明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

文字の大きさ
178 / 967
リレーするキスのパズルピース

発展途上の完成品/5

しおりを挟む
 颯茄、赤点である。スマイルマスカットをシャクッと歯で噛み砕いて、山吹色のボブ髪は、我が妻の横顔に近づいた。

「あのさ、前から思ってたんだけど、お前と蓮ってどうなってんの? 九年も結婚してて、好きとか言ってないって……」

 颯茄は、てにをは辞典をパラパラと適当にめくりながら、奇跡を巻き起こした女の恋愛観がここで、戸惑いという言葉が戸惑ってしまうほど、つっかえつっかえで出てきた。

「私は……基本的に……そういうことは……いっ、言わないんで……」
「蓮のこと、いつ好きになったの?」

 焉貴に追加の質問をされて、颯茄は辞書から手を離した。頭に手を当て、目の前の壁に貼られている登場人物の服装がメモされた紙を、首を傾げあちこちにやっている視線で追い続けながら懸命に考え始めた。

「…………?」

 さっき光命に話していた昔話に、そこの部分は出ていない。手元にあるメモ帳に書かれた、作品タグをじっと見つめ始めた颯茄。

「…………?」

 いつまで経っても、妻から返事は返ってこない。となると……。

 独健が若草色の瞳を大きく見開いて、銀の長い前髪を一旦見て、颯茄の小さな背中を見つめた。

「まさか、お前も知らないうちに?」

 認めはしなかったが、颯茄の回答はこうだった。

「あ……あぁ……そこの記憶が……曖昧で……気づいたら結婚してたんです」

 どんな結婚の仕方だ。それを聞いた夫全員、いや、蓮を抜かした七人が全員、盛大にため息をついた。

「明智さんちの三女も、恋愛鈍感だったんだ……」

 光命は思う。自身の恋愛の仕方とはまったく違う、人の愛し方をする妻が、いつもよりさらに愛おしく思えた。彼が颯茄のそばによると、紺の長い髪が彼女に寄り添うように近づいた。

「私はあなたのそばにいるべくして、音楽活動を休止したのです」

 自身のやりたいことをしてほしいと思うのだ。颯茄は恐縮する。

「そこまでしなくてもと言いたいんですが……」

 だがしかし、この優雅な王子さま夫ときたら、一度言ったら聞かないのだ。テコでも意見を曲げない。それは、夕霧命が一番よく知っている。0.01のズレも許せない、細かい性格。またさっきの堂々巡りになってしまうので、颯茄はあきらめて素直にうなずいた。

「光さんが決心したなら、受け入れるしかないです」

 焉貴がふざけた感じで、後ろから抱きついてきた。

「俺も、常勤から非常勤になったから、できるだけ、お前のそばにいるよ」

 だから、焉貴先生は他の教師と昼食の時間が違い、授業の途中で帰れるのだ。

 マゼンダ色の長い髪が横でさらっと揺れ、凛とした澄んだ丸みがあり儚げな女性的だが男性の声が、同じ教師として響いた。

「僕もそうしました。その方がいいと思いまして……」

 複雑な想いはあるが夫たちの意見を尊重して、颯茄は素直に頭を下げた。

「子供のこと一番な月さんまで、ありがとうございます」

 独健、貴増参、明引呼は職業上、時間を割くことはできない。武道家である夕霧命は、颯茄のそばにはくるが、最近はよく修業に没頭して、夕食になっても戻らず、光命が時刻前に迎えに行くということがしばしば起きている。

 孔明は時おり顔を出しにくる。まだ少しぎこちない会話をして、また仕事へ戻るのだ。蓮は光命に遠慮して、あまり顔は出さないが呼べばくる。

 颯茄はとても大切に守られているのである、この九人の夫に。彼女は振り返って、みんなの顔を見渡した。

「それじゃ、改めてよろしくお願いしま――」

 無事に話は終わりそうだったが、元気いっぱいな好青年の声が不意に響き渡った。

「こんばっす!」

 夫婦水入らずのところに、知らない男の登場。

「あぁ?」
「え……?」
「ん?」

 全員が振り返ったドアのところには、金色のトゲトゲした短髪の男が、人懐っこそうに立っていた。ずいぶん背が高く、孔明よりも背丈があるようだった。

「どんなところか様子を見にきたんす」

 何だか間違っている感が出ている男に、颯茄がお断りを入れ始めた。

「あの……ここはコミュニティーではなく、十人で夫婦の普通の家です。見学はやってない――」

 だが、お笑い好きの彼女は、ひとり人ボケツッコミを見事に成功させたのだ。

「っていうか! 他の人が家に入れるって、どういうセキュリティーなんですか!」

 ずいぶんと無用心な明智家だった。すると、男が小さなものを差し出した。

「鍵を渡してもらったっす!」

 誰がと問いつめたいところだ。しかし、まずは……。

「っていうか、誰ですか?」
「張飛っす!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...