魔法少女黄昏兎

アマミヤコウタ

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第一話:サイコキネシスとあの日の約束

決着

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 空を覆うほどたくさんのガレキが一瞬で砂になった。
 管理者め、と誰かの悔しそうな声が頭のすみっこで響く。

 頭ではわかってるんだ。ヒメは女の子で大事にしなきゃいけないこと。
 でも悲しかったんだ。みんながヒメの味方をすることが。

 まぶたの裏に写る夕暮れの町が忘れられていることが。
 あの日の約束が破られてしまうのが、兄ちゃんに怒られる度に、毎回、毎回。悲しかった。

「うぉぉぉぉおおおおお!!」

 砂煙から飛び出してきた兄ちゃんは、剣を振りかぶって、オレに突っ込んでくる。このまま切られちゃうのかな。でもしかたないよな。だって、オレも兄ちゃん殺そうとしたんだし。

 羨ましかったんだ。まだ小さいって理由だけでみんなから大事にされるヒメが。

 オレも『お兄ちゃん』だから大事にしなきゃいけないのに、兄ちゃんみたいに上手にできなかった。

 オレがもっといい子で、よくできる人だったら、もっとちゃんと『お兄ちゃん』できたのかな。

 かわいそうなヒメ。オレがもっと優しい兄ちゃんだったなら良かったのにな。

「…………ごめんなさい」

 面倒臭い、できの悪い奴でごめんなさい。

   ***

「ごめんなさい」

 そんな言葉が聞こえた。弟の声だった。
 今まで戦っていた相手が弟だったことを思い出して、この軌道、速度では首の骨を折ってしまうことを察し、振り下ろそうとした剣を無理矢理に止める。……ダメだ止まらない!

「あーらよっと」

 気の抜けた掛け声と共に飛んできた棒手裏剣が地面スレスレでターンして振り下ろす剣の刃に真っ向からぶつかる。ギィンと音を立てて俺の手から吹っ飛んだ剣は放物線を描いて地面に刺さった。
 ドッと汗が噴き出した。ドーピングの効果が切れてきたらしい。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

 荒い息のまま見おろすと、弟はそのまま体を強張らせて立っている。

「……公孝?」

 声をかけると、恐る恐る公孝は目を開けた。

「……にいちゃん」

 いつもの弟だ。見た目には傷はない。ホッとして胸をなで下ろす。

「タカ……痛いとこ、ないか?」

 聞くと公孝は目を見開いた。みるみるうちにその目が潤む。

「兄ちゃん、ごめん。オレ……」

 そう言ったかと思えば、突然「ヒクッ」と喉を鳴らして、空を見上げた。目を飛び出しそうなほど開いて、口は半開きにして、動かない。何かヤバイことの前触れの気がする。

「タカッ!?どうした!しっかりしろ!」

 肩を掴んで揺さぶると、弟はこちらに焦点を当て、震える指先で俺の背後を指した。

「にい、ちゃ……にげて死ね

 振り返ると、細切れにした街路樹の槍の尖った枝が、俺の目を狙って飛んで来ていた。
 思わず目を瞑った隙に、後ろで弟が踵を返して駆けていく気配がした。

「【管理者マスター権限・障壁プロテクト】!」

 可愛らしい声が響くと、俺の目の前に魔法陣が何重にもなって立ちはだかった。
 声の主が少し遠くの民家の屋根の上から飛び降りてくる。

「ラビちゃん!?」

「限界ですね。そろそろ終わりにしましょうか!」

 逃げる公孝の姿が見える。
 文字通りひとっ跳びで公孝の背に迫ると、ラビは脚を肩幅に開き、腰を落とし、引き絞るように上身を捻って――

「ひぃぃぃっ!」

「【管理者マスター権限・回復攻撃ヒーリングアターック】!」

 ――手にしたを躊躇なくフルスイングした。

「公孝ァーーーーーーーッッッ!!」

 右脇腹にとんでもない打撃を受けた可愛い弟は、体をくの字に曲げて更地になった元住宅地に転げていく。

「ふぅ。なかなか飛びますね」

「タカーーーッ!!人の弟に何してくれてんだお前!タカーーーーッッ!!」

 駆け寄り抱き起こすと、公孝はどうやら気を失っているようだった。
 服をめくってみても、赤くもなっていない。触っても普通の感覚で、どっかの骨が折れているということはなさそうだ。

「無事……?」

「安心したまえ、峰打ちだ……」

 獲物の先をくるくると回すラビ。金属バットの峰ってどこ?

「ヒーリングアタックって言ったでしょう。攻撃に回復魔法を上乗せすれば、攻撃はしたが相手に怪我はない。故にノーカウント。っていうバグ技になるんですよ。いやー、これを某ネット発の書籍で読んだ時にはその手があったか!と目からウロコがポロポロと」

 右手に持ったバッドの先を右肩に担いで、左手はガッツポーズをしている。

「人の心を思い出せ!!」

 ふと何か動いた気がして腕の中に目を落とすと、公孝の胸から何かが飛び出した。ポップなマーブル模様の卵からぴょこんと足が二本飛び出ている。

 ……なにこれ。
 あれ?クレヨン絵でさっき見た気がする。もしかして。

「【悪夢】の卵ですっ!捕まえて!」

「えっ!コレが!?」

 某遊園地のイースター祭とかでよく見るヤツっぽいけど!?
 卵はいかにもそのイースターエッグですと言わんばかりに演技臭い驚きを表現してから、トテチテターッと蛇行しながら一目散に逃げていく。

「テメッ、待てコラ!」

 ラビが追いかけて行く。俺も公孝をその場に寝かせて卵を追った。
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