Period New Flower.

ぎらじ

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2 天変地異

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「そんじゃ、おやすみ。明日も早いからしっかり寝ろよ」

「キュウスケさんこそ。おやすみなさい」



夜七時。昼ご飯を食べた後屋上で、キュウスケさんとしばらく話していたらもうこんな時間になっていた。今、信頼してる仲間はキュウスケさんともう一人、ドールという少女しかいない。05はまだ完全に完成していないし、キュウスケさんが話してくれたアラタさんに関しては顔を合わせたことすらない。

でも、ボクらと「同じ」なら……少しは話してみたいかも。キュウスケさんの話を聞く限りは本当に心優しい人なんだとか。



アラタさんはNo.02……職員達がよく話題に出している02と同じなのか?

陰で「出来損ない」「性格面のエラー品」等とかなり酷い言われようをしていたのはよく知っている。アラタさんと面識が無くても、かなり腹立つ悪口であった。




『02の仕事も04にさせた方が良いんじゃねぇの?』




今日ヘリで聞こえたあの会話が頭をよぎる。そもそもボクに変な期待を持っている時点で気持ち悪い。何かを上げるには何かを下げないと気が済まない、悪い意味で人間臭い人達だ。人間だけど。

そもそもこの保安庁でマトモな思考の人間が居るのかが疑問である。全員何かしら悪いクセが拭いきれていないからなぁ。あれ、もしかしてトーキョー部だけだったりする説もある? どっちにしても気持ち悪いから別に変わらなくていいけど。

そもそも人外捕獲とか討伐はボクらで十分やっていけるから人間の職員は不必要って思う。足手まといになったら流石に職員達が可哀想だから。







日報を書いて何もやることがなくなったから、ベッドに寝転がりながら読書とネットサーフィンを行ったり来たりしていた。

読んでいる本は例の天変地異関連。ボクの部屋の本棚はこれしか置いていない。

著者によって解釈が違っていたりもするから案外飽きないしむしろ楽しい(たまーにちらほらと過大表現しすぎなヤツもあるが)。

全てにおいて一致していることをまとめる。



・天変地異は五百年前

・天変地異により人外が溢れかえってしまった

・天変地異を「NewFlower」と呼ぶ



ざっくりまとめてこんな感じ。一応この天変地異には名称があり、「NewFlower」と皆呼んでいる。直訳すると「新たな花」……花が咲くようにどんどん天災等起きた事からそう呼ばれるという説もあるが、詳しい発端は全然知らない。シンプルでわかりやすいからこのネーミングセンスは普通に憧れるな。

当時の状況の写真がズラリと並んでいるページは、荒れた大地や避難所での生活の写真から、どす黒い津波に吞み込まれる民家やビル。落下してきた隕石の大きいカケラによって直径数百メートルの穴がぽっかりと地面を開けている村、土砂崩れ、瓦礫の下の子供のだと思わしき小さな靴。トラウマになりそうだ。

五百年前の出来事なのに、写真として今の世にも時間が止まった様に残っているという事実。



「怖かったなぁ」



ページを捲りながら、意識せずに言葉を零した

……ん? ボーっとし過ぎて言い方間違えちゃった?

多分「怖いなぁ」って言いたかったんだろう。読み過ぎてぼんやりしていたのか単に眠いだけかもしれないが、「怖かったなぁ」ってまるで体験したみたいな言い方になってしまった……多分これキュウスケさんがすぐ近くに居たら絶対笑われてたヤツ……。ボク一人の空間で助かった。




どうでもいい恥ずかしい間違いをしたらまた目が若干冴えたから続きでも読もう。

いくつか続く写真ページの次は、天災ラッシュが落ち着きしばらくした後の、生存した人の当時の言葉が書かれているコーナー。インタビューはメモに取られずっと保存されているから割と最近刊行されたのでも残っていたりするのかもしれない。



『あれからしばらくは本当に大変でしたね。生き地獄って、この事なんだと実感しちゃいましたし。地震とか豪雨とかにとどまらずに津波だったり……隕石のカケラが落ちてきたと報道された時は腰を抜かしそうになりましたよ。一気に襲ってきた天災は一週間半で収まってよかったです。でも……息子を失ったのは忘れられません。いつも通りに起きていつも通りに遊びに行って……それから、息子の元気なただいまは聞けなくなりました』



これは奇跡的に生き延びた主婦さんの話。

天変地異の状況をわかりやすく答えてくれているが、それがもたらした悲しい出来事も当然ある。

付きっきりでずっと愛情を注いできた実の子が、居なくなる。予告もされないから守れない。



『喋らないし動かなくなってしまっているけど、せめてあの子の眠っている顔は見たかったです。結局見つからず、私もこんな歳になってしまいましたた』



最後に顔も見る事すら叶わなかった。

この人はボクが思っている何倍もの深い傷を負っているのか想像できないし……まず、想像したくない。

幸せが途切れてしまうというのは本当に恐ろしいと深く思う。ボクはとびきり幸せというまでのラインとは違うが、こうして普通に眠って普通に食事をして、先輩と他愛もない話をして。「普通」こそ幸せなのではないかと考える事がある。

保安庁に所属して人外とか狩ったりするのは民間人にとって普通とは程遠いかもしれないけどね。




体験談やインタビューを読むと、気分が少し沈みそうになるのに何故かずっと見てしまう。具体的にどこに惹きつけられているのかわからないけど、ボクはこの現象に自然と足をつけていて、抜け出せなくなっているのかもしれないのか?

もう少しだけ見よう。あと二冊読んだらもう寝ようかな。







「うー……頭が疲れた」



本を読んだらかなり疲れてきた。これから寝るとはいえ、スッキリする爽快な飲み物を飲みたい……レモン、レモン炭酸を……。



「はぁ……どうしてボクの部屋の階には自販機が一台しか置いてないんだ。ボク好みのヤツ一本も無いし」



小銭を握りエレベーターでB棟の三階に向かう。夜だから照明が暗めで、小銭落としたら面倒な事になるなぁ。キュウスケさんと別れる時に買っておけばよかったと後悔。

あと二冊って決めたのにベッドの上には五冊積まれていたから多分無意識に読み過ぎたんだ……極限まで本の情報を入れ過ぎて頭が重い(しかも一冊の平均が二百五十ページとまぁまぁある)。

三階に着き、自販機が並んでいる休憩スペースに向かい小走り。

嗚呼やっと生命の糧、水分レモンジュースにありつけ……




「わっ」




まずい、脳バグと喉の渇きで周り見えてなかったらしく見事に誰かにぶつかってしまったぁ……。

しかも、チャリンと音がしたという事は小銭落としちゃった? うわ、だるいし相手に申し訳ない。



「ぁ! す、すみません……!」

「大丈夫? 僕は特に怪我していないけど、君は?」

「ぼ、ボクも大丈夫です……」

「よかった。あと、この百七十円は君のだよね」



ぶつかった相手はボクより年上の男の人。かなり身長が高いから謎にビビッてしまいそうになった。

男の人は落とした小銭を拾ってくれて、優しく微笑む。



「気をつけてね。怪我が無いならそれで安心した」

「あ、あ、ありがとうございます……」

「それじゃあ、おやすみなさい」



男性は最後まで優しく、手を振ってくれた。

こんなにも優しい人、キュウスケさんとドールを除いてちゃんと居たんだ。



あ、名前聞くの忘れちゃった……勿体ない。なんか仲良くなれそうな雰囲気だったから、名前くらい聞いておけばよかった。とりあえずお目当てのジュースを買ってボクは部屋に戻った。

でも、あの人の事が気になってこの日は二時間しか寝れなかった。寝た時も夢の中であの人が出てきた。



彼が、ボクにとって重要な人になったりするのだろうか? 他人にこんなに関心を示したのは初めて。

ボクにとっての天変地異かもしれないなぁ、これは。
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