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10 ダミアンside
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昔から、何かを観察するのが好きだった。
それは虫や草花であり、軍馬であり、あるいは人間だった。
単純な好奇心ではない。空っぽの胸の奥から湧き上がる、底知れぬ衝動に突き動かされての行為だった。
両親は完璧な仮面夫婦で、そこに愛情の入り込む隙間などなかった。
父は辺境伯家を統べる一族の後継者で、北の国境を守る重責を負っていた。
祖先はこの地がまだ蛮族の勢力下にあった頃から、この土地の統治を任され、幾世代にもわたって最前線で国境を守り続けてきた。辺境は過酷だ。冬は長く、陽光は乏しく、作物は育たない。
隣国は温暖な王都を狙って侵攻を繰り返す。王族の庇護も報奨金も、武具や馬の調達に消えてしまう。私は少年の頃から、この土地の過酷さを肌身で知っていた。
私の母は、王女だった。
母は王女としてこの地に嫁いだが、父にとっては政治的な縁組に過ぎなかった。本当は愛人を別邸に囲っているのを、私は知っていた。
母は縁もゆかりもないこの寂しい土地に売られるように嫁いできたという。義務に縛られ私を産んでからは、病に伏せて屋閉じこもっている。その母も、護衛騎士といい関係であることを私は知っていた。
母の孤独と父の無関心は、私に深い恐怖心を植え付けた。
クロス家の跡継ぎとして、私は丁寧に育てられた。
周囲の大人たちは私を立派な当主に仕立てようと躍起だった。
剣術の技術を磨こうが、学問でよい成績を収めようが、父も母も目を留めることはない。ふたりともが私以外のことで忙しいのだ。ただ、分家の者に劣れば容赦のない叱責が飛ぶ。積み上げた努力の先にあるのは、いつも凍てつくような虚しさだけだった。
だから、決めたのだ。このつまらない一族を、義務を押し付けるだけの大人たちを、心底から困らせてやろうと。
第一王子の誕生日パーティーは、絶好の機会だった。
私はもう何をするかを決めていた。高位貴族の子らが王子に群がる中、喧騒を離れ、王宮の人気のない庭園へ向かった。この城には何度も来たことがあり、人気のない場所には心当たりがあった。
想像を行動に移す。体中が興奮で震え、胸の奥に長く凍っていた熱が芽吹くのを感じた。
──領地を侵す蛮族のように、その場で適当な獲物を選び、凌辱してやるつもりだった。高貴な両親の顔を泥で塗り潰すための、単なる「道具」として。
果たして、そこで出会ったのは、小柄な少年だった。
王宮から漏れる光に照らされ、その少年は微かに汗ばんで肩は小刻みに震えていた。生まれたての小鹿のようにぷるぷると頼りないのに、その頬は熱く、分厚いレンズ越しに潤んだ瞳が揺れている。怯えと、そして矛盾した「期待」が入り混じった視線。
その姿を見た瞬間、私の中にあった計画が音を立てて崩れ去った。
──これで、遊びたい。
子供の頃、観察していた騎士がいた。
その騎士は、私を自分の子供のように可愛がってくれた人だった。妻と子供を領地の家に残してきていて、訓練の合間に家族への愛を語る陽気な男だった。懐いたわけではないが、私の印象には残っていた。
そうして、国境警備から帰ってきたその騎士は、変わり果てていた。
快活だった性格が荒れ果て、妻と別れ、酒に溺れ、以前の姿は見る影もない。私はただどうなるのかを見たくて彼の観察を続けていた。
そうして一年後、彼は首を吊った――自殺だった。
私はショックを受けた。それはそれは彼の死を嘆くものではなく、彼の壊れゆく様を、奈落に落ちていく様を、二度と観察できないことへの苛立ちだった。
壊れたものは、観察できない。それが私の学んだ残酷な現実だった。
そして今、彼の異様な反応を目にして、私は久しく忘れていた強烈な欲望を覚えた。
涙で潤んだ目、貧相な体を震わせる姿に、ぞくりと背筋が走る。もっと追い詰めたい。もっと反応を見たい――その衝動が、心臓の奥で波のようにうねった。
もっと近づきたい、もっと反応を見たい。怖れと期待が入り混じったその顔。怯えながらもこちらを見つめる視線は、私の中に潜む得体の知れない衝動を刺激する。
これを使い捨てにするには、あまりに惜しい。
私はすぐに、計画を改めることにした。
私は彼を王宮の使用人に預け、すぐに護衛に身辺調査を命じた。
貧乏貴族の末裔、エリオット。想像通り、都合のいい玩具を手に入れることができそうだ。
屋敷に到着した彼は、期待を裏切らなかった。
部屋のペットベッドに目を輝かせ、興奮で震える姿。
「君、虐められるのが好きな子だね」
怯えているのに、期待する。弱いのに、こちらを見つめる。その無垢な反応が、私をさらに駆り立てる。
握りつぶす勢いで乳首を摘まむと、それを捻じる。それに彼──エリオットは「お゛お゛ほぉ♡♡♡」とみっともなく喘いでみせた。その様子に、私まで昂った。
「……もっと、虐めてほしい?」
そう囁いてからの失態は、想像以上のものであった。
彼の体は震え、ズボンに染みが広がった。
10歳にもなった貴族の子供が、おむつのとれない子供のような粗相をおこしたのである。それに、彼は従順であった。支配を求めているのだと、全身で訴える。
これは、私の周りにいない人間だ。
私は衝撃を受けた。何の変哲もない外見をした少年が、犬のように這いつくばり、床にこぼれた一滴を舌で掬う姿に。そして、褒められることを期待するように、飼い主である私を見上げる。
――こんなことが許されるのか。
そう思った瞬間、胸の奥に熱が走った。
これを弄ぶことは、きっと、とてつもなく愉快な退屈しのぎになる。私はそれを確信した。
✦・┈┈┈┈┈┈┈┈ ・✦
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それは虫や草花であり、軍馬であり、あるいは人間だった。
単純な好奇心ではない。空っぽの胸の奥から湧き上がる、底知れぬ衝動に突き動かされての行為だった。
両親は完璧な仮面夫婦で、そこに愛情の入り込む隙間などなかった。
父は辺境伯家を統べる一族の後継者で、北の国境を守る重責を負っていた。
祖先はこの地がまだ蛮族の勢力下にあった頃から、この土地の統治を任され、幾世代にもわたって最前線で国境を守り続けてきた。辺境は過酷だ。冬は長く、陽光は乏しく、作物は育たない。
隣国は温暖な王都を狙って侵攻を繰り返す。王族の庇護も報奨金も、武具や馬の調達に消えてしまう。私は少年の頃から、この土地の過酷さを肌身で知っていた。
私の母は、王女だった。
母は王女としてこの地に嫁いだが、父にとっては政治的な縁組に過ぎなかった。本当は愛人を別邸に囲っているのを、私は知っていた。
母は縁もゆかりもないこの寂しい土地に売られるように嫁いできたという。義務に縛られ私を産んでからは、病に伏せて屋閉じこもっている。その母も、護衛騎士といい関係であることを私は知っていた。
母の孤独と父の無関心は、私に深い恐怖心を植え付けた。
クロス家の跡継ぎとして、私は丁寧に育てられた。
周囲の大人たちは私を立派な当主に仕立てようと躍起だった。
剣術の技術を磨こうが、学問でよい成績を収めようが、父も母も目を留めることはない。ふたりともが私以外のことで忙しいのだ。ただ、分家の者に劣れば容赦のない叱責が飛ぶ。積み上げた努力の先にあるのは、いつも凍てつくような虚しさだけだった。
だから、決めたのだ。このつまらない一族を、義務を押し付けるだけの大人たちを、心底から困らせてやろうと。
第一王子の誕生日パーティーは、絶好の機会だった。
私はもう何をするかを決めていた。高位貴族の子らが王子に群がる中、喧騒を離れ、王宮の人気のない庭園へ向かった。この城には何度も来たことがあり、人気のない場所には心当たりがあった。
想像を行動に移す。体中が興奮で震え、胸の奥に長く凍っていた熱が芽吹くのを感じた。
──領地を侵す蛮族のように、その場で適当な獲物を選び、凌辱してやるつもりだった。高貴な両親の顔を泥で塗り潰すための、単なる「道具」として。
果たして、そこで出会ったのは、小柄な少年だった。
王宮から漏れる光に照らされ、その少年は微かに汗ばんで肩は小刻みに震えていた。生まれたての小鹿のようにぷるぷると頼りないのに、その頬は熱く、分厚いレンズ越しに潤んだ瞳が揺れている。怯えと、そして矛盾した「期待」が入り混じった視線。
その姿を見た瞬間、私の中にあった計画が音を立てて崩れ去った。
──これで、遊びたい。
子供の頃、観察していた騎士がいた。
その騎士は、私を自分の子供のように可愛がってくれた人だった。妻と子供を領地の家に残してきていて、訓練の合間に家族への愛を語る陽気な男だった。懐いたわけではないが、私の印象には残っていた。
そうして、国境警備から帰ってきたその騎士は、変わり果てていた。
快活だった性格が荒れ果て、妻と別れ、酒に溺れ、以前の姿は見る影もない。私はただどうなるのかを見たくて彼の観察を続けていた。
そうして一年後、彼は首を吊った――自殺だった。
私はショックを受けた。それはそれは彼の死を嘆くものではなく、彼の壊れゆく様を、奈落に落ちていく様を、二度と観察できないことへの苛立ちだった。
壊れたものは、観察できない。それが私の学んだ残酷な現実だった。
そして今、彼の異様な反応を目にして、私は久しく忘れていた強烈な欲望を覚えた。
涙で潤んだ目、貧相な体を震わせる姿に、ぞくりと背筋が走る。もっと追い詰めたい。もっと反応を見たい――その衝動が、心臓の奥で波のようにうねった。
もっと近づきたい、もっと反応を見たい。怖れと期待が入り混じったその顔。怯えながらもこちらを見つめる視線は、私の中に潜む得体の知れない衝動を刺激する。
これを使い捨てにするには、あまりに惜しい。
私はすぐに、計画を改めることにした。
私は彼を王宮の使用人に預け、すぐに護衛に身辺調査を命じた。
貧乏貴族の末裔、エリオット。想像通り、都合のいい玩具を手に入れることができそうだ。
屋敷に到着した彼は、期待を裏切らなかった。
部屋のペットベッドに目を輝かせ、興奮で震える姿。
「君、虐められるのが好きな子だね」
怯えているのに、期待する。弱いのに、こちらを見つめる。その無垢な反応が、私をさらに駆り立てる。
握りつぶす勢いで乳首を摘まむと、それを捻じる。それに彼──エリオットは「お゛お゛ほぉ♡♡♡」とみっともなく喘いでみせた。その様子に、私まで昂った。
「……もっと、虐めてほしい?」
そう囁いてからの失態は、想像以上のものであった。
彼の体は震え、ズボンに染みが広がった。
10歳にもなった貴族の子供が、おむつのとれない子供のような粗相をおこしたのである。それに、彼は従順であった。支配を求めているのだと、全身で訴える。
これは、私の周りにいない人間だ。
私は衝撃を受けた。何の変哲もない外見をした少年が、犬のように這いつくばり、床にこぼれた一滴を舌で掬う姿に。そして、褒められることを期待するように、飼い主である私を見上げる。
――こんなことが許されるのか。
そう思った瞬間、胸の奥に熱が走った。
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