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最後の恋は神さまとでした
恋する天才軍師の戦術/3
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夕日をレンズに当てて、そこから床に伸びた光をたどると、コウがふわふわと本を神の力で持ち上げ、棚に戻しているところだった。
「でも、それが返って、印象に残ることになる。つまり、他の男の人たちから差をつけられる可能性が出てくる。恋愛シミレーションゲームだから、自分を選択してもらわないと意味がないから、その対策でもある」
現実の恋愛でもライバルは数いる。その中から自分を選ばせるには、アクシデントと見せかけて、わざと印象に残るものを起こすことなど恋する軍師はできるのだ。
恋愛を理論立てて考えたら、この流れになっている。当事者は感情に流されているから、そのことを客観的に見れないだけで、相談相手が言っている内容はつまりはこういうことなのだった。
「そのあと、嘘だと言って、自分のことを相手が聞くように仕向けてる。それを聞いてしまうと、さらに相手が自分に興味を持っている可能性は上がる。興味がなければ聞かない。しかも、さりげなく自分の好きなものも教えてる。それは同時に、怪しまれないための会話でもある」
質問の内容がどうとかいう問題の前に、仕向けられているのだ。嘘だったと言われたら、本当のことを聞きたくなるのが人情。それを聞いた時点で、罠に引っかかっている――孔明の思うままなのだった。
聞きたくないのなら、戸惑ったりする可能性が高いのだから。平気で聞き返したら、恋愛に持ち込める可能性はますます上がる。
質問をする疑問形と違うもうひとつのことに、澄藍は捜査のメスを入れた。
「『そうかも?』は、不確定な上に疑問形になってるから、相手に情報が伝わりづらい。質問をしている限り、自分の情報は漏洩しないけど、相手が答えてくれば、情報は手に入れられる」
これを撃退する方法はある。質問し返せばいい。しかし、これは孔明には聞かない。さっきのわざと質問させるという罠が常に張られているからだ。澄藍は手強さを痛感した。
「次に会った時は、ウェイトレスとデバッカーとゲームの情報を使って、罠を組み立ててくる可能性大。相手の話題に合わせられる可能性が上がる。だから、お互いの心の距離が縮まる可能性は上がる……」
恋する天才軍師の作戦通り、ますます進んでゆくというものだ。孔明らしい恋愛の仕方を前にして、コウは書斎机の上にちょこんと座り、まとめ上げる。
「お前が考えすぎなんじゃなくて、理論ができないやつは、気づかないですぎてく。だけど、まだまだだ。他にも罠は隠れてる」
罠だと気づく繊細さもないのなら、孔明の思惑通りに動かされ続ける。彼から見たら、相手に意外性がなく恋愛対象にもならないだろう。つまりは彼にとってその他大勢と変わらない。
彼の特別な存在になるためには、思考回路を多少なりとも理解して、同じ土俵に立たないといけない。これが孔明を――いや理論で考えている相手を攻略する方法――恋の勝利ということだ。
「マジですごい人だ」
テレビゲームの説明書をめくって、澄藍は感嘆した。
「これは氷山の一角だ」
コウの近くに置いてあったコーヒーを飲み、彼女は珍しくにっこり微笑む。
「私は何も考えずに、このまま罠に埋もれて、恋愛するのがいいかも?」
望んでいるかもしれないし、嘘かもしれない。
「お前も少しできるようになったな、理論を」
「そうかも?」
調子に乗って、恋する天才軍師の手口を多用し始めた、澄藍はさわやか好青年は見た目だけのキャラクターをじっと見つめて、
「でも、感情もきちんと持ってる人だ。そんな感じがする?」
コウの姿はもう消え去っていて、感情を冷静な頭脳で押さえ込んでいる孔明と、面影が重なる人をふと思い出した。
コーヒーカップをソーサーへ置き、一人きりの部屋でカチャンと食器の鳴る音が、青の王子を脳裏に色濃く蘇らせた。コウからあの日以来何も聞かないが、もう結婚したのだろうと、澄藍は思うと、急に視界が涙でにじんだ。
「理論を使うたび思い出すなら、使わなければいいと思う。だけど、人生は勘や感情だけでは決してうまくいかない。やっぱり理論が必要。だから、光命さんに感謝します。私に理論を教えてくださるきっかけになっていただいて。私の人生を大きく変えていただいて、本当にありがとうございます」
叶わないのなら、会うこともないのなら、せめて、人間として神さまに感謝をしようと、澄藍はそう思うのだった。たとえ光命に届いていなくても。
「でも、それが返って、印象に残ることになる。つまり、他の男の人たちから差をつけられる可能性が出てくる。恋愛シミレーションゲームだから、自分を選択してもらわないと意味がないから、その対策でもある」
現実の恋愛でもライバルは数いる。その中から自分を選ばせるには、アクシデントと見せかけて、わざと印象に残るものを起こすことなど恋する軍師はできるのだ。
恋愛を理論立てて考えたら、この流れになっている。当事者は感情に流されているから、そのことを客観的に見れないだけで、相談相手が言っている内容はつまりはこういうことなのだった。
「そのあと、嘘だと言って、自分のことを相手が聞くように仕向けてる。それを聞いてしまうと、さらに相手が自分に興味を持っている可能性は上がる。興味がなければ聞かない。しかも、さりげなく自分の好きなものも教えてる。それは同時に、怪しまれないための会話でもある」
質問の内容がどうとかいう問題の前に、仕向けられているのだ。嘘だったと言われたら、本当のことを聞きたくなるのが人情。それを聞いた時点で、罠に引っかかっている――孔明の思うままなのだった。
聞きたくないのなら、戸惑ったりする可能性が高いのだから。平気で聞き返したら、恋愛に持ち込める可能性はますます上がる。
質問をする疑問形と違うもうひとつのことに、澄藍は捜査のメスを入れた。
「『そうかも?』は、不確定な上に疑問形になってるから、相手に情報が伝わりづらい。質問をしている限り、自分の情報は漏洩しないけど、相手が答えてくれば、情報は手に入れられる」
これを撃退する方法はある。質問し返せばいい。しかし、これは孔明には聞かない。さっきのわざと質問させるという罠が常に張られているからだ。澄藍は手強さを痛感した。
「次に会った時は、ウェイトレスとデバッカーとゲームの情報を使って、罠を組み立ててくる可能性大。相手の話題に合わせられる可能性が上がる。だから、お互いの心の距離が縮まる可能性は上がる……」
恋する天才軍師の作戦通り、ますます進んでゆくというものだ。孔明らしい恋愛の仕方を前にして、コウは書斎机の上にちょこんと座り、まとめ上げる。
「お前が考えすぎなんじゃなくて、理論ができないやつは、気づかないですぎてく。だけど、まだまだだ。他にも罠は隠れてる」
罠だと気づく繊細さもないのなら、孔明の思惑通りに動かされ続ける。彼から見たら、相手に意外性がなく恋愛対象にもならないだろう。つまりは彼にとってその他大勢と変わらない。
彼の特別な存在になるためには、思考回路を多少なりとも理解して、同じ土俵に立たないといけない。これが孔明を――いや理論で考えている相手を攻略する方法――恋の勝利ということだ。
「マジですごい人だ」
テレビゲームの説明書をめくって、澄藍は感嘆した。
「これは氷山の一角だ」
コウの近くに置いてあったコーヒーを飲み、彼女は珍しくにっこり微笑む。
「私は何も考えずに、このまま罠に埋もれて、恋愛するのがいいかも?」
望んでいるかもしれないし、嘘かもしれない。
「お前も少しできるようになったな、理論を」
「そうかも?」
調子に乗って、恋する天才軍師の手口を多用し始めた、澄藍はさわやか好青年は見た目だけのキャラクターをじっと見つめて、
「でも、感情もきちんと持ってる人だ。そんな感じがする?」
コウの姿はもう消え去っていて、感情を冷静な頭脳で押さえ込んでいる孔明と、面影が重なる人をふと思い出した。
コーヒーカップをソーサーへ置き、一人きりの部屋でカチャンと食器の鳴る音が、青の王子を脳裏に色濃く蘇らせた。コウからあの日以来何も聞かないが、もう結婚したのだろうと、澄藍は思うと、急に視界が涙でにじんだ。
「理論を使うたび思い出すなら、使わなければいいと思う。だけど、人生は勘や感情だけでは決してうまくいかない。やっぱり理論が必要。だから、光命さんに感謝します。私に理論を教えてくださるきっかけになっていただいて。私の人生を大きく変えていただいて、本当にありがとうございます」
叶わないのなら、会うこともないのなら、せめて、人間として神さまに感謝をしようと、澄藍はそう思うのだった。たとえ光命に届いていなくても。
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