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リレーするキスのパズルピース
エンドロール/4
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――――撮影隊は明智家の室内練習場へきていた。コンピュータ制御された部屋で、ボタンひとつで、景気や環境が変えられる。さっきまでは、ブクブクとマグマの海が広がり、今すぐにも崩壊しそうな塔のような大地。血のような真っ赤な空に暗雲。その間をはい回る青白い雷の閃光。だったが、今は晴れ渡る青空と菜の花畑の絨毯がどこまでも広がっていた。
空中での撮影ということで、颯茄は宙に浮かんでいる。焉貴の螺旋階段を突き落としたぐるぐる感のある声が、超ハイテンションで言ってきた。
「ここも~? 抱っこって、女じゃないんだからさ」
またキスシーンへの意見。颯茄はバッサリと切り捨てようとしたが、
「ここも同じ理由、さっきと。夕霧さんも腰が重いから――」
その途中で、焉貴が真っ直ぐ立っていた夕霧命に、ピンクの細いズボンの両足をぴょんと巻きつけた。
「よっ!」
即座に、まだら模様の声がR17に話を持っていったのだ。
「あ、ヤバイ! 俺のペニ○当たっちゃってるから、セック○したくなってきた」
「それは、夜になってからにしてください」
颯茄はわざと丁寧語で言って、取り合わなかった。だがしかし、焉貴先生、食い下がってきた。
「え~? 今させちゃってよ~」
カメラが回っていて、スタッフもいる場所。確かにここは自宅だ。しかし、この猥褻夫にもまったく困ったものである。颯茄は胸の前でバッテンを腕で作った。
「ダメです~!」
その時だった。無意識の直感が焉貴に下りてきたのは。さっきまでの、だだこねは急にやめて言うことが変わった。
「じゃあ、お前入れて、今夜11P~」
「またするの~!」
即座に両腕で覆われる颯茄の頭。夕霧命が拳を握って、唇の前に持ってきて、噛みしめるように笑った。
「くくく……」
抱きつかれたままの格好で、照明の調整がしばらく行われていた――――
=監修=
水色桔梗チーム
――――空中庭園のメインアリーナ。エキストラの観客がそれぞれ、ワーワーと騒いでいる後ろの通路で、光命の線の細い体が優雅に佇んでいた。男のスタッフが数メートル先を指差す。
「じゃあ、ひとまず、あの柱まで歩いてください」
「えぇ」
遊線が螺旋を描く声で短くうなずくと、まるで舞踏会のワルツでステップを踏むように、濃い紫色の細身のロングブーツは歩き出した。颯茄のそばにいたスタッフが小さな声でささやく。
「綺麗な人ですね。いるだけで絵になりますよ」
「いかがですか?」
柱に到着した光命は、思わず釘付けになるような仕草で振り返った。光命の颯茄は大きく頭の上で、丸を作った。そして、立て続けに興奮気味に話し出す。
「オッケーでーす! 光さん、やっぱり表舞台に立った方が――」
この男はピアニストだ。人前に立つ職業。もったいない。人々を感動させるような秀麗さを持っているのだから。だがしかし、紺の長い髪はゆっくり横に揺れた。
「あなたと愛を深めてから、あなたと一緒に音楽活動をすると決めています。ですから、そちらまでは、あなたと過ごすことだけをします」
いつまでも色褪せない恋に落ちた颯茄と光命。どんな時も一緒に過ごしたいがために、一緒に仕事をする約束をしている――――
=演出=
婿養子プロジェクト
――――遊園地前のベンチに座って、演技の最終チェック中。自身の気持ちを偽らないと決めた光命が、一言ずつ言いながら、夕霧命の愛している部分をタッチしてゆくという場面。
夕霧命の無感情、無動のはしばみ色の瞳は不思議そうに、颯茄に向けられた。
「なぜ、こんなに光が俺を触る?」
頭から足まで全部触るところ。颯茄はニヤリとして、密かに光命の性癖を暴露した。
「それは、光さんがスーパーエロだということと、演技を抜きにしたとしても、光さんが夕霧さんをセクハラしたいのではないかと思って……」
光命は細く神経質な手の甲を中性的な唇に当て、肩を小刻みに揺らしながらくすくす笑い出した。
「セクハラ……」
颯茄の言葉のチョイスが笑いのツボにはまったらしい。だがしかし、夕霧命の地鳴りのような低い声がこんなことを言ってきた。
「俺が我慢できん」
颯茄が間の抜けた顔をすると、
「え……?」
白の袴の袖が、光命をぐっと抱き寄せ、くすくす笑っていた優雅な王子夫は、まるで恋に落ちてしまったお姫さまみたいに瞳をウルウルさせた。
「夕霧……」
「光……」
お互いの名前を呼び合って、ベンチの上に夕霧命が光命を押し倒した。颯茄は座っていた椅子から慌てて立ち上がって、両腕を頭の上で左右に大きく振って、大声で叫んだ。
「いやいや、画面から消えるのやめてください!」
盛り上がってしまった夫ふたりへ急いでかけてゆく、颯茄の靴底がパタパタとカメラに映っていた――――
空中での撮影ということで、颯茄は宙に浮かんでいる。焉貴の螺旋階段を突き落としたぐるぐる感のある声が、超ハイテンションで言ってきた。
「ここも~? 抱っこって、女じゃないんだからさ」
またキスシーンへの意見。颯茄はバッサリと切り捨てようとしたが、
「ここも同じ理由、さっきと。夕霧さんも腰が重いから――」
その途中で、焉貴が真っ直ぐ立っていた夕霧命に、ピンクの細いズボンの両足をぴょんと巻きつけた。
「よっ!」
即座に、まだら模様の声がR17に話を持っていったのだ。
「あ、ヤバイ! 俺のペニ○当たっちゃってるから、セック○したくなってきた」
「それは、夜になってからにしてください」
颯茄はわざと丁寧語で言って、取り合わなかった。だがしかし、焉貴先生、食い下がってきた。
「え~? 今させちゃってよ~」
カメラが回っていて、スタッフもいる場所。確かにここは自宅だ。しかし、この猥褻夫にもまったく困ったものである。颯茄は胸の前でバッテンを腕で作った。
「ダメです~!」
その時だった。無意識の直感が焉貴に下りてきたのは。さっきまでの、だだこねは急にやめて言うことが変わった。
「じゃあ、お前入れて、今夜11P~」
「またするの~!」
即座に両腕で覆われる颯茄の頭。夕霧命が拳を握って、唇の前に持ってきて、噛みしめるように笑った。
「くくく……」
抱きつかれたままの格好で、照明の調整がしばらく行われていた――――
=監修=
水色桔梗チーム
――――空中庭園のメインアリーナ。エキストラの観客がそれぞれ、ワーワーと騒いでいる後ろの通路で、光命の線の細い体が優雅に佇んでいた。男のスタッフが数メートル先を指差す。
「じゃあ、ひとまず、あの柱まで歩いてください」
「えぇ」
遊線が螺旋を描く声で短くうなずくと、まるで舞踏会のワルツでステップを踏むように、濃い紫色の細身のロングブーツは歩き出した。颯茄のそばにいたスタッフが小さな声でささやく。
「綺麗な人ですね。いるだけで絵になりますよ」
「いかがですか?」
柱に到着した光命は、思わず釘付けになるような仕草で振り返った。光命の颯茄は大きく頭の上で、丸を作った。そして、立て続けに興奮気味に話し出す。
「オッケーでーす! 光さん、やっぱり表舞台に立った方が――」
この男はピアニストだ。人前に立つ職業。もったいない。人々を感動させるような秀麗さを持っているのだから。だがしかし、紺の長い髪はゆっくり横に揺れた。
「あなたと愛を深めてから、あなたと一緒に音楽活動をすると決めています。ですから、そちらまでは、あなたと過ごすことだけをします」
いつまでも色褪せない恋に落ちた颯茄と光命。どんな時も一緒に過ごしたいがために、一緒に仕事をする約束をしている――――
=演出=
婿養子プロジェクト
――――遊園地前のベンチに座って、演技の最終チェック中。自身の気持ちを偽らないと決めた光命が、一言ずつ言いながら、夕霧命の愛している部分をタッチしてゆくという場面。
夕霧命の無感情、無動のはしばみ色の瞳は不思議そうに、颯茄に向けられた。
「なぜ、こんなに光が俺を触る?」
頭から足まで全部触るところ。颯茄はニヤリとして、密かに光命の性癖を暴露した。
「それは、光さんがスーパーエロだということと、演技を抜きにしたとしても、光さんが夕霧さんをセクハラしたいのではないかと思って……」
光命は細く神経質な手の甲を中性的な唇に当て、肩を小刻みに揺らしながらくすくす笑い出した。
「セクハラ……」
颯茄の言葉のチョイスが笑いのツボにはまったらしい。だがしかし、夕霧命の地鳴りのような低い声がこんなことを言ってきた。
「俺が我慢できん」
颯茄が間の抜けた顔をすると、
「え……?」
白の袴の袖が、光命をぐっと抱き寄せ、くすくす笑っていた優雅な王子夫は、まるで恋に落ちてしまったお姫さまみたいに瞳をウルウルさせた。
「夕霧……」
「光……」
お互いの名前を呼び合って、ベンチの上に夕霧命が光命を押し倒した。颯茄は座っていた椅子から慌てて立ち上がって、両腕を頭の上で左右に大きく振って、大声で叫んだ。
「いやいや、画面から消えるのやめてください!」
盛り上がってしまった夫ふたりへ急いでかけてゆく、颯茄の靴底がパタパタとカメラに映っていた――――
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