最後の恋は神さまとでしたR

明智 颯茄

文字の大きさ
237 / 243

陛下の執務室/1

しおりを挟む
 そして、翌日。颯茄が廊下へ出てくると、光命は瞬間移動で現れた。

「謁見の時間は、明日の九時からで取れましたよ」
「ありがとうございます」

 いよいよ、噂にしか聞いたことのない陛下の元へ行くこととなった。颯茄は少し緊張しながらその日は過ごし眠りについた。

    *

 瞬間移動で城の正門前へやってきた二人は、約束している旨を伝えると、中へ通された。謁見を希望している他の人々と一緒に待合室へやってくると、颯茄は思わずため息をもらした。

「うわ~、聖堂みたいに天井が高くて趣がある」

 アンティーク感のある木で全体的にできた教会のような吹き抜けの部屋で、いくつものベンチが並んでいる。ステンドグラスから入ってくる光は、色とりどりの顔を見せる。

 颯茄は光命と一緒に初めて家の外へ出て、神世を歩いているということに、ちょっぴり緊張しつつも照れ臭いような気持ちで待っていた。

 九時からの謁見の時間まであと五分と迫ったところで、一人の男性が足早に近づいてきた。静かな待合室で、彼はささやき声で言う。

「失礼したします。明智 颯茄さまと光命さまでよろしいでしょうか?」
「はい」
「陛下が執務室へお呼びでございますので、こちらへどうぞ」

 言われるがまま立ち上がったが、颯茄は違和感を覚えた。

(え……? 謁見の間じゃなくて、執務室)

 個人的な呼び出しということだが、それは光命が呼ばれた時と関係するのだろうか。なぜ、みんなと同じ謁見の間ではないのだろうか。

 颯茄はソワソワしながら、ドアの前までやってきた。陛下の部下がドアをノックする。

「陛下、お連れしました」
「入れ」

 威厳ある声が響くと、扉は開けられ、朝の光が目の前に広がり、颯茄は一瞬まぶしくて目を伏せた。そして、

「よう、よくきたな」

 さっきと違って、子供の声が響いてきた。

「あれ? この声って……」

 もうだいぶ前に聞いたっきり、ずっと聞いていなかった声だ。もう一度会えたらと願っていた声だ。颯茄は慣れてきた目で、小さな人を捉えた。

「コウ!?」

 銀の長い髪と赤と青の目を持つ子供。その子が陛下の椅子に座っている。なぜそんなところに――颯茄の頭の中でピカンと電球がついたようにひらめいた。

「あ、そう言うことか!」
「おや、今頃気づいたのですか?」

 光命は中性的な唇に神経質な手の甲を当てて、肩を小刻みに揺らし笑っていた。守護神は知っていたのだ。コウが誰だったのかを。

 颯茄は額に手をやって、トントンと何度も叩いた。

「いや~、陛下のお名前は、こうさんです。コウがまさかそうだったとは」

 コウはふわふわ途中へ浮いて、横向きの八の字を描き出した。颯茄は今何もかもがわかって、膝に手を置いて肩の力が抜けた。

「ということは、今回の結婚って、十四年も前から決まってたんだ」

 コウは少しイラッとしながら言う。

「そうだ。お前があの時、俺の言うことを聞いて光を呼び出してたら、わざわざこんな遠回りしなくてすんだんだ!」

 光命を執務室へ呼び出さなければならなくなったのは、この人間の女のせいだった。颯茄が守護神として呼び出していれば、恋は自然と進み出して、今のバイセクシャル婚につながるという未来を、陛下は読んでいたのに、人間の女が頑なに拒んだがために、新しい作戦を考えるしかなくなったのだ。

「だから、光さんを謁見の間に呼んだの?」

 悲鳴にも似た颯茄の声に、コウは両腕を組んでふんぞり返りながら注意した。

「呼んだのじゃない。呼んだんですか――だ!」
「そうでした。申し訳ありません」

 光がひとしきり笑い終えると、陛下は光に包まれ、大人の姿に戻った。鋭い赤と青の瞳で、颯茄を見据える。

「ひとつ達成し終えた、そなたに新たな命令だ」
「はい」

 颯茄は真っ直ぐ立って気を引き締めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

君までの距離

高遠 加奈
恋愛
普通のOLが出会った、特別な恋。 マンホールにはまったパンプスのヒールを外して、はかせてくれた彼は特別な人でした。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...