最後の恋は神さまとでしたR

明智 颯茄

文字の大きさ
210 / 243

愛には愛を持って/4

しおりを挟む
 自分と同じ話ができる配偶者がいるとは思わなかったのだ。

「同じやり方ですか?」

 妻からの質問がやってきた。深緑の短髪は横へ揺れる。

「いや、違う。正中線だ」
「あぁ、それですか。ありがとうございます」
「くくく、正中線を知っている……」

 女で知っている人間に初めて会った夕霧命は、本当にいい結婚をしたのだと思った。師匠とのことを知らない倫礼は不思議そうな顔をした。

「え……?」
「何でもない」
「あと、それから、無住心剣流むじゅうしんけんりゅうなんですけど、やってますか?」
「くくく……」

 申し合わせたかのように、自分のやっている武術を知っている妻の前で、夕霧命は珍しく笑った。予想外の反応をされて、倫礼は戸惑う。

「あれ? 剣術はしてなかったんですか? バッサバサ人を切るテレビゲームのモデルでは日本刀使ってたけど……」
「いや、それをやっている」
「上げて下げるが基本じゃないですか? 横向きに剣振る時は武器の重みとかで下すとか、重力に逆らわないで上げるとかじゃないですよね? だから、違うのでは……?」
「宇宙はどの方向にも広がっている。だから、横の時も同じだと俺は解釈している」
「なるほど! ありがとうございます」

 おまけの武術の話は完全なる卓上論で、眼から鱗だった。夕霧命はまた目を細める。

「師匠の言う通り、俺はいい結婚をした」
「はぁ?」

 何を言っているのかわからない倫礼は思いっきり聞き返したが、途中で大声を上げた。

「あっ! 夕霧さんの師匠って……ん~~? あ、わかった、ピンときた!」
「誰だ?」
「あの猫に化けてた人じゃないですか?」
「当たりだ」

 もうずっと忘れていたが、必要なところで必要な人物が出てくるように、神世とつながっている人間の女はできていた。倫礼は懐かしそうな顔をする。

「うわ~! あの人のところに行ってるんですか、意外――じゃないや! ぴったりだ」

 途中で言い換えた倫礼に、夕霧命は不思議そうな顔をする。

「なぜ変えた?」
「思い出したんです。夕霧さん、他の種族の人たちに好かれる体質だって」
「そうだ」

 会ったばかりだというのに、昔コウから教えてもらった話で、神の男のことは知っている。アンバランスなようでいてぴったりとくる関係で、面白いと夕霧命は思った。

    *

 光命は不安がっていた。未来の見えない人生を体験するのが、守護神の資格を取ることになるのだ。期間は二週間。外部との連絡は一切取ることができない。

 可能性で全てを測っている彼は、行く前からあれこれ導き出しては、答えがでない日々を送っていた。

 四十年以上も地球で生きている倫礼は、そんなことをしている神の光命に物申すをした。

「何度導き出しても、人生は失敗することがつきものなんです」
「ですが、失敗はしたくないのです」

 光命が言い返すと、さっきからずっと同じやりとりが続いてしまっていた。おまけの倫礼はイライラしてきて、とうとう怒鳴り散らした。

「だったら、失敗したら新しい可能性を導き出して、また失敗したら新しい可能性を導き出して、人生に争い続ければいいじゃないですか!」
「そのような考え方があったのですね」

 光命の冷静な声で倫礼は我に返った。急に笑顔になり、

「あぁ、そうか。この考え方を光さんに伝えるために、今みたいな話に神さまが持っていったんですね?」
「えぇ、神の導きです」

 ひとつずつ、大人になって、愛を深めて、とうとう研修に行く前日の夜となった。ベッドの中で光命は、おまけの倫礼を優しく抱きしめたまま耳元でささやいた。

「あなたをこのまま私の中へ連れ去りたい」
「連れ去ってください」

 倫礼は我慢していた気持ちが滝のようにあふれ出し、涙をポツリポツリとシーツに落とした。これが他の人なら、二週間なんてあっという間だと笑い飛ばせるが、おまけの倫礼はどんなに努力しても、光命がそばにいないということが一日も耐えられなかった。

 いつの間にか泣き疲れて、おまけの倫礼は光命の腕の中で眠りについた。

 そして翌日――。光命は出発した。倫礼は地球にいながら、彼の後を魂を飛ばして追っていたが、乗っていた列車を降りたところで、もうそれ以上見ることは許されなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

俺様御曹司に飼われました

馬村 はくあ
恋愛
新入社員の心海が、与えられた社宅に行くと先住民が!? 「俺に飼われてみる?」 自分の家だと言い張る先住民に出された条件は、カノジョになること。 しぶしぶ受け入れてみるけど、俺様だけど優しいそんな彼にいつしか惹かれていって……

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...