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始まりの卒業パーティ
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世間知らずの田舎貴族で、友達作りに最初から失敗したリーンにとって、二人の存在は常に救いとなっていた。
入学間もない頃に、一般科の令嬢に結婚について聞かれ、「精力が無さそうで、体力も持久力も無さそうな騎士じゃない人」という条件を明かしたところ、残念な人を見る目で見られた事が始まりだった。
貴族内の噂は学園内といえど、早く、広く、捻じ曲がって伝わるものだと知らなかったし、そんなくだらない内容なら、そのうち収まるだろうと甘く考えていた。だが、それからずっと男女ともに近寄ってくる人は少なく、結婚相手どころか、友達と呼べる人も、アリアとニコラスだけだった。
そして、噂など気にもせず、ずっと一緒にいてくれた友人である二人と、学園で過ごせる時間は今から始まる卒業パーティだけだった。
夕日に染まった学園の寮の玄関前に、侯爵家の家紋を入れた豪華な馬車から降りてきた、キラキラしたニコラスが自分に手を差し出した時、こんな夢見たいなこと私に起こる訳がない、また脳内映像かもしれないと、リーンは何度も、自分の頬をつねっていた。
二人とも、ふわふわの金髪に明るい青色の瞳を持ち、誰もが振り返る華やかな顔立ちをしている。侯爵家の令息と令嬢という、本来なら話す事もない高貴な身分の人達で、アリアの婚約者は王弟殿下というとんでもない繋がりの人達だった。そんな二人が卒業パーティー直前に、ランチの後の何気無い会話の中でまるで以前から決まっていたかのように、ニコラスのパートナーがリーンであると告げてきた。
「アリアは、婚約者とラストダンスが決まってるから、リーンは俺と踊るんだよ」
「え?」
「なに? 不満なの?」
「ニコラス相手決まってなかったの?」
「……だから誘ってるんだけど」
「アリアは婚約者である王弟殿下と踊るんでしょ? ニコラスは私でいいの? ちょっと私、場違いな気が………」
「たかが、学園の卒業パーティーでしょ。王城主催のものでもないし…………それに、こんな直前まで相手が決まってないのなんてリーンくらいしかいないでしょ。余り物は大人しく「うん」って言っておきなよ」
「余り物……確かに余ってるけど、でも……」
助けを求めるようにアリアを見ると、潤んだ美しい青い瞳がリーンを見つめて、そっと祈るように手を包まれた。
「卒業パーティーで侯爵家の嫡男が余っているなんていい笑い者ですわ。リーン、お兄様を助けてね」
「まさか、俺が誘ってるのに断るとかないよね?」
その横で、アリアと同じ顔でにこやかに青筋を立てているニコラスを前に、そんな立派な血筋の方が、卒業間際になってもどうして余っているのか、不思議だったのだが、本人に聞くこともできず黙って頷くしかなかった。
そして、本日、王都の自宅から学園の寮まで馬車でリーンを迎えに来たニコラスは、絵本の王子様のが現れたと思うほどキラキラと輝いていて、出された手に本当に、自分が手を乗せていいのか迷ってしまうほど素敵な正装だった。
「ニコラスの憎まれ口を聞くのも終わりが近いと思うと寂しいわね。今日は誘ってくれてありがとう! ドレスもとっても素敵。領地家に帰ってからもカッコいい友人と踊ったんだって自慢するね」
笑顔でニコラスにお礼を言ったら、少し照れたような顔でフワリと微笑みかえしてくれた。その綺麗な笑顔に小さく心臓が跳ねたが、コホンと小さく咳をして誤魔化した。
会場までは寮から馬車で十分ほど距離がある。
学園側が用意した馬車に乗って会場まで向かう生徒がほとんどだが、ニコラスとリーンはメルゼ侯爵家の紋章が入った馬車で移動している。この日の為にメルゼ家が特別に用意した物だった。
フワフワの敷物がひかれた座席と華やかな飾りと、広い内装はパーティへの期待感を増幅させてくれている。高位貴族っていろいろ桁違いだなと驚いたが、せっかくの綺麗なドレスはそのまま崩さずに到着したい。ありがたく乗せてもらう事にした。
自分が誘ったのだからカッコつけさせろとニコラスから贈られた青色のドレスは二人の瞳の色だった。
アリアは婚約者から贈られたドレスを着ているが、胸元には同色の大きなサファイアのネックレスが輝いている。三人で合わせたような衣装はリーンが二人と仲良くなれた証のようで、着ているだけで笑みが溢れた。
「とても綺麗な青色。アリアとニコラスが常に一緒にいてくれるみたいで嬉しい!」
「これは特別な青だからね」
「まぁ! そんな貴重な色のドレスを私が着てよかったの?」
「……君以外がこの青を着るなんて想像するだけで吐き気がする」
「そんなに三人だけのお揃いがよかったのね」
「……。頭使う所、今だよ?」
「お兄様。リーンにはちゃんと言わないと伝わりませんわぁ」
ニコラスは、はぁと大きくため息をつきながら、もう自分のことなど忘れて、過ぎていく学園内の景色を嬉しそうに見ているリーンをじっと見つめていた。
「二人ともみて! 会場がみえる! 一緒に過ごせる最後のパーティよ。目一杯楽しみましょうね!」
「……そうだね」
「ええ! いい思い出にしましょうね」
アリアがリーンにむかって両手をスッとだしてきた。その手の平にリーンもそっと両手を重ねる。お互いに、にっこりと微笑み合う。
いつもアリアがする挨拶のようなものだが、今日は何だが特別に感じた。もうすぐ王族の一員になってしまうアリアは、この先、簡単に会う事はできなくなる。大好きだと、アリアがいたから学園が楽しく過ごせたと、感謝しているという思いを込めてギュッとにぎる。
アリアの美しい微笑みが、満面の笑顔に変わる。リーンはこのアリアの顔が大好きだった。
お互いに笑顔で見つめ合うとニコラスがボソッと呟いた。
「アリアにだけずるい」
その声で、ニコラスを見ると、不機嫌そうな顔をして頬杖をつき、片手を私達が繋いでいる手の上に乗せてきた。
「あらあら! ヤキモチやきですこと」
「じゃあ左手はアリアに、右手はニコラスにしようか!」
「~~っ!! 別に手を繋ぎたかったわけじゃないよ!」
「えぇっ?」
「まぁまぁいいじゃないですの。せっかくですしね。お兄様?」
パーティ会場までの移動時間は、あっという間に過ぎていった。
入学間もない頃に、一般科の令嬢に結婚について聞かれ、「精力が無さそうで、体力も持久力も無さそうな騎士じゃない人」という条件を明かしたところ、残念な人を見る目で見られた事が始まりだった。
貴族内の噂は学園内といえど、早く、広く、捻じ曲がって伝わるものだと知らなかったし、そんなくだらない内容なら、そのうち収まるだろうと甘く考えていた。だが、それからずっと男女ともに近寄ってくる人は少なく、結婚相手どころか、友達と呼べる人も、アリアとニコラスだけだった。
そして、噂など気にもせず、ずっと一緒にいてくれた友人である二人と、学園で過ごせる時間は今から始まる卒業パーティだけだった。
夕日に染まった学園の寮の玄関前に、侯爵家の家紋を入れた豪華な馬車から降りてきた、キラキラしたニコラスが自分に手を差し出した時、こんな夢見たいなこと私に起こる訳がない、また脳内映像かもしれないと、リーンは何度も、自分の頬をつねっていた。
二人とも、ふわふわの金髪に明るい青色の瞳を持ち、誰もが振り返る華やかな顔立ちをしている。侯爵家の令息と令嬢という、本来なら話す事もない高貴な身分の人達で、アリアの婚約者は王弟殿下というとんでもない繋がりの人達だった。そんな二人が卒業パーティー直前に、ランチの後の何気無い会話の中でまるで以前から決まっていたかのように、ニコラスのパートナーがリーンであると告げてきた。
「アリアは、婚約者とラストダンスが決まってるから、リーンは俺と踊るんだよ」
「え?」
「なに? 不満なの?」
「ニコラス相手決まってなかったの?」
「……だから誘ってるんだけど」
「アリアは婚約者である王弟殿下と踊るんでしょ? ニコラスは私でいいの? ちょっと私、場違いな気が………」
「たかが、学園の卒業パーティーでしょ。王城主催のものでもないし…………それに、こんな直前まで相手が決まってないのなんてリーンくらいしかいないでしょ。余り物は大人しく「うん」って言っておきなよ」
「余り物……確かに余ってるけど、でも……」
助けを求めるようにアリアを見ると、潤んだ美しい青い瞳がリーンを見つめて、そっと祈るように手を包まれた。
「卒業パーティーで侯爵家の嫡男が余っているなんていい笑い者ですわ。リーン、お兄様を助けてね」
「まさか、俺が誘ってるのに断るとかないよね?」
その横で、アリアと同じ顔でにこやかに青筋を立てているニコラスを前に、そんな立派な血筋の方が、卒業間際になってもどうして余っているのか、不思議だったのだが、本人に聞くこともできず黙って頷くしかなかった。
そして、本日、王都の自宅から学園の寮まで馬車でリーンを迎えに来たニコラスは、絵本の王子様のが現れたと思うほどキラキラと輝いていて、出された手に本当に、自分が手を乗せていいのか迷ってしまうほど素敵な正装だった。
「ニコラスの憎まれ口を聞くのも終わりが近いと思うと寂しいわね。今日は誘ってくれてありがとう! ドレスもとっても素敵。領地家に帰ってからもカッコいい友人と踊ったんだって自慢するね」
笑顔でニコラスにお礼を言ったら、少し照れたような顔でフワリと微笑みかえしてくれた。その綺麗な笑顔に小さく心臓が跳ねたが、コホンと小さく咳をして誤魔化した。
会場までは寮から馬車で十分ほど距離がある。
学園側が用意した馬車に乗って会場まで向かう生徒がほとんどだが、ニコラスとリーンはメルゼ侯爵家の紋章が入った馬車で移動している。この日の為にメルゼ家が特別に用意した物だった。
フワフワの敷物がひかれた座席と華やかな飾りと、広い内装はパーティへの期待感を増幅させてくれている。高位貴族っていろいろ桁違いだなと驚いたが、せっかくの綺麗なドレスはそのまま崩さずに到着したい。ありがたく乗せてもらう事にした。
自分が誘ったのだからカッコつけさせろとニコラスから贈られた青色のドレスは二人の瞳の色だった。
アリアは婚約者から贈られたドレスを着ているが、胸元には同色の大きなサファイアのネックレスが輝いている。三人で合わせたような衣装はリーンが二人と仲良くなれた証のようで、着ているだけで笑みが溢れた。
「とても綺麗な青色。アリアとニコラスが常に一緒にいてくれるみたいで嬉しい!」
「これは特別な青だからね」
「まぁ! そんな貴重な色のドレスを私が着てよかったの?」
「……君以外がこの青を着るなんて想像するだけで吐き気がする」
「そんなに三人だけのお揃いがよかったのね」
「……。頭使う所、今だよ?」
「お兄様。リーンにはちゃんと言わないと伝わりませんわぁ」
ニコラスは、はぁと大きくため息をつきながら、もう自分のことなど忘れて、過ぎていく学園内の景色を嬉しそうに見ているリーンをじっと見つめていた。
「二人ともみて! 会場がみえる! 一緒に過ごせる最後のパーティよ。目一杯楽しみましょうね!」
「……そうだね」
「ええ! いい思い出にしましょうね」
アリアがリーンにむかって両手をスッとだしてきた。その手の平にリーンもそっと両手を重ねる。お互いに、にっこりと微笑み合う。
いつもアリアがする挨拶のようなものだが、今日は何だが特別に感じた。もうすぐ王族の一員になってしまうアリアは、この先、簡単に会う事はできなくなる。大好きだと、アリアがいたから学園が楽しく過ごせたと、感謝しているという思いを込めてギュッとにぎる。
アリアの美しい微笑みが、満面の笑顔に変わる。リーンはこのアリアの顔が大好きだった。
お互いに笑顔で見つめ合うとニコラスがボソッと呟いた。
「アリアにだけずるい」
その声で、ニコラスを見ると、不機嫌そうな顔をして頬杖をつき、片手を私達が繋いでいる手の上に乗せてきた。
「あらあら! ヤキモチやきですこと」
「じゃあ左手はアリアに、右手はニコラスにしようか!」
「~~っ!! 別に手を繋ぎたかったわけじゃないよ!」
「えぇっ?」
「まぁまぁいいじゃないですの。せっかくですしね。お兄様?」
パーティ会場までの移動時間は、あっという間に過ぎていった。
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