11 / 20
11 - X日目
しおりを挟む
ダミアン様のペットとなって数日が過ぎた。
朝、ペットベッドの上でぐんと背伸びをすると、首に嵌められた首輪がカチャリと鳴る。固まっていた身体をほぐすように背を伸ばしながら、俺は薄ぼんやりとした視界の中でご主人様の姿を探した。
二日目に目を覚ましたときには、すでに俺の傍からはトレードマークの瓶底眼鏡が消えていた。ダミアン様曰く「この部屋から出ない君には必要ないでしょ」と、のこと。
──俺は素直に、彼のサディストとしての才能に感服した。
眼鏡を失った俺の世界は、常に霞がかかったようにぼやけていて、手を伸ばせば届く距離にいるはずの物さえ輪郭が曖昧で確かめられない。──それは日常的に目隠しをされているのと同じで、俺は不安定な視界の中、彼の声や気配だけを頼りに動くしかなかった。
たったそれだけのことで俺は自由を奪われ、同時に、彼の存在が俺の中でますます大きなものになっていくのを感じていた。
俺の本能が書き換えられてゆく体感。無意識に彼の姿を探し、それで安堵する自分に、我ながら驚かされた。
う~ん♡ マジでもう戻れないくらい堕とされているかも♡♡
俺とって、ダミアン様の命令は絶対だ。
排泄ひとつとっても、必ず彼に申し出なければならない。最初は恥ずかしさで何度も我慢した。尿意を抑えるたび、初日のお漏らしの記憶がチラつく。しかしそれも、時が経つにつれて羞恥心が薄れ、催したら素直に口に出せるようになった。
ダミアン様も排泄行為自体を嗜好として愉しんでいるわけではない。勿論、トイレに同席しようともしない。ただ俺の自由を制限し、支配の構造を鮮明にするために課しているだけなのだ。
ダミアン様が留守にするのときは、手足を縛られて身動き一つ取れない状態で放置されることもあれば、何も命令されず、あまつさえ自由に読んでいいと本棚を解放されることもある。
その振れ幅に当事者としては毎回戸惑うのだが、結局のところ、ダミアン様は俺の秩序を壊すことに成功している。
彼の一挙一動に惑わされ、心の奥まで彼が住み着く。その事実に興奮する。
彼の命令は単なる気まぐれや退屈しのぎに見えて、どこかに試すような色があり、同時に玩具を転がすように楽しむ節があった。
──惨めったらしく這いつくばってよ。
──犬のように鳴いてみて。
──退屈だな、俺の靴を舐めれるかい。
床に額を押しつけ這いつくばると、背中を這う視線に身が熱くなり、思わず身体が震いた。
「くぅん」と犬のように鳴くと、声の震えに自分が晒される恥ずかしさと快感が入り混じった。
舌先で革靴を撫でると、革の匂いと土の香りが口いっぱいに広がり、暫く口の中の違和感が取れなかった。
彼の支配は、前世で味わったものとは圧倒的に異なった。
遊び、は自傷行為と大して変わらない。裏垢でSを自称する男たちと遊んでその時は身体は満足しても、ふとした瞬間に後悔して病んだりする。本来セックスなんて上級なコミュニケーションを、初対面の男とするのが間違っているのだ。そこに信頼関係など無いに等しい。俺を弄ぶご主人様は、虐げることさえできれば相手は俺じゃなくてもいい。だからそれを思い出して、自己肯定感も驚くくらいに下がる。だからと言って遊ばずにいることも出来ない。親にも友人にも口にできない趣味だった。自分を歪めて女性と付き合うことも出来なかった。
自分の嗜好に気付いた早い段階で、下手に肉欲を覚えてしまったのが悪かった。
俺の身体は本物のご主人様を持たぬまま数多の男たちによって開発され、快感を覚え、だからこそ虚空が残った。男と付き合っても、この趣味のせいで直ぐに破綻した。
だからこそ、空想に依存したのだと思う。
裏垢を作って、チヤホヤされて、あれが人生の最大の山場であったと思う。そのリアクションにのめり込んだ。投稿してから3分おきに通知を確認して。DMは山ほど来たけど、実際に会うのは一握り。Mってのを勘違いして、初対面でキモい要求送ってくる奴もいた。でも、満足だった。そう思い込もうとしてた。
【LOVE ONE】に依存したのも、その頃だ。ファンサイトで俺のハメ撮りがBL趣味の女性にも購入されることに気付いて、興味本位で月刊ランキング一位のソレをDLしてみた。
架空の世界で、架空のプレイ見て興奮した。だって、めんどくさいやり取りいらないし。キモいチン凸DMも来ないし。なのに、こんな理想的なレイプシーンを楽しめるのだから。
ゲームの中のキャラクターたちは女性向けとあって、モブでもブスじゃない。不快なく楽しめた。夜な夜な暗い部屋で、ヘッドホンつけて没入してた。
そうして現実から目を逸らして、空想に浸っていたのに。
ダミアン様は俺を作り替える。
転生してすぐに彼に抱かれることを目標にしていた俺は、ただただプレイをしたい!と意気込んでいた、愚かな空想好きのドMに過ぎなかった。
現実はもっと、もっと深いものだ。
彼はミランにしたみたいに、身分を逆手に俺を攫って、尊厳を奪って、支配して、弄んでる。ただ性的な遊びをしないだけ。それがこんな快感を呼ぶなんて、知らなかった。肉体的な交わりはないままに、俺の全てがダミアン様に作り替えられてる。
目覚めてすぐ彼を探す度、命令に疑問なく従う時、プレイじゃなく彼を求めてるって実感する度、全身に鳥肌が立つ。精神的な支配だけで、こんな気持ちいいなんて思わなかった。前世で持ち余してた心の空洞を、彼が埋め尽くしてくれるのだ。
──とはいえ、SEXはしたいかも。と変態の俺は思ってしまうのですが。
初志貫徹! 絶対にセックスしてやろうと寝起きから意気込んでいると、想像していたよりもずっと早く好機はあっさりと巡ってきた。
朝、ペットベッドの上でぐんと背伸びをすると、首に嵌められた首輪がカチャリと鳴る。固まっていた身体をほぐすように背を伸ばしながら、俺は薄ぼんやりとした視界の中でご主人様の姿を探した。
二日目に目を覚ましたときには、すでに俺の傍からはトレードマークの瓶底眼鏡が消えていた。ダミアン様曰く「この部屋から出ない君には必要ないでしょ」と、のこと。
──俺は素直に、彼のサディストとしての才能に感服した。
眼鏡を失った俺の世界は、常に霞がかかったようにぼやけていて、手を伸ばせば届く距離にいるはずの物さえ輪郭が曖昧で確かめられない。──それは日常的に目隠しをされているのと同じで、俺は不安定な視界の中、彼の声や気配だけを頼りに動くしかなかった。
たったそれだけのことで俺は自由を奪われ、同時に、彼の存在が俺の中でますます大きなものになっていくのを感じていた。
俺の本能が書き換えられてゆく体感。無意識に彼の姿を探し、それで安堵する自分に、我ながら驚かされた。
う~ん♡ マジでもう戻れないくらい堕とされているかも♡♡
俺とって、ダミアン様の命令は絶対だ。
排泄ひとつとっても、必ず彼に申し出なければならない。最初は恥ずかしさで何度も我慢した。尿意を抑えるたび、初日のお漏らしの記憶がチラつく。しかしそれも、時が経つにつれて羞恥心が薄れ、催したら素直に口に出せるようになった。
ダミアン様も排泄行為自体を嗜好として愉しんでいるわけではない。勿論、トイレに同席しようともしない。ただ俺の自由を制限し、支配の構造を鮮明にするために課しているだけなのだ。
ダミアン様が留守にするのときは、手足を縛られて身動き一つ取れない状態で放置されることもあれば、何も命令されず、あまつさえ自由に読んでいいと本棚を解放されることもある。
その振れ幅に当事者としては毎回戸惑うのだが、結局のところ、ダミアン様は俺の秩序を壊すことに成功している。
彼の一挙一動に惑わされ、心の奥まで彼が住み着く。その事実に興奮する。
彼の命令は単なる気まぐれや退屈しのぎに見えて、どこかに試すような色があり、同時に玩具を転がすように楽しむ節があった。
──惨めったらしく這いつくばってよ。
──犬のように鳴いてみて。
──退屈だな、俺の靴を舐めれるかい。
床に額を押しつけ這いつくばると、背中を這う視線に身が熱くなり、思わず身体が震いた。
「くぅん」と犬のように鳴くと、声の震えに自分が晒される恥ずかしさと快感が入り混じった。
舌先で革靴を撫でると、革の匂いと土の香りが口いっぱいに広がり、暫く口の中の違和感が取れなかった。
彼の支配は、前世で味わったものとは圧倒的に異なった。
遊び、は自傷行為と大して変わらない。裏垢でSを自称する男たちと遊んでその時は身体は満足しても、ふとした瞬間に後悔して病んだりする。本来セックスなんて上級なコミュニケーションを、初対面の男とするのが間違っているのだ。そこに信頼関係など無いに等しい。俺を弄ぶご主人様は、虐げることさえできれば相手は俺じゃなくてもいい。だからそれを思い出して、自己肯定感も驚くくらいに下がる。だからと言って遊ばずにいることも出来ない。親にも友人にも口にできない趣味だった。自分を歪めて女性と付き合うことも出来なかった。
自分の嗜好に気付いた早い段階で、下手に肉欲を覚えてしまったのが悪かった。
俺の身体は本物のご主人様を持たぬまま数多の男たちによって開発され、快感を覚え、だからこそ虚空が残った。男と付き合っても、この趣味のせいで直ぐに破綻した。
だからこそ、空想に依存したのだと思う。
裏垢を作って、チヤホヤされて、あれが人生の最大の山場であったと思う。そのリアクションにのめり込んだ。投稿してから3分おきに通知を確認して。DMは山ほど来たけど、実際に会うのは一握り。Mってのを勘違いして、初対面でキモい要求送ってくる奴もいた。でも、満足だった。そう思い込もうとしてた。
【LOVE ONE】に依存したのも、その頃だ。ファンサイトで俺のハメ撮りがBL趣味の女性にも購入されることに気付いて、興味本位で月刊ランキング一位のソレをDLしてみた。
架空の世界で、架空のプレイ見て興奮した。だって、めんどくさいやり取りいらないし。キモいチン凸DMも来ないし。なのに、こんな理想的なレイプシーンを楽しめるのだから。
ゲームの中のキャラクターたちは女性向けとあって、モブでもブスじゃない。不快なく楽しめた。夜な夜な暗い部屋で、ヘッドホンつけて没入してた。
そうして現実から目を逸らして、空想に浸っていたのに。
ダミアン様は俺を作り替える。
転生してすぐに彼に抱かれることを目標にしていた俺は、ただただプレイをしたい!と意気込んでいた、愚かな空想好きのドMに過ぎなかった。
現実はもっと、もっと深いものだ。
彼はミランにしたみたいに、身分を逆手に俺を攫って、尊厳を奪って、支配して、弄んでる。ただ性的な遊びをしないだけ。それがこんな快感を呼ぶなんて、知らなかった。肉体的な交わりはないままに、俺の全てがダミアン様に作り替えられてる。
目覚めてすぐ彼を探す度、命令に疑問なく従う時、プレイじゃなく彼を求めてるって実感する度、全身に鳥肌が立つ。精神的な支配だけで、こんな気持ちいいなんて思わなかった。前世で持ち余してた心の空洞を、彼が埋め尽くしてくれるのだ。
──とはいえ、SEXはしたいかも。と変態の俺は思ってしまうのですが。
初志貫徹! 絶対にセックスしてやろうと寝起きから意気込んでいると、想像していたよりもずっと早く好機はあっさりと巡ってきた。
250
あなたにおすすめの小説
被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【ご報告】
2月28日より、第五章の連載を再開いたします。毎週金・土・日の20時に更新予定です。
また、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。
引き続きよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる