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最後の恋は神さまとでした

神さまに会いたくて/4

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 頭に三角の白い布をつけて、コウがおどろおどろしく、澄藍の背後から出てきた。

「聞くまでもないが、どうだ?」
「これは全部幽霊がいた」
「最初に言えなかった感想を今言え」

 白い着物を着て、お化けの真似をしている神さまに振り返って、彼女は聞き慣れない言葉を口にする。

審神者さにわをすればわかるけど、これは今はこの場所にいない。昔の話」
「正解だ!」

 クルッと空中で一回りすると、コウの白い着物は元着ていたカラフルな洋服に戻り、パンパカパ~ン! とラッパが鳴り、紙吹雪が天井から降ってきた。

「人間は、この審神者を忘れる。心の世界は時間軸が物質界より非常に曖昧だ。今日の朝食のことを考えただけで、心は朝の時間に飛んでしまっている。霊視すると、過去の出来事や未来のことも、今現在に起きているように見えがちだ。そこで何が起きたなどの既成概念を持って見るなら、なおさら事件のあった時刻へ戻ってしまう可能性が高い。だから、確認する作業――審神者をする必要がある。本当に今起きていることなのか、過去なのか未来なのかをな」

 繊細な世界の話を、子供のふりをした神さまと人間の女で繰り広げてゆく。

「そうだね。それは前よく注意されたよね。幽霊がいちいち何年の何月何日とは言わない。だから、過去を見てるのか今を見てるのか、それとも未来を見てるのか、確かめることを行わないと、除霊されたのに、まだ幽霊がいるように見えるって」

 コウは珍しく微笑み、ぴょんぴょんとコミカルに足音を鳴らしながら、パソコンの前に割って入った。

「しかし、なかなか上出来だった。大人の幽霊がほとんどだっただろう?」
「そうだね」
「これを周波数を変えれば、大人の神さまも見えるってことだ」

 これが、先生の狙いだった。

「理論で考えたらそうだね。この感覚を忘れずに、練習していこう」

 あとはチャンネルを変えるだけだ。こうやって、澄藍は神さまを霊視する日へと一歩一歩近づいてゆくのだった。

    *

 滅多に雨が降らない神界。今日もきれいな青空が広がり、雲ひとつない。小学校の校舎をクリアな瑠璃に染める。

 休み時間の廊下では、マゼンダ色の長い髪を持ち、ニコニコの笑みをしたカエル先生のまわりに子供たちがいつも通り集まっていた。

「先生、幽霊って何ですか?」

 子供らしい質問。肉体がない人々が暮らす世界からすれば、何のことやらさっぱり。月主命は人差し指をこめかみ突き立てて、小首を傾げる。

「そうですね~? 肉体を持っていないのに、物質界――こちらの宇宙で言えば、地球にいることです」

 さすが、社会から歴史へ科目を変えた、三百億年も生きている先生だった。今度は別の生徒が、純粋な瞳で見上げる。

「僕たちが地球に見学に行ってる時は、幽霊になってるの?」

 未来の神さま。人を守護するために、地球へ行くこともあるだろう。その可能性を摘まないためにも、課外授業はよく行われている。

「そちらはきちんとした許可が降りていますから、幽霊とはみなされません」

 厳しい規制が敷かれており、専門機関からの許可は絶対となっている。

「勝手に行ったらどうなるの?」

 月主命先生は凛とした澄んだ女性的な声で、不気味な含み笑いをする。

「見つけ次第、地獄行きです~」

 そこは、一畳ほどの広さしかなく、罪を償うまで中からは開けられない。百次元も上から下ろしてきたシステムで、この世界の神さまsでも中へ入れば自ら出ることができない。

 人間ならなおさらで、外には声、ねん――想いさえも届かない作り。子供たちはもちろん授業で勉強した。

 一人きりになってしまうのならと、子供たちは純真無垢な笑顔で、お互いを見合わせる。

「じゃあ、早く戻ってきたほうが幸せだね」
「そうだね。一緒にかけっこができるよ」
「友達が増える!」

 地獄とは無縁の子供たちは、ガヤガヤと話しながら廊下を歩き出した。月主命は歴史の教科書を胸に抱き、将来有望な生徒たちの後ろ姿を見つめる。

「どちらで子供たちは幽霊などという言葉を知ったのでしょう? 学校では教えていないのですが……」

 地上の出来事を知らない人は、大人でも知らない単語だ。姿を現したヴァイオレットの瞳に、青空を他の宇宙へ向かう飛行船が縦の線を描いてゆく。

「ですが、もう幽霊はいません。陛下が統治後一週間ほどで、全員回収されましたからね。しかし、子供たちの夢を摘んでしまってはいけませんからね~?」

 授業開始のチャイムが鳴り出す。カエルの被り物を片手で軽く直し、今や地球の二倍も広さがある学校を、先生は瞬間移動で担当教室の教卓へと消え去っていった。
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