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最後の恋は神さまとでした

男と男が出会う時/1

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 春休みに入った子供たちと、家族そろっての朝食。幼い頃のやり直しをしたとしても、実際の年齢は五歳にも満たない子供――それは蓮だ。

 それでも、子供が四人も生まれ、父親らしくなってきた。相変わらず超不機嫌顔で口数が俺様全開で少ないところは変わらなかったが。

 怒ってはどこかの部屋へふらっと行ってしまい、ヴァイオリンを弾いでばかりだった、そんな彼がとうとう大人として大きく一歩踏み出そうとしていた。

 おかずのタコさんウインナーを子供たちに取り分けていた倫礼の本体は、夫の意見を聞いてふと手を止め、何度も大きくうなずいた。

「いいんじゃないかしら? ヴァイオリンの才能あると思うし」
「明日、恩富隊へ行って、所属の契約を結んでくる」

 事務所が断る道理はない。神界は永遠の世界。アーティストの努力次第で、才能はどこまでも伸びていく一方だ。入りたいと望めば、所属できるシステムだった。

 世に出る足がかりを一歩踏み出した、明智の婿養子。小学校に上がって数年経つ子供たちは、朝食やテレビに夢中で特に反応を見せなかった。

 倫礼はトーストにバターを塗りながら、おまけの倫礼の記憶を使って、広い世の中を彼女なりにリサーチした。

「クラシックも需要があるし、いい仕事になるわよ」

 プチトマトを手でつかもうとしていた、百叡が真っ先に反応し、銀の長い前髪を見上げた。

「パパ、音楽をやるの?」
「そうだ」
「パパのヴァイオリン、すてき~♪」

 まだ小学校に上がっていない、我論うぃろーが椅子の上で足を嬉しそうにパタパタした。

 神世でも、人間界と何ら変わらない。やりたりと願って努力を重ねても、素質がなければ上には上がれない。自分の思い通りになる理想郷では決しないのだ。

 しかも、ターゲットは人間だけはない。たくさんの種族がいる中の一種が人間なのであって、一流アーティストになるためには、人間の価値観を超えてゆくことが必要不可欠となるのだ。

 浮ついた気持ちのない蓮は、冷たいミネラルウォーターを一口飲んで、日の目を見ない日々が何千年続こうとも、地道に階段を登り続ける覚悟はもうできていた。

「アーティストとして売れるかどうかは別問題だが、才能を生かしてみる」

 様々な人がいるから需要もあるが、競争率は激しい。何百億年も生きている人と肩を並べて、挑戦してゆくしかない。奇抜さが求められる芸能関係は特に厳しい世界だ。

 倫礼は子供の汚れてしまった手を拭きながら、地上で生きていた時のことを思い浮かべた。

「大丈夫よ。人間界よりも、自分の向いてる仕事につけるから、努力次第でCDを出して、ツアーもするかもね」

 蓮とは違って、やる気という感情が燃料の倫礼の隣で、百叡は嬉しそうにフォークを持つ手を上げた。

「パパのコンサート!」
「行く」

 隆醒は食べかけのトーストから口を離して、珍しく微笑んだ。娘の美咲みさきは相変わらずで、テレビの占いに夢中だったが、ママに似て抜け目なく聞いているのだった。

「パパ、魔法使って、花びらとか降らせるとウケるかもね」

 本当にやるとしたら大変なことだ。花を買ってきて、一枚ずつ花びらを取る。上から降らせる装置を考えて、タイミングまで測る。しかし魔法ならば、後片付けもいらない。自分一人で材料がなくてもできるのだ。

 焉貴が言っていた、魔法使いは世の中にあまりいないのだと。それは、人と違うということで、立派な個性と変換されるだろう。

 家族の愛に囲まれて、いい門出を迎えられそうで、蓮は少しだけ珍しく微笑んだ。バターもジャムもこれ以上乗らないというくらい乗せたトーストをもぐもぐと頬張っている妻に問いかける。

「お前の仕事は?」

 口の中に入れ過ぎていた倫礼は、ホットミルクで食べ物を無理やり流し込んで、口の端についたジャムを指先で拭った。

「私は出版社の界会に所属して、小説を書くわ」

 この女はいつだってそう。自身で道を切り開いてゆく。どんなに悩んでいようが、いつもそうなのだ。

「ジャンルは?」
「今のところ決めてない」

 しかし、いつも前のめりな性格が見え隠れする。妻は夫と比べて落ち着きは持っていないのだった。

「ファンタジーがいい」

 まだ作品なんて書いてもおらず、ただ言葉を扱うことが得意だから、やってみようぐらいの考えだったのに、蓮が具体的に言うものだから、倫礼は驚いた顔をした。

「そう? どうして、そんなこと言うの?」

 守護神として分身を置いている地球。本体とのシンクロを図るために時々、ひとつにまとまるが、あの人間の女の生き様がよくわかっていた。

「おまけのあれは、頭の中がファンタジーだからだ。現実にまったく目が向かない」

 守護神の蓮と話したり、この世界の子供たちと話したり。物語の世界に入り込む日々を送っている。視点を変えると、九割がた死んでいると言っても過言ではなかった。
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