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最後の恋は神さまとでした
父上の優しさと厳しさ/5
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倫礼の毎日は、父――光秀の前で、暗く落ち込んでは諭されて、帝河に人生についての説教を食らうという日々だった。
しかし、彼女はとても満たされた気持ちだった。物質界では、心を許せる人はいなかったが、本当の家族ができたと、心の底から喜んでいた。
今日もいつも通り、バイトに励み家路を目指す。そんな娘の後ろ姿を母は見ながら、頬に手のひらを当てた。
「あらあら? 倫ちゃん、どこへ行くのかしら?」
「我が出ている。私が止めても難しいかもしれん」
光秀は首を横へ振った。完全に魂が抜けているのなら、守護神が動かせるのだが、話ができるとなると、霊感があるとなると、自分できちんと判断することが要求される。つまりは強制できないのだ。
蓮はバカにしたように鼻で笑い、
「ふんっ!」
自分の体を人間がすり抜けてゆく街角に、腕組みをして立っていた。
「逆らえば、痛い目に合うのは目に見えているのに、人間は愚かだ。目先のことに囚われて、大事を忘れるんだからな」
資格は一応持っている、本体の倫礼は小さく何度もうなずきながら、
「あたしだったら、こう守護するかしら? 帝河?」
「おう?」
再会したあの日から、四ヶ月が経ち、あっという間に五歳となって、小学校へ通い始めた弟は姉を見上げた。
*
時間は少しだけ戻って、おまけの倫礼は最寄駅のロータリへと続く交差点へやって来ていた。
「霊感センサーはここら辺で止まれってなってるけど、今日はバーでおしゃれに夕飯をしたいから……」
選択権を与えられているからこそ、倫礼は勝手に動いてゆこうとする。人混みに混じり、どんどん駅へ近づいてゆく。
「こっちへ行こう――」
「おい! 姉ちゃんどこ行く気だよ?」
少し枯れ気味のお子様ボイスが雑踏をすり抜け、倫礼にピンポイントで響き渡った。彼女は立ち止まる。それは他の人から見ると、突然前の人が立ち止まったになっていた。
「いや~! 帝河止めないでよ?」
彼女は他の人からどう見られていようと構わず、立ち往生したまま、心の中で頭を抱えた。
「今日はみんなでファミレスで食事だろ?」
帝河の砕けた口調が軽めに指示を出してきた。彼女をさけて人の波が流れてゆく。
「子供に言われると、従わないわけにはいかないよね? 痛いところついてくるな、守護神は……」
本体におまけがやられた瞬間――四百年の知恵の差をまざまざと見せつけられたのだった。そんなこととは知らず、三十七年目を迎える、おまけの倫礼は特殊な自分の人生を嘆いた。
「あぁ~、霊感は持ってればいいってものじゃない!」
人混みの中で振り返る、苦渋の表情をしながら。他人に無関心な都会人は誰一人彼女のことは見ておらず、倫礼も気持ちが楽というものだった。
しかし、神さまによって行動が制限されている彼女はため息混じりに、元きた道を交差点へ向かって戻り始めた。
「はぁ~、はいはい。今日はファミレスのわかりやすい味つけってことね。夕飯も好きなものが食べられない」
それでも、自分を待ってくれている人々を見つけると、倫礼は幸せで表情がほろこんだ。
「でも、家族がいるってとっても素敵だ」
近くまでくると、帝河の手を取って、ちょうど変わった横断歩道を一緒に渡り始める。親子四人連れを後ろから眺めながら、本体の倫礼は、幼い頃からのやり直しも終わり、気心のよくしれた男に問いかける。
「蓮はあの子の守護はしないの?」
「しろとは命令を受けていない」
「そう。するなとも言われてないわよね? それとも、難しくてできないのかしら?」
挑戦的な言葉で、火山噴火するように言い返すのかと思ったが、
「……………………」
どこまで待っても、蓮の綺麗な唇は動かなかった。おまけの倫礼がレストランの扉を開けると、弟が態度デカデカで店員に何か言っている。
それを少し遠くに聞きながら、新しい幼なじみの男が今何をしているかわかり、本体の倫礼は肩をすくめてくすっと笑った。
「ノーリアクション、検討中ってところかしら?」
立ち止まったまま動かない蓮の腕を、倫礼は慣れた感じで引っ張って、レストランのドアは家族の幸せには水入らずというように、パタリと閉まった。
しかし、彼女はとても満たされた気持ちだった。物質界では、心を許せる人はいなかったが、本当の家族ができたと、心の底から喜んでいた。
今日もいつも通り、バイトに励み家路を目指す。そんな娘の後ろ姿を母は見ながら、頬に手のひらを当てた。
「あらあら? 倫ちゃん、どこへ行くのかしら?」
「我が出ている。私が止めても難しいかもしれん」
光秀は首を横へ振った。完全に魂が抜けているのなら、守護神が動かせるのだが、話ができるとなると、霊感があるとなると、自分できちんと判断することが要求される。つまりは強制できないのだ。
蓮はバカにしたように鼻で笑い、
「ふんっ!」
自分の体を人間がすり抜けてゆく街角に、腕組みをして立っていた。
「逆らえば、痛い目に合うのは目に見えているのに、人間は愚かだ。目先のことに囚われて、大事を忘れるんだからな」
資格は一応持っている、本体の倫礼は小さく何度もうなずきながら、
「あたしだったら、こう守護するかしら? 帝河?」
「おう?」
再会したあの日から、四ヶ月が経ち、あっという間に五歳となって、小学校へ通い始めた弟は姉を見上げた。
*
時間は少しだけ戻って、おまけの倫礼は最寄駅のロータリへと続く交差点へやって来ていた。
「霊感センサーはここら辺で止まれってなってるけど、今日はバーでおしゃれに夕飯をしたいから……」
選択権を与えられているからこそ、倫礼は勝手に動いてゆこうとする。人混みに混じり、どんどん駅へ近づいてゆく。
「こっちへ行こう――」
「おい! 姉ちゃんどこ行く気だよ?」
少し枯れ気味のお子様ボイスが雑踏をすり抜け、倫礼にピンポイントで響き渡った。彼女は立ち止まる。それは他の人から見ると、突然前の人が立ち止まったになっていた。
「いや~! 帝河止めないでよ?」
彼女は他の人からどう見られていようと構わず、立ち往生したまま、心の中で頭を抱えた。
「今日はみんなでファミレスで食事だろ?」
帝河の砕けた口調が軽めに指示を出してきた。彼女をさけて人の波が流れてゆく。
「子供に言われると、従わないわけにはいかないよね? 痛いところついてくるな、守護神は……」
本体におまけがやられた瞬間――四百年の知恵の差をまざまざと見せつけられたのだった。そんなこととは知らず、三十七年目を迎える、おまけの倫礼は特殊な自分の人生を嘆いた。
「あぁ~、霊感は持ってればいいってものじゃない!」
人混みの中で振り返る、苦渋の表情をしながら。他人に無関心な都会人は誰一人彼女のことは見ておらず、倫礼も気持ちが楽というものだった。
しかし、神さまによって行動が制限されている彼女はため息混じりに、元きた道を交差点へ向かって戻り始めた。
「はぁ~、はいはい。今日はファミレスのわかりやすい味つけってことね。夕飯も好きなものが食べられない」
それでも、自分を待ってくれている人々を見つけると、倫礼は幸せで表情がほろこんだ。
「でも、家族がいるってとっても素敵だ」
近くまでくると、帝河の手を取って、ちょうど変わった横断歩道を一緒に渡り始める。親子四人連れを後ろから眺めながら、本体の倫礼は、幼い頃からのやり直しも終わり、気心のよくしれた男に問いかける。
「蓮はあの子の守護はしないの?」
「しろとは命令を受けていない」
「そう。するなとも言われてないわよね? それとも、難しくてできないのかしら?」
挑戦的な言葉で、火山噴火するように言い返すのかと思ったが、
「……………………」
どこまで待っても、蓮の綺麗な唇は動かなかった。おまけの倫礼がレストランの扉を開けると、弟が態度デカデカで店員に何か言っている。
それを少し遠くに聞きながら、新しい幼なじみの男が今何をしているかわかり、本体の倫礼は肩をすくめてくすっと笑った。
「ノーリアクション、検討中ってところかしら?」
立ち止まったまま動かない蓮の腕を、倫礼は慣れた感じで引っ張って、レストランのドアは家族の幸せには水入らずというように、パタリと閉まった。
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