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私を竜騎士にして下さい!え?大事なのは体の相性?
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「え? ユングさんならもういませんよ?」
竜舎の世話係のロフの言った事がすぐに理解できなかった。
「今日はいつもの隊服じゃないんですね? 綺麗なドレスでどうしたんですか?」
あまりの驚きに差し入れに持ってきた紙袋いっぱいのりんごを、どさりと玄関ホールの床に落とした。袋から溢れたりんごがコロコロと転がっていく。
「あっちょっと! りんごもったいないですよ! レーシャ様!」
「ちょっと! どういうこと?! ユングがいない? なんで?! 私何も聞いてない!」
「あっ! 袖引っ張らないでくださいよ! りんご拾えないでしょ」
「うわー!! 私の計画がぁぁぁ!!」
森に囲まれた静かな竜舎の中でレーシャの叫び声が響く。さらに、床に手をついて「どうして! どうして!」と叫んでいる。
『うるさいぞ』
ホールの奥から低く響く声がした。
『レーシャ。用事が終わったなら早く帰れ。安眠妨害だ』
「……ゲル! 今日は起きているのね! よかった!」
体を起こし、ズビッと鼻をすすりながら少し離れた場所から響く声に答えた。
竜舎といっても、もともと貴族の屋敷であり、大きく開けた玄関ホールに寝床を作っている。フワフワの質のいい敷物に一匹の黒竜が横たわっている。
頭をレーシャの方に向けているがその目には包帯が巻かれ、体には無数の傷がある。
通常の竜の1/3程度の大きさのゲルは、他の竜に混じってこのレーシャが住むムタ王国と隣国である帝国の争いに、竜の国ダニアから加勢に来てくれた。
体の小ささを生かして低空を飛ぶ為、敵国から狙われやすく傷だらけになってしまった。自国の勝利で終わり、帝国の兵が撤退した後も、他の竜はダニアに帰国したがゲルだけは体を癒す為に残っている。
竜にしては小さめの体は、体力回復に集中し、丸まったまま動かない事が多かった。
生活の世話は全て、一緒に残ってくれた世話係のロフが行っている。王女として自国を手助けしてくれた竜にお礼を言おうと訪れたレーシャは、一目で美しい黒竜に魅了されてしまい、それ以来、レーシャは差し入れを持ってゲルに会いに来るのが日課になっている。
レーシャがゲルの近くに座り、自分の事や人には言えない愚痴などを勝手に話していた。
最初は、うるさい、傷に障ると追い出されそうになったので、少しだけ使える回復魔法をかけている時間だけ、話をする事を交渉材料に、側にいる事を許された。
ゲルは、回復魔法をかけても、ほとんど動かず、レーシャの話を聞いているのかいないのか分からない事も多かった。
だが、いつの頃か、ゲルの代わりに同じように竜舎に入り浸っていたユングが話を聞いてくれるようになった。
自分については、あまり語らない青年だったが、竜に詳しく、色々な国での体験話をしてくれた。ロフもユングを見ても何も言わなかったし、ゲルも警戒する様子がなかったのであまり詮索はせずにダニアの国関係者かなと考えていた。
こんなに突然いなくなるなんて予想外だった。
しかも、どうして今日なのだ。
父からダニアの第二王子との結婚を言い渡されたのが二日前の夜。
昨日、一日中悩んで、今日、一大決心をして来てみればユングがいない。
「ゲル……。きいて……私このままだとダニアにお嫁に行かなきゃならない」
『……嫌なのか?』
「私はまだ結婚なんて考えてなかった! それにユングとっ……」
レーシャが何かをいいかけてやめた。
『……俺の故郷は美しいよ』
「ダニアに行くのが嫌なわけじゃないよ。ゲルにも助けてもらってる。感謝もしてる。いつかは行ってみたいよ」
でも、とレーシャがボロボロと泣き出す。
驚いたロフが「ハンカチ……ハンカチ」といいながら玄関ホールを離れていった。
『レーシャ。こちらにおいで』
鼻をすすりながら、ゲルがいるホールを進んでいく。横たわるゲルの側まで行くと両手を広げて抱きついた。
涙に濡れた顔を、硬い皮膚と、鱗に擦り付ける。
ゲルは腹が濡れる事を気にする様子もなく、縋りついたレーシャを受け入れてくれた。人よりも高い体温が心地よい。
「お父様からダニアから輿入れの要請が来たって言われたの。私だって王女だもの。国の為に結婚するのは王族の勤めだと思っていたのよ」
顔を上げ、ゲルを見つめる。
「でもね。私気づいちゃったの。ユングが好きだなって。短い時間だったけど、ここで竜について話したり、私の知らない街の話を聞いたり、美味しそうな食べ物の話をしたわ。とっても楽しかったし、いつか一緒に行けたらって思ったの。だからダニアに行ったらもう会えないなってあの綺麗な翠緑の目も見れないんだって思ったら……」
レーシャの瞳が再び涙で濡れ出した。頬に溢れた涙をゲルの大きな舌が舐めとる。
「それで! 今日告白しようと思ってこんな格好までして来たのに! 結構、仲良くなっていたと思っていたのに! なにも言わないでいなくなっちゃうなんてひどいよぉー!!」
うわーんとレーシャが声を上げて泣き出した。
再びゲルの腹にグリグリと顔を押し付け、大声で訴える。
「ゲルゥ……。私まだ結婚したくないのっ。お願い! 私をあなたの竜騎士にして!!」
『はぁ……?!』
「だって! 国に残りたかったら、ダニアの竜騎士になって国を守るなら考えてやるってお父様が言うんですもの!!」
『そんな無茶苦茶なことあるか?』
「叶えるつもりが無いからこんな条件なのよ! できないなら王女として結婚して国を守れって事よ」
レーシャが自分の髪をいじりながら、もじもじと話す。
「だから、今日ユングが告白を受け入れてくれたら私を貰ってもらおうかなって思って。純潔じゃ無くなれば輿入れも難しくなるでしょ?」
『王女としてそれはどうかと思うぞ』
「だってユングの事が好きなんだもんっ!」
『ほーお? 何にも言わずにいなくなる様なやつなのにか?』
「っ……! だから待ちたいの! 戻ってくるかもしれないじゃない!」
ゲルの顔に額をつけながら懇願する。
「ゲルお願い。私をあなたの騎士にして?」
竜舎の世話係のロフの言った事がすぐに理解できなかった。
「今日はいつもの隊服じゃないんですね? 綺麗なドレスでどうしたんですか?」
あまりの驚きに差し入れに持ってきた紙袋いっぱいのりんごを、どさりと玄関ホールの床に落とした。袋から溢れたりんごがコロコロと転がっていく。
「あっちょっと! りんごもったいないですよ! レーシャ様!」
「ちょっと! どういうこと?! ユングがいない? なんで?! 私何も聞いてない!」
「あっ! 袖引っ張らないでくださいよ! りんご拾えないでしょ」
「うわー!! 私の計画がぁぁぁ!!」
森に囲まれた静かな竜舎の中でレーシャの叫び声が響く。さらに、床に手をついて「どうして! どうして!」と叫んでいる。
『うるさいぞ』
ホールの奥から低く響く声がした。
『レーシャ。用事が終わったなら早く帰れ。安眠妨害だ』
「……ゲル! 今日は起きているのね! よかった!」
体を起こし、ズビッと鼻をすすりながら少し離れた場所から響く声に答えた。
竜舎といっても、もともと貴族の屋敷であり、大きく開けた玄関ホールに寝床を作っている。フワフワの質のいい敷物に一匹の黒竜が横たわっている。
頭をレーシャの方に向けているがその目には包帯が巻かれ、体には無数の傷がある。
通常の竜の1/3程度の大きさのゲルは、他の竜に混じってこのレーシャが住むムタ王国と隣国である帝国の争いに、竜の国ダニアから加勢に来てくれた。
体の小ささを生かして低空を飛ぶ為、敵国から狙われやすく傷だらけになってしまった。自国の勝利で終わり、帝国の兵が撤退した後も、他の竜はダニアに帰国したがゲルだけは体を癒す為に残っている。
竜にしては小さめの体は、体力回復に集中し、丸まったまま動かない事が多かった。
生活の世話は全て、一緒に残ってくれた世話係のロフが行っている。王女として自国を手助けしてくれた竜にお礼を言おうと訪れたレーシャは、一目で美しい黒竜に魅了されてしまい、それ以来、レーシャは差し入れを持ってゲルに会いに来るのが日課になっている。
レーシャがゲルの近くに座り、自分の事や人には言えない愚痴などを勝手に話していた。
最初は、うるさい、傷に障ると追い出されそうになったので、少しだけ使える回復魔法をかけている時間だけ、話をする事を交渉材料に、側にいる事を許された。
ゲルは、回復魔法をかけても、ほとんど動かず、レーシャの話を聞いているのかいないのか分からない事も多かった。
だが、いつの頃か、ゲルの代わりに同じように竜舎に入り浸っていたユングが話を聞いてくれるようになった。
自分については、あまり語らない青年だったが、竜に詳しく、色々な国での体験話をしてくれた。ロフもユングを見ても何も言わなかったし、ゲルも警戒する様子がなかったのであまり詮索はせずにダニアの国関係者かなと考えていた。
こんなに突然いなくなるなんて予想外だった。
しかも、どうして今日なのだ。
父からダニアの第二王子との結婚を言い渡されたのが二日前の夜。
昨日、一日中悩んで、今日、一大決心をして来てみればユングがいない。
「ゲル……。きいて……私このままだとダニアにお嫁に行かなきゃならない」
『……嫌なのか?』
「私はまだ結婚なんて考えてなかった! それにユングとっ……」
レーシャが何かをいいかけてやめた。
『……俺の故郷は美しいよ』
「ダニアに行くのが嫌なわけじゃないよ。ゲルにも助けてもらってる。感謝もしてる。いつかは行ってみたいよ」
でも、とレーシャがボロボロと泣き出す。
驚いたロフが「ハンカチ……ハンカチ」といいながら玄関ホールを離れていった。
『レーシャ。こちらにおいで』
鼻をすすりながら、ゲルがいるホールを進んでいく。横たわるゲルの側まで行くと両手を広げて抱きついた。
涙に濡れた顔を、硬い皮膚と、鱗に擦り付ける。
ゲルは腹が濡れる事を気にする様子もなく、縋りついたレーシャを受け入れてくれた。人よりも高い体温が心地よい。
「お父様からダニアから輿入れの要請が来たって言われたの。私だって王女だもの。国の為に結婚するのは王族の勤めだと思っていたのよ」
顔を上げ、ゲルを見つめる。
「でもね。私気づいちゃったの。ユングが好きだなって。短い時間だったけど、ここで竜について話したり、私の知らない街の話を聞いたり、美味しそうな食べ物の話をしたわ。とっても楽しかったし、いつか一緒に行けたらって思ったの。だからダニアに行ったらもう会えないなってあの綺麗な翠緑の目も見れないんだって思ったら……」
レーシャの瞳が再び涙で濡れ出した。頬に溢れた涙をゲルの大きな舌が舐めとる。
「それで! 今日告白しようと思ってこんな格好までして来たのに! 結構、仲良くなっていたと思っていたのに! なにも言わないでいなくなっちゃうなんてひどいよぉー!!」
うわーんとレーシャが声を上げて泣き出した。
再びゲルの腹にグリグリと顔を押し付け、大声で訴える。
「ゲルゥ……。私まだ結婚したくないのっ。お願い! 私をあなたの竜騎士にして!!」
『はぁ……?!』
「だって! 国に残りたかったら、ダニアの竜騎士になって国を守るなら考えてやるってお父様が言うんですもの!!」
『そんな無茶苦茶なことあるか?』
「叶えるつもりが無いからこんな条件なのよ! できないなら王女として結婚して国を守れって事よ」
レーシャが自分の髪をいじりながら、もじもじと話す。
「だから、今日ユングが告白を受け入れてくれたら私を貰ってもらおうかなって思って。純潔じゃ無くなれば輿入れも難しくなるでしょ?」
『王女としてそれはどうかと思うぞ』
「だってユングの事が好きなんだもんっ!」
『ほーお? 何にも言わずにいなくなる様なやつなのにか?』
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