明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

文字の大きさ
336 / 967
最後の恋は神さまとでした

男はナンパでミラクル/3

しおりを挟む
 立食式のパーティ会場は縁も竹縄で、聡明な瑠璃紺色の瞳を持つ大先生に、最後のご挨拶をと次から次へとひっきりなしに、立派な服を着た大人たちがやってきては、社交辞令が少し入った言葉を置いてゆく。

 頭を下げるたびに、漆黒の長い髪は白い着物の肩からサラサラと落ちて、エキゾチックな香をまき散らす。

 孔明は人々の名前を、話している言葉を全て記憶しながら、まったく違うことを考えていた。

(陛下が統治する世界はますます広がってる……)

 同じ次元はもうどこも帝国となっていた。上の次元から、この世界へ降りてくる人もいれば、生まれ変わっているという噂も聞く。

 新しい土地が開拓されれば、私塾を開いている孔明にとってはビジネスチャンスの到来だった。

 なぜなら、悪というものはこの世界にしかないのだから。悪を知っている自分を、個性として存分に利用し、負けない戦術を人々に広める。

 それは勝算がきちんと見込まれていたが、大先生――恋する天才軍師は他のところでチャンスを見出せずにいた。

(それでも、同性愛は見当たらない。やっぱり神さまは男性と女性で好きになるのかな? 運命はそういうふうに決まってるのかな?)

 長い挨拶の列も終わり、城の隣にある高級ホテルから、孔明は荷物や花束を主催者側の人に持たせて、いつもと同じように手配されたリムジンへ乗り込もうとする。

「先生、お車こちらに用意してありますので……」
「ありがとうございます」

 頭を下げて乗り込もうとすると、横から男の声がふとかけられた。

「ねぇ? そこの彼?」

 その声色は、皇帝で天使で大人で子供で純真で猥褻で、あらゆる矛盾を含んだマダラ模様のものだった。

 知り合いにこんな男はいない。名が知れ渡っているからこそ、ズケズケとプライベートへ入り込もうとする人間がこの世界にもいるのだ。

「…………」

 孔明は聞こえない振りをして、リムジンに乗りこもうとしたが、白い着物の腕をつかまれた。

「ちょっ、ちょちょっ! 待って」
「私に何かご用ですか?」

 振り向くと、光沢のあるワインレッドのスーツに、白いフリフリのシャツ。まるでホストだったが、顔半分を覆うような黄色いサングラスが夜なのに、やけに個性を出していた。

 そして、男はナルシスト的に微笑み、

「お茶しない?」

 高級ホテルのロータリーで、二百三十センチもある背丈の男に、二百一センチの男が誘うという、ミラクルな展開に、さすがの孔明も顔色は変えなかったが、心の中でため息をついた。

(男からナンパされた……)

 助手の紅朱凛は後片付けなどをしていて、まだやってこない。こんな男に構っている暇はなく、孔明は丁寧な口調でどこからどう見ても好青年だった。

「お断りしますよ」
「どうして?」

 大先生は身構えた。それは疑問形――情報収集の基本を相手がしてきたからだ。だから、孔明はこう返す。

「なぜ、そのように聞くのですか?」

 だが相手も負けていなかった。山吹色のボブ髪を片手で気だるくかき上げる。

「それ聞いちゃいたい?」
「どのような内容ですか?」

 宝石のように異様にキラキラと輝く黄緑色の瞳は、黄色いサングラスがかけられているが、一度見たら一生忘れられないほど強烈な印象だった。

「お前、頭いいね。さっきから質問ばっかしてさ。情報漏洩しない。でしょ?」
「そうかもしませんね」

 ナルシスト的な笑みは消え去って、あたりの空気が激変した。

「でもさ、俺、真面目に話してる、今」

 ビリビリと刺すような、教会で感じるような畏敬としか言いようがなかった。しかしこんなことで引き下がる孔明でもない。何百メーターもある龍族と交渉することなどよくあることなのだから。

「私も真面目に話しています」

 聡明な瑠璃紺色の瞳は猛吹雪を感じさせるほど冷たかったが、男の黄緑色の瞳は感情がどこにもない無機質なものだった。それなのに口調は、ケーキにハチミツをかけたような甘さダラダラ。

「そう。だからさ、お茶しようよ~? 立ち話も何だからさ」

 下手したてに出ていれば何とやらで、孔明はまわりの人たちに聞こえないようにかがみ込んだが、デジタルに口調が切り替わっていた。

お前・・さ、に何の用? 仕事のことならお断りなんだけど……」

 孔明は直感した。この男の前では、どんな人物も無力になる。どんな武器を持ってしても、この男の前では震え上がると。

 その通り男は気にした様子もなく、またナルシスト的に微笑んだ。

「そう。お前も言葉変えてしゃべるんだ。俺もそう。仕事とプレイベート分けてる。気が合うじゃん?」

 それならば、無駄な足掻きをしても仕方がない。孔明は普段使いになった。

ボク・・キミ・・の会話は合ってないかも?」

 男はサングラスをはずして、大いに感心した。

「お前、マジで頭いいね。不確定でしかも疑問形。情報漏洩しないじゃん? それって」
「ボクのこと知らない……?」

 帝国一の頭脳を持つ有名な大先生を頭がいいと言う。孔明にとって、男は稀有な存在でありながら拍子抜けした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。 しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。 しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。 「僕と付き合って!」 そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。 「俺とアイツ、どっちが好きなの?」 兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。 それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。 世奈が恋人として選ぶのは……どっち?

処理中です...