Period New Flower.

ぎらじ

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序の冷淡

1 プロローグ

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|世界の一部でボクはただ一人寝そべっていた。血生臭い匂いと動脈血の空、音が何もしない世界。そして、親友の形見のペンダントと赤いマフラー。



「……アラタさん見てください。貴方、流星群は見たことなかったでしょう?」



微かにペンダントが光る。こうして考えたら彼の魂はどこかで生きている、完全に死んじゃった訳ではない。

ほら……声だって聞こえるし。





『綺麗だね、ヘイスケ。初めて見たよ』





アラタさんはすぐ近くに居る。だから寂しくないはずなのに、寂しいわけなんかないのに。

いつの間にか目に涙を浮かべたボクは、持っていたナイフで腕を深くさしたり首を軽く切りつけたり自傷を始めてしまうクセがついてしまったのだ。

でも死んだら駄目だ。アラタさんをひとりぼっちにさせてしまう。アラタさんに寂しい思いなんてさせるものか。ボクが、彼の居場所にならなくちゃ。

彼だってボクが居ないと生きていけないんだもん、彼はボクなんだもん。



「……本当に綺麗ですよね。ずっと貴方に見せたかったんですよ」



また聞こえるアラタさんの優しく笑う声。



そうだよ、それで十分なんだよ。それ以外何もいらないんだよ。

もうここには攻撃してくる国も人外も居ない。穏やかで、優しくて、あたたかい平和な時間が過ぎてゆくだけの世界に不満なんてあるわけない。彼と一緒に絶対離れず暮らせる最高の時間が終わらない世界。

この世界ならボクは生きれるのにどうして自傷行為をしてしまうの? どうして涙が溢れてるの?



『泣かないで、ヘイスケ。自分を責めたらいけないよ』

「せ……責めてなんか……ボクはやりたい事をやり遂げただけ」

『だからだよ。目的を果たせたのに泣いちゃうとか、見てられないさ』



そんなに優しい声で、言わないでください。



ボクの所為で貴方は自由を失ってしまったのに……!

やり遂げたって言われても、単なる自分勝手な手段なのに……!!



『笑っておくれよ。僕は最後まで君と一緒で嬉しかったんだ、死ぬ時も君はそばに居てくれた。意地が悪い研究員達に殺されそうになった時も君が助けてくれた。だからヘイスケ……』



アラタさんが目の前に現れる。彼も寂しげな表情を浮かべていた。だがすぐにボクに向き直り、全て包み込んでくれるような優しい声で彼は言った。

聞かないといけないのに聞いてしまったら涙がこれ以上止まらなくなりそうで怖い。でも、アラタさんは……。





『愛してるよ…………こんな僕を君はここまで愛してくれた。だから僕は君のすぐ傍に居れることが、何よりも嬉しいんだ』




駄目。やっぱり彼はボクを狂わせる程に優しすぎる。ここはボクを恨むべき場面なのにアラタさんは……。

笑ってと言ってくれるアラタさんの気持ちに反比例してボクは今どんな顔をしてしまっているのだろうか? 笑っているの? まだ泣いているの?



笑って生きて、貴方の傍にいてもいいの?









「あ、あー……聞こえます?」

『大丈夫だ、聞こえているぞ。お前は今何処に?」

「廃学校付近の田んぼです。ツヴァーリィ捕獲完了致しました。珍しく一時間くらいで終わりましたよ」

『でかしたぞ、ヘイスケ。ヘリを向かわせるからそれに乗って戻りなさい」

「了解です」



通信を切り、ボクは数メートル先に置いているツヴァーリィを見やる。

捕獲対象にしては気性がやや穏やかだった為か二時間も経たずに捕獲できた。今は強力麻酔で動きを制御しているが、またいつ動き出すかわからないからヘリは早めに来てほしい。

人外捕獲チーム(仮)の仕事は今日捕まえたこいつで三回目の仕事だ。今回はいきなりの事態だったからボクと他の職員兼ハンターの三人体制。ちなみにいつもは十人くらいである。

いつも強いライフルをぶっ放してくれる先輩は月に一度のメンテナンスで不在。相手がツヴァーリィで、その先輩がもし加勢していたらヌルゲーと化してそうだなぁ。

まぁ、他の職員や研究員にとってはボクらがいる自体でヌルだろうけど。



「お腹空いた」



そう呟き、カバンから非常時栄養保存食を取り出し口に入れる。

非常に高い栄養価と携帯性は抜群だけど、何とも言えない。正直に言ったらボクはこれ嫌いだなぁ。



「…………」



ちらりと二人の職員を見ると、さっそく食べていたが片方は美味しそうに、もう片方は少し顔をしかめていた。やはり好き嫌いが分かれる……。

味は甘みと塩味が混ざったあまじょっぱい感じだがこれが本当に一割くらいしか感じられない。要するに無味に寄せた塩クッキーだ。

いっちょ前に固いクセに食感がボソボソで、更に不味さを引き立てている。

早く本部に戻ってちゃんとしたご飯にありつけたい……唐揚げ弁当を二個食べたい……。ボソボソとしたのが口の中にまとわりついて気持ち悪いから水を大量に飲んだ。ていうかこの保存食、ボク自身は極限無味寄せ塩クッキーとか勝手に名付けてるけど何をどう加工して作られているのかは生まれてこの方全然知らないんだよね。

終始どうでもいいことを考えながらヘリを待った。







「コイツがツヴァーリィだな。ご苦労、本部の各部屋に戻って休んでおけ」

「はい」



二十分後にようやく来たヘリに乗ってボクらは本部に帰る。軍部の人や研究家の人達は今からは大型トラクターでツヴァーリィを研究部に連れて行く。

雑にトラクターへと投げ込まれるぐるぐる巻きにされた人外をボクは上空から見る。

そもそも何で人外を捕獲したりするのだろうか。生け捕りにするならいっその事、駆除としてそのまま殺してあげた方が救われると思うんだけどな……。たまに殺す事もあるみたいだし一体何がしたいのだろう。

部屋にあった本によると人外は五百年程前に起きた天変地異により、この世に溢れかえってしまったそうだ。その本は百年前に出版された本で所々ページも欠けていたりしているから、天変地異の真相が完全にわかるという事は無い。最初はそんな出来事はデマだと思っていたが、その本には写真が載っているページもあって、編集した痕跡等は見当たらないから本当に起こった出来事と最近受け入れつつある。

地震や豪雨、火山噴火や奇病などが一斉に人類に襲い掛かり、当時生きていた人は生き地獄と語っていた。



「こんなに賑やかな街なのになぁ」



今のこの時代は人外や険悪になりつつある世界情勢を除けば本当に平穏だから、代々生存者とその子孫たちが復興活動に死ぬ気で取り掛かっていたと考えたらちょっぴり感動する。人間の結託って凄いな。




「それにしてもNo.04は優秀だよな、頭も良いし攻撃力も高い。最新ロットとは思えないぜ」

「ホントそれ。02の仕事も04にさせた方が良いんじゃねぇの?」

「でもよ、04酷使し過ぎたらいざという時使えなくなるぞ? まぁ01と03が居るから問題無いだろうけど。今は05の開発も進んでてほぼ完成形って感じだし」

「それもそうだよなぁ確かに。02も02で力は確かにあるから後はその性格面をどーにかしないと」



一緒にツヴァーリィ討伐をした職員が小声で会話している。



「04ってさ、強いからいいけどどこかイきってる感否めない」

「強いからしょうがねぇさ。04自体、十四歳の少年とほぼ変わらない性格だし。イきりたいのはあると思うぞ」



聞こえてるっつーの……。

表向きだと優しく保護者みたいな職員達だが、ボクらをただの兵器としか扱っていない。むしろそれが本心。気に入らないところをよく陰口とか言ったり、先程の会話みたいにボクらをディスるのは日常茶飯事なのでボクは職員を全然信用していない。チラりとこちらを見やるのは警戒しているからかなぁ。あんた達の日頃のそういうヒソヒソ話とか毎日狂ったように聞いてるから安心してね。








国民保安庁トーキョー部。

ボク達はそこで暮らしながら仕事をする。五百年経った今でも残っている天変地異の傷跡は世界情勢にも大きく影響している。

今更、天変地異を人工災害と疑う国が花粉の様に広がり増えつつあって、常に全世界ピリピリ状態だというわけ。もし戦争に発展しようなら想像つかないとんでもない事になりそうだからという理由でこの国と民を護るべく創られた(それプラス人外から護る為でもある)。



部屋に荷物を置き、一目散に向かった食堂で唐揚げ弁当を獣のごとく食らいつく。もうお腹空いて堪らなかったし大丈夫だよね。

だって今は食堂はボク一人だけだから…………。



「おー、猛獣みてぇにかっ込んでるじゃんおもろ」

「ん゛っっ!?」



危ない。喉に詰まりそうになった……油断してた。

声の主は先輩のキュウスケさん。食堂は誰もいないと思っていたのに、彼は音もたてずにスルリと入って目の前の椅子に座っていたらしい。



「はーっ……驚いた……キュウスケさん、入る時くらいなんか言ってくださいよ。喉に詰まりかけたし」

「ははっ、そりゃすまんね。一応声は掛けたぞ?」

「え? 全然聞こえませんでした」

「そんなにメシに夢中だったんだな」



キュウスケさんの声はやや大きいから、これはボクが弁当に意識を全部持っていかれたという事になってしまう。口元に米が何粒か付いてるらしいし本当に恥ずかしい。

ニヤニヤと笑う彼を無視して、残りの唐揚げを頬張った。



その後はしばらく色んな話をした。まず聞かれたのは今日の人外、ツヴァーリィについて。

強かったかとかどんな技使って仕留めたか沢山聞かれた。



「ツヴァーリィは一週間前のヤツマバボドに比べたら断然弱かったです。弱いと言うか、気性が他のに比べて穏やかだったので仕留めやすかったですね」

「写真で見たけどまぁまぁでけぇのに易しかったのか。俺もメンテナンスサボって参戦したかったぜ」

「メンテナンスって普通に大事なことですからね……」



一通りキュウスケさんの質問に答え終え、今度はボクの方から気になる情報を聞いた。新作の「No.05」についてである。

一年前から開発が進み、ヘリ内で職員も話して、そろそろ出来上がる頃合いだと思うのだが。

高い頻度で研究員と絡んでいる彼。やはりある程度詳細は知っていた。



「05はほぼ完成しているのだと。しばらくの間起動テストを行って、環境に慣れる為に数週間は隔離部屋に入れる予定になってるぞ」

「……もうそこまで進んでいるのですね。ボクの弟か妹みたいな存在になるのでしょうか」

「そんな関係だろうな。二ヶ月後には逢えると思うからしっかりと兄貴として活躍しろよ、ヘイスケ」

「はいはい。頑張ります」




「ところで今日お前と一緒に人外を討伐した職員アイツら、ヘリ内で何か言ってたかい?」

「えぇ、いつもの事。02さんの悪口やらボクに対する陰口とか言ってました」

「やっぱりな。懲りねぇヤツら」



ボクは02さんと会ったことも無いから見た目も名前もわからないが、02さんに関する悪口は何度も聞いているから流石に腹立たしくなってきている。しかも悪口の理由が「言いなりにならない」とかいう非常に職員達による自分勝手なモノだから怒りを通り越して呆れそうだ。

所詮人間こそが偉いとか言う前時代的な考えの持ち主が多いのだろうなぁ。



「ヘイスケはアラタに会ったか?」

「アラタ……?」

「アラタはNo.02の名前さ。仕事内容がほぼお前と違うし部屋の棟も違うから滅多に会えないもんな」

「アラタさん、と言うのですね。いつか会ってみたいです」

「そうか! なら俺からも伝えておくぜ」









まだこの時はただの赤の他人だった。



新たなる出会いに、アラタさんとの出会いで、ボクはここまで来てしまったのに。》
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