魔法少女黄昏兎

アマミヤコウタ

文字の大きさ
11 / 12
第一話:サイコキネシスとあの日の約束

夢の終わり

しおりを挟む
「そっち行きましたよ!キミツカくん!!」

「つっ……かまえたぁーーーーっ!!」

 スライディングざまに卵を抱きかかえる。空中で脚をバタバタさせている卵をラビに渡すと、彼女は片手に卵を持ったまま公孝の元へと戻った。

 持っていた虫取り網を元の金の鍵型ステッキに変えると、(金属バットもこのステッキだったらしい。)ステッキはみるみる縮んで金色の鍵になる。飾り部分にある兎型の赤い宝石を卵にかざすと、卵の背中に鍵穴が現れた。

「【管理者マスター権限・開錠アンロック】。……さあ、お目覚めの時間ですよ」

 ラビが差し込んだ鍵を捻ると、卵はブルブルと震えてからパチンと弾けた。中からシャボン玉のようなほの温かな光が溢れ出す。

「何だこれ……」
「【悪夢】が吸った、弟さんの幸福感です。幸せを感じた記憶」

 たまたま近くを浮かんでいる光を見ると、そこには満点のテストを見た父さんが公孝の頭を撫でている姿が映っていた。テストの教科は、公孝の得意な理科のようだった。

 溢れる光の中で、遠い目をしたラビが呟く。

「これを吸われて思い出せなくなるから、自分は不幸だって思いつめるんですよね」

 シャボン玉たちは吸い寄せられるように公孝の胸で弾けていく。

 他のシャボン玉には、公孝の大好物の『お母さん特製ドデカハンバーグ』を出された瞬間だったり、ヒメちゃんが「どーじょ」と赤ちゃんせんべいを突き出しているところが映っていた。

 ……なんだ。俺がいる記憶は無いのか。

 ちぇっ、なんて舌打ちをしようとした時だった。目の前に割り込んできたシャボン玉に、懐かしい公園が映っていた。今よりも幼いマツジュとトモルが笑っている。

「キミツカ、お前の弟、めっちゃ足速ぇー!」

「タカが鬼になると全然勝てねー!」

 グラグラと揺れる視界。

「だろっ?タカはスゲーんだぜ!」

 嬉しそうに、ニーッと笑う俺の顔。

 もう一つ、シャボン玉が割り込んでくる。俺たちは夕焼けに染まる町を歩いている。

「……それで仲間外れにされるってのは、他の奴らの方がおかしいだろ」

 地面だけが映っている。

「仲間外れにされるなら俺たちと遊べばいい。俺はいつでもタカの味方だからな」

 映像が滲んでいく。袖が乱暴に目をこすった。まだ塞がったままの視界の端から、俺の調子乗った声が聞こえる。

「あれ?泣いてる?兄ちゃんの名言にカンドーしちゃった?」

「うっさい」

 そうだ。この時に入ったボディブローは中々の鋭さだったっけ。

「……お前の味方、って約束したんだったな」

 いつのまにか、ヒメちゃんの味方になってたな。眠る公孝の頭を撫でる。昔はよく撫でたっけ。いつからか弾かれることが多くなってやらなくなったけど。

「ごめんな、公孝。忘れててごめん」

 公孝がうっすらと目を開けた。寝ぼけ眼らしい弟は、俺を見てもう一度目を閉じた。

「兄ちゃん……ごめん……オレ、『お兄ちゃん』になれない……」

 涙声だ。弟を追い詰めていたのは、俺の間抜けな行動だったのだろう。

「いいって。もうしばらくは、弟のままで」

 うん、と頷いて、公孝の体が消えていく。目尻を伝い落ちる涙が耳に届く頃に、弟は完全に消えてしまった。

 ラビがステッキに寄りかかって呆れた声を出す。

「おバカですねぇ。あんなこと言ったら、貴方がもっと大変になるのでは?」

「うん、まあ、そうなんだけど」

 立ち上がる。寄りかかったままのラビが上目遣いにこちらを見ている。セリフのこっ恥ずかしさを笑いでごまかした。

「仕方ないだろ。俺、『お兄ちゃん』だし」

「………本当にバカですねぇ」

 盛大に溜め息を吐かれる。そ、そんな大げさに言わんでも。ラビはステッキをバトンのように回した。癖らしい。

「さて、【悪夢】も倒しましたし。そろそろ夜明けですね」

「えっ、もう朝?」

「ええ。大体……四時半くらいですかね」

 そうか。だいぶ長い夢だったような気もする。

「ありがとな、ラビちゃん。弟助けてくれて」

「いえいえ、それが私の仕事ですから」

「……ところで、一つ聞きたいんだけど」

「はい?」

 聞きたいことは一つどころか他にも、麻薬使用シーンで反社会的って批判受けたりしない?とか、回復魔法使ってるとはいえ人を躊躇なくバットで殴れるのは道徳的にどうなの?とか、色々沢山あるけど。

 いま一番聞きたいのは。

「なんで俺の名前知ってたの?初対面なんだよな?」

「………」

 顔を逸らした。
 腕を組んで悩みだした。
 長いことそうやって考えて、出した答えは。

「…………管理者なので?」

「コッチが聞いてんだけど?」

 なぜ疑問形。

「まあいいじゃねえですか、そんな細かいことは!大体、私の正体とかいま聞いたとしても、起きたらココでの記憶は忘れちゃうんだから意味無いですし!」

「えっ!?」

「何を驚いてるんですか。心の奥底には残りますから、無意識にですけど弟くんとは上手くやれますよ」

 そ、れならいいんだけど、いや、それだけじゃダメで。

「ラビちゃんのことも忘れちゃうのか?」

「ええ。私の何一つ、思い出せないと思いますよ。貴方が【悪夢】に取り憑かれでもしない限り、もう会うこともないでしょう」

 そんな。
 白んだ空の端、町並みの果てから白い光が照らしてゆく。
 彼女は力を抜くようにふっと笑った。

「そんな顔しないでくださいよ。夢は忘れるものでしょう?」

 その微笑みがやっぱりコンと重なる。
 背中で手を組むラビの姿が、その柔らかな光に包まれて――

「さあ、お目覚めの時間ですよ。
 さようなら。優しい優しい、お兄ちゃん」

 微笑みが消えてゆく。

「っ、待って!」

 伸ばした手が空を切った。気が付くと、まだ薄暗い部屋の中、見慣れた天井に向かって手を伸ばしていた。
 そのままゆっくりベッドに下ろす。本当に夢だったのかと思って、

「…………何の、夢を見ていたんだっけ」

 何も思い出せないことを知る。
 弟に関わる夢だったこと。夕焼け色した魔法少女がいたこと。それだけは辛うじて思い出せるけれど、その詳細は霞を掴むような感覚で。

 その顔も、声も、名前すらも思い出せない。
 ただの夢のはずなのに、それがひどく悔しかった。

「…………畜生」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」 その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。 「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...