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最後の恋は神さまとでした
翻弄される結婚と守護/2
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結婚してからというもの、蓮との距離感は一気に縮まり、何かにつけて口出されるようになった。その度に、
カチンとくる!
倫礼は怒りで表情を歪めたが、神と人間である以上、大人しく言うことを聞いていた。しかし、ある日、いつも通りに、蓮の俺様攻撃が倫礼に降り注いだ。
「神のおまけのお前に、拒否権も賛成権もない。黙って従っていればいいんだ!」
そしてとうとう倫礼は限界がきて、言い返してしまったのである。
「守護神じゃないのに、あれこれ指図しないで。したかったら、守護神の資格取ってからにしてよね!」
守護をする神さまというものは、肉体を持って、いつかくる死の恐怖と戦いながら生きてゆくことを体験している。
しかし、この目の前にいる神は、魂だけの世界で生きて数年しか経っていない。無理のあることを言ってくるのが、人間の倫礼でも手に取るようにわかった。
蓮は何か言い返してくるかと思ったが、
「っ……」
銀の長い前髪を不機嫌に揺らし、瞬間移動ですうっと消え去った。
「行っちゃった……」
言い過ぎたのか。倫礼は反省する。自分を想って言ってくれているのはわかっていたが、他にどんな言い方があったのだろう。
耳を澄まして待つ。絹のような滑らかな弦の音が聞こえてくるのを。しかし、いつまで経ったも、あの不機嫌なスピード感のある三拍子の曲は流れてこなかった。
「おかしいな。いつもだったら、怒ってヴァイオリン弾くのに、音が聞こえない」
その日は、蓮とは一緒に眠らず、倫礼は一人きりの部屋で、心の中のモヤモヤを残したまま眠りについた。
そして、翌日――。
パソコンで作業をしていると、五歳の弟たちが心配そうな面持ちで話しかけてきた。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんいいの?」
「え、蓮がどうしたの?」
慌てて手を止めて、玄関まで心の目でゆくと、靴を履き終えて、銀の長い前髪を揺らし、ちょうど振り返った蓮がいた。
「ちょっと出かけてくる」
「どこに……!」
倫礼の話も聞かずに、すらっとした長身は前を向いて、彼女は蓮が手にした旅行鞄みたいなものを見つけた。
「それって、ちょっとって荷物の量じゃ――」
ちょっとではなく、どう考えても数日泊まりがけの用意だった。五歳の弟たちは寂しがるわけでもなく、ただただ不思議そうな顔を見合わせた。
「ドア閉まっちゃった」
「お兄ちゃん行っちゃった」
なす術がなく、呆然と立ち尽くしていた倫礼だったが、頭の中で電球がピカンとついたようにひらめいた。
「守護神の資格取りに行った! それだ。それがぴったりくる」
自分は怒ってしまって勢いあまり言ってしまったが、落ち着きのあるあの神は理論で動いていて、人間の女が言うのもなんだが、感情的に決してならない、いい男なのだった。
「昨日の話聞いてたんだ」
倫礼の視界は涙でにじむ。本当の気持ちを受け止める存在がいる。たとえそれが、住む世界や身分が違っても、あの男はそれを超えて――いや気にしていないのだ。神である蓮は、魂も入っていない人間を差別をしないのだ。
倫礼は両手を胸の前で握りしめて、幸せのスコールの中に立ち尽くすように、蓮が消えていった玄関ドアを見つめる。
「そうか。蓮は、俺様ひねくれだけど、自分が間違ってたらすぐに直すんだ。それから、私の話がきちんと心に届く人。うん、いいね。とっても居心地がいい。す――それは言わないでおこう。何だか恥ずかしいから……」
こうして、おまけの倫礼もあっという間に恋に落ち、知らぬ間に結婚していた事件も、何の問題もなく彼女の人生の中に取り入れられた。
カチンとくる!
倫礼は怒りで表情を歪めたが、神と人間である以上、大人しく言うことを聞いていた。しかし、ある日、いつも通りに、蓮の俺様攻撃が倫礼に降り注いだ。
「神のおまけのお前に、拒否権も賛成権もない。黙って従っていればいいんだ!」
そしてとうとう倫礼は限界がきて、言い返してしまったのである。
「守護神じゃないのに、あれこれ指図しないで。したかったら、守護神の資格取ってからにしてよね!」
守護をする神さまというものは、肉体を持って、いつかくる死の恐怖と戦いながら生きてゆくことを体験している。
しかし、この目の前にいる神は、魂だけの世界で生きて数年しか経っていない。無理のあることを言ってくるのが、人間の倫礼でも手に取るようにわかった。
蓮は何か言い返してくるかと思ったが、
「っ……」
銀の長い前髪を不機嫌に揺らし、瞬間移動ですうっと消え去った。
「行っちゃった……」
言い過ぎたのか。倫礼は反省する。自分を想って言ってくれているのはわかっていたが、他にどんな言い方があったのだろう。
耳を澄まして待つ。絹のような滑らかな弦の音が聞こえてくるのを。しかし、いつまで経ったも、あの不機嫌なスピード感のある三拍子の曲は流れてこなかった。
「おかしいな。いつもだったら、怒ってヴァイオリン弾くのに、音が聞こえない」
その日は、蓮とは一緒に眠らず、倫礼は一人きりの部屋で、心の中のモヤモヤを残したまま眠りについた。
そして、翌日――。
パソコンで作業をしていると、五歳の弟たちが心配そうな面持ちで話しかけてきた。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんいいの?」
「え、蓮がどうしたの?」
慌てて手を止めて、玄関まで心の目でゆくと、靴を履き終えて、銀の長い前髪を揺らし、ちょうど振り返った蓮がいた。
「ちょっと出かけてくる」
「どこに……!」
倫礼の話も聞かずに、すらっとした長身は前を向いて、彼女は蓮が手にした旅行鞄みたいなものを見つけた。
「それって、ちょっとって荷物の量じゃ――」
ちょっとではなく、どう考えても数日泊まりがけの用意だった。五歳の弟たちは寂しがるわけでもなく、ただただ不思議そうな顔を見合わせた。
「ドア閉まっちゃった」
「お兄ちゃん行っちゃった」
なす術がなく、呆然と立ち尽くしていた倫礼だったが、頭の中で電球がピカンとついたようにひらめいた。
「守護神の資格取りに行った! それだ。それがぴったりくる」
自分は怒ってしまって勢いあまり言ってしまったが、落ち着きのあるあの神は理論で動いていて、人間の女が言うのもなんだが、感情的に決してならない、いい男なのだった。
「昨日の話聞いてたんだ」
倫礼の視界は涙でにじむ。本当の気持ちを受け止める存在がいる。たとえそれが、住む世界や身分が違っても、あの男はそれを超えて――いや気にしていないのだ。神である蓮は、魂も入っていない人間を差別をしないのだ。
倫礼は両手を胸の前で握りしめて、幸せのスコールの中に立ち尽くすように、蓮が消えていった玄関ドアを見つめる。
「そうか。蓮は、俺様ひねくれだけど、自分が間違ってたらすぐに直すんだ。それから、私の話がきちんと心に届く人。うん、いいね。とっても居心地がいい。す――それは言わないでおこう。何だか恥ずかしいから……」
こうして、おまけの倫礼もあっという間に恋に落ち、知らぬ間に結婚していた事件も、何の問題もなく彼女の人生の中に取り入れられた。
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