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5 壁の花の夜会
今夜は、王宮で開かれる夜会にリリアの招待客として参加している。
リリアのエスコートはもちろんセドリックがするため、パーティ中は二人が見える壁際で待機をしている。
侍女としての仕事がなければ、子爵令嬢であるカトリーヌは、リリアの側に侍る事はできない。
子爵家では本当はこのパーティに参加するのも難しい身分なのだ。
リリアから「貴方も参加してね」と招待状をもらうが、高位貴族相手に社交などできるはずもなく、大抵は壁を彩る花としてリリアをそっと眺めて過ごしている。
大勢の招待客に次から次へと声をかけられているリリアだが、シルバーに近い光沢のある生地に、小さな宝石が散りばめられたドレスを着用しており、スラリとしたリリアによく似合っている。カトリーヌが今日の為に厳選したドレスだ。いい仕事をしたと満足するのと同時に、今日の自分の装いに気分が落ち込んでいく。
「はぁ……」
「ため息なんて何かあったのかな?」
隣に立つアルバールがいつもの穏やかな笑みで、カトリーヌを見つめる。シャンデリアに照らされる金の瞳が装飾の一部のように輝いていた。
アルバールはセドリックの護衛としてパーティに参加している。
いつもの見慣れた白の隊服ではあるが、アルバールが着ればパーティの華やかさに負けていない。
セドリックよりも背が高く、騎士らしい鍛えられた体をしている。だが、中性的な美しい顔に神秘的な金の瞳を持ち、優しげな笑みを常に浮かべているアルバールは、参加している令嬢達の視線を奪っていた。
王宮騎士は高位貴族の出身である事が多く、大きな体からくる威圧感と、貴族特有の値踏みされる様な視線を向けられることもあり少しばかり苦手意識がある。
だが、アルバールは他の騎士達のような威圧感を感じる事はない。
リリアが来たばかりの頃は、王太子妃の座を夢見ていたご令嬢達の風当たりも強く、特に、人が多く参加する夜会では嫌がらせなどのトラブルが相次いだ。
セドリックはアルバールを常に二人の護衛として置いた。アルバールの視線を気にする令嬢達の嫌がらせは少なくなり、「あらごめんあそばせ」程度の嫌がらせもリリアには届かなくなった。
リリアが夜会に参加するたびに、悔しい思いをしたカトリーヌは、アルバールの存在に何度も助けられ、言葉では言えないほど感謝をしている。共にふたりの幸せを守っていく同志のような存在だと勝手に思っていた。
セドリックのリリアへの異常な執着が公になるほど、嫌がらせは無くなっていき、今では安心して離れて見守れるほどになった。
最近では、夜会では一人で壁際で過ごすカトリーヌを気遣ってか、気がつくとアルバールが横にいる事が多く、楽しそうな笑顔を浮かべるリリアを眺めながらアルバールの横に立ち、待機して過ごす事が多かった。
アルバール目当ての令嬢が偶然を装い近づいてくるが、護衛を理由にダンスや会話をやんわりと断られている。横にいるカトリーヌの方をチラチラと見るが、フッとバカにしたように笑い優雅に立ち去っていく。
こんな下級貴族の侍女は気にかける事もなさそうねといった声が聞こえてきそうだった。
(こんな上流貴族ばかりのパーティで相手にされるはずが無い事は理解しているし、アルバール様とはそんな関係じゃないわっ! だから今日も大人しく壁に花を咲かせてるんでしょ!)
そんな令嬢達の視線に気づかないふりをしながら、心の中で悪態をつくのが決まりのようになっている。
だが、今日に限っては自分の装いに自信が持てず、対抗する元気もでなかった。
(アルバール様は、いつもと変わりないけどはしたないと思われていないかしら)
カトリーヌは、自分のドレスを見おろし、大きく開いた胸元を見た。オフショルダーでギリギリまで谷間を強調したドレスは下位貴族の夜会で流行中のデザインだが、王宮のような場ではあまり目にしない。しかも、既製品だったためカトリーヌの胸には少し窮屈で余計に強調されてしまう。
「はぁ……」
何度目か分からないため息が漏れる。
「ため息。また出てるよ。何か困りごと?」
アルバールがカトリーヌの顔を覗き込みながら聞いてくる。その優しい表情に安心して、つい、心のつっかかかりを話してしまいたくなった。
「……実は私、もうすぐ婚約をするかもしれないのです」
「……え?」
「先日、父からの紹介で、婚約の申し込みをいただいた方とお会いしまして。今まで仕事ばかりでしたが、最近婚約について考えてもいいのかなと思う事があり……」
あの日のリリアの姿を思い出してしまい、一気に顔が紅潮する。アルバールに気づかれていない事を願いながら、顔を隠すように俯いた。
その様子を見たアルバールの拳は強く握られギッと手袋が擦れる音が小さく響く。いつもの穏やかな笑顔は消え、無表情にカトリーヌを見つめている。
赤くなった顔を隠して俯いたままでいるカトリーヌはその様子に気づく事はなく、そのまま話を続けた。
「お相手は子爵家の方なのですが、今日の夜会に参加する事をお話したらこのドレスを贈ってくださったのです。ただ……下位貴族の間では、流行りのデザインなのですが私にはちょっと着こなせなかったようです。せめて、二人で一緒に出席する時に着たら良かったと思いまして」
ドレスを贈られた事に舞い上がってしまいました、と苦笑まじりにアルバールを見上げれば、真剣な眼差しとぶつかった。
ドキリとする、見たことのない表情だった。いつもの穏やかな様子は無く、金の瞳には暖かさが見られない。
「それでか…」
独り言のように呟くアルバールを知らない人のように感じてしまい少し怖さを感じる。
「あの……。アルバール様?」
たまらず、声をかければ少しの間があきにこりと微笑まれた。
「カトリーヌ嬢。心配する事はない。今日もとても美しいよ」
突然の褒め言葉に落ち着いていた顔面が再び紅潮する。
「からかわないでくださいませっ…!」
不意の褒め言葉に、盛大に照れてしまった事を隠すこともできず、ドキドキと落ち着かない心臓と首まで赤くなっている自分を必死で誤魔化した。
近距離からのアルバールのお世辞は心臓に悪いと改めて認識した。
リリアのエスコートはもちろんセドリックがするため、パーティ中は二人が見える壁際で待機をしている。
侍女としての仕事がなければ、子爵令嬢であるカトリーヌは、リリアの側に侍る事はできない。
子爵家では本当はこのパーティに参加するのも難しい身分なのだ。
リリアから「貴方も参加してね」と招待状をもらうが、高位貴族相手に社交などできるはずもなく、大抵は壁を彩る花としてリリアをそっと眺めて過ごしている。
大勢の招待客に次から次へと声をかけられているリリアだが、シルバーに近い光沢のある生地に、小さな宝石が散りばめられたドレスを着用しており、スラリとしたリリアによく似合っている。カトリーヌが今日の為に厳選したドレスだ。いい仕事をしたと満足するのと同時に、今日の自分の装いに気分が落ち込んでいく。
「はぁ……」
「ため息なんて何かあったのかな?」
隣に立つアルバールがいつもの穏やかな笑みで、カトリーヌを見つめる。シャンデリアに照らされる金の瞳が装飾の一部のように輝いていた。
アルバールはセドリックの護衛としてパーティに参加している。
いつもの見慣れた白の隊服ではあるが、アルバールが着ればパーティの華やかさに負けていない。
セドリックよりも背が高く、騎士らしい鍛えられた体をしている。だが、中性的な美しい顔に神秘的な金の瞳を持ち、優しげな笑みを常に浮かべているアルバールは、参加している令嬢達の視線を奪っていた。
王宮騎士は高位貴族の出身である事が多く、大きな体からくる威圧感と、貴族特有の値踏みされる様な視線を向けられることもあり少しばかり苦手意識がある。
だが、アルバールは他の騎士達のような威圧感を感じる事はない。
リリアが来たばかりの頃は、王太子妃の座を夢見ていたご令嬢達の風当たりも強く、特に、人が多く参加する夜会では嫌がらせなどのトラブルが相次いだ。
セドリックはアルバールを常に二人の護衛として置いた。アルバールの視線を気にする令嬢達の嫌がらせは少なくなり、「あらごめんあそばせ」程度の嫌がらせもリリアには届かなくなった。
リリアが夜会に参加するたびに、悔しい思いをしたカトリーヌは、アルバールの存在に何度も助けられ、言葉では言えないほど感謝をしている。共にふたりの幸せを守っていく同志のような存在だと勝手に思っていた。
セドリックのリリアへの異常な執着が公になるほど、嫌がらせは無くなっていき、今では安心して離れて見守れるほどになった。
最近では、夜会では一人で壁際で過ごすカトリーヌを気遣ってか、気がつくとアルバールが横にいる事が多く、楽しそうな笑顔を浮かべるリリアを眺めながらアルバールの横に立ち、待機して過ごす事が多かった。
アルバール目当ての令嬢が偶然を装い近づいてくるが、護衛を理由にダンスや会話をやんわりと断られている。横にいるカトリーヌの方をチラチラと見るが、フッとバカにしたように笑い優雅に立ち去っていく。
こんな下級貴族の侍女は気にかける事もなさそうねといった声が聞こえてきそうだった。
(こんな上流貴族ばかりのパーティで相手にされるはずが無い事は理解しているし、アルバール様とはそんな関係じゃないわっ! だから今日も大人しく壁に花を咲かせてるんでしょ!)
そんな令嬢達の視線に気づかないふりをしながら、心の中で悪態をつくのが決まりのようになっている。
だが、今日に限っては自分の装いに自信が持てず、対抗する元気もでなかった。
(アルバール様は、いつもと変わりないけどはしたないと思われていないかしら)
カトリーヌは、自分のドレスを見おろし、大きく開いた胸元を見た。オフショルダーでギリギリまで谷間を強調したドレスは下位貴族の夜会で流行中のデザインだが、王宮のような場ではあまり目にしない。しかも、既製品だったためカトリーヌの胸には少し窮屈で余計に強調されてしまう。
「はぁ……」
何度目か分からないため息が漏れる。
「ため息。また出てるよ。何か困りごと?」
アルバールがカトリーヌの顔を覗き込みながら聞いてくる。その優しい表情に安心して、つい、心のつっかかかりを話してしまいたくなった。
「……実は私、もうすぐ婚約をするかもしれないのです」
「……え?」
「先日、父からの紹介で、婚約の申し込みをいただいた方とお会いしまして。今まで仕事ばかりでしたが、最近婚約について考えてもいいのかなと思う事があり……」
あの日のリリアの姿を思い出してしまい、一気に顔が紅潮する。アルバールに気づかれていない事を願いながら、顔を隠すように俯いた。
その様子を見たアルバールの拳は強く握られギッと手袋が擦れる音が小さく響く。いつもの穏やかな笑顔は消え、無表情にカトリーヌを見つめている。
赤くなった顔を隠して俯いたままでいるカトリーヌはその様子に気づく事はなく、そのまま話を続けた。
「お相手は子爵家の方なのですが、今日の夜会に参加する事をお話したらこのドレスを贈ってくださったのです。ただ……下位貴族の間では、流行りのデザインなのですが私にはちょっと着こなせなかったようです。せめて、二人で一緒に出席する時に着たら良かったと思いまして」
ドレスを贈られた事に舞い上がってしまいました、と苦笑まじりにアルバールを見上げれば、真剣な眼差しとぶつかった。
ドキリとする、見たことのない表情だった。いつもの穏やかな様子は無く、金の瞳には暖かさが見られない。
「それでか…」
独り言のように呟くアルバールを知らない人のように感じてしまい少し怖さを感じる。
「あの……。アルバール様?」
たまらず、声をかければ少しの間があきにこりと微笑まれた。
「カトリーヌ嬢。心配する事はない。今日もとても美しいよ」
突然の褒め言葉に落ち着いていた顔面が再び紅潮する。
「からかわないでくださいませっ…!」
不意の褒め言葉に、盛大に照れてしまった事を隠すこともできず、ドキドキと落ち着かない心臓と首まで赤くなっている自分を必死で誤魔化した。
近距離からのアルバールのお世辞は心臓に悪いと改めて認識した。
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