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最後の恋は神さまとでした
男はナンパでミラクル/5
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素晴らしく手際のよいパーラーで、店員が品物を持ってテーブルへ瞬間移動してきた。
「お待たせしました」
「ありがとう」
孔明と男の声が重なる。白い氷山にチョコレートの琥珀色がなだらかな線を描くパフェを、孔明は自分へ引き寄せながら、倫理が崩壊している男に身を乗り出した。
「どういうこと? 家庭があるのに」
「結婚したら、他の誰かを愛しちゃいけない――って、誰が言ったの?」
どこまでもフリーダムな男の前で、孔明の価値観という見えない壁は崩れ去る予感が漂い始めるが、あくまでも冷静に聞き出した。
「奥さんと子供への愛はどこへ行ったの?」
マスカットをポンと口の中に入れて、男はテーブルに両肘を乗せ、孔明の瑠璃紺色の瞳を真っ直ぐ見つめ返した。
「お前さ、どこからきたの? そんなこと聞くなんてさ」
「どういう意味?」
パーティーでたくさん食べたのに平気なフリで、孔明は長いスプーンを口にどんどん運び始めた。
質問したのに仕返してきた、漆黒の長い髪を持つ男。その真正面でボブ髪を器用さが目立つ手で気だるくかき上げる。
「いいから答えちゃってください」
「ボクはもともとこの宇宙にいたよ」
話とパフェに夢中の孔明は、口の端についたチョコレートを指先で拭って、白い着物の袖口になすりつけた。
「そう」
男はナプキンを傍らから取り上げて、孔明と自分へそれぞれ置く。そして、まわりにいるカップルたちを見渡した。
「この宇宙がそういう価値観ってこと?」
少しあきれたように、男は顔を元へ戻して、平たいグラスに盛られた翡翠色の実をひとつ取り上げた。自分の愛の価値観を語り出す。
「愛ってさ、出会ったら永遠だよね? だから、奥さんと子供も愛したまま、他のやつがそこに加わるってこともあるよね?」
複数でありながら、同性愛を普通に話している男が目の前にいる。孔明にとっては願ってないチャンスだった。
「加わる……」
ぼうっとした瞳をして、チョコレートパフェの長いスプーンでアイスの山を崩してゆく。
「だって、そうじゃん?」
男は少し振り返って、ライトアップされている、地球五個分の広さがある城を、黄緑色の瞳に映した。
「女王陛下って最初一人だったんでしょ? それって、あとから加わったんだよね? だから、全然ありじゃん?」
陛下のお宅はハーレム。しかも、全員一緒に結婚したのではない。そうなると、陛下と女王陛下が不倫ということになってしまう。
そんなことをする人たちについていく人などいないだろう。帝国が成長し続けているのは、そこにみんなが敬意を示しているからだ。
雲の上の人みたいな、あの謁見の間で見た堂々たる態度の皇帝を、孔明は思い浮かべた。
「でもそれは、陛下だからでしょ?」
男の雰囲気が激変した。ビリビリと感じさせるような畏れ。まるで皇帝のようだった。あたりで話していた他の客たちから話し声は途切れ、所在なさげに視線をあちこちさまよわせる。
「人を好きになんのに、身分って関係すんの――?」
当たり前の質問をされて、孔明は考える振りをして、男の異変を探ろうとするが、
「ん~……?」
うまくいかないかった。また普通の空気に戻って、男はマスカットを挟んだ指先を見せつけるように、何度も縦に振り続ける。
「世の中さ、いつ何があるがわかんないよね? だから、何が起きてもありなわけ。そうじゃないと、時代に乗り遅れちゃうでしょ?」
今まであり得もしなかったことが、次の日には当たり前にしている人がいる。翌日目を覚ますと、世界の法則が変わっている。
若い頃はずいぶん驚いたものだが、それが何億回も続くと、価値観を変えざるを得ないし、何が次にきたって納得してゆくしかないのだと、どんなことでも大した変化でもなくなるのだ。たとえ、世界が消滅したとしても、男にとっては、
そういうこともあるよね――。
で、済まされてしまうのだ。
渡されたナプキンで口の端を拭いて、孔明は軽く足を組み替えた。
「キミは何年生きてるの?」
「俺? そうね? ざっと三百億歳弱ってとこ」
「そう」
孔明は想像がつかなかった。たかだか千八百年で、邪神界という法則の中で生きてきた自分と、この男は物の見方が宇宙人よりも違うのかもしれなかった。しかし、逆にそこに興味がもてた。
男は片肘で頬杖をついたまま、マスカットをポイッと天井へ投げて、山形を描いて落ちてきたのを、口の中でキャッチする。
「お前、いくつ?」
「ボクは千八百年ぐらい」
シャクっと果実を噛み砕くと、甘酸っぱい爽やかな香りが口の中で広がった。
「ぐらい? お前さ、本当にこの世界にいたの?」
「地球っていう場所に最初はいたよ」
「お待たせしました」
「ありがとう」
孔明と男の声が重なる。白い氷山にチョコレートの琥珀色がなだらかな線を描くパフェを、孔明は自分へ引き寄せながら、倫理が崩壊している男に身を乗り出した。
「どういうこと? 家庭があるのに」
「結婚したら、他の誰かを愛しちゃいけない――って、誰が言ったの?」
どこまでもフリーダムな男の前で、孔明の価値観という見えない壁は崩れ去る予感が漂い始めるが、あくまでも冷静に聞き出した。
「奥さんと子供への愛はどこへ行ったの?」
マスカットをポンと口の中に入れて、男はテーブルに両肘を乗せ、孔明の瑠璃紺色の瞳を真っ直ぐ見つめ返した。
「お前さ、どこからきたの? そんなこと聞くなんてさ」
「どういう意味?」
パーティーでたくさん食べたのに平気なフリで、孔明は長いスプーンを口にどんどん運び始めた。
質問したのに仕返してきた、漆黒の長い髪を持つ男。その真正面でボブ髪を器用さが目立つ手で気だるくかき上げる。
「いいから答えちゃってください」
「ボクはもともとこの宇宙にいたよ」
話とパフェに夢中の孔明は、口の端についたチョコレートを指先で拭って、白い着物の袖口になすりつけた。
「そう」
男はナプキンを傍らから取り上げて、孔明と自分へそれぞれ置く。そして、まわりにいるカップルたちを見渡した。
「この宇宙がそういう価値観ってこと?」
少しあきれたように、男は顔を元へ戻して、平たいグラスに盛られた翡翠色の実をひとつ取り上げた。自分の愛の価値観を語り出す。
「愛ってさ、出会ったら永遠だよね? だから、奥さんと子供も愛したまま、他のやつがそこに加わるってこともあるよね?」
複数でありながら、同性愛を普通に話している男が目の前にいる。孔明にとっては願ってないチャンスだった。
「加わる……」
ぼうっとした瞳をして、チョコレートパフェの長いスプーンでアイスの山を崩してゆく。
「だって、そうじゃん?」
男は少し振り返って、ライトアップされている、地球五個分の広さがある城を、黄緑色の瞳に映した。
「女王陛下って最初一人だったんでしょ? それって、あとから加わったんだよね? だから、全然ありじゃん?」
陛下のお宅はハーレム。しかも、全員一緒に結婚したのではない。そうなると、陛下と女王陛下が不倫ということになってしまう。
そんなことをする人たちについていく人などいないだろう。帝国が成長し続けているのは、そこにみんなが敬意を示しているからだ。
雲の上の人みたいな、あの謁見の間で見た堂々たる態度の皇帝を、孔明は思い浮かべた。
「でもそれは、陛下だからでしょ?」
男の雰囲気が激変した。ビリビリと感じさせるような畏れ。まるで皇帝のようだった。あたりで話していた他の客たちから話し声は途切れ、所在なさげに視線をあちこちさまよわせる。
「人を好きになんのに、身分って関係すんの――?」
当たり前の質問をされて、孔明は考える振りをして、男の異変を探ろうとするが、
「ん~……?」
うまくいかないかった。また普通の空気に戻って、男はマスカットを挟んだ指先を見せつけるように、何度も縦に振り続ける。
「世の中さ、いつ何があるがわかんないよね? だから、何が起きてもありなわけ。そうじゃないと、時代に乗り遅れちゃうでしょ?」
今まであり得もしなかったことが、次の日には当たり前にしている人がいる。翌日目を覚ますと、世界の法則が変わっている。
若い頃はずいぶん驚いたものだが、それが何億回も続くと、価値観を変えざるを得ないし、何が次にきたって納得してゆくしかないのだと、どんなことでも大した変化でもなくなるのだ。たとえ、世界が消滅したとしても、男にとっては、
そういうこともあるよね――。
で、済まされてしまうのだ。
渡されたナプキンで口の端を拭いて、孔明は軽く足を組み替えた。
「キミは何年生きてるの?」
「俺? そうね? ざっと三百億歳弱ってとこ」
「そう」
孔明は想像がつかなかった。たかだか千八百年で、邪神界という法則の中で生きてきた自分と、この男は物の見方が宇宙人よりも違うのかもしれなかった。しかし、逆にそこに興味がもてた。
男は片肘で頬杖をついたまま、マスカットをポイッと天井へ投げて、山形を描いて落ちてきたのを、口の中でキャッチする。
「お前、いくつ?」
「ボクは千八百年ぐらい」
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