていた。テストの教科は、公孝の得意な理科のようだった。
溢れる光の中で、遠い目をしたラビが呟く。
「これを吸われて思い出せなくなるから、自分は不幸だって思いつめるんですよね」
シャボン玉たちは吸い寄せられるように公孝の胸で弾けていく。
他のシャボン玉には、公孝の大好物の『お母さん特製ドデカハンバーグ』を出された瞬間だったり、ヒメちゃんが「どーじょ」と赤ちゃんせんべいを突き出しているところが映っていた。
……なんだ。俺がいる記憶は無いのか。
ちぇっ、なんて舌打ちをしようとした時だった。目の前に割り込んできたシャボン玉に、懐かしい公園が映っていた。今よりも幼いマツジュとトモルが笑っている。
「キミツカ、お前の弟、めっちゃ足速ぇー!」
「タカが鬼になると全然勝てねー!」
グラグラと揺れる視界。
「だろっ?タカはスゲーんだぜ!」
嬉しそうに、ニーッと笑う俺の顔。
もう一つ、シャボン玉が割り込んでくる。俺たちは夕焼けに染まる町を歩いている。
「……それで仲間外れにされるってのは、他の奴らの方がおかしいだろ」
地面だけが映っている。
「仲間外れにされるなら俺たちと遊べばいい。俺はいつでもタカの味方だからな」
映像が滲んでいく。袖が乱暴に目をこすった。まだ塞がったままの視界の端から、俺の調子乗った声が聞こえる。
「あれ?泣いてる?兄ちゃんの名言にカンドーしちゃった?」
「うっさい」
そうだ。この時に入ったボディブローは中々の鋭さだったっけ。
「……お前の味方、って約束したんだったな」
いつのまにか、ヒメちゃんの味方になってたな。眠る公孝の頭を撫でる。昔はよく撫でたっけ。いつからか弾かれることが多くなってやらなくなったけど。
「ごめんな、公孝。忘れててごめん」
公孝がうっすらと目を開けた。寝ぼけ眼らしい弟は、俺を見てもう一度目を閉じた。
「兄ちゃん……ごめん……オレ、『お兄ちゃん』になれない……」
涙声だ。弟を追い詰めていたのは、俺の間抜けな行動だったのだろう。
「いいって。もうしばらくは、弟のままで」
うん、と頷いて、公孝の体が消えていく。目尻を伝い落ちる涙が耳に届く頃に、弟は完全に消えてしまった。
ラビがステッキに寄りかかって呆れた声を出す。
「おバカですねぇ。あんなこと言ったら、貴方がもっと大変になるのでは?」
「うん、まあ、そうなんだけど」
立ち上がる。寄りかかったままのラビが上目遣いにこちらを見ている。セリフのこっ恥ずかしさを笑いでごまかした。
「仕方ないだろ。俺、『お兄ちゃん』だし」
「………本当にバカですねぇ」
盛大に溜め息を吐かれる。そ、そんな大げさに言わんでも。ラビはステッキをバトンのように回した。癖らしい。
「さて、【悪夢】も倒しましたし。そろそろ夜明けですね」
「えっ、もう朝?」
「ええ。大体……四時半くらいですかね」
そうか。だいぶ長い夢だったような気もする。
「ありがとな、ラビちゃん。弟助けてくれて」
「いえいえ、それが私の仕事ですから」
「……ところで、一つ聞きたいんだけど」
「はい?」
聞きたいことは一つどころか他にも、麻薬使用シーンで反社会的って批判受けたりしない?とか、回復魔法使ってるとはいえ人を躊躇なくバットで殴れるのは道徳的にどうなの?とか、色々沢山あるけど。
いま一番聞きたいのは。
「なんで俺の名前知ってたの?初対面なんだよな?」
「………」
顔を逸らした。
腕を組んで悩みだした。
長いことそうやって考えて、出した答えは。
「…………管理者なので?」
「コッチが聞いてんだけど?」
なぜ疑問形。
「まあいいじゃねえですか、そんな細かいことは!大体、私の正体とかいま聞いたとしても、起きたらココでの記憶は忘れちゃうんだから意味無いですし!」
「えっ!?」
「何を驚いてるんですか。心の奥底には残りますから、無意識にですけど弟くんとは上手くやれますよ」
そ、れならいいんだけど、いや、それだけじゃダメで。
「ラビちゃんのことも忘れちゃうのか?」
「ええ。私の何一つ、思い出せないと思いますよ。貴方が【悪夢】に取り憑かれでもしない限り、もう会うこともないでしょう」
そんな。
白んだ空の端、町並みの果てから白い光が照らしてゆく。
彼女は力を抜くようにふっと笑った。
「そんな顔しないでくださいよ。夢は忘れるものでしょう?」
その微笑みがやっぱりコンと重なる。
背中で手を組むラビの姿が、その柔らかな光に包まれて――
「さあ、お目覚めの時間ですよ。
さようなら。優しい優しい、お兄ちゃん」
微笑みが消えてゆく。
「っ、待って!」
伸ばした手が空を切った。気が付くと、まだ薄暗い部屋の中、見慣れた天井に向かって手を伸ばしていた。
そのままゆっくりベッドに下ろす。本当に夢だったのかと思って、
「…………何の、夢を見ていたんだっけ」
何も思い出せないことを知る。
弟に関わる夢だったこと。夕焼け色した魔法少女がいたこと。それだけは辛うじて思い出せるけれど、その詳細は霞を掴むような感覚で。
その顔も、声も、名前すらも思い出せない。
ただの夢のはずなのに、それがひどく悔しかった。
「…………畜生」
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