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幕間:??

1 寂しがり屋の犬

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「アラク、どこ行ってたの」
俺の犬は寂しがり屋だ。
たった数時間、部屋から離れただけで俺の脚にしがみつき、もう離さないとばかりに顔を擦りつける。
本当に、可愛いやつだ。

「………くさい」
そんな彼の可愛い顔は、瞬く間に歪められた。

「ごめんな。あの女が急に抱き着いて──」
「なんで!」
犬は許せないとばかりに声を上げた。隣国の王族の特徴である美しい碧眼をこれでもかと見開いて、俺の発言を信じられないと吠えた。
寂しがり屋の愛犬は、いつだって俺のことを疑う。愛しているから、外にも出さず誰の目にも触れさせぬように寝室で飼っているというのに、俺の愛を疑うのだ。そのシルクのシャツも、お前の耳を彩る宝石も、お前が退屈しないように買い与える本も、お前の血肉となる豪華な食事も、この部屋を彩る絢爛豪華な装飾も、お前の母国では当たり前だったろうそれらが、この国では王族でもできなかった贅沢だと知らないのだろう。
嗚呼、それでいいのだ。俺は至らない俺をお前に見せたくないのだから。
「すまなかった。外は危険なんだ。乱世が訪れ、聖女が現れたといっただろう。…………お前を守れるのは俺だけなんだ。だから、お利口さんにしててくれ」
「…………でも、俺のアラクに女の臭いがついているのは、嫌だ」
「大丈夫だ。いずれ俺とお前、ずっと二人でいられるようになる」
「…………本当?」
「本当だ」
ちゅ、ちゅと彼に口付けながらベッドに押し倒す。
美しい花を手折る瞬間の高揚感にも似た征服欲が己の中で湧き上がって、今すぐに齧りつきたくなる。しかし、今の俺はもう《犬》ではないから。
もう彼の訪れを待つ俺ではない。彼とともに憎たらしい両親も兄弟も、全てを手中に収めたのだから。彼を怖がらせるわけにはいかない。あくまでも紳士的に接するのだ。

彼の首には見慣れた首輪が嵌められている。
──彼は俺の犬だ。
愛らしく、うつくしい、俺の犬。

その事実に胸を熱くしながら、彼のシルクのシャツを暴いていった。
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