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あなたを好きになる理由
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「また負けたのよ!私よりあの人を選ぶ理由ってなに?!爵位は同じ!仕事も同じ!顔と体は私の方がいいわ!」
「あ~……性格じゃない?その。あの令嬢、誰にでも、気遣いできて優しいって評判だったよ」
「はぁ?!誰にだって優しいのは、優しいんじゃなくて偽善者っていうのよ!!」
「俺も優しい人がいいけどなぁ」
「うるさいわね!あんたの好みなんて聞いてないのよ!」
「そういう所じゃないかなーたぶん~」
ざわつく店の中で、金色の髪を揺らしながら、顔を真っ赤にして騒ぐアイシスは、並んだカウンター席に座る、眠たそうな目をした赤毛の男に溜まった鬱憤をぶつけている。
勝気さを滲ませる吊り気味の目に、濃紺の瞳がよく似合い、見る人を惹きつける美しさと華やかさが合わさった顔立ちをしているが、可愛らしい桃色の唇から発せられるのは、なかなかにトゲのある言葉の連続だった。
「優しいだけの女なんて何がいいのかしら」
小さく切られた、チーズを乱暴に口の中に放り込み、「優しいだけの女」の援護のために何かを言いかけた男の様子を察して、言葉を遮るように、人差し指を男の唇に当てて話し出した。
「私に嫌味を言われたって相談してるうちに進展したんですって!わざわざ言いに来たのよ?しかも、絶対すぐに別れるわ!私への当てつけなのよっ!あの女が優しいはず無いじゃないっ!」
アイシスの指をいつものように、そっと払った男は、空になったアイシスの取り皿に小さく切った追加のチーズを乗せながら、ため息混じりの声を出した。
「また注意して恨み買ったの?仕事する気の無い人に何言っても伝わらないよ。知ってるだろ?」
「だって王城にあんなに働く気のない人がいる事が許せないんですもの!」
「王城の下級侍女でそんなにやる気に溢れて働いてる人いないよ。専属侍女とか官吏試験を通った女官なら怖いくらいやる気ある人いるけど、行儀見習い中の下級侍女達はただ、約束の期間を無事に過ごすだけか、爵位の高い相手と出会う事が一番の目的だろ?」
「分かっているわよ。私も同じ立場だもの」
「じゃあ、言わなきゃいいじゃないか」
「分かってるわよっ!!だけどっ!憧れてた場所を汚されてるみたいで言いたくなっちゃうんだもん!!」
「真面目だなぁ~」
最後に少し残っていたワインを両手で持ち、勢いよく飲み干した後、グラスを見つめながらアイシスはポツリと呟いた。
「私はあの時のキラキラした人達みたいになりたいだけなのよ」
ヘラヘラと笑ってグラスに残ったエールを飲み干した男は、カウンターの奥にいる店員に手をあげて合図をして、追加のエールとチーズといつもアイシスが食べているデザートと紅茶を注文する。
「せっかく王城で働いているのに、最悪なあだ名をつけられてっ!全然キラキラしてないっ!!」
「あ~……婚約者のいる男ばかり狙ってる『泥棒侍女』だっけ?」
「言わないでよっ!私は声をかけられたから、少しお話ししていただけよっ!」
「ちょっと遊んでそうな顔のいい男か、自称する身分がやたら高い男にばっかりいい顔するからだよ」
「他のに何を基準に選んだらいいのか分からないんだもん。王城で働いているって最低条件に、プラスするなら、顔か爵位でしょ」
「だから軽くみられるんだよ」
「……それ以外の人は『ただ優しそう』って印象しか残らないのよ」
「いいじゃないか。『優しい人』。俺は好きだよ」
「だって、魅力を感じないんだもの」
「周りの令嬢達は見た目が優しそうな人の方が選ばれてるのにね~」
「本当にっ!絶対私の方がいい女なのに!」
「だから軽くみられるんだよ」
「また言った?!ちょっと!優しくない!!優しいだけが取り柄のアンタから優しさ取ったら何も残らないじゃない!」
「え~?それでも余るくらい優しいと思うんだけどなぁ。こんなくだらない話にいつも付き合ってあげて」
「はぁ~!?」
アイシスの口に、置かれたばかりのチーズケーキを押し込み、追撃をかわした男は、モグモグと口を動かすアイシスを見つめる。
「顔だけとか、身分だけのやつにひっかかるなよ」
「なに?心配してくれてるの?」
「毎回、愚痴聞かされる俺が可哀想だろ」
「はぁ~?!」
明日に休息日を控えた夜、アイシスの叫び声が、王都の外れにある酒場に響き渡った。
「あ~……性格じゃない?その。あの令嬢、誰にでも、気遣いできて優しいって評判だったよ」
「はぁ?!誰にだって優しいのは、優しいんじゃなくて偽善者っていうのよ!!」
「俺も優しい人がいいけどなぁ」
「うるさいわね!あんたの好みなんて聞いてないのよ!」
「そういう所じゃないかなーたぶん~」
ざわつく店の中で、金色の髪を揺らしながら、顔を真っ赤にして騒ぐアイシスは、並んだカウンター席に座る、眠たそうな目をした赤毛の男に溜まった鬱憤をぶつけている。
勝気さを滲ませる吊り気味の目に、濃紺の瞳がよく似合い、見る人を惹きつける美しさと華やかさが合わさった顔立ちをしているが、可愛らしい桃色の唇から発せられるのは、なかなかにトゲのある言葉の連続だった。
「優しいだけの女なんて何がいいのかしら」
小さく切られた、チーズを乱暴に口の中に放り込み、「優しいだけの女」の援護のために何かを言いかけた男の様子を察して、言葉を遮るように、人差し指を男の唇に当てて話し出した。
「私に嫌味を言われたって相談してるうちに進展したんですって!わざわざ言いに来たのよ?しかも、絶対すぐに別れるわ!私への当てつけなのよっ!あの女が優しいはず無いじゃないっ!」
アイシスの指をいつものように、そっと払った男は、空になったアイシスの取り皿に小さく切った追加のチーズを乗せながら、ため息混じりの声を出した。
「また注意して恨み買ったの?仕事する気の無い人に何言っても伝わらないよ。知ってるだろ?」
「だって王城にあんなに働く気のない人がいる事が許せないんですもの!」
「王城の下級侍女でそんなにやる気に溢れて働いてる人いないよ。専属侍女とか官吏試験を通った女官なら怖いくらいやる気ある人いるけど、行儀見習い中の下級侍女達はただ、約束の期間を無事に過ごすだけか、爵位の高い相手と出会う事が一番の目的だろ?」
「分かっているわよ。私も同じ立場だもの」
「じゃあ、言わなきゃいいじゃないか」
「分かってるわよっ!!だけどっ!憧れてた場所を汚されてるみたいで言いたくなっちゃうんだもん!!」
「真面目だなぁ~」
最後に少し残っていたワインを両手で持ち、勢いよく飲み干した後、グラスを見つめながらアイシスはポツリと呟いた。
「私はあの時のキラキラした人達みたいになりたいだけなのよ」
ヘラヘラと笑ってグラスに残ったエールを飲み干した男は、カウンターの奥にいる店員に手をあげて合図をして、追加のエールとチーズといつもアイシスが食べているデザートと紅茶を注文する。
「せっかく王城で働いているのに、最悪なあだ名をつけられてっ!全然キラキラしてないっ!!」
「あ~……婚約者のいる男ばかり狙ってる『泥棒侍女』だっけ?」
「言わないでよっ!私は声をかけられたから、少しお話ししていただけよっ!」
「ちょっと遊んでそうな顔のいい男か、自称する身分がやたら高い男にばっかりいい顔するからだよ」
「他のに何を基準に選んだらいいのか分からないんだもん。王城で働いているって最低条件に、プラスするなら、顔か爵位でしょ」
「だから軽くみられるんだよ」
「……それ以外の人は『ただ優しそう』って印象しか残らないのよ」
「いいじゃないか。『優しい人』。俺は好きだよ」
「だって、魅力を感じないんだもの」
「周りの令嬢達は見た目が優しそうな人の方が選ばれてるのにね~」
「本当にっ!絶対私の方がいい女なのに!」
「だから軽くみられるんだよ」
「また言った?!ちょっと!優しくない!!優しいだけが取り柄のアンタから優しさ取ったら何も残らないじゃない!」
「え~?それでも余るくらい優しいと思うんだけどなぁ。こんなくだらない話にいつも付き合ってあげて」
「はぁ~!?」
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