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最後の恋は神さまとでした
おまけはまだ愛している/4
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「いや違う。いくらおまけでも、結婚の儀式で魂がつながっているから、言わなくてもわかる。おまけは今でも光命を好きでいる――」
彼女の気持ちを言うなれば、神にも知られなかった無意識の悲恋――。
魂の濁った人間の男なら仕方がないのかもしれないが、自分は神であって、嫉妬心は持ってもいないし、守護をしていく上では、その人間の過去も現在も未来も大切な情報だ。そう割り切らなければ、神として失格だ
「なぜ言わない? なぜ想わない?」
倫礼の寝ているそばへ歩み寄り、そっとしゃがみ込んだ。ひとりで暮らすようになってからというもの、彼女がいつもしている言動を思い出して、蓮は怒りで表情を歪ませた。
「また自分だけで背負って、誰にも心を見せないつもりだな?」
おまけの倫礼ときたら、悲しいことができて涙を流す時、心をかき消して、ボロボロと涙をこぼすのではなく耐えに耐えて、ただ一粒の雫で頬を濡らすのだ。
守護をしたくても、本人が拒否していることに、手を貸すわけにもいかず、自分と違って、己の気持ちを隠してしまう、おまけの倫礼から、蓮はプイっと顔を背けた。
「それなら、それでいい。忘れるなら、忘れろ。そう決めているのなら、それがお前のためだ」
ひねくれ神のお陰で、青の王子は一層遠くなった。それでもなぜか気になる蓮は、さっきの紙に印字されていた名前をつぶやく。
「光命……。知らないやつだ。曲、恩富隊。そこで働いているのか? だが、あれはもうだいぶ前のものだ。そこにいないかもしれない」
何とかしてやろうとしている自分に蓮は驚いて、銀の長い前髪をサラサラと左右へ揺らす。
「なぜ俺が気にする必要がある? おまけが言わないなら、俺も気にしなくていいんだ」
感情を抜きにして、理論で考えれば簡単なことだ。
光命は永遠に続く真実の愛に出会っている。別れることは決してない。
おまけはいつか消滅して、倫礼の一部分になる。
本体の倫礼は光命を愛していないどころか、知らない。
おまけの倫礼も会ったことも話したこともない。
光命は存在さえも知らないだろう。
魂も宿る価値のない人の想いは間違いとして、世界の大きな歯車に組み込まれる運命なのだ。邪神界がもたらした残骸として、歪みを訂正されながら過去へと変わる。
「そもそも、死んだらいなくなるおまけが神に恋をしても意味がないだろう」
倫礼がまだ今よりも若く、最近のように耐えて泣くこともしなかった、彼女の姿から察するに、おまけは今でも青の王子に憧れ、消滅してしまうまでずっと想い続けるのだろう。
誰も傷つけたくなくて、誠実でありたいがために、忘れ続けたまま潜在意識の中で密かに愛してゆくのだろう。
そんな健気な女はいつか消えていなくなる――。生まれ変われることもなく、存在しなかったことになる。
守護神として、夫として蓮の視界が涙ににじむ。
「お前の望みを、俺は叶えてはやれない……。いや、もう何年も前の話だ。相手は結婚しているに決まっている。叶わないなら、忘れてしまったほうがいい。それが俺にできることだ」
神さまもたった一人で生きているわけではない。人間が思っているよりもはるかに多くの人が神として存在している。その中の一人として、まわりと調和を取りながら毎日を過ごしているのだ。
勝手に動くことはできない。ましてや、永遠に生き続ける神の男が相手だ。その後の影響は計り知れない。
「とにかくあれは見なかった。そういうことだ。俺には関係ない」
本人が触れてほしくないのなら、神も触れないことだ。それでも、蓮にとって愛している女には変わりがなかった。
「だが、これは叶えてやれる」
もうすぐ四十一歳を迎える人間の女は、まだまだ夢見る少女で切実なる願いを抱いていて、守護神である夫は叶えてやることにした。
「物質界でお前のそばにいてやる。俺に似ている人間の男を探す。そして、俺の魂の波動をそいつに与える。それがお前の望みなら、俺はそうする」
こうやって守護神が動くと、人間である倫礼の現実も動き出した。職場を変えざるを得ない出来事が起き、彼女はまた自分の忍耐力のないせいだと責めたが、運命の出会いが待っている職場にすんなり就労が決まるのであった。
彼女の気持ちを言うなれば、神にも知られなかった無意識の悲恋――。
魂の濁った人間の男なら仕方がないのかもしれないが、自分は神であって、嫉妬心は持ってもいないし、守護をしていく上では、その人間の過去も現在も未来も大切な情報だ。そう割り切らなければ、神として失格だ
「なぜ言わない? なぜ想わない?」
倫礼の寝ているそばへ歩み寄り、そっとしゃがみ込んだ。ひとりで暮らすようになってからというもの、彼女がいつもしている言動を思い出して、蓮は怒りで表情を歪ませた。
「また自分だけで背負って、誰にも心を見せないつもりだな?」
おまけの倫礼ときたら、悲しいことができて涙を流す時、心をかき消して、ボロボロと涙をこぼすのではなく耐えに耐えて、ただ一粒の雫で頬を濡らすのだ。
守護をしたくても、本人が拒否していることに、手を貸すわけにもいかず、自分と違って、己の気持ちを隠してしまう、おまけの倫礼から、蓮はプイっと顔を背けた。
「それなら、それでいい。忘れるなら、忘れろ。そう決めているのなら、それがお前のためだ」
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「なぜ俺が気にする必要がある? おまけが言わないなら、俺も気にしなくていいんだ」
感情を抜きにして、理論で考えれば簡単なことだ。
光命は永遠に続く真実の愛に出会っている。別れることは決してない。
おまけはいつか消滅して、倫礼の一部分になる。
本体の倫礼は光命を愛していないどころか、知らない。
おまけの倫礼も会ったことも話したこともない。
光命は存在さえも知らないだろう。
魂も宿る価値のない人の想いは間違いとして、世界の大きな歯車に組み込まれる運命なのだ。邪神界がもたらした残骸として、歪みを訂正されながら過去へと変わる。
「そもそも、死んだらいなくなるおまけが神に恋をしても意味がないだろう」
倫礼がまだ今よりも若く、最近のように耐えて泣くこともしなかった、彼女の姿から察するに、おまけは今でも青の王子に憧れ、消滅してしまうまでずっと想い続けるのだろう。
誰も傷つけたくなくて、誠実でありたいがために、忘れ続けたまま潜在意識の中で密かに愛してゆくのだろう。
そんな健気な女はいつか消えていなくなる――。生まれ変われることもなく、存在しなかったことになる。
守護神として、夫として蓮の視界が涙ににじむ。
「お前の望みを、俺は叶えてはやれない……。いや、もう何年も前の話だ。相手は結婚しているに決まっている。叶わないなら、忘れてしまったほうがいい。それが俺にできることだ」
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「物質界でお前のそばにいてやる。俺に似ている人間の男を探す。そして、俺の魂の波動をそいつに与える。それがお前の望みなら、俺はそうする」
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